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【解説】移転先は旧診療所の「目と鼻の先」が理想

【解説】移転先は旧診療所の「目と鼻の先」が理想

<著者>日本クレアス税理士法人 大阪本部会長 上田久之 テナント物件でスタートし、順調に事業が伸びていけば、浮上するのが戸建て診療所への移転です。この時に留意したいのは土地代・建築費・設備費などの支出を踏まえたシミュレーション、そして何より「患者の利便性の堅持」です。 患者数が増えるなどして順調に医業収入が伸びていくと、開業当初のテナント物件が手狭になり、新たに土地・建物を購入して戸建て診療所に移転するケースは珍しくありません。 目次 01:戸建ての場合は3パターン 02:移転のタイミングはいろいろ 03:移転先は「目と鼻の先」が理想 戸建ての場合は3パターン 戸建てに移転する場合、最も多いのは土地・建物とも完全に所有するパターンです。次に多いのが、土地を借り、その上に自前で建物を設けるパターン。この場合は定期借地権方式という返還時期が定まっている方式が一般的です。もう一つのパターンが地主に建物も建ててもらって自分が入店するパターンです。その代わり、建築費に近い金額を保証金として用意することが多いようです。また、従来のテナント開業と比べて総費用が跳ね上がることも想定すべきでしょう。戸建て診療所へ移転すると、土地代・建築費・設備費などで相当なコストがかかりますが、一方で、テナントの賃借料が無くなりますので、そのシミュレーションが必要になります。 移転のタイミングはいろいろ  最も多いのは冒頭で述べたように経営が順調で、将来の見通しも明るいと判断した場合ですが、それ以外の要素もありますし、複数の動機づけによって移転に踏み切ることもあります。  たとえばご子息が歯学部に入学したとか、歯科医師免許を取得したことをきっかけに移転したケースもあります。テナントの場合、ビル自体の老朽化も当然、決め手になってきます。自分の代だけで完結するのであれば「あと10年だから、このまま続けよう」と判断できても、後継者のことも考えると「30年後」も見据えなければなりません。移転して承継に備えることも十分、考えられます。  開業した際に借家住まいであれば、新たに戸建てを建てる際に住居として併用することも考えられます。 移転先は「目と鼻の先」が理想 移転する際は「同一診療圏内」であることが鉄則と言えます。そもそも保険医療機関としての指定を継続して受けるには、原則として旧医療機関から2キロメートル圏内とされています。これは移転先が、これまで受診していた患者の徒歩による日常生活圏域の範囲内に収まり、引き続き診療を受けられることを想定しているためです。  また、歯科医院の経営の安定化という観点からも、この原則は踏まえておきたいものです。患者にとって通い慣れない場所にわざわざ移転し、他院への流出を促すべきではありません。  理想を言えば、旧医院から「見える場所」、つまり「目と鼻の先」に移転することが望ましいと言えます。これは競争の激しい都市部であればなおさら重視すべきです。

【解説】日頃からのコミュニケーションで値下げ交渉なども可能

【解説】日頃からのコミュニケーションで値下げ交渉なども可能

<著者>株式会社ねこの手 代表取締役 伊藤亜記 通所介護でも訪問介護であっても、経営が安定してきた場合は、その地でしばらく経営を続けることになると思います。その賃貸物件でサービス提供を行っている場合は、賃貸住宅などと同様に賃貸契約書にもとづく更新が必要となりますので、その際の手続きを怠らないようにしてください。 そもそも、賃貸借契約を結んで賃貸物件で介護サービス事業を行う際、ほとんどの場合でその契約期間に限りがあります。契約期間を満了する前に、借主は現在の賃貸物件を借り続けるか退去するかを選択しなければなりません。借り続ける場合に必要になるのが契約の「更新」です。 契約更新は、契約期間の満了をもって発生します。つまり、契約期間が2年間であれば更新も2年に1度、3年間であれば3年に1度の頻度で行われます。普通借家契約の場合、契約期間は2年間であることが一般的です。これには、「1年未満の契約は法律上、期間の定めのない契約となってしまうこと」「3年以上は個人がライフプランを設計しにくいと考えられていること」などが加味されています。したがって、契約更新も2年に一度が一般的です。 具体的な更新の流れは以下のとおりです。 ・物件の管理会社or貸主から「更新のお知らせ」が届く(契約満了日の1~2カ月前) ・期日までに更新契約書、その他指定された書類に署名・捺印をして返送する ・期日までに更新料や手数料などの費用を振り込む もしも、契約満了日の1カ月前になっても更新のお知らせが届かない場合は、一度問い合わせをすると良いでしょう。 更新の通知や同封書類に契約内容の変更に関する記述がない場合は、契約内容は当初のものをそのまま引き継ぎます。ところが、貸主によっては更新のタイミングで契約内容を変更する場合もあるので、書類はよく確認するようにしましょう。 変更が生じるものの例として挙げられるのが賃料です。当初結ばれた契約書では多くの場合、「貸主および借主は一定の条件を満たす場合は協議の上、賃料を改定できる」旨の記載があります。ここでいう「一定の条件」とは、「近隣の似たような条件の物件と比べて賃料が不相当である場合」や「資産価値や税金の増減、その他経済的事情がある場合」が該当します。 つまり賃料の改定は、上記の事情を踏まえたうえで双方が合意することが前提です。一方的な値上げに納得できない場合は、管理会社や貸主に問い合わせて協議するようにしましょう。 逆にコロナ禍においては、更新時に管理会社からオーナーに交渉してもらい、コロナで利用者が減少したことを理由に、今後の介護事業の安定性と共に長期的に借りるメリットを説明し、家賃の値下げや通常契約期間が2年であった場合でも3年に延長してもらう等の交渉を行っているケースもあります。日頃から管理会社やオーナーと円滑なコミュニケーションを取り、必要に応じて、交渉が出来るようにしておくと良いでしょう。

【解説】事業拡大に欠かせない保険外サービス 関連する制度も覚えておこう

【解説】事業拡大に欠かせない保険外サービス 関連する制度も覚えておこう

<著者>株式会社ねこの手 代表取締役 伊藤亜記 事業拡大期は、新たなサービスの展開を考えると思います。その際に考えるのが、保険外サービスの開始でしょう。1~3割負担の介護保険内のサービスと、すべて自費の介護保険外のサービスを組み合わせて提供することを、混合介護と言います。 混合介護を行うメリットとしては、利用者の自立支援に向けて、利用者自身およびその家族が充実したサービスを受けられるという点が挙げられます。介護保険内のサービスを受けつつ、それだけではカバーできない、クオリティが高く広範囲の介護保険外のサービスも受けることで、生活の質を高めることができます。混合介護で介護サービスを充実させることで、介護者の肉体的、精神的な負担を軽減することもできますし、介護者が仕事と介護の両立をされている場合には、保険内・保険外の両サービスをうまく組み合わせることで在宅介護の負担を軽くし、介護離職を回避しやすい状況をつくり出せます。 また、介護事業者側にとっても混合介護は介護報酬とは別の形での収益を確保できる貴重な機会でもあります。収益が増えた分、昇給など職員の待遇を改善させることができるとともに、無資格の人材を確保しやすくなるというメリットがあります。 「混合介護」をめぐって、厚生労働省は訪問介護と通所介護のルールを整理し、2018年9月28日に介護保険最新情報Vol.678として発出しています。介護保険外サービスの目的や運営方針、料金などを別途定めることや、利用者の同意確認、担当のケアマネジャーへサービスの内容や提供時間を報告することなどについて定められています。 これらのルールの遵守を前提として、訪問介護では介護保険で認められなかった草むしりやペットの世話、趣味・娯楽への同行、家族のための掃除・買い物代行などが可能になっています。通所介護では健康診断や個別の同行支援、物販、買い物代行などができると記載されています。なお、介護保険外サービスに要した時間を介護保険内サービスの提供時間に含めることはできません。通所介護の物販については、高額な商品を販売しようとする場合には、あらかじめそのことを家族やケアマネジャーへ連絡すること、なども求められています。 混合介護は利用者の多様なニーズに応えつつ、事業者の収益源を広げるメリットがあります。ただし、守るべきルールがわかりにくく、自治体によって解釈が異なることも少なくありません。現場から「グレーの領域には積極的に踏み込めない」といった不満が出ていたことを踏まえ、上記の通知が出ています。  詳細は通知で確認していただきたく思いますが、共通事項としては、以下のような内容が挙げられています(訪問介護の場合を例示)。   ○ 利用者にその事業が指定訪問介護とは別事業であり、そのサービスが保険給付の対象とならないサービスであることを説明し、理解を得ること ○ その事業の目的、運営方針、利用料などが、指定訪問介護事業所の運営規程とは別に定められていること ○ 会計が指定訪問介護の事業の会計と区分されていること なお、保険外サービスを行ううえでは、そのサービスに関連する関連法規(たとえば、物販などを行う場合は食品衛生法など)を遵守することも、意識しておいてください。 加えて、訪問介護の場合は、サービス提供が密室で行われるため、外部から不正が行われているのを発見しにくいという点が指摘されています。そのため、「過度な介護サービスの提供(過介護)による自立支援の妨げ」も懸念事項として挙げられています。 実際、「混合介護における介護保険外のサービスを過剰に取り入れることによって、要介護者の自立支援が妨げられ、悪循環を生んでしまうのではないか?」という指摘も多くあります。要介護者本人の心身状態にとって「真に必要な介護サービスなのか?」を十分に検討しないまま、介護保険外のサービスを過度に利用すれば、要介護者本人の自立の機会を妨げ、「自分でやれることはやろう!」という意思や気力を要介護者から失わせる恐れがあり、そのことが要介護者の心身機能低下のリスクを高め、結果として「介護サービスに依存」する人を増やすことに繋がりかねません。 保険外サービスという制度を活用し事業を伸ばしていくことも大切なことではありますが、それにより利用者の自立を妨げては問題です。「手は出さず、見守る」ことも介護に携わる身としての大切な使命です。

【解説】事業承継後の経営改善資金など 承継後にかかる費用を意識する必要性

【解説】事業承継後の経営改善資金など 承継後にかかる費用を意識する必要性

<著者>株式会社ポラリス 代表取締役 森剛士 事業承継とは一般的に会社の経営権を後継者に引き継ぐことを指します。デイサービスの場合もほかの中小企業と同じく、主に子どもや妻、親戚などに引き継がせる親族内継承、スタッフに引き継がせる従業員継承、社外への継承(M&A)に分けられます。 必要な資金についてですが、デイサービスの場合は個人では立ち上げることができず、法人格が必要なため事業承継は株式の売買、贈与によって行われるか、事業譲渡といって事業だけを切り取って売却する方法に分けられます。株式譲渡の場合は会社全体を売却する場合と、会社全体を2つに分割し、一部を売却する吸収分割といわれる手法があります。株式を売却する場合、事業所番号を変えなくてもいいのでデイサービスの譲渡に際する手続きはほとんどなくなるというメリットがある一方、法的に問題がある場合、つまり、監査や指導で不備や不正が見つかるなどそのリスクも引き継いでしまうことになり、それを防ぐためには事前にしっかり調査が必要です。 一方、事業譲渡の場合は新たに事業所として番号を取得することになり慎重に計画しないと一定の期間、運営ができないなどの大きなリスクが生じる可能性がありますが、事業所が抱える法的なリスクは引き継がずに事業を継承できるというメリットがあります。 一般的にデイサービスの買取価格の決め方にはいくつかの方法があり、なかには専門的な知識が必要なものもありますが、よく使われるものに「年倍法」というものがあります。これは時価純資産に営業利益の3~5年分を加えたものです。ほかにもいくつかの計算式がありますが、最終的には売り側と譲受側の妥協点を見出すことになるので、計算式だけで売却価格そのものが決まるわけではありません。また事業承継時にかかる資金については先代経営者からの買取資金だけではなく、ほかにも費用はかかります。事業承継前に自社の磨き上げのためにかかる投資資金、相続に伴い分散した株式の買取資金、事業承継後に経営改善や経営革新を図るための投資資金などです。 さらには事業を引き継ぐ譲受側は、M&Aの工程において株主も含む譲渡側に対して支払う株式や事業用資産の買取資金、仲介者やファイナンシャルアドバイザー(FA)に払うマッチング等に関する手数料、士業等専門家に払うバリュエーション費用やデューデリ費用のほか、PMIの工程の各種費用や、その他経営判断に応じて各種の費用を必要とします。割と多額の手数料を取るところもあるので、事前に確認が必要です。 資金調達の手法としては金融機関からの借り入れ等が一般的ですが、取引金融機関とは十分な連携が必要です。場合によっては民間の金融機関では対応が困難な場合もあるため公認会計士、弁護士をはじめとする専門家や各種サポート機関に早めに相談されることをお勧めします。 森剛士 もり・たけし 株式会社ポラリス代表取締役 外科医、リハビリ医を経て高齢者、慢性期リハビリテーション専門のクリニックを兵庫県宝塚市に開設、ポラリスグループをスタート。地域密着型社会貢献事業として自立支援特化型デイサービスを全国58カ所に展開中。一般社団法人日本自立支援介護・パワーリハ学会理事。一般社団法人日本デイサービス協会副理事長。 株式会社ポラリス 兵庫県宝塚市旭町3-9-1 ポラリス本社ビル2F 0797-57-5753 (取材・掲載年:2022年3月)

【解説】レイアウトの変更等は届け出が必須

【解説】レイアウトの変更等は届け出が必須

<著者>株式会社ねこの手 代表取締役 伊藤亜記 介護事業の安定化期において設備面で改めて意識したいこととして、介護保険法の人員配置基準・運営基準・設備基準の遵守があります。併せて各都道府県等の条例の遵守も必要になります。   介護職員処遇改善加算においては、「介護職員の資質の向上の支援に関する計画を策定し、当該計画に係る研修の実施又は研修の機会を確保していること。」が明記されています。内部監査においては「コロナを理由に研修が全く実施されていない」事例も確認されています。経営が安定している時期だからこそ、オンラインも活用した研修が実施できるような設備の整備などを行い、加算要件を遵守しましょう。   また、開業時から日数が経ち、事業所の状況に変更が生じた場合は、変更後10日以内に変更届を提出する必要があります。変更届には、 ①事業所に関する変更 、②法人に関する変更 があり、これらが適切に行われているかの確認と共に、コンプライアンスとリスクマネジメントが適切に行われているかが、次の事業拡大のステップを踏む際も重要になります。   安定化期によくある例としては、申請時に提出したレイアウトから変更した際に、設備基準を遵守しなければならないのに職員が理解をしておらず、変更届も出していないといったケースです。これにより、行政指導を受けるケースもありますので、日頃から職員に対して周知徹底を行うようにして下さい。   なお、2022年3月31日付で、厚生労働省は、「介護保険施設等の指導監督について(通知)」等を発出しました。   主な改正内容は以下のとおりです。   (介護保険施設等指導指針の主な見直しの内容) ○実地指導について指導形態を次の①、②および③とする。 ①介護サービスの実施状況指導(個別サービスの質(施設・設備や利用者等に対するサービスの提供状況を含む)に関する指導) ②最低基準等運営体制指導(運営基準等に規定する運営体制に関する指導) ③報酬請求指導(加算等の介護報酬請求の適正実施に関する指導)   上記のうち、施設・設備や利用者等の状況以外の、実地でなくても確認できる内容(上記②、③)については、介護保険施設等の負担増にならないよう十分配慮し、情報セキュリティの確保を前提として、オンライン会議システム等を活用することが可能である旨を明記する。 このことにより、実地指導の名称を「運営指導」に改める。   ○運営指導の実施頻度については、原則、指定等の有効期間(6年)内に少なくとも1回以上とする。なお、施設サービス・居住系サービスについては、現行での実施状況等を踏まえ3年に1回以上の頻度で実施することが望ましいこととする。 ○運営指導の標準化・効率化を推進する観点から、以下について明記する。 ・標準的な確認すべき項目・文書による実施 ・標準化・効率化により所要時間の短縮 ・同一所在地や関連する法律に基づく指導・監査の同時実施 ・確認する書類等の対象期間の限定 ・電磁的記録により管理されている書類等のディスプレイ上での内容確認 ・事務受託法人の活用   本来、指導監査については、2022年3月「全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料」にも「利用者の自立支援及び尊厳の保持を図るためには、指導監督業務における集団指導や実地指導のより効果的かつ効率的な実施及び指定基準違反や介護報酬請求に不正が疑われる場合等に行う監査の適時適切な実施が求められます。」と明記されています。「集団指導」「運営指導」を受ける施設等においても「日頃の人員配置基準・運営基準・設備基準等の法令遵守体制を評価いただくよい機会」と捉え、法人全体で前向きに対応してください。

【インタビュー】相談事業や自費での運動療法…新たな地域の医療に挑戦 事業承継で地域医療のバトンつなぐ(下)

【インタビュー】相談事業や自費での運動療法…新たな地域の医療に挑戦 事業承継で地域医療のバトンつなぐ(下)

<取材先>医療法人社団あすなろの会「ぬきいこどもクリニック」院長の貫井清孝氏 2021年11月、「ぬきいこどもクリニック」からバトンを受け継ぎ開院したのは整形外科や内科が中心の「健幸クリニック調布国領」。新型コロナウイルス感染症の終息が見通せない中で、「地域を大切にしたい」という新旧の思いが一致し、事業承継が実現し、それをきっかけに新たな地域医療の形づくりにも挑戦しています。貫井清孝氏と伊藤拓也氏に今後の展望などを聞きました。 目次 01:なぜ、貫井さんからバトンを受け取ろうと考えたのですか。 02:“地域を重視”波長が合い、事業譲り受けを決意 03:「健幸クリニック調布国領」は、整形外科や内科が中心ですが、承継に戸惑いは、ありませんでしたか。 04:新たな歴史を刻み始めた「健幸クリニック調布国領」様で、今後どのようなことに取り組んでいきたいですか。 05:新たな取り組みで地域に貢献 06:見出し06 07:見出し07 08:見出し08 09:見出し09 10:見出し10 なぜ、貫井さんからバトンを受け取ろうと考えたのですか。 ●伊藤 私は医療機器メーカーに20年勤務しており、後半の10年間は介護事業の立ち上げに加わるなど、鹿児島県を除く46都道府県にクライアントがいました。全国を歩いてみて分かったことは、医療機関は、地域それぞれに応じた取り組みが非常に大切ということです。生意気な言い方ですが、そういう医療機関を地域に残さなければいけないという思いから、医療・介護事業のコンサルティングなどを手掛けるアレックを立ち上げました。  <「地域に必要な医療機関は残さなければならない」と熱く語る伊藤氏> “地域を重視”波長が合い、事業譲り受けを決意 事業承継についてCBパートナーズさんから紹介され、貫井先生に、これまでの地域での小児科医としての取り組みや考え方について話をお聞きしながら、我々が目指す方向性と波長が合ったことから、事業を受け継ぐことに決めました。 また、調布市は、私がメーカー勤務時代に、デイサービスの立ち上げに関わり、初めて医療機器というハードではなく、ソフト面でお金をいただいた所で、とても感慨深い所でもありました。そこで地域のお役に立ちたいと考えたのも、ここで開院を決めた理由です。 「健幸クリニック調布国領」は、整形外科や内科が中心ですが、承継に戸惑いは、ありませんでしたか。 ●貫井氏 コロナ禍の中、小児科以外で、この地域、この建物、この内装を使ってくれる人へ譲ろうと考えていました。ただ常々、思ってきたことは、医療はもう少し患者への責任を持つべきです。 例えば診察し、「毎日30分から1時間ぐらい運動しましょう。1年後、また来てください」と言われる患者さんは少なくありません。しかし、いざ、運動をしようとしても、何をしたらいいのか分からないのが実情です。少し散歩して、スポーツクラブで筋トレして、体を壊してしまう。患者さんそれぞれに合った改善策を一緒に探る努力が必要だと感じています。 伊藤さんが提案されたのはクリニックの下に、自費で運動療法ができる施設を置き、未病の段階から健康に気を配り、もし不安なことがあれば、クリニックで整形外科医などが診る。新たな取り組みで地域の医療に責任を果たそうとしている姿に、共感を覚えました。 伊藤さんが、事業を受け継いでくれるということになり、本当にありがたかったです。 新たな歴史を刻み始めた「健幸クリニック調布国領」様で、今後どのようなことに取り組んでいきたいですか。 ●貫井氏 今は週1回ですが、「健幸クリニック調布国領」の小児科で子どもたちを診ています。その間に、ここで新たに子どもたちを見守ってくれる先生にバトンを渡していきたいと思っています。先ほど、以前から60歳ぐらいで一線を退こうと思っていたと話をしました。今でもその考えに変わりはないのですが、一般会社のように相談役のような役割で、地域に貢献したいと考えています。 新たな取り組みで地域に貢献 子どもたちの健康を守ることと同時に、親御さんを見守ることも大切なことです。子育てにはマニュアルはありませんが、一方で、子育てに関する情報があふれています。 こうした情報に納得するのではなく、それが正しいのか、子育て中のお母さん・お父さんには大いに悩んでほしい。その時に相談できる存在になれればと、2月から週に一度ですが、土曜日の午後に相談事業を始めました。相談料はいただいていません。新たな事業を通じて、地域に貢献していきたいです。 ●伊藤氏 クリニックの名前にある「健幸」には、ウェルビーイング(身体的、社会的、精神的に人々が良好な状態にある)の思いを込めています。「健幸」という考え方を広めていきながら、地域を支えていく医療を展開していきたいと考えています。 <医療での今後の地域貢献の形について話し合う貫井氏(左)と伊藤氏> 執筆提供:株式会社CBホールディングス (取材年月:2022年2月)

【解説】いかなる状況でも「人」が経営の資本

【解説】いかなる状況でも「人」が経営の資本

<著者>株式会社ヘルプズ・アンド・カンパニー 代表取締役 西村 栄一 事業承継における「経営」について、テクニック論の前に、心構えについてお話しします。まずは、自分の経営権を他者へ「譲渡する」ことは、事業をゼロから始める以上に慎重に進めなければなりません。もちろん、逆に、事業承継を「受ける側」も、必ずしも、プラスのアドバンテージから事業開始できるとは限りません。場合によっては「しまった!」というマイナスからの事業開始もありえます。ちなみに、私は、10年近い付き合いであり、友人関係ともいえる、ある経営者から「互いの信用がなによりの担保」という忖度で、事業を引き受けてしまったばかりに、大失敗したことがあります。そのエピソードなども踏まえて、以下のアドバイスをしたいと思います。 1つ目は「人を信用してはいけない」。端から人を疑って構えろというわけではありません。そこは、一定の大人の振る舞いが必要になるところです。振る舞いとは、たとえば「湖面を泳ぐ白鳥」のように見た目は優雅でいて、人当たりがよくニコニコと振る舞い、人から見えない心、つまり水面下では足をばたつかせているように最悪な事態を想定しつつ、「行動や洞察を継続すること」が大事なのです。 2つ目は「何度でも言う、伝える」です。同じことでも3回は言うこと。そして4~5回目には現物や事実を見せることで伝える。6回目はわかりやすく、並べて見せる。7回目はさらにわかりやすく不要なものを省いて、簡単にしてみせる。8回目はそうすることで「だれが得するのか、損するのか」を判断させることです。しつこいようですが、これも私の事業譲渡を受けた際の経営の反省からの賜物です。 私も友人から事業譲渡を受ける際に、「しつこい」と思われたくなく、仲良く、スマートに手続きを進めていました。たとえば、友人側から「そちらで士業を揃えるのもお金がかかるだろうから準備しておきました」と弁護士、会計士、行政書士等を手配いただき、当社側にも同じように士業がいるのに手を抜いてしまったり、概算としての決算書を概観しただけで、企業価値評価をその専門家に委託しなかったり、「友人だから」ということを理由として「しつこさ」がなかったばかりに、大きなロスを生んでしまったのです。お互いに10年積んできた信用でさえあっという間にゼロになってしまいました。私も悪かったと今でも反省しています。犠牲になるのは、相手と自分だけでなく、職員、利用者、その家族、取引先、無限にその弁済は広がってしまうのです。怖いです。 3つ目は「人を裏切る人ほど、信頼おける人の条件を満たしている」ということです。「あれ?それは違う」と反論する人もいるかもしれません。しかし、本当の悪人ほど「他人の話をよく聞く」「よく気がきく」「弱者の味方」「明るい」「ざっくばらん」「気前がいい」です。先に挙げた私のいくつかの失敗で共通することです。「信用おける人って!?」と悲しくなったものでした。 では、テクニックの話に移ると、事業承継後の経営については、職員や利用者、事業所周辺への配慮というのが大切になります。 まず、職員、利用者への配慮の1つは、前任の事業所で行われていた会議や研修、利用者家族との懇親の場等は、最初の3カ月はそのまま引き継ぐことが大切です。3カ月の間に「要るもの・要らないもの」のヒアリングを職員や利用者ごとに個別で行います。個別で行う理由は、全員にその場で聞いても本音は一部からしか収集できないからです。一部の声が全体を動かすことは「経営の方向性」を間違えてしまうきっかけとなってしまいます。「声なき声」に経営のヒントが必ずあることを見逃さないでください。それにより、本当に前任者にも見えなかった発見ができます。 事業所周辺への配慮についてですが、「事業所のある地域の自治会長を知らない」という事業所がかなり多い印象もあります。「ビジネス」と割り切って、それに伴わない関係者との付き合いはしないのも一案かもしれませんが、我々のビジネスは、どこを切り取っても「人」です。どんな商売よりも「人」無しでは成立しない事業です。向こう三軒両隣の名前と顔、地域のキーマンの数名は確保しておくことが重要です。 実は、そういうことも前任者の事業でお取り引きのあるケアマネジャー等からのヒアリングで情報を得ることができるかもしれません。偏った情報もあります。精度を高めるためにたくさんの専門職から情報を収集するようにしましょう。テクニカルな方法ではありますが、「なにもわからないので教えてください」という姿勢と、「こういう点ならなんでも任せてください」という意見のバランスをもって「人」付き合いを広げていきましょう。 (取材・掲載年:2022年3月)

【解説】介護保険法だけではない 介護事業者が守るべき法律

【解説】介護保険法だけではない 介護事業者が守るべき法律

<著者>株式会社ねこの手 代表取締役 伊藤亜記 サービス開始に欠かせない指定手続き  介護保険サービスを提供する上では、都道府県知事や市町村長からサービスの種類ごとに指定を受ける必要があります。「指定居宅介護支援事業者」「指定居宅サービス事業者」「介護保険施設」の3つの指定があり、指定を受けた事業者を指定事業者と言います。 ①申請場所 指定を受けるためには、その事業所が立地している各自治体窓口に申請書類を提出します。 たとえば東京都の場合、施設サービスについては、「福祉保健局 高齢社会対策部」に、地域密着型サービスを除いたそのほかのサービスについては、「東京都福祉保健財団 事業者支援部事業者指定室」に、地域密着型サービスについては各市区町村に申請します。 ②指定スケジュール  指定までのスケジュールは各地方公共団体によって異なるので、詳細は各自治体窓口にお問い合わせ下さい。 たとえば、東京都の場合は、以下のとおりです。 ③申請に係る事前相談  申請に係る質問受け付けや事業者の事業計画の確認等を行います。 ※希望者が「福祉保健財団 事業者指定室」に電話で予約することで行えます。この事前相談は必須ではないですが、事前相談を行った方がスムーズに手続きを進めることができます。 なお、コロナ禍においては、事前確認はメールで必要書類を送るように指導されていますので、電話される際には送信先メールアドレス等の確認もして下さい。 ④ 指定申請(指定前研修)の申し込み  申し込み期日は、指定(予定)日の3カ月前末日です。 ⑤指定前研修の受講  指定前研修は必須です。 ⑥新規申請(申請書の提出)  指定前研修を受講した後、申請書を作成の上、「福祉保健財団 事業者指定室」に申請日時の予約を行った上で新規申請を行います。 ⑦受理  申請受付期間内に受理される必要があります。記入漏れや書類の不備があった場合には受理されません。 ⑧審査  申請内容が人員、設備および運営基準を満たしているかの審査を行います。 ⑨指定  毎月1日付けで指定を行います。 介護事業所が守るべき介護保険法 介護保険法とは、1997年12月に公布された法律です。1号保険者の要介護認定の判定で、要支援・要介護の基準に該当した方(その状態になった原因を問わず)、2号保険者の要支援・要介護の状態になった原因が「主に老化が原因とされる病気(特定疾病)」である方の尊厳の保持と自立した生活を支援するために、国民が負担する介護保険料や税金を財源としています。日常生活の行為にかかるさまざまな介助やリハビリなどのサービスにかかる給付を、介護予防や重度化防止で行うことを目的にしています。 保険給付によるサービスを受けるには、原則として要支援・要介護の認定を受けることが必要です。制度自体は2000年4月からスタートしていますが、基本は3年に一度介護報酬改定が行われ、見直されています。 介護保険制度における法令遵守の考え方 介護保険制度は、40歳以上の国民から集めた保険料と公費(税金等)により運営する、公的な性格が非常に強い制度です。このため、サービス提供を担う事業者は基準を守った適正なサービス提供だけでなく、法令の自主的な遵守が求められます。 ・介護保険指定事業者に係る主な関係法令 国:法律 介護保険法(平成 9 年法律第 123 号)/ 政令 介護保険法施行令(平成 10 年政令第 412 号 東京都の場合:介護保険法施行条例(平成 24 年 10 月 11 日 条例第 116 号) ・介護事業と労働法 労働法とは労働基準法、労働安全衛生法等、労働に関連する法律を総称したものです。 2012年4月施行の改正介護保険法により、労働法の遵守ができなかった場合(具体的には労働法の規定で罰金刑に処せられたとき)、都道府県(地域密着サービスの場合は市町村)から指定を取り消される可能性もあります。 介護事業所を運営していく際には、人材定着や採用においても、日頃の働く人材の労務管理が要となりますので、労働法は、その上でもとても大切な法律となります。 通所介護事業で忘れてはならない消防法 介護保険事業の指定を受けるには、事前に消防法にかかる届出・確認も必要になります。 通所介護を提供する地域の管轄消防署に対して、2方向の避難経路の確保等の建築や用途変更にかかる工事の着工7日前までに「防火対象物の工事等計画書」等を提出し、消防署の指示に従います。介護サービス事業の種類によって異なりますが、自動火災報知設備(消防署へ通報する火災報知設備の連動も)、消火器、スプリンクラーなどの設置も必要になります。 これらの工事が完了したら、事業所指定の申請までに、消防の立ち入り検査を受けなければなりません。変更する場合も届出が必要になります。上記の消防法の規定に違反した場合、30万円以下の罰金または拘留などの罰則が科せられる場合があります。 通所介護などの立ち上げ時、介護保険法を遵守して建築・改築を実施したが、消防法に引っかかって指定を受けられなくなるケースもありますので、消防法も確認しておきましょう。 伊藤亜記 いとう・あき 株式会社ねこの手 代表取締役 短大卒業後、出版会社へ入社。祖父母の介護と看取りの経験を機に、社会人入学にて福祉の勉強を始める。1998年、介護福祉士を取得。介護老人保健施設や大手介護事業者を経て、株式会社ねこの手を設立。国内外の介護施設見学ツアーの企画、介護相談、介護事業所の運営・営業サポートなど、精力的に活躍中。 (取材・掲載年:2022年4月8日)

【解説】評価から資金調達まで 専門家の手を借りることが重要

【解説】評価から資金調達まで 専門家の手を借りることが重要

<著者>株式会社ポラリス 代表取締役 森 剛士 デイサービスを譲渡、売却する場合、資産は現金や不動産以外にもデイサービスの送迎に使う車やリハビリ機器などがありますが、ここでは主に不動産について話します。 デイサービスを従業員や外部へ売却する場合については、吸収分割などの手法で株の売買により承継が行われます。事業だけを譲渡する場合もありますが、どちらにしても不動産の評価はしっかりと経験のある不動産鑑定士に行ってもらい、株価や事業所の価格を算定する根拠を揃える必要があります。 子ども等親族に継がせる親族内承継については、事業用資産や株式を贈与、相続により承継することになります。資産の状況によっては多額の贈与税、相続税が発生することがあります。後継者に資金力がない場合、税負担を回避するために事業継承後の経営の安定が危ぶまれる等の可能性があります。そのために税負担に配慮した承継方法を検討しなければいけません。さらには、たとえば、親族内承継においては、株式・事業用資産以外の個人資産の承継や、他の推定相続人との関係も視野に入れておく必要があり、また、どのパターンの承継かにかかわらず、現経営者個人の負債や保障関係の整理・承継を行う必要があるなどの注意点があります。 さらにはデイサービス事業を引き継ぐ譲受側は、M&Aの工程において株主も含む譲渡側に対して支払う株式や事業用資産の買取資金、仲介者やFAに払うマッチング等に関する手数料、士業等専門家に払うバリュエーション費用やデューデリ費用のほか、PMIの工程に各種費用やその他経営判断に応じて各種の費用を必要とする場合があります。 資金調達の手法としては金融機関からの借り入れ等が一般的ですが、取引金融機関とは十分な連携が必要であったり、場合によっては民間の金融機関では対応が困難な場合もあるため、公認会計士や弁護士をはじめとする専門家や各種サポート機関に早めに相談されることをお勧めします。 森剛士 もり・たけし 株式会社ポラリス代表取締役 外科医、リハビリ医を経て高齢者、慢性期リハビリテーション専門のクリニックを兵庫県宝塚市に開設、ポラリスグループをスタート。地域密着型社会貢献事業として自立支援特化型デイサービスを全国58カ所に展開中。一般社団法人日本自立支援介護・パワーリハ学会理事。一般社団法人日本デイサービス協会副理事長。 株式会社ポラリス 兵庫県宝塚市旭町3-9-1 ポラリス本社ビル2F 0797-57-5753 (取材・掲載年:2022年4月7日)

【解説】保険外サービス開始時も、設備基準等の確認は必須

【解説】保険外サービス開始時も、設備基準等の確認は必須

<著者>株式会社ねこの手 代表取締役 伊藤亜記 事業拡大期にあたって、保険外サービスを展開していくうえでは、設備面での注意も必要です。 そのひとつのサービス例が、お泊りデイサービスです。 日中デイサービスを利用している方が、夜もそのまま施設に宿泊できるサービスを一般に指します。 介護保険の枠組みを活用しながら事業所側と利用者とで個人契約を締結し、そのまま事業所に宿泊サービスを提供するものです。 お泊りデイサービス自体は介護保険外でのサービスのため、過去には行政の目も行き届かないことも多く、事業所側のモラル次第でサービスの質が決まってしまうと言われていました。 そこで、厚生労働省や行政側の省令により、2015年4月からお泊りデイサービスを行う場合に、「都道府県もしくは市町村への届け出制」および「事故があった場合に市町村や家族に連絡を義務づけ」「市区町村の監視体制」といった施策を打ち出しています。 また、都道府県は、届出の内容を介護サービス情報公表制度に基づいて公表することも定めています。 さらに、厚労省では「指定通所介護事業所等の設備を利用し夜間及び深夜に指定通所介護等以外のサービスを提供する場合の事業の人員、設備及び運営に関する指針について」を発出し、新たにお泊りデイサービスに関するガイドラインを策定しています。 ここでは、利用定員や一人当たりの床面積、緊急時対応などの指針が定められています。 【運営基準例】 ○利用定員:日中のデイサービスの定員の半分以下とし、最大でも9人まで ○個室:1名で利用が基本。希望すれば2名までの利用も可能 ○設備基準:相部屋は最大4名で、1室あたりの床面積は最低7.43㎡、4畳以上の確保が必要 その他、消防法に定められているスプリンクラーや火災報知器、消火器などの防火設備を設置し、災害時に対応できるようペットボトルの水や保存食、懐中電灯といった備品の備蓄も推奨されています。 自身が手掛けようとしている保険外サービスにおいて、必要な物品等は何があるのか、またそこに伴う設備基準等はないのかの確認はしっかりしておいてください。 「介護はプロに、ご家族は愛を!」の「プロとしての介護サービス提供のあり方」を間違われないようにするためには、介護事業者側が正しく設備基準等を理解しておく必要があります。 「日本中のご高齢者やご家族の希望ある未来をつくる!」べく、介護保険外事業の拡大をご検討をいただきたいと思います。

【解説】安定化時期だからこそ コンセプトを出して集客につなげる

【解説】安定化時期だからこそ コンセプトを出して集客につなげる

<著者>株式会社ヘルプズ・アンド・カンパニー 代表取締役 西村 栄一 介護事業が安定したら、次に今あるレベル1を10 に、そして100 にしていくことが、経営者としての使命です。ところで、自事業所はなぜ、今、取り引きしている「ケアマネジャー」にお付き合いいただけているのか、サービス提供する「利用者」はどうして自事業所のサービスに満足していただけているのか、思いをめぐらしたことはありますか? そのあたりを経営者はもちろん理解しておいていただきたいし、そのサービス提供の主体である職員はどうイメージしているのかまで把握しておくべきです。さらには、その利用者が、数年後もサービスを利用している姿まで具体的にイメージすることが大切です。安定化している今だからこそ、ケアマネジャーに今後について聞いてみる絶好の機会かもしれません。 これは先を見据えたバックキャスティング手法で、逆算の思考でもあるのです。たとえば、訪問介護であれば1対1であるからどのような介護を提供しているのかはイメージしやすいと思います。一方で、通所介護ですと複数の方々が異なる1日の過ごし方をされているので、その方々に合った過ごし方を考えてみてください。「全く考えてもみなかった」という方はいないと思います。ですから、「うちの事業所はどんな方でも受け入れています」「どんな人でもウェルカムです」なんて言っているうちは、自事業の姿が見えていないと思ってください。 安定化したら、進化、発展させていきたいのかなど含めて、次はどのような事業所にしたいのかを考えましょう。さらにイメージを言葉にする「コンセプトの確立」が最も重要な要素です。それを考えるきっかけとして、「自分の地域にはないオンリーワン」のサービスを考えることも一つの案です。ただし、そのオンリーワンが、地域住民やケアマネジャー、医療関係者、ひいては、利用者のためになるのかを考えましょう。進化、発展するのに必要な受け入れとなりえるのか、それとも誰も気づかなかった潜在的なニーズもあるのか、それは自事業所の職員にできることなのか(←これが一番大事)、などです。 安定化の次に、進化、発展させていく方向としての正解ではなくとも、ベターなコンセプトであるかどうかの見極めは経営者としてとても重要です。 コンセプトの選び方としては、対象者をどう考えるかが挙げられます。たとえば、利用者のADL状態を軸に置いた場合、より重度な方を受け入れるのか、それとも、軽度者をはじめとした身体介護を必要としない方へのリハビリなのかということです。また、高所得者層、中間層、低所得者層など、生活のレベルでサービス内容を変えることもできます。 また、サービス内容にこだわることで、差別化もできます。一般的にデイサービスでの昼食は安くても300円で、高いところでは700円以上というところが平均なのですが、「一律100円」というところがあります。メニューも一定のレベル以上のものを出しているところを見ると、昼食だけでは赤字になっているのではないかと予想できます。しかし、これにより「低価格で高レベルな食事の提供」といった具合に、コンセプトが明確になります。利用者一人当たりの単価は下がりますが、稼働率は間違いなく上がります。なお、そこには定員稼働率70%での黒字化ではなく、90%を達成してやっと黒字化する、といった具合のリスクが存在しますし、コンセプトを明確にすることでリスクが生じるというのはあり得ると思います。経営とはリスクは背中合わせであり、それこそ「覚悟」です。 (取材・掲載年:2022年3月)

【解説】手洗い設備や駐車スペース等 介護事業ならではの注意が必要

【解説】手洗い設備や駐車スペース等 介護事業ならではの注意が必要

<著者>株式会社ねこの手 代表取締役 伊藤 亜記 介護事業においては、サービスによって設置すべき設備や広さなどが決められています。以下では、大枠を説明します。 ◎訪問介護の設備基準 事務室 広さの規定はありませんが、訪問介護の事務が行える机が1つ以上確保されていなければなりません。また個人情報等を保管するための措置として、鍵のかかる書庫の設置も必要となります。 相談室 ・利用申し込みの受け付け、相談等に対応するのに適切なスペースが確保されている ・相談等に対応するために机やいすの配置がある ・利用者およびその家族のプライバシー確保のため、個室またはパーティション等(高さの目安は170㎝程度、カーテンは不可)で囲われて外部からの視線を遮断できる形状・しつらえであること 手洗い設備 衛生に関する設備として手洗いができる洗面所が必要です。やむなく共用する場合には、 ・感染症予防対策をとっているのか ・共用の状況を確認し、適切に使用できるか 上記2点をポイントに、感染予防に必要な手洗い、うがいができる設備と液体石鹸、消毒液、タオルやペーパータオル等も設置しなければなりません。 なお、同一建物内にトイレがあったとしても、同一建物内の飲食店の利用客も使うなど不特定多数の人が使用する場所は適切ではないため、再検討していただく場合があることも踏まえ、物件を選ぶようにします。 その他 固定電話と携帯電話、FAX、パソコンとプリンター、訪問に際して利用する事業所専用の自動車・自転車(電動であればなお良い)も準備する必要があり、それらを駐車する駐車場と駐輪場の確保も必要になります。 ◎通所介護の設備基準 全体 □ 食堂   □ 機能訓練室  □ 事務室  □ 静養室 □ 相談室 □ トイレ  □ 手洗い □ 厨房(食事を調理して提供する場合) □ 浴室(入浴サービスを提供する場合) 食堂・機能訓練室 それぞれ必要な広さを有し、内法により測定し1人あたり3㎡×利用定員以上の面積を確保してください。また、それぞれにおいて支障がなければ同一の場所とすることができます。 狭隘な部屋・スペースを合わせて面積を確保することはできません。 面積に算入できない部分 ・他設備(静養室や事務室、玄関部分、通路・廊下部分、厨房、事務スペース、出入口のスロープなど、利用者の円滑な移動のために傾斜が付けられている部分 等) ・他事業(当該単位と別単位の場合も含む)の利用者等が食堂および機能訓練室内を通る構造の場合の当該通路部分 ・利用者が機能訓練等に使用できない部分(冷蔵庫や棚等サービス提供のために利用者が直接使用しない什器等がある場合は、当該スペースは面積から除く) ・当該建物における通路・廊下部分については、原則として食堂および機能訓練室の面積に算入できません。利用者が機能訓練の一環として歩行訓練等に使用する場合も同様。 ・利用定員分の机やいす等を配置すること(机は、サービス提供内容によりなくても可) 静養室 ・静養室は、個室またはカーテン等で仕切られた形状であり、静養できる設備であること ・休養が必要になった利用者が適時休めるよう、同一フロアにあるなど利用しやすい場所に設置すること ※ベッドだけでなく利用者が静養できる設備として布団等の設置も必要です。 相談室 ・利用者およびその家族のプライバシー確保のため、個室またはパーティション等 (高さの目安は170㎝程度、カーテンは不可)で囲われて外部からの視線を遮断できる形状・しつらえであること ・相談を受け付けるための設備(机・いす等)の設置が必要 事務室 ・同一法人の他事業(介護保険外事業含む)と事務室が同一の場合、通所介護事業専用の事務机1以上確保されていること ※事業を運営するための事務室が必要です。 トイレ・手洗い 衛生に関する設備として手洗いができる洗面所が必要です。感染予防に必要な手洗い、うがいができる設備と液体石鹸、消毒液、タオルやペーパータオル等を設置しなければなりません。 ただし、認知症の方などのご利用の場合には、誤飲の可能性があるため、液体石鹸、消毒液は、利用される際に設置するように事故防止の配慮も必要です。 要介護者が安全かつ衛生的に使用できるものであることが求められます。 浴室 (入浴介助を行う場合)十分な脱衣スペースを設けるなど、要介護者が安全かつ適切に入浴し、介助できる設備であること キッチン ・昼食の提供等で厨房を使用する場合、厨房を設置すること ・厨房は衛生的に使用できるものであること ・厨房・キッチンとして従業者が使用するスペースは、食堂・機能訓練室の面積には算入できないこと。 駐車場・送迎スペース ・送迎車を保有する場合には、適切な駐車スペースを確保すること(事業所所在地外でも可) ・送迎スペースについては、道路交通法を遵守し、交通・往来の妨げにならないものであること。また、利用者が安全に乗降できるスペースであること 個人情報保管のための設備 ・個人情報等を適切に保管するための設備として、施錠できる書庫を設置すること その他 固定電話と携帯電話、FAX、パソコンとプリンター 伊藤亜記 いとう・あき 株式会社ねこの手 代表取締役 短大卒業後、出版会社へ入社。祖父母の介護と看取りの経験を機に、社会人入学にて福祉の勉強を始める。1998年、介護福祉士を取得。介護老人保健施設や大手介護事業者を経て、株式会社ねこの手を設立。国内外の介護施設見学ツアーの企画、介護相談、介護事業所の運営・営業サポートなど、精力的に活躍中。 (取材・掲載年:2022年4月8日)

【インタビュー】「東京の子どもを守りたい」22年間走り続けた小児科医 事業承継で地域医療のバトンつなぐ(上)

【インタビュー】「東京の子どもを守りたい」22年間走り続けた小児科医 事業承継で地域医療のバトンつなぐ(上)

<取材先>医療法人社団あすなろの会「ぬきいこどもクリニック」院長の貫井清孝氏 22年間、東京都調布市で地域の子どもたちの成長を見守ってきた医療法人社団あすなろの会「ぬきいこどもクリニック」院長の貫井清孝氏(63)。 開院当初から60歳を超えたら後進に道を譲りたいと考えていた貫井氏が選んだのは事業承継によるバトンタッチだ。新型コロナウイルス禍という想定外の経営環境の中で、次の一歩を見据える貫井氏。 事業承継の経緯や思いなどについて、貫井氏と事業を受け継いだ医療・介護事業のコンサルティングなどを手掛けるアレック代表の伊藤拓也氏に聞きました。 目次 01:-「ぬきいこどもクリニック」を開院したきっかけ 02:「東京の子どもたちを守りたい」。開院時の思い忘れず 03:-地域住民に親しまれていた「ぬきいこどもクリニック」様で、どうして事業承継を考えたのですか。 04:60歳ぐらいで後進に道を 05:-国領という地で、22年間大切に育ててきた医療を、受け継いでくれる先として特にこだわった点はどこですか。 -「ぬきいこどもクリニック」を開院したきっかけを教えてください。 ●貫井氏 私は東京都杉並区で生まれ、育ちましたが、弘前大学医学部で小児科を専攻したことがきっかけで、青森県や岩手県など東北地方の子どもたちを多く診てきました。その後、東京に戻り、勤務医として子どもたちを診てきましたが、勤務医ですと、どうしても診療件数という評価が付きまといます。私は、話を十分聞いて、見て、触って、においをかぐ、ということが小児医療では大切と考えてきました。一人当たりの診察時間がたくさん取れない勤務医では、自分が考える小児医療を実現できないと開院を決断しました。開院は実家のある京王線「つつじヶ丘」駅の近くで考えており、たまたま調布駅に向かって2つ先の「国領」駅の近くに物件があったため、1999年に開院しました。 「東京の子どもたちを守りたい」。開院時の思い忘れず 開院して強く思ったことは「東京の子どもたちを守りたい」ということでした。長く、東北地方の子どもたちを診てきて、都会の子どもたちは、地方で暮らす子どもたちと比べて大切にされていないと感じました。 塾やたくさんの習い事をさせられている子どもたちの姿を見て、子どもたちが危ないと本当に思いました。子どもは親の背中を見て、育ちます。できるだけ多くの時間を親子で共有した方がいいわけですが、背中を見て育つ分、お母さん・お父さんの日頃からの振る舞いも大事になります。私は、自分の子育て経験を紹介しながら、お母さん・お父さんと一緒になって、子どもたちの成長を見守ってきました。   開院から東日本大震災のあった2011年3月までは診察時間を午前9時から午後9時までにし、できるだけ多くの子どもたちを診察できる体制にしていました。東日本大震災で、節電が呼び掛けられ午後7時に診療時間を短縮。 その後、近隣にある東京慈恵会医科大学附属第三病院が準夜間帯の診察を始めたため、午後7時までの診察としました。 「ぬきいこどもクリニック」の開院当時を振り返る貫井氏 診察券の発行枚数は、1万9,000枚を超えました。初診の子どもの中には、その子の親御さんが幼少時に、聴診器を当てた子もいます。「先生、私も昔、お世話になりました」という話をしてくれるお母さん・お父さんに会うと、この地で長年にわたって小児医療に携わることができて本当に良かったと思います。 -地域住民に親しまれていた「ぬきいこどもクリニック」様で、どうして事業承継を考えたのですか。 ●貫井氏 定年制を設ける一般企業であれば60歳ぐらいでしょうか。次の世代にバトンタッチをしながら、それまでの経験や培ってきたノウハウを使い、新たなことをする機会があります。 医師も同じです。毎年、医師国家試験に合格し、優秀な医師が数多く輩出されます。誰もリタイアしなければ、医師は、だぶついてしまう。年を取るにつれて正しい判断もできなくなるかもしれません。従前から、私は60歳ぐらいになったら、後進に道を譲ろうと考えていました。 60歳ぐらいで後進に道を 19年に60歳になりました。その時は具体的なイメージを持っていなかったのですが、20年の新型コロナウイルス感染拡大による患者減をきっかけに事業承継を具体的に考えました。 「この柱も22年以上、子どもたちの成長を見届けてきた」と話す貫井氏。「健幸クリニック調布国領」でも柱は時を刻んでいる 「東京の子どもたちを守りたい」という一心で、開業から22年間、地域の子どもたちを診てきました。それはコロナ禍でも変わらず、20年6月、クリニックを子ども専門の発熱外来とし、コロナ禍で子どもたちを守る体制を整えました。 ところが、当時のコロナ株は子どもたちにあまり感染しませんでした。さらに発熱外来にしたことで、風評被害による受診控えも加わり、わずか数カ月で内部留保は底を突きました。コロナの終息も見通せない中、金融機関から借り入れをして経営を続けるのは、いいやり方ではないと考え、CBパートナーズさんに事業譲渡について相談に乗ってもらいました。 国領という地で、22年間大切に育ててきた医療を、受け継いでくれる先として特にこだわった点はどこですか。 ●貫井氏 大きく2つありました。1つ目は、事業を受け継いでくれる相手側が自信家、野心家であること。いくら退くとはいっても、長年にわたり大切に育ててきたクリニックを譲り渡すわけですから、少しでも今後の経営に不安をのぞかせるような相手にはバトンを渡さないということは決めていました。もう1つが、地域のことをしっかり考える方に譲りたいと考えていました。 ただ、コロナ禍の中、そのまま小児科を開院したいと考える方には、お譲りするのはやめようと思っていました。せっかくバトンを受け継いでくれても、どれだけ子どもたちが戻ってくるのか分からない状況です。場合によっては、開院すらままならない状態になる恐れもないとは言えません。コロナ禍による苦汁を味わうのは、私だけにとどめたいという思いが強くありました。 続きは来週・・・ 「相談事業や自費での運動療法…新たな地域の医療に挑戦 事業承継で地域医療のバトンつなぐ(下)」 を配信予定です。 執筆提供:株式会社CBホールディングス (取材年月:2022年2月)

【解説】医業収入は当面目標として「3000万円」を目指そう

【解説】医業収入は当面目標として「3000万円」を目指そう

<著者>日本クレアス税理士法人 大阪本部会長 上田久之 あるグループが統計をまとめたところ、歯科医院の年間医業収益は平均で、個人医院が約4600万円、医療法人医院が約1億2000万円といいます。事業規模が大きいほど自由診療が占める割合も高くなるようです。歯科医院経営の目安の一つとしていいのではないでしょうか。 私たち税理士が歯科医院の先生方と初めてお会いする場合、決算書を拝見することになります。この時、まずどこに着目し、どう判断するかといったことを大まかに述べてみたいと思います。当法人も参加しているある職業会計人グループが作成している、歯科医院の統計データ(以下、データ)をもとにお話を進めます。 目次 01:医業収入はどのくらいか 02:自由診療の総収入に占める割合 03:原価率 04:人件費率 05:医業利益 医業収入はどのくらいか データによると、平均の年間医業収入は個人経営の医院で4598万円、医療法人で1億2190万円となっています。歯科医の先生方の会合でこのデータをお話したところ、「平均収入額が大きすぎるのではないか」といったご指摘を受けました。このデータはいずれも、夜間開業や午前中のみの診察といった歯科医院はほとんど含まれておらず、会計事務所に業務委託するようなフルタイムで稼働している歯科医院ばかりです。「これから拡大させよう」という先生方にはやはり、一つの目安としていただきたいと思います。 自由診療の総収入に占める割合 医業収入における自由診療の割合は、個人医院で14%、医療法人院で25%となっています。矯正歯科を中心に扱う歯科医院でない場合でも、都市部では自由診療の割合が50%を超えるところも珍しくありません。 さらに、年間の医業収入が1億円を超える医院に限ってみると、自由診療費は27%となります。規模の大きい医院ほど診療内容のメニューが多く自由診療の収入比が高くなることがうかがえます。 原価率 歯科医院の変動費は「材料費」と「外注技工料」に分けることができます。個人・医療法人を問わず、全医院で材料費が対医業収入比8%、外注技工料が同7%、両費用を合計すると15%となります。言うまでもなく医院の提供する診療内容によって変動費率は変わります。補綴の割合が高くなれば当然、変動費率は高くなりますし、予防中心なら下がります。 いずれにせよ、収入に連動する費用ですから事業計画を策定する際も原価率を念頭に置く必要があります。例えば、原価率が対収入比20%である場合、月間で収入を100万円増やしても手残りは、80万円となります。 人件費率 歯科医院の最大の固定費は人件費です。データによると個人・医療法人全体で対医業収入比は平均21%となっています。この比率が30%を超えると経営は厳しくなります。 ただ、気をつけていただきたいのは、しっかり昇給し、休暇も取れる環境を用意し、厚生年金などの法定福利費も整備していかなければ、良いスタッフは集まらないという側面もあるということです。工夫することでなんとか25%程度に抑えていただきたいと思います。 医業利益 個人医院の場合は所得額と言い換えてもいいでしょう。年間平均利益は1280万円です。個人医院の場合は所得から、専従者給与(つまり、家族への給与)を控除します。 ただ、専従者給与は家族への支払いで、就業時間や職種などが反映されているわけではありませんから、通常は専従者給与を控除する前の数値を参照します。控除前で見ると1634万円です。医療法人も役員報酬について、役員報酬を差し引く前で見ますと利益は2883万円となります。 年間利益が3000万円を超える歯科医院は全体の2~3割程度と推定されます。せっかくリスクを背負って開業したのですから、ここを一つの目標とされてはいかがでしょうか。 制作年月:2022年3月 監修:㈱日本医療企画

【解説】退職リスクも踏まえたうえで 慎重に引継ぎを進める

【解説】退職リスクも踏まえたうえで 慎重に引継ぎを進める

<著者>株式会社ポラリス 代表取締役 森剛士 デイサービス等を事業承継する場合の人事労務問題は、事業承継に関するものとデイサービスという許認可事業を行う上で必要なものと、大きく2つに分けて考える必要があります。まずは前者について、デイサービス業界は多数乱立業界と言われ規模の大きくない事業者が多く、ほかの中小企業同様にノウハウや関係取引等が経営者個人に集中していることが多いため、親族や社員に承継する場合、十分な準備期間すなわち後継者候補をできるだけ早く選定し、経営に必要な能力を身につけさせ知的資産、すなわちデイサービスの運営、経営ノウハウを受け継がせていく必要があります。他の業種と同様、何よりも、「現経営者と後継者の対話」「理念、事業についての認識の共有」を重ねていくことが有用です。 従業員については人事担当者が一人ひとり面談を行い、精神的な不安を取り除き、給料面の引き継ぎであったり、退職金制度などの引き継ぎを行う必要があります。全職員の雇用継続を条件として加えてくることが多いですが、逆に雇止めを行いたい職員がいる場合は、吸収分割ではなく事業譲渡であれば可能です。 以上のような準備を怠ると事業承継を発表した後、ほとんどの職員が辞めてしまい、その対応に莫大な時間や費用が掛かってしまうことがあります。 次にデイサービス事業の許認可にまつわる人事労務については、人員基準をしっかり継承していく必要があります。吸収分割等による株の売買の場合は、引き継ぐ前の人員基準の違反も引き継ぐことになる場合があります。介護施設のM&Aなどの経験を積んだ弁護士や社労士等にしっかりと相談して進めましょう。繰り返しになりますが、事業承継時はスタッフの退職リスクが高まることが考えられますので、人事部門や人事担当者は時間をかけて慎重に準備を進めましょう。 森剛士 もり・たけし 株式会社ポラリス代表取締役 外科医、リハビリ医を経て高齢者、慢性期リハビリテーション専門のクリニックを兵庫県宝塚市に開設、ポラリスグループをスタート。地域密着型社会貢献事業として自立支援特化型デイサービスを全国58カ所に展開中。一般社団法人日本自立支援介護・パワーリハ学会理事。一般社団法人日本デイサービス協会副理事長。 株式会社ポラリス 兵庫県宝塚市旭町3-9-1 ポラリス本社ビル2F 0797-57-5753 (取材・掲載年:2022年4月7日)

【解説】独立開業フェーズにおける 資金繰りの考え方

【解説】独立開業フェーズにおける 資金繰りの考え方

<著者>株式会社ヘルプズ・アンド・カンパニー 代表取締役 西村 栄一 開業への準備として、資金はどのくらいあったらいいのでしょうか。もちろん、多ければ多いに越したことはありません。ただし、それが借入金であるならば、どの程度が目安なのか見当をつけておかなければ、返済の利子だけで苦しむことになります。 目安を考える上では、事業としての目標がどこにあるのかを定めた「逆算の思考」が必要です。しかも、ただ漫然とするのではなく、細かく細分化された思考法としてのバックキャスティング手法が大事です。具体的には、以下のように考えます。 1 事業規模に合わせて「稼働率」100%のために利用者獲得は何名必要かを確認 例:通所介護事業所30人定員の場合、月間延べ利用者平均数は45名(平均介護度3.0)にすると1日平均利用者21人(目標稼働率70%)でも、月間売上約500万円が見込まれる。この70%の地点を「損益分岐点」とします。大切なのは売上に対する費用の多くを占める「人件費」の対売上比率を50%以内にすることです。 訪問介護事業所の場合には「定員」という上限はないので、「目標稼働率」という考え方はありません。ただし、「損益分岐点」はどこにあるのかを考えることは、通所介護事業と同様です。たとえば、30名の利用者に対し、訪問介護サービスを1カ月に12回(12時間)、15名の職員で提供する程度を、当面の目標売上100万円(稼働率100%)と設定します。訪問介護事業の人件費割合については厚生労働省が示す報酬基準によって70%以下で設定されている点にご注意ください。 2 その稼働率で「売上」は目標どおりなのかどうかを確認します。利用者の要介護度、利用時間、加算は算定するのか等を確認し、稼働率と売上のそれぞれの達成可能性を事前評価します。 3 稼働率も売上もそれぞれの地域特性や報酬改定等に伴う制度変更、世情等によって、利用者獲得のスピードが変わります。できるだけ多くの関係者にヒアリングしてください。これにより、1(稼働率)と2(売上)の整合性と達成可能性の精度を調整することができます。 その後、目標稼働率と売上目標を、どう推移させていくのかを考えます。たとえば、稼働率を先に考え、推移状況を仮定する場合は、下のような具合です。 3カ月〜半年:目標稼働率の50%で、売上目標30% 半年〜9カ月:目標稼働率の60%で、売上目標50% 9カ月〜1年:目標稼働率の70%で、売上目標70% 上記の例では目標稼働率を70%達成した場合でも、売上目標が70%ではなく、100%に達成することもあります。仮定していた「売上単価」が予想よりも高い場合はそれができます。ただし、逆も然りです。目標稼働率を70%達成しても、単価が低いと売上目標は30〜50%となると悲劇となります。さらに、仮定していた人件費もオーバーしてしまうようなことがあれば、利益目標はさらにそれを下回ることもあり、1年を待たずに事業撤退もありえるのです。 だからこそ、資金準備のために重要なのが「逆算の思考」なのです。 また、上記2「売上」に目標があるということは、利用者別の平均予想単価も出せることになります。 「利用者は毎月いくらならお金を払えるのだろうか?」 「その利用者はなぜうちのためにお金を払ってくれるのだろうか?」 「利用者はそのお金を払い続けることに満足なのだろうか?」 「利用者の満足は家族の満足であり、お取り引きする医療機関や居宅介護支援事業所の満足にもつながる」 という点を考えましょう。上記に挙げた定員30人で、月延べ利用者数45人、要介護平均3のデイサービスの場合、平均単価は1日9,000円、月12回の利用で安定します。 利用者の出費に対する予算や満足度は、サービスの良し悪しによって変わりますので、「福祉だから、多少は甘く見てくれるだろう」という考えは排除しましょう。飲食店やメーカー、ホテル等と同じように、利用者はサービスを選ぶ立場だということを重視していきたいものです。 上記稼働率の推移は決して楽観視したスローな推移ではありません。「訪問系の事業は設備にお金がかからないから数百万〜1千万円あれば足りる」というのは間違いです。500万円程度なら開業準備をしている間に、残金が半分になっていることも少なくないのです。 また、各都道府県や市区町村の商工会議所が主催する補助金や、中小企業庁の支援する新規ビジネスへの補助金、金融機関が提供する新規参入者への優遇利子による貸付金等で当初はどうにかなると考えていても、稼働率がスローな状況で足踏みをしているうちに2カ月経った時点で追加資金が倍に、さらに3カ月後にも倍に……という形で予定していた資金の4倍もの費用がかかることもざらなのです。

【解説】人目に付きやすいなどのポジショニングだけでなく 防災への配慮や用途変更の確認を怠らない

【解説】人目に付きやすいなどのポジショニングだけでなく 防災への配慮や用途変更の確認を怠らない

<著者>株式会社ねこの手 代表取締役 伊藤亜記 介護事業を運営するに際し、注意すべき点は、介護保険法の理解のもと、人員配置基準・運営基準・設備基準等を遵守しなければいけません。 また、どの介護サービスでも同様ですが、事業所を立ち上げるには介護保険法に基づく指定許可を受けなければいけません。 そのためには事業目的を介護サービスとした、社会福祉法人や株式会社など、「法人の設立」をしている必要があります。 不動産関連については、物件を探される際には、バス通りなどの人の目につきやすい場所で、ビルやマンションのテナントの際には1階を選ぶようにします。理由は、「スタッフ募集」や「利用者募集」のチラシ等を掲示する際も1階の方が目につきやすく、またスタッフや利用者、相談者が出入りする際に、エレベータ設備があったとしても1階の方が利便性があるからです。 また、通所介護においては、 ・建物の配置、構造および設備は、日照・採光・換気・適温調節等、利用者の保健衛生に関する事項および防災について十分配慮されたものであること。 ・緊急時、非常災害時の対象として、安全な避難手段、経路を確保すること。 ・段差の解消、スロープの設置など高齢者の安全や利便に配慮した構造とし、車いすの利用が可能なものとすること。 などが留意点として挙げられます。 通所介護サービス事業の立ち上げに際しては、介護保険法や老人福祉法上の手続きとともに、建築基準法にかかる確認済証および(新築・増改築の場合は)検査済証の交付を受けておかなければなりません。 たとえば、賃貸物件を通所介護として使用する場合には、増改築や用途変更等にかかる建築基準法上の手続きが必要なのかを事前に調べます。 そのうえで、改築・改修等の工事を行う前に、当該市区町村の建築確認担当課に用途変更や建築確認の申請を行い、担当部署の建築主事に確認してもらいます。 申請に際しては、専門的な知識をもった建築士等に相談しましょう。用途変更・建築確認の手続きによって確認済証が発行されたら、介護保険担当部署との事前協議を行ったうえで、必要に応じた工事にかかります(建築基準法に適合させるための改修工事等も含む)。 工事の手続きは、建築士事務所などに依頼しましょう。なお、新築工事の場合は、工事途中や完了後に建築主事のチェックを受けて検査済証の交付を受けます。この検査済証の交付を受けた後に、介護保険の指定申請という流れになります。 事業所の賃貸契約をする前には、通所介護サービスとして利用すること、改装が必要であることを、物件のオーナーにしっかり伝えておく必要があり、後にトラブルがないようにコミュニケーションを取るようにしましょう。 ※自治体によっては、処遇スペース(食堂・機能訓練室、静養室、相談室)については、 同一階に配置すること(エレベータ設置により利用者の移動に支障がないと認められる場合は除く)などが求められます。たとえば東京都の場合には「東京都福祉のまちづくり条例」等の確認も必要となりますので、各自治体ルールを基に不動産物件もお探し下さい。 伊藤亜記 いとう・あき 株式会社ねこの手 代表取締役 短大卒業後、出版会社へ入社。祖父母の介護と看取りの経験を機に、社会人入学にて福祉の勉強を始める。1998年、介護福祉士を取得。介護老人保健施設や大手介護事業者を経て、株式会社ねこの手を設立。国内外の介護施設見学ツアーの企画、介護相談、介護事業所の運営・営業サポートなど、精力的に活躍中。 (取材・掲載年:2022年4月8日)

【解説】地域の独自ルールを確認し 適切な人員配置を行う

【解説】地域の独自ルールを確認し 適切な人員配置を行う

<著者>株式会社ポラリス 代表取締役 森 剛士 独立してデイサービス事業を立ち上げる際、必ず考えないといけないポイントがあります。その一つが人事労務系といわれるものです。ここではデイサービス開業時の人事労務のポイントについて話します。通所介護には人員の基準が定められています。国によって必要な資格や配置基準が決められていますが、地方自治体によっては独自のルールを定めていることがありますので、開業を決めたら開業地の地方自治体へ問い合わせるといいでしょう。人事基準の概略については後程述べますが、デイサービスを経営、運営するにあたって必ず手元に置いておくべき本があります。それが社会保険研究所が出している『介護報酬の解釈』 という本で「単位数表編」「指定基準編」「QA法令編」の3冊からなります。かなりボリュームがありますが、地方自治体が指導や監査に来る際も、この本を持参しこの本に書かれている内容に基づいてお話をされますし、この本が事業所の事務所に見当たらないと必ず購入するように勧められることが非常に多いので必ず手元に置かれることをお勧めします。 管理者:通所介護のマネジメントをする役割で常勤で1名必要です。資格は特に必要ありませんが地方自治体によって異なることがあります。 生活相談員:生活、相談、指導などの業務を行うソーシャルワーカーです。社会福祉士、社会福祉主事、精神保健福祉士のいずれかの資格が必要です。社会福祉主事は大学で必要な科目を習得していれば大学の証明をもって社会福祉主事として認められます。開業後の指導や監査などで社会福祉主事としては認められないと指摘され大変なことになる場合もあるので採用時にはしっかり確認されるといいでしょう。なかには事業所のほうで大学に問い合わせすることが必要な場合もあります。 機能訓練指導員:看護師、准看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、柔道整復師、あんまマッサージ指圧師、鍼灸師のいずれかの資格が必要です。 看護職員:利用定員が10名以上と10名以下で基準が異なります。10名以上の場合、通所介護の単位ごとに専従する必要は全くありません。利用定員が10名以下の場合、専従の看護職員または介護職員が1名以上必要です。生活相談員か看護職員、介護職員のうち1名は常勤でなければなりません。 上記基準はすべてを網羅しているわけではなく、また地方自治体によって、異なるルールが存在します。必ず内容については地方自治体の窓口にお問い合わせください。 森剛士 もり・たけし 株式会社ポラリス代表取締役 外科医、リハビリ医を経て高齢者、慢性期リハビリテーション専門のクリニックを兵庫県宝塚市に開設、ポラリスグループをスタート。地域密着型社会貢献事業として自立支援特化型デイサービスを全国58カ所に展開中。一般社団法人日本自立支援介護・パワーリハ学会理事。一般社団法人日本デイサービス協会副理事長。 株式会社ポラリス 兵庫県宝塚市旭町3-9-1 ポラリス本社ビル2F 0797-57-5753 (取材・掲載年:2022年4月7日)

【インタビュー】新米院長が本音を語る-開業STORY-子育て世代の職員が働きやすい環境をつくり その運営方法をロールモデルとして広めていきたい

【インタビュー】新米院長が本音を語る-開業STORY-子育て世代の職員が働きやすい環境をつくり その運営方法をロールモデルとして広めていきたい

<取材先>海老名こじろう耳鼻咽喉科 井戸光次朗 院長 目次 01:人を笑顔に――自分の根底にある想いを理念に掲げて開業 02:開業1週間で1日100人以上の患者獲得に成功 人を笑顔に――自分の根底にある想いを理念に掲げて開業 ──開業を考えたのはいつですか。 井戸●大学に入学したときです。私が医師を志したのは、幼少期に祖父が病気で倒れたことがきっかけでした。自分の無力さを痛感し、自分の手で守りたいと思ったのです。医師を志すにあたり、家族には金銭面で苦労をかけました。 少しでも家計の足しにしようと、高校生のときは、接客業を中心に毎日バイトに励み、その頃から人と接すること、人を笑顔にすることが好きだと気づいたのです。 それを医療に活かそうと考えたとき、より地域とかかわりが深い開業医の道が自分に向いていると思ったのです。 ──なぜ耳鼻咽喉科を選んだのか。 井戸●全国的に耳鼻咽喉科医が少なかったことと、外来診療で子どもからお年寄りまで、あらゆる年代層の患者を診ることができたからです。 耳鼻咽喉科は、内科・小児科・感覚系等、一般内科としての面も持ちつつ、頭頚部の外科手術も行う総合診療的な面もあります。また、外来処置で症状を快方に導くことができる科であることに魅力を感じました。 ──診療所のコンセプトを教えてください。 井戸●「みんなを笑顔でハッピーにする」です。これは、「人を笑顔にしたい」という自分の根底にある想いからでした。 患者はもちろんのこと、子育て世代のスタッフも応援する診療所にしていきたいと考えています。この理念はスタッフの求人の際にもお話し、共感してくれた方を選ぶようにしています。 ──現在地を選ばれた理由を教えてください。 井戸●関東近辺の耳鼻咽喉科診療所をリストアップし、人口対比を調べたところ、神奈川県海老名市は特に耳鼻科医が少なくニーズが高いことがわかりました。また、海老名市が子育て支援に力を入れていたことも、当院の理念と一致していましたので、開業地に決めました。 そんななか、コンサルタントから駅近にあるクリニックモールの案件を聞き、テナントの社長とお会いしたところ、社長が私を気に入ってくださり、運よくモールの一角で開業することができました。 モールには当院のほかに、整形外科、皮膚科、呼吸器内科が入居し、来年には泌尿器科が入る予定です。そのほか、法律事務所と保育園が入っています。 ──診療所の広さは? 井戸●77坪です。当院には5つの診察室を配置していますが、今後はそのうちの3つを耳鼻科にし、もう2つを小児科の診察室として対応していきたいと考えています。 モール内には皮膚科も入っていますので、ゆくゆくは、このモールに来れば小児医療を揃って受診できるという形にしていきたいと考えています。 JMPからの画像が入ります。 開業1週間で1日100人以上の患者獲得に成功 ──スタート時の集患はどのようにしましたか。 井戸●開業時、テナントの社長をはじめ、医師の仲間など、さまざまな人が当院の宣伝をしてくれたお陰で、多くの人に認知され、開業1週間で1日の患者数100人以上という成果を出すことができました。もちろん、HPやSNS、新聞広告、ポスティング、駅前でのチラシ配り、ラジオ出演など、集患につながるものは何でもやりました。 内覧会では、ただ院内を紹介するだけでなく、子どもを対象に“お医者さん体験会”など、お祭り的な要素を取り入れたところ、大好評で、2日間で計600人以上の方が来院されました。このとき、来院した方に診察券を作成したことも集患につながっています。 当院では、医師1人、看護師2~3人、受付3人、医療クラーク3人の通常8人体制を敷いています。現在は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、1日約60人の患者を診ています。 ──今後の目標を教えてください。 井戸●当院では、時短勤務など、子育て中のスタッフが働きやすい環境づくりに努めていますが、今後はその取り組みと、保育園も含めた、「小児科+耳鼻科+保育園」をセットにした運営の形を、ロールモデルとして、ドミナント戦略で広めていきたいと考えています。 そのノウハウを伝えるためのコミュニティをつくり、ゆくゆくはリモートワークも含めた新たな働き方も模索していきたいと考えています。 ──これから開業を考えている医師にアドバイスをお願いします。 井戸●開業に至った経緯や自分の根底にあるのは何か――。自分の奥底にある信念や理念に沿った経営を念頭に置いたうえで事業展開していかなければ事業は続きません。 そして、売り手よし、買い手よし、世間よしの“三方よし”の精神で事業展開してほしいですし、私も人に喜ばれることを模索しながら事業につなげていきたいと考えています。 <開業ロードマップ> 2005年 開業を決意。大学入学と同時に開業を決意、開業に向けた経営等を勉強 2018年 物件決定。機材選定交渉・融資交渉 2020年1月上旬 機材搬入・セットアップ 2月1日(土) 2日(日) 内覧会開催 2020年2月3日 開業

【解説】公費での事業展開だからこそ 法定研修の実施は欠かせない

【解説】公費での事業展開だからこそ 法定研修の実施は欠かせない

<著者>株式会社ヘルプズ・アンド・カンパニー 代表取締役 西村栄一 介護はこの先20年は間違いなく「伸びる市場」であり、あとは「他社との事業の特色の区別化」「職員数不足を解消」さえできれば、成功の可能性は高いといえます。ただし、伸び行く事業のブレーキ機能として「コンプライアンス」を充分に理解しておく必要もあります。その一つとして、法定研修というサービスごとに実施しなければならない研修があり、介護事業を展開していくうえでは必ず法定研修を行わなければなりません。 通所介護事業での法定研修の場合は、大きく以下の3つに分けることができます。研修には、対策委員会の設置、方針を定めること、定期的な研修開催、実例の検証を行うなどの要件が定められており、それに沿った研修の実行が求められます。 1つ目は、「個人情報保護」です。いわゆる、個人の尊厳の保護やプライバシーの確保等に関わる研修です。 2つ目が「人権に関わる研修」。つまり、認知症や身体拘束、虐待等への対応に関するもので、特に「人権」については法定研修のなかでも重視されており、年に複数回の開催が必須とされています。また、虐待防止に関する研修の場合、すでに一部の介護サービスでは義務となっていますが、2024年までに全サービスで虐待防止のための体制の整備を求めるほか、従業員に対し研修を実施することが求められています。 3つ目は「緊急時対応研修」です。事故発生または再発防止、感染症・食中毒の予防及び蔓延防止、非常災害時の対策に関する研修が含まれます。非常災害時に対応する研修は2024年度までに、全サービスで行うことが義務付けられています。  また法定研修に含まれてはいませんが、月例会議等の利用者ごとのケースカンファレンスにおいて、「介護予防及び要介護度進行予防に関する」話し合いが重要とされています。これは、介護保険法の第一条の二項「悪化防止と介護予防」における事業所の義務と関連しており、介護予防及び要介護度進行予防に関して、事業所としてどのようにケアを考えていくのか学ぶ必要があります。上記の法定研修の3つのほかに、この件についても研修を行うようにしてください。 「業界のことは何もわからないから、すべて専門の職員に任せている」という言葉が、私の知る介護事業所の「失敗」で一番多い事例です。経営者であれば、「任せること」「任せてはいけないこと」の区別もしっかり知っておく必要があります。経営者自らが介護のことをちゃんと勉強したうえで、挑むことを切にお願いします。 研修を実施するうえでは、「実地指導・監査」についても確認しておきましょう。これは、各事業者に対し記録帳票類の記載や、法定研修の実施状況、人員配置基準を満たした運営をしているのか等を行政が確認するための、3〜6年に一回以上行われる定期検査と言えるものです。 この「定期検査」を甘く見てはいけません。経営者曰く、「私たちは記録や帳票類のために介護をしているのではなく、人を見てサービス提供しているんです。優先順位の第1位は人です」という言葉は素晴らしい表現なのですが、実は、これはコンプライアンスから大きく道を外れていく言葉でもあります。記録帳票類を揃えなくてもいいということではありません。ましてや優先順位2位でもありません。絶対1位です。 なぜならば、他業界と介護事業が大きく違うのは売上の占める8〜9割は、ほぼ国や行政からの給付で占められているからです。給付であるということは、法律に沿わなければならないということです。定められた法律は「厳守」しなければならないのです。また。「我々は地域の発展のために、また生活困難者のためにどこにも負けないサービスをやっているんだ。多少のルール違反があったとしてもそれは許してもらえるはずだ」、という道を外れた言葉も残念ながら経営者から聞くこともあります。これも許されることではありません。実地指導や監査によって、巨額な返還や指定停止処分を伴う処分をたくさん見てきましたし、私自身も経験しました。世に言われる「正論」であればあるほど通用しない。それがこの業界なのです。 (取材・掲載年:2022年3月)

【解説】特例措置や融資などの情報入手で事業継続を図る術を探る

【解説】特例措置や融資などの情報入手で事業継続を図る術を探る

<著者>小濱介護経営事務所 代表 小濱 道博 返済期限を迎えますます厳しい状況に 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関連する問題は、全国に大きな影響をもたらしながら3年目を迎えています。介護業界も例外ではなく、感染が拡大してまん延防止等重点措置が適用される期間は、予定されていた実地指導を延期または中止とし、感染者が減少した期間に集中的に1件2時間程度の実地指導を1日に複数事業所で行うことが恒例となっています。オミクロン株は感染力が強く、第五波のピークであった2021年8月の10倍を超える介護関連施設でクラスターが発生しました。また、子どもの通っている保育園などが休園となって自宅に子どもがいるため、出勤できない職員が多発し、勤務シフトが取れない介護施設も急増しました。 国は継続して、多くの救済措置としての多様な特別融資を設けています。しかし、2年前のコロナ施策で特別融資を借りた介護施設は、その返済時期を迎えつつあり、金融機関からの借入枠が一杯であるために追加融資を受けることができず、設備投資などの事業展開に支障が出始めています。また、法人税などについても、延納の特例措置(※1)などを活用し、納税期日を先延ばしするなどの対応を行った介護施設は、その翌年に2年分の納税を強いられ、大きく資金繰りが悪化しました。これは、社会保険料、固定資産税、自動車税など広範囲に活用していた介護施設ほど影響が大きいです。 当時は、ここまで収束に長期間を要するとは誰も考えてはおらず、短期間で収束すると見ていました。それが想定外に長期化し、未だに収束の目処が立たない状況で、多くの介護事業経営者が疲弊しています。 職員の安全を確保できてこそ 介護事業が継続できる 先にも書きましたが、熱がある職員を休ませるなどの対応により、勤務シフトが回らなくなって所定の人員基準を満たすことができない医療機関や施設が急増しています。厚生労働省から人員基準の緩和措置などが出されており、コロナ禍が原因で人員基準を満たせない場合は、人員欠如減算を適用しない特例が継続されています(※2)。しかし、減算が適用されないだけで、人員不足によるサービスの低下は避けられず、少ない人数でサービスの提供を強いられる介護職も過酷な労働環境で頑張っていることを理解しなくてはなりません。 そのようななか、2022年3月現在、介護施設において、3回目のワクチン接種が進められています。厚生労働省からは接種後の体調不良で職員の配置基準が満たせなくても、柔軟な対応、すなわち人員基準減算には問わない旨の通知も出されています。 また、ワクチン接種とは、感染しないことを意味するのではありません。感染しても重症化しないためのものです。他人を感染させるリスクは残るので、ワクチン接種後も感染対策の継続が必要となります。 施設等でクラスターが発生した場合、最大の経営リスクは、職員の多くが濃厚接触者に認定されることにあります。濃厚接触者に認定されると、PCR検査が陰性でも2週間は自宅待機を余儀なくされます。さらに、厨房の調理職員や清掃婦は出勤しなくなるため、その役割も担当しないとなりません。また、職員は自宅に帰らなくなるという事例も報告されています。自らが感染している可能性があるため、自宅に帰った結果、家族に感染させるリスクを恐れてのことです。あるディスカッションで、クラスター医療チームの医師は、一番大切なのが自分たち、次に現場、最後に生存者だと言ったことが心に残りました。いくら徹底した感染対策をしても、クラスターが発生した場合、まずは自分たちを守ることを最重要と考えるべきだと強く言われました。職員が安全を確保できてこその介護であり対策であるわけです。 また、介護職のメンタルケアもとても重要性があります。介護職は、自らが被災者であるとともに、救援者でもあります。二重の立場にいることで感じるストレスも計り知れません。セルフケアの研修を日頃から定期的に行うなどの教育的介入(予防)が重要とされています。 被害を最小限にとどめながら 事業継続する努力がリスク管理 デイサービスなどでは、利用控えにより利用者が減少して、未だに稼働率が戻らない介護事業所も多いです。長引くコロナ禍のなかでの利用控えや自粛によって、介護サービスを使わないという選択があることを、利用者が認識したことも大きいです。収入減のなかで、加算算定の相談が増えてきましたが、簡単なものではありません。介護サービスを提供する職員の一人ひとりが、加算算定の意味と手続きを理解しないと、利用者も納得しないし、良い介護サービスにはならないからです。良い介護サービスを提供できない事業所は、決して伸びてはいきません。ましてや、利用者に加算算定のために機能訓練を押しつけるようなことをやっていけません。 新型コロナウイルスによる高齢者の致死率は高いです。かといって、過剰な対応は必要ありませんが、事業者はリスク管理を徹底することが求められます。リスク管理とは、施設や事業所で感染者を出さないことだけを意味するのではありません。なぜならば、営業を継続する限り、感染者の発生は起こりえることだからです。被害を最小限に留め、感染者を出さない時間をより長くする努力が、リスク管理といえます。 国や行政の指示に従う限り、責任は国が取ってくれます。事業者はしっかりとリスク管理を行ったうえで、地域のライフラインとして可能な限り、従来どおりのサービス提供を継続できる体制を維持することが重要です。新型コロナウイルス問題は、さらに長期化の様相を呈しています。しっかりと情報をキャッチして、その時点でできうる対策を取り、可能な限り事業を継続する覚悟が求められています。そのリスクマネジメントで重要なパーツに、2021年度介護報酬改正で義務化されたものに業務継続計画(BCP)があります。「オミクロン株」での感染が拡大し、保育所、学校を媒体とした家庭内感染が急増するなかで、改めて感染対策BCPの重要性が再認識されています。 ※ ※2 新型コロナウイルスにおける人員基準等の臨時的な取り扱い 小濱道博 こはま・みちひろ●一般社団法人日本介護経営研究協会(NKK)専務理事、一般社団法人介護経営研究会(C-SR)専務理事、介護事業経営研究会(C-MAS)最高顧問。介護事業コンサルティングを幅広く手掛け、全国で年間200件以上の介護事業経営セミナーを行う

【インタビュー】新米院長が本音を語る-開業STORY-皮膚科の保険診療をメーンに 地域住民から信頼される診療所を目指す

【インタビュー】新米院長が本音を語る-開業STORY-皮膚科の保険診療をメーンに 地域住民から信頼される診療所を目指す

<取材先>池上コスモス皮膚科 村田奈緒子院長 目次 01:見出し01 02:見出し02 03:見出し03 04:見出し04 05:見出し05 06:見出し06 07:見出し07 08:見出し08 09:見出し09 10:見出し10 ターゲットであるファミリー層の多い立地を選択 ――開業を考えるようになったきっかけは何ですか。 村田●実は私自身、開業は考えていませんでした。臨床自体は好きでしたが、人材マネジメントなどの経営面に関しては性格的に向いていないと思ったからです。ただ、勤務医として診療所に勤めるなかで、どうしても残業が増えてしまい、家に帰るのは夜9時すぎ。私には4歳の子どももいますので、このまま仕事を続けるかどうか悩んでいました。そんなとき、内科医の夫から、「自分が経営面を担うから開業してみては」と提案されたのです。それならば、ある程度、時間をコントロールできる働き方ができると思い開業を決意しました。 ―― 現在地を選ばれた理由を教えてください。 村田●夫がネットを使って、山手線界隈とその近辺で競合が少ない10カ所の土地をピックアップし、そのなかから実際に2人で訪れて、直感で決めました。決め手となったのは大きく2点です。1つは、駅から3分と好立地な場所で、新築の医療モールだったこと。もう1つは、保育園が多く、ターゲットとなるファミリー層が多かったからです。 実は、当院のある医療モールが建てられる2年前はこの土地に繁盛していた皮膚科がありました。通院していた患者さんはほかの地域に行かざるを得なくなり困っていたそうです。そこに運よく私たちが入れたので、そういった患者さんの受け皿になりたいと考えています。 随所にコロナ対策を盛り込み患者の安心感につなげる ――開業準備で苦労した点は。 村田●やはり新型コロナウイルスの影響で配送関連が滞ったことが痛手でした。土地を決めたのが2月で、ちょうどコロナが流行し始めた時期でしたので、早めに準備を進めていましたが、それでも6月に頼んだプリンターが9月に届く事態となり、苦労しました。 新型コロナ対策として、設計を変えたところもあります。1つは入口の洗面所です。当初は物置場所にしようと考えていたのですが、衛生面を考えて設置を決めました。もう1つは換気システムです。普通のものより機能が優れているものを選んでいます。そのほか、感染対策として、入口にサーモカメラを導入したり、非接触ということで、カード決済、QR決済に対応したキャッシュレスを導入したりしています。 ―― ハード面でのこだわりはありますか。 村田●予約システムは絶対に入れようと開業を決めたときから考えていました。当院ではコストと利便性を考えてリクルート社の「Airウエイト」を導入しています。これは、番号札をスマホで読み込むと外から順番待ちがわかるシステムで、待合室が混雑しているときは外出が可能です。新型コロナ対策としても期待できます。 ―― スタッフはどのようにして集めましたか。 村田●求人サイトで募集し、面接もオンラインで行いました。現在のスタッフ数は、受付2人、事務1人、看護師1人、の4人です。 ――スタート時の集患は。 村田●チラシを配るくらいで、特別なことはしていません。新型コロナもありましたから内覧会も行いませんでしたが、開業初日に63人の患者が来院したのです。これは嬉しい誤算でした。ただ、私もスタッフも業務に慣れておらず、患者さん全員が初診ですので、かなり時間がかかってしまいました。その後も患者さんはコンスタントに来ていただいています。 今後はHPを充実させていきたいと考えています。 ―― 今後の目標を教えてください。 村田●近隣に皮膚科がないことから、患者さんから「この地域に皮膚科ができてよかった」との声をいただいています。それが本当にうれしいです。「池上だったらコスモス皮膚科がいい」と言ってもらうのが今後の目標です。 村田院長に聞きました 開業Q&A Q1:業者の選定は? 融資などの交渉はコンサルタントに頼みました。機器や建築関連は私と夫で副院長の村田諭孝夫と行い、ネットワーク環境の整備は業者を通さず夫がすべて行いました。 Q2:最も高額な設備は? 炭酸ガスレーザーと、最新の紫外線治療機器です。2つ合わせておよそ500 万円です。 Q3:開業初日の患者数は? 63人です。特別な集患を行わなかったのに、これだけの人が集まったのは嬉しい想定外でした。それだけニーズが高かったのだと思います。 <開業ロードマップ> 2019年9月 開業を決意し、コンサルタント決定 2020年2月 土地決定 2020年9月1日 開業 (取材年月:2020年2月)

【ケーススタディ】40年来の老舗診療所を引き継ぎ 良いものは残したリノベーションを図る

【ケーススタディ】40年来の老舗診療所を引き継ぎ 良いものは残したリノベーションを図る

<取材先>福岡県那珂川市 医療法人水ノ江医院 目次 01:長年の強みは残しつつ新サービスで付加価値を示す 02:小児科のニーズを見込み人員と設備の体制を強化 03:血液内科や緩和ケアで患者と大病院のハブとなる 長年の強みは残しつつ新サービスで付加価値を示す 福岡市南部に隣接する那珂川市は、都心へのアクセスのよさから人口が増加し、2018年10月に旧那珂川町から単独で市に移行した地域です。 そんなエリアで1979年から40年近く、内科、小児科、皮膚科のかかりつけ医として親しまれてきたのが、医療法人水ノ江医院。2017年、水ノ江昭英前院長の病気をきっかけに一時休診したものの、遠縁の大德真也院長が継承し、19年4月より診療を再開しています。 大德院長は、「当院を受け継ぐにあたり、40年の歴史は大きな強みだと考えました。老舗診療所の安心感に、新しい治療やサービスを提供することで付加価値を創出しようと考えたのです」と話します。 その言葉どおり、再開にあたっては、院内の全面改装により新しく明るい雰囲気にリニューアルした一方、同院のシンボルだった赤レンガ造りの外観はそのまま残し、新しい診療所のロゴマークにも、この外観のイラストを起用しています。さらに、新設したホームページでは、トップ画面に同院の沿革を読み物風に掲載したうえで、再開後の新規コンセプトを提示するなど工夫を凝らされています。このように、レトロな雰囲気のなかに新しさを感じてもらえるように、大德院長自らフォントや色づかいなどのデザインにもこだわっているそうです。 診療体制に関しては、最新のガイドラインに準拠し、エビデンスに基づいた治療の提供を掲げ、ホームページなどでもしっかり周知。そして、患者の利便性を追求するため、WEB予約システムの導入や、待合スペースに設置したモニターによる待ち時間の見える化など、IoTによる患者サービスの整備も進めています。 小児科のニーズを見込み人員と設備の体制を強化 さらに、リニューアルにあたり特に強化を図った診療科目が、小児科です。この地域では以前から小児科が不足しており、20年2月時点でも市内の小児科は同院を含め3カ所と少ない。同院についても、前院長の時代に医師会からの要望を受けて小児科の標榜を開始したという経緯があります。 そこで大德院長は、「小児科の需要はかなりあると予想できました。だからこそ、小児科専門ではない私が片手間で診れるものではないと判断し、小児科の専門医を副院長として招へいして、小児科の診療体制を強化しました」と話します。 院内設備も、ベビーカーで来院しやすいスロープや子ども用トイレ、授乳室などを設置。さらに、通常の待合スペースとは別に、「小児科待合室」を設けています。基本的に院内は土足制ですが、「小児科待合室」は安心して遊べるように靴を脱いで入る形式で、遊具や絵本を揃え、プロジェクターでアニメーションを流すなど、随所に子どもが楽しめる工夫が凝らされています。 また、子育て世代をターゲットにLINEの公式アカウントを開設。診療時間の変更などの事務連絡のほか、県の情報をもとにした感染症の流行情報と注意喚起などを配信しています。また、個別のトーク機能で患者から医師へ直接相談も可能。利用者からは好評で、アカウント開設から約5カ月、登録者は270人以上に上るそうです。 これらの工夫が功を奏し、小児科患者の8割が診療再開以降の新患です。 血液内科や緩和ケアで患者と大病院のハブとなる リニューアルから半年、診療所全体の1日当たりの平均外来患者は70〜90人に上ります。小児科以外では、風邪、皮膚疾患などの急性疾患や生活習慣病の継続受診の患者が中心ですが、同院の理念である「子どもから大人、お年寄りまで、健康な方からがん患者さんまで、皆さまに確かな医療を提供します」を実現するため、今後は大德院長の専門である血液内科と緩和ケア内科も強化していく方針です。 大德院長は、「市外も含め周辺に血液内科を診られる医療機関は総合病院以外にないため、外来で対応できる病状の安定した患者さんを地域で診ることができれば、患者さんと大病院、双方の負担軽減につながります。そんな可能性を見据えて、院内で血液検査ができる体制も整備しました。同様に、勤務医時代に診ていたがんや緩和ケアについても、顔なじみの医師に呼びかけながら、徐々に対応できるケースを増やしていきたいです」と展望を語りました。 制作・監修:㈱日本医療企画 (取材・掲載年:2020年2月)

【解説】地域へのPRは投資額より、こまめな発信・かかわりが大事

【解説】地域へのPRは投資額より、こまめな発信・かかわりが大事

<著者> 株式会社M&D医業経営研究所 代表取締役 木村 泰久 認定登録医業経営コンサルタント 新規患者の獲得、継続患者のつなぎ止めは歯科医院に限らず重要ですが、とりわけ歯科診療の場合、競争も激しいだけに常に地域や患者のあいだでの「認知度」に気を配る必要があります。そこでのポイントは「投資額」より「工夫」が決め手のようです。 目次 01:野立て看板による情報発信 02:待合室の掲示板での情報発信 03:院内報の発行 04:メルマガやブログ、ツイッターなどによる情報発信 05:院内セミナーやイベントの開催 06:院外セミナーの開催 07:お祭りなどへの協賛や参加 貴医院では、地域に向けて何らかの情報発信を行っているでしょうか。近所に突然新しい歯科医院が開業したり、古い歯科医院がリニューアルしたり、競合条件は常に変化しています。 常に選ばれるだけの魅力がなければ、新患の獲得はおろか、継続患者の来院も期待できません。地域への情報発信によって認知度を上げ、選んでもらえる可能性を高くする必要があるのです。 効果的な情報発信ができれば、他の医院より認知度を高めることができ、来院患者数の増加が期待できます。弊社のクライアント歯科医院で実施している種類と実例をご紹介しましょう。 1)野立て看板による情報発信 コンビニの駐車場など目立つ場所に大型の野立て看板を設置し、外科的侵襲のあるインプラントをあえて行わないことを伝えている歯科医院があります。自医院の主張を発信することで、賛同する患者さんが来院する可能性が高くなります。 2)待合室の掲示板での情報発信  院内に、地域の皆さまに解放する掲示板を設置して、地域の方々が自由に音楽会や展示会、運動会などの地域イベントの案内を掲示できるスペースを作っている医院があります。 3)院内報の発行 院内報を毎月発行して、歯科に関する話題、歯科のマメ知識、院内ニュースなどを掲載し、地域の高齢者施設に持参している医院があります。 4)メルマガやブログ、ツイッターなどによる情報発信 メールマガジンやブログ、Instagramなどを通じて、新しい医師やスタッフの紹介、院内イベントの案内、などのニュースを伝えています。 5)院内セミナーやイベントの開催 多くの歯科医院で、インプラントセミナー、矯正セミナーを開催したり、歯と口の健康週間や、クリスマスなどに、子どもの絵の展示会などのイベントを定期的に開催したりしています。 6)院外セミナーの開催 公民館などで高齢者の口腔管理を講演したり、保育士と歯科衛生士が地域の保育園で歯みがき教室を開催したりしています。 7)お祭りなどへの協賛や参加 地域のお祭りやイベントに、スタッフと一緒にお手伝いしたり、踊りチームを結成して参加したりといった地域の催しものに積極的にかかわっています。 地域への情報発信は決して難しいものではありません。口腔内の健康管理や、むし歯・歯周病の予防、口腔疾患と全身疾患の関係など、歯科医師や歯科スタッフには当たり前の内容でも、地域の一般の人々には未知で、知りたいと思っている情報がたくさんあるのです。 認知度の向上対策にはあまりお金はかかりません。しかし、継続することで大きな効果が得られるのです。ぜひ工夫してみましょう。 監修:㈱日本医療企画 制作年月:2022年3月

【インタビュー】感染症対策へフォーカスしたクリニックづくり

【インタビュー】感染症対策へフォーカスしたクリニックづくり

<取材先>山城 大 アルプスこどもクリニック院長 2015年5月に山梨県南アルプス市で開業した、アルプスこどもクリニック。開業準備段階から、小児患者の院内での感染リスクを問題視していた山城大院長が凝らした、「ドライブスルー受付」をはじめとする入念な感染対策は、昨今のコロナ禍でも安心・安全の診療体制につながっています。 目次 01:ドライブスルー外来で他の患者との接触をゼロに 02:勤務医時代からの危機意識がコロナ禍で効果を発揮 ドライブスルー外来で他の患者との接触をゼロに ―― 貴院では2015年の開業時点から、感染対策を目的とした「ドライブスルー受付」や、院内の動線設計などの仕組みを導入されていました。こちらの具体的な流れについて教えてください。 山城 「ドライブスルー外来」は名前のとおり、患者さんがドライブスルーで受付し、順番呼び出しがあるまで車でお待ちいただくという仕組みです。開業当初は呼び出し用として患者さんにPHSをお渡ししていましたが、今は感染予防の観点から、患者さんの携帯電話やスマートフォンに直接連絡しています。 呼び出された患者さんは、診療所に2カ所ある出入口の一方から入り、5つの診察室のうち指示された診察室に入って診察を待ちます。あとは、私が順番に診察室を回って診察し、診察室内で会計や処方せんの受け渡しも済ませ、入った際と同じ出入口から帰ってもらう流れです。2つの出入口から交互に案内するので、診察前後で患者さん同士が院内ですれ違うことはありません。 ―― 他の病院や診療所にはあまりない体制ですが、開業当初、スタッフの反応やオペレーションへの適応などはいかがでしたか。 山城 立ち上げ時は、基本的に事務スタッフが院内受付とドライブスルー受付の両方に対応する形だったので慣れは必要でした。ただ、事前説明やシミュレーションを行ったうえで開業したので、実際の運用でスタッフが困惑するようなことはあまりなかったと記憶しています。あとは、ドライブスルーでも簡単に受付ができるように、診察券をバーコード読み取り式にするなどの下準備や工夫もしてありましたので、特に問題なく現在まで運用しています。 勤務医時代からの危機意識がコロナ禍で効果を発揮 ―― そもそも、どういった経緯でドライブスルーを導入されたのですか。 山城 勤務医時代から院内での感染リスクに強い問題意識があったからです。病院では感染症の小児患者さんもそうではない小児患者さんも同じ待合室で待っているのは珍しくなく、いつ感染してもおかしくありません。それではお子さんを連れてくるご両親も安心できないので、開業にあたっては感染症患者さんと一般患者さんをなるべく分けられる体制を整備したいと思っていたのです。 その際に思いついたのが、ドライブスルーでした。実は最初は、円形の建物の外壁沿いに複数の診察室を設け、ドライブスルーで受付後そのまま車で指定の診察室前に乗りつけ、診察もその後の会計処理もドライブスルーで――という構想がありました。しかし、混雑時の対応が難しいことや、敷地内の車線など設計上の課題も多く、ドライブスルーで受付し院内動線で分離する現在の設計で落ち着きました。 正直なところ、設備投資は多額でしたし、私の家族からも「本当に必要なのか」と言われましたが、やはり当院にとって感染予防は大きな柱でしたし、昨今のコロナ禍にも非常に功を奏しました。 ――新型コロナウイルス感染症の流行下で、どのように功を奏したのでしょうか。 山城 当院も初回の緊急事態宣言直後などは、例年の半分以下まで患者さんが減少するなどの影響がありました。また、流行初期に全国一斉休校が報じられた時点で、「これは普段どおりの診療ではダメだ。待合室に患者さんを待たせてはいけない」と強く思い、思い切って外来受付を「ドライブスルー受付」に一本化する判断を下しました。 コロナ禍前の使用率は3割ほどで、一本化してしばらくは“不要不急”の医療控えもあり患者さんが減少したままでしたが、徐々に「他の患者さんと接触しない」といったメリットが広がっていったのか少しずつ利用される方が増えていき、現在は当たり前に使っていただいています。 ――最後に、これからの貴院のビジョンについて教えてください。 山城 今は「ドライブスルー受付」に一本化していますが、院内の待合スペースについても、お子さんが楽しく安全に過ごせるようにいろいろと工夫しています。そのため、完全にコロナ禍が収束したら、徐々に院内での待ち時間対応も再開できればと考えています。 ただ、患者さん側の意識がコロナ禍前とはもう変わっているとも感じています。当院に限らず、以前のように診療所の中で診察まで待ちたいというニーズがどれだけあるのか。特に、現在の当院に来てくださっている患者さんは、「院内感染の心配がなく受診できる」ことに価値を見出してくださっている方が多いと思うので、感染状況と患者さんの動向を見ながら、どんな体制が患者さんにとって一番良いのか、考えていきたいです。 ――ありがとうございました。 制作:㈱日本医療企画 取材年月:2021年12月 (撮影:武部努龍)

【インタビュー】スタッフも患者も喜ぶ医療施設の空間演出ツール

【インタビュー】スタッフも患者も喜ぶ医療施設の空間演出ツール

<取材先>株式会社アクア・アート 従来、医療施設の設計では「華美に走らず清潔な空間」が求められ、そのコンセプトに沿って画一的にデザインされていました。しかし、現在は、物理的な診療機能だけでなく、患者様の緊張を和らげ、心が落ち着くような空間を提供することが求められています。それにより、医療施設のプランニングは、設備やサービスの充実と共に、施設利用者の「快適さ」の実現が重要です。『アクア・アート』はアクアリウム内の生き物たちが創り出す、美しい自然の景観で「快適で癒しのある空間」を提供します。 目次 01:「アクア・アート」は患者、従業員とのコミュニケーションを促進する 02:医療・介護施設での利用率が高い 03:「アクア・アート」の特徴 「アクア・アート」は患者、従業員とのコミュニケーションを促進する ーー医療施設における「アクア・アート」の設置効果はどのようなことがありますか? 医療施設における設置効果は、まずは「リラクセーション」が挙げられます。生きた水草をふんだんに使用したアクアリウムは、観葉植物と同様にグリーンアメニティとしての効果が高く、設置空間の緊張感をやわらげます。視界に植物が入る事を緑視効果といい、緑がない空間に比して、緑のある空間にくつろぎを感じます。これは患者への効果はもちろん、働く職員の為にも重要なポイントです。 また「アクア・アート」は観葉植物と違い、土壌が露出することがなく、衛生面の懸念がないのもメリットです。そのほか、患者様の待ち時間に鑑賞いただくツールとしても有効です。 「アクア・アート」は生き物たちが織り成す、ライブディスプレーであり常に変化し、見ていて飽きません。待つのが苦手な子供たちも時間を忘れて、親子で見入っています。 また「コミュニケーション」の効果も職員の方からは、高く評価されています。職員と患者様の会話の起点になる事はもちろん、職員間のコミュニケーション促進にも繋がっています。 些細な雑談や会話こそがコミュニケーションには重要で、働きやすい職場は、離職率を下げ、パフォーマンスを向上させます。労働人口が大幅に減少していくなかでも、優秀な職員を確保し続けるためには、職員が働きやすい環境は不可欠です。 医療・介護施設での利用率が高い ーー医療施設での「アクア・アート」の利用状況について教えてください。  当社でサービスを提供中のお客様のうち、約40%が医療・介護施設でのご利用です。医療施設でのご利用は、クリニックから大規模病院まで幅広くご利用をがあります。クリニックでは特に診療科目の偏りもありません。 小児科などに偏向するイメージがありますが、内科、皮膚科、整形外科、心療内科など多岐にわたります。設置ロケーションの多くは待合スペースです。来院された患者がいかに快適に待合スペースで時間をすごすことができるかは、クリニック、大規模病院にかかわらず、施設の印象を分ける重要なファクターであり、「アクア・アート」は効果的な空間演出ツールとしてご好評をいただいています。 「アクア・アート」の特徴 ーーオリジナル商品の「アクア・アート」の特徴について教えてください。           「アクア・アート」は、本物の水草や砂利、熱帯魚を使用した、当社オリジナルのインテリア水槽です。 特色は自然界の生態系を水槽で再現する「バランスド・アクアリウム」です。これは植物を含む生き物たちの食物連鎖を創り出すことで、水槽内環境の劣化を抑え、長く美しいまま景観を維持することができるシステムです。 また、水槽自体がひとつの「生態系」であり、同じ水槽はありません。水槽内の生き物たち、置かれている場所の温度、光量、水質などによって全てが違う個性を持ちます。 当社は「生き物と過ごす豊かな時間」をモットーに、手軽に楽しめるインテリアを提供するために創業しました。首都圏を中心に、サービス展開し、3,500台以上の納入実績があります。 制作:株式会社アクア・アート 取材年月:2022年3月

【インタビュー】社会的価値と経済的価値 両方を生み出すことが経営には必要

【インタビュー】社会的価値と経済的価値 両方を生み出すことが経営には必要

<取材先> 株式会社メディカル・エージェンシー・ジャパン(サニーウインググループ) 代表取締役 皆川 敬 経済的な価値だけではなく、社会的な価値を同時に生み出すことが、経営者には必須と語る、株式会社メディカル・エージェンシー・ジャパン(サニーウインググループ)の皆川敬代表取締役に話をうかがいました。 地域から必要とされなければ事業はうまくいかない ――介護事業における経営とはどういうものだとお考えですか。  介護事業は公的な財源が入る事業ですので、我々のサービスが地域の資源になり社会貢献を生み出すようなものでないといけないと思っています。そして、事業をしていくうえでは、事業活動を通じて社会的な課題を解決するという社会的価値と、利益を生み出す経済的価値を共に両立させる必要があります。  具体的に言うと、地域社会の高齢者のニーズに応えるサービスを提供して、サービス自体が社会の価値になり、社会的価値を生み出す対価として売り上げや利益といった経済的価値が我々に戻ってくるという仕組みをつくりあげていくことです。  当社のように地方都市で事業展開をしている場合、介護事業所が一つあると、そこで働く人が地域に住み、地域社会を構成していきます。会社の存在が、地域社会存続にもかかるという意識は、重要でしょう。 ――社会的価値と経済的価値の両立を意識したきっかけは何ですか。  そもそも、事業は何のためにやるのかと言ったら、誰かのためになりたいと思ってやるわけです。たとえば団子屋さんでも花屋さんでも同じです。そこを忘れて、自分たちの経済的価値だけを求めると、社会のニーズと乖離します。  これには、当社の苦い経験があります。6年ほど前、本社の近くにサービス付き高齢者向け住宅を建てようとしたところ、近隣住民の一部から強く反対されました。当社としては利用者の確保の見込みもあり、事業としての収益も出ると考えての計画でした。しかし、反対されたことで、地域社会からサ高住は求められていなかったのかもしれないと理解し、開設は断念しました。自社の利益だけを考えてはいけない、ということを痛感した出来事でした。  その後、地域のニーズを拾っていった結果、ご用聞きサービスや移動販売といった介護保険外の事業を始めることになりました。もともとこれらは、当社の住宅型有料老人ホームの中で提供していたサービスです。地域住民からも不用品の処理に悩んでいたり、スーパーが遠いといった相談が出たことから、地域での提供につながりました。地域からも広く受け入れていただいています。  この経験から、地域社会と密接な関係性を築き、持ちつ持たれつの存在になって信用されてこそ、我々のサービスが社会的価値をもつのだと理解しました。介護事業者だからといって介護サービスを提供するだけでなく、介護保険制度からこぼれてしまうニーズにもきめ細かく応えていき、私たちが地域の高齢者のセーフティネットになろうと思いました。 事業内容を広げ、職員のモチベーションにつなげる ――自社の事業展開をどのように描いていらっしゃいますか。  利用者がどんな状態になっても、住み慣れた街で生活し続けられるようなサービスをワンストップで提供する、ということです。一言で言うと、“高齢者のお困りごと解決ワンストップサービス”。我々が提供するサービスのひとつに有料老人ホームがあり、デイサービスがあり、訪問介護・看護がありますが、介護保険制度の内か外か関係なく、何か困りごとがあったら、サニーウイングに連絡すればすべて解決、というサービスをめざしています。  つまり、高齢者の困りごと解決ワンストップ市場という、新たな市場をつくり出したと考えているのです。中小の事業者は、ニッチな市場で事業展開しなければ、生き残りは難しい。ですから、自ら市場をつくりあげていくぐらいの気構えが必要でしょう。ただし、当社がカバーできる範囲は限られていますので、新潟市の中央区・西区を中心に限定して、集中的に事業展開しています。 ――介護保険外のサービスとはどんなものですか。  要介護認定者であっても、介護保険制度内のサービスでは解決しない困りごとがたくさんあります。たとえば、訪問介護サービスに入ろうとした家がゴミ屋敷だったら、社内のご用聞きサービス部門の「ひなた相談所」が対応をしてゴミの片づけをします。エアコンが壊れたから直してほしいと言われたら、直します。自転車のタイヤがパンクして困っていると聞けば、修理します。高齢者の生活の困りごとをなんでも解決できるようにするために、ヤマダ電機など家電量販店などとも提携して、サービス体制を整えているのです。高齢者の利便性を考えると、ワンストップで困りごとが解決したほうが皆様に喜ばれます。  さらに、ヘルパーやサービス提供責任者も、介護保険では対応できない困りごとに対して積極的に関与するようになってきています。それまでは、利用者に相談されても、「介護保険ではできないから……」と対応しないでいたことが、「ご用聞きサービスに確認しますね」と返すことができるようになる。利用者も悩みが解消されるので満足しますし、職員も利用者の悩み解決を支援でき、やりがいを感じられる。  新しい事業を行うことで、業務の幅も広がりますし、職員のモチベーション向上にもつなげることができるのです。 ――介護における経営、社会的価値と経済的価値の両立といったことを職員にどう伝えていますか。  なかなか職員全員に経営の重要性などを直接伝えることは難しいことですね。個別に、コーチングというかたちで一部の人には少しずつ対話し、効果も出てきています。私がコーチングした人たちが、次の人をコーチングするようなかたちにしていきたいです。  経営については全員に深いところまでの理解を求めるのは無理があります。ただ、どういう目的でやっているのか話をすると、目の前が開けたような反応をする人は多くいます。介護保険制度に縛られることなく、利用者のニーズに応えるための方法を考えて、つなげればいいんだとわかったとき、そしてそれを実践して解決したときに、一気に成長する職員の姿を見るのは楽しいものです。

【インタビュー】顧客の設定を明確にしたサービスを追及 差別化戦略で生き残る

【インタビュー】顧客の設定を明確にしたサービスを追及 差別化戦略で生き残る

<取材先> 株式会社維新ネット 代表取締役 川島 修 社員第一主義を会社の社是とし、そのための介護サービスを提供している株式会社維新ネットの川島修代表取締役。その戦略のもとにある、経営の考え方をうかがった。 共働きの女性が顧客 そこからサービスを考える ――介護事業における経営について、どのようにお考えですか。  介護だからといって特別に考えるわけでなく、どんな事業にも経営の視点は必要だと考えています。そして、経営とは事業継続の方法を考えることです。労働人口も減り、人材獲得が困難な状況下にあって、社員に適切な給与を出せなければ社員は去り、事業継続が難しくなります。それを防ぐには、適切な給与を出せるように利益を出し、待遇を上げ、社員が定着したくなる環境を築いていく。それを繰り返していくことで、事業が継続されていきます。 ――事業継続を図るうえで必要なことは、どのようなことでしょうか。  自社は誰・何のために存在しているのか、目的を明確にすることでしょうか。当社では働く女性を支援して介護離職から守ること、志を共有する従業員を最も大切にする会社であることをめざしています。介護離職が防げれば、国の課題である人材不足に歯止めをかけられます。そうすれば、消費増加、税収増加にも貢献できると思うのです。  そのうえで、私は「未来の自社はこうありたい」というビジョンを定めています。たとえば、2042年を見据えると、高齢者人口は増え、財源が限られるので介護給付費は増えず、一人当たり介護費平均は今よりも下がることが予想されます。実際、2014年以降、高齢者人口一人当たりの介護費平均は右肩下がりです。しかし、内訳を見ると介護費予算が上がっている分野もあり、国の方向性が見えます。当社ではその方向性を踏まえて利益を出し、従業員の年収を2025年までにいくらにするというビジョンを設定しています。そして、毎年平均3%の年収アップについては達成できています。 ――働く女性を顧客ターゲットにしているのはなぜですか。  働く女性、さらに言えば共働きの女性をターゲットとしています。ふつうは利用者を顧客と考えがちですが、それでは差別化になりません。極端な話ですが、「アットホームな雰囲気で家族同様にお世話します」では、みんなと同じ土俵での競争に巻き込まれることになります。そこで、利用者ではなくその先にいる家族に目を向けたのです。  共働きの女性はとにかく忙しく、時間がありません。子どもを保育園に預けるように、要介護者を預けないと仕事を続けられません。仕事を続けたい女性をサポートするために、介護サービスを提供する、という風に自社の事業を定義しました。  そうすると、デイサービスの後、延長保育のような感じでナイトサービスといった発想も生まれます。夜も送迎しますし、泊りもできます。だから残業があっても、安心して仕事をしてください、と言える。そうなると、「仕事をしながらも親の面倒を見やすいデイサービス」として、顧客に訴求できるわけです。 サービスの差別化とともに理念に共感する社員を獲得 ――利用者を顧客としない、というのは大胆な考えですね。  顧客を利用者本人と定義した場合、本人が「デイサービスに行きたくない」と言えば、顧客の意向に反することはできないので、それで終わってしまいます。事業とは顧客の要望を満たすことですから、それが正解になってしまうのです。  一方で、当社の顧客は共働き女性。彼女たちの仕事に支障が出ないように預かることが当社がやるべきことであり、利用者が行きたくないと言ったとしても、いかに通所してもらうかを考えることが仕事になります。そうすることが顧客である働く女性の要望を満たし、理念である介護離職から守ることにつながるからです。  そして、ここが重要な点ですが、結果として、「利用者本人が喜んで通いたいデイサービスをつくらないといけない、そうしないと理念が実現できない」と職員が考え始めることにつながっていくのです。 ――顧客の定義が変わると、戦略が変わり、ほかの介護事業者との差別化になるのですね。  困っている人がいて、ニーズはある。だけど、それに応えるサービスが見当たらない。ならばそれを開発して提供すれば、そこに価値が生まれ、お客さんに喜んでもらえる。その違いが差別化であり、その違いをかたちにしてつなげることが戦略であり、戦略を通じて理念を実現することが私の考える経営です。 ――このような思いを、社員に浸透させるために何を行っていますか。  一番は2018年に私の妻が奈良に就職し、それに伴い、奈良に移住したことかなと(笑)。当時子どもが0歳、2歳、4歳でした。この状況で一番身近な働く女性である妻を支援できないのであれば、事業理念が嘘になってしまう。事業理念と個人の理念が一致していないとそれは本物ではない、と。職員も社長の理念は本気だと応援してくれ、2018年からリモートワーク経営を実践しています。今ではこれを経営理念の一番の宣伝として使っています(笑)。  経営理念に共感し、理念を実現するための仕事をする組織でなければ、この思いは達成されません。そのために必要なことは、採用であると考えています。理念に共感する、してくれそうな人を選ぶことが重要。そこで、多くの媒体で理念を発信し、それに共感してくれた人だけが集まる仕組みにしています。  たとえば、当社ではパート職員の昇給賞与査定も年3回行っています。また、毎月社員の残業時間をチェックし、無理がないように毎月シフトを組み替えています。その結果、定着率が改善し、採用コストも下がりましたし、パート職員の社員への希望率も上がりました。先日もパート職員の娘さんが病気になり毎日の看病が必要になった。それでも会社が好きだから時短で働き続けたいと言ってくれました。社員自身が「会社に大事にされている」と実感できる環境を整えれば、必ず利用者のことも大事にしてくれます。結果として、顧客や利用者の満足度が上がり、稼働率が上がります。  だから、社員を大切にするというのは、経営理念としてとても合理的なんです。 PH1 日帰り旅行と夕食が売りの、デイサービス「みちなかの里 南大泉店」の様子 川島 修 株式会社維新ネット 代表取締役 1975年生まれ。25歳で弁護士を目指し 一次試験に合格するも論文試験前に髄膜炎を発症、高熱が2カ月続く。回復後、物事に対するこだわりを捨て上京し就職、29歳で維新ネットを設立。2010年34歳で介護事業に参入。2018年妻の転職に伴い、「働く女性支援」を家庭でも実践すべく家族で奈良へ移住。東京と奈良を行き来しながらの経営を実践中 株式会社維新ネット 東京都練馬区南大泉5-2-10 大泉クラフトハウス2F 03-5926-3465 i-shin.net/ 

【ケーススタディ】スタッフの離職率の高さをコーチング指導を通じたチームづくりで解決

【ケーススタディ】スタッフの離職率の高さをコーチング指導を通じたチームづくりで解決

<取材先>医療法人社団三世会鳩ケ谷クリニック(埼玉県川口市) 高山健彦院長 実際に診療所では、どんなスタッフトラブルが起こり、どう対処しているのでしょうか。各地の診療所にこれまで体験したトラブルとその対応法や、未然に防ぐための予防策について聞きました。 目次 01:主任看護師とそりが合わず新たな看護師が定着しない 02:コーチングを導入しチームづくりを目指す 03:新たな人材にもコーチングスキルを浸透 主任看護師とそりが合わず新たな看護師が定着しない 埼玉県川口市で2008年に開業した医療法人社団三世会鳩ケ谷クリニックは、「患者様とご家族の意向に100%添う」を理念に掲げ、主に介護付き有料老人ホームなどを中心に訪問診療を行っている在宅診療所です。 開業当初、医師は高山健彦院長1人、看護師1人、医療事務1人、総務・営業担当1人の体制でスタートしました。その後、看護師を新たに1人増員して2人体制になり、「看護師の教育は同じ看護師に」という高山院長の方針で、新人看護師の教育は当初からいる主任看護師が基本的に担うこととなりました。 しかし、問題はここからでした。主任看護師と新人看護師の間で業務や申し送りのやり方などで齟齬が出る、主任看護師が仕事を抱え込んでしまうなど、関係構築がうまくいかず、新人看護師が早々に退職しました。その後も新たな看護師を採用するものの、そりが合わず、半年~1年たたずの離職が相次ぎ、2人目の看護師がなかなか定着しない状況が続きました。 「私が看護師の教育にタッチしていなかったのと、主任看護師のスキルが高かったため、むしろ新人がそれに合わせられないこと、新人の技量に問題があると思っていました」と、高山院長は振り返ります。 コーチングを導入しチームづくりを目指す しかし、スタッフが定着しないままでは採用コストもかさみ、主任看護師の業務負荷も増える一方でした。そこで、試行錯誤の末に高山院長が18年に導入したのが、コーチングを使った目標達成に向けて一丸となって行動できるチームづくりです。 「数々の医療機関の人材育成やチームビルディングに携わってこられた、知り合いの人事コンサルタントに講師をお願いしたのです」(高山院長) 具体的には、半年間にわたって月1回、診療終了後にコーチングの院内勉強会を開催しました。高山院長を含む全スタッフが参加し、働くうえで役立つ具体的なスキルや、人間関係を深めるための実践的な考え方などを学んでいったのです。 この勉強会を通じて、自分と他のスタッフそれぞれの院内での役割や立ち位置、同院で求められる医療のあり方などへの相互理解を深めました。それにより、お互いの考え方や経験の違い、得意・不得意などが洗い出され、明確な意思表示や話し合いの大切さを実感していきました。 業務でもその成果は徐々に現れました。たとえば、主任看護師と新人看護師の場合、従来は高山院長が指示した一つの処置に対してもそれぞれが良いと思うやり方が異なったため齟齬が生じ、業務効率の低下や看護師同士の不和につながっていました。 しかし、コーチングを通じて、お互いが具体的に意思表示をするようになり、やり方や方向性をすり合わせながら仕事を進められるようになりました。それでうまくいけば、うまくいった要素を看護師たち自ら振り返ることで、その後の行動も変わっていったといいます。 こうしてコーチングの指導を半年間受けた結果、院内の雰囲気は大きく変わりました。スタッフ同士がきちんと自分の考えを相手に伝えられるようになり、それらを踏まえたうえで、どうすればチームとしてより効率的に仕事ができるようになるのか皆で話し合うようになりました。これにより問題となっていた看護師同士の関係構築も好転し、離職率は大幅に減少したのです。 また、コーチング導入以前は看護師が定着しなかったこともあり、当時のスタッフに業務負荷が集中し残業時間が長く、有給取得率も低い状態でした。しかし、導入後はスタッフ全員で効率的な働き方を考えながら動き、1人で仕事を抱え込まずうまく分担できるようになったため、残業時間は減少し有給取得率も向上しました。労働環境の改善につながったといいます。 院内の業務効率が上がったことで、診療の質も向上し、地域からの評判も上がりました。コーチング導入時に、チームづくりのための具体目標として掲げていた「在宅患者500人」も無事達成し、さらに患者数を伸ばしつつあるといいます。また、こうして培ったコーチングスキルの成果を見せる場として、19年2月にはコーチング大会にも全スタッフで参加しました。自身の取り組みを発表し、自信を深めました。 新たな人材にもコーチングスキルを浸透 現在、同院は新たに常勤医も加わり、医師2人と看護師3人、医療事務2人、医療クラーク1人、総務・営業担当2人――と、大幅な人員拡充を果たしています。新たなスタッフの入職とともに再び奥山講師の指導のもとコーチングを学んでいるといいます。 今後の抱負を高山院長は、「今後はさらに、分院展開も視野に入れてさらに人員の拡充と教育に取り組んでいきたいと考えています。そのためにも、当院のチームづくりの核となりつつあるコーチングを通じて、引き続きスタッフの相互理解を深めていきたいと思います」と語りました。 医療法人社団三世会のスタッフトラブル対策のポイント! ①外部講師のもとコーチングのスキルを全スタッフに徹底指導 ②具体的な目標に向けて、スタッフの相互理解を深め、効率的な働き方を実践 ③新スタッフにもコーチング指導を継続し、院内のチームづくりの核とする 監修:㈱日本医療企画 (取材年月:2021年2月)

【解説】情報発信から顧客管理まで! 「LINE」で実現できる集患戦略Q&A

【解説】情報発信から顧客管理まで! 「LINE」で実現できる集患戦略Q&A

<取材先>松浦法子 ArtsWeb株式会社 代表取締役 目次 01:FacebookやTwitterなど、ほかのSNSにはない、マーケティングにおける「LINE 」の強みは何ですか? 02:診療所のような小規模法人が、集患・リピーター戦略に「LINE」を活用するには、具体的にどのような運用が推奨されますか? 03:まだ「友だち」ではない、新患になり得るターゲット層へのマーケティングはどうすれば良いですか? Q1.FacebookやTwitterなど、ほかのSNSにはない、マーケティングにおける「LINE 」の強みは何ですか? A.確実にターゲットへ情報を届ける「伝達力」が強み Facebookなどは、システム側で交流の多いユーザーを自動的に選択して投稿を表示する機能があるため、たとえば、1000人のフォロワーがいても、実際に投稿が表示されているのは仲の良い1割程度の可能性が高いです。 それに対し、「LINE」は、「友だち」1000人に「LINE公式アカウント」からメッセージを送れば、全員へ確実に届きます。また、利用者の母数が多いことも強みで、「LINE」を使っていない人はいないと言えるでしょう。 「不特定多数のユーザーに対し情報を広く拡散する」という点では、FacebookやTwitterも同様に強力ですが、「確実に情報を伝達する」という点では、「LINE」に軍配が上がります。 Q2.診療所のような小規模法人が、集患・リピーター戦略に「LINE」を活用するには、具体的にどのような運用が推奨されますか? A.「LINE」で顧客管理する精度の高いマーケティング 「LINE」を始めてすぐの診療所の多くが、「LINE」=メッセージ送信と思い、休診日のお知らせや予防接種の告知などの活用をイメージしがちです。しかし、近年は「LINE公式アカウント」のさまざまな機能を活用し、集患や業務の効率化につなげている診療所も出てきています。 その一つが、「LINE」での顧客管理です。たとえば、予約や問診を「LINE」で行うと、どんな患者が何の目的で受診したかといった患者データが蓄積されていきます。それを分析することで、よりターゲットを絞ったマーケティングができます。 たとえば、内科診療所なら、患者データからにんにく注射など自由診療に関心のある患者だけに絞ってメッセージを送ったり、インフルエンザの予防接種を優先的に受けてほしい小児・高齢者の「友だち」へ先に予約の案内を送るといった使い方をしているところも増えています。 なお、性別や年齢層、エリアなどのセグメント配信は、基本のメッセージ機能でできますが、よりパーソナライズされた情報発信を行いたい場合は、「Messaging API」という機能の利用が必要です。「LINE」自体の基本機能に加え、「LINE」と連動した予約、順番表示などの顧客管理システムなどが可能になります。 このように、マーケティングに役立つ患者データを「LINE」でオールインワンに管理・分析することで、「LINE」からそのまま、直接患者層ごとに合ったアプローチを仕掛けられます。 Q3.まだ「友だち」ではない、新患になり得るターゲット層へのマーケティングはどうすれば良いですか? A.タイムライン上での「友だち」同士の共有を活用 「LINE広告」などへ出向するのも一案ですが、診療所の場合、広告規制ガイドラインなどもあるので、慎重に運用したい方も多いかと思います。そこで、活用していただきたいのが、「タイムライン」への投稿です。 投稿を評価してもらえると、評価した「友だち」の「友だち」へと情報が広がっていきますし、そうした場合、「あの人が『いいね』しているなら信頼できる」といった好意的な受け取りも、期待できます。 また、「友だち」同士は、子どもが同学年など同じような生活境遇であることが多く、共感する内容も同じになることから、反応が良い情報が拡散されやすくなります。今はまだ「タイムライン」に投稿したことがない診療所も、これを機にぜひファン獲得のために取り組んでみてもらいたいですね。 投稿する際は、文章だけではなく内容に関連する画像を添えるのももちろんですが、押さえておきたいポイントとしては、「住所」や「電話番号」など、必ず明記しておくことですね。あとから検索させるのは不親切ですし、スマートフォンで「電話」や「住所」表記をタップすれば、電話がかかったり、マップ表示されたり、患者さんが行動を起こしてくれます。 また、文章は堅苦しくならず、難しい言葉を使わない家族や友人に送るような親しみのある書き方を心がけたいですが、「来てください!」と露骨に書くと、押し売りに感じます。 投稿が多すぎても逆に敬遠されてブロックされるリスクもあるので、注意しましょう。 * これは、「LINE」に限らず、他のSNSマーケティングにも言えますが、SNSは導入してすぐに効果が出るものではありません。更新や変更・改善を繰り返して育てていくものです。 最初は、機能拡充や広告など、多少の投資が必要な場合もあるかもしれませんが、地道に適切な運用を続けられた診療所さんは、1~2年後にちゃんと狙っていた患者層を集めることに成功されています。 「LINE」の導入を悩まれている院長に多い声が、「管理が面倒くさそう、手間が増えそう」などですが、そうではなく、チャット相談なども1日に何十件も来ません。問い合わせも今まで電話でかかってきていたものが「LINE」にシフトすると思えば、電話応対の手間などは減ります。ただ、今まで取りこぼしていた、「電話はしない、『LINE』だったら連絡する」という患者は増えます。 とにかく、「LINE」であれば、患者の「受診したい」と思ったタイミングを逃さず自院に誘導できるという観点からも、「LINE」をうまく取り入れていただきたいです。 制作:㈱日本医療企画 (取材年月:2020年10月)

【解説】戸建てで新規開業する際に押さえておきたい8ポイント

【解説】戸建てで新規開業する際に押さえておきたい8ポイント

<著者>日本クレアス税理士法人 大阪本部会長 上田久之 独立開業の際、一般的に見られるのが戸建開業ですが、文字通り「基盤」となる不動産について見落とせないポイントがあります。土地・建物の所有関係や法律要件、駐車スペース、さらには土地建物取引業者の説明を十分受けているか――。ここではその代表例を解説していただきます。 当事務所では、独立を予定されている歯科医の先生方向けに「不動産」に関するヒアリングシートを用意しています。開業にあたって見落としてはならない8ポイントを挙げ、ご確認いただいています。以下、それぞれのポイントについてご説明します。 目次 01:ビル開業ですか、戸建て開業ですか 02:土地建物の所有関係は、どのタイプになりますか 03:医院を建築するにあたり、さまざまな法律要件を満たしていますか 04:建築基準法の定める建蔽率、容積率で希望する建物が建ちますか 05:必要な駐車スペースは確保できますか 06:信頼できる土地建物取引業者に依頼して、重要事項について充分な説明を受けましたか 07:定期借地権の年数を確認しましたか 08:不動産の取得コストを見込んでいますか ビル開業ですか、戸建て開業ですか 都心部ではビル開業が一般的ですが、都心部を離れると戸建開業が多くなります。以下、戸建開業を前提にポイントを説明します。 土地建物の所有関係は、どのタイプになりますか 地主さんにオーダーメイドで建ててもらい、それを賃借する方式を「建て貸し方式」といいます。建物は先生が建築して、土地は地主さんから借りる方式を借地といいます。そして借地の場合、最近は定期借地権方式という返還時期が定まっている方式が主流となっています。 医院を建築するにあたり、さまざまな法律要件を満たしていますか 例えば、最近は第一種住居専用地域においても、診療所に住居部分を併設しなくとも、建築可能なようですが、地区によっては「建築協定」などで用途規則を厳しく制限している場合がありますので、該当地区の役所の窓口で相談をすることが必要です。 農地の場合、農業委員会の農地転用の手続きが必要で、転用の費用は通常、買主が負担します。 建築基準法の定める建蔽率、容積率で希望する建物が建ちますか 例えば300㎡の土地で、建蔽率50%容積率100%の場合、建物の1階部分の面積は150㎡、総延床面積は300㎡が上限となります。 必要な駐車スペースは確保できますか 郊外では駐車スペースは必須です。1台当たり約13㎡のスペースが必要ですから、例えば5台ですと、約70㎡の面積が必要となります。 信頼できる土地建物取引業者に依頼して、重要事項について充分な説明を受けましたか 土地の所有権や抵当権などの権利関係、都市計画法や建築基準等による制限、各市町村の開発予定等、専門家に調査をしてもらうことが必要です。土地所有者が知り合いだからと、直接交渉をすることもありますが、間に専門業者を入れるほうが安心です。 定期借地権の年数を確認しましたか 定期借地権の場合、契約満了日が来ると立ち退かなければなりません。その年数と銀行借入金の返済計画に矛盾が生じないかといった検討が必要です。 不動産の取得コストを見込んでいますか 取得時コストとして、仲介手数料、登記税、登記手数料などがかかります。取得後には不動産取得税、固定資産税等がかかります。 監修:㈱日本医療企画 取材年月:2022年3月

【解説】正しく自院を把握しているか? 人が“辞める”要因・再分析

【解説】正しく自院を把握しているか? 人が“辞める”要因・再分析

<著者> ㈱日本医療企画 目次 01:自院の存在意義や理念は明確になっている? 02:院内の人間関係本当に風通しは良い? 03:「おカネ」でやって来た人は 「おカネ」で去っていく 04:「困った」スタッフまで抱え込む必要は本当にある? 05:穴埋め採用はその場しのぎになるだけ 06:やりがいや評価のない職場に人は定着しない ①自院の存在意義や理念は明確になっている? 「良い医療を地域の皆さんに届けよう!」この言葉、一見すると自院の方針を掲げているように思えるが、実のところ「良い医療とは何か」「地域の皆さんとはどういった層を指しているのか」「良い医療を提供して、何を実現するのか」など、具体的な内容がわからない。 良い医療を患者に提供するのは医療機関にとってはある意味当然のこと。つまり、他の診療所との差別化にはならず、既存スタッフや新たな応募者が見た際に「こんな医療を自分も提供したい」といった魅力やモチベーションにもつながらない。より各々の考えに合う、明確な診療所像を発信している診療所があれば、そちらに目がいってしまうだろう。 一方、「うちの診療所は、ちゃんと理念を考えている!」という院長も、もちろんいるだろう。しかし、理念はつくって終わりではなく、組織全体で共有し実現のために動いて初めて意味がある。スタッフは本当に同じ理念を見て仕事をしているのか。組織への浸透を怠って院長の独りよがりになっていないだろうか。今一度院長自身の胸に問いかけていただきたい。 ②院内の人間関係本当に風通しは良い? 診療所でスタッフが辞める原因としてありがちなのが、「人間関係のトラブル」だ。院長対スタッフのケースもあれば、スタッフ対スタッフの場合までさまざまだが、一度悪化すると修復・改善はなかなか難しく、院長としても介入しにくいと思われる。 しかし、どんなトラブルにも、悪化する前の兆しはある。以前と比べて、スタッフのなかで孤立している人はいないか、勤務態度は変わっていないか、仕事に関する不平不満が出ていないか――など、日常業務のなかで違和感を覚えるタイミングはあるはずだ。 問題は、院長や事務長などのマネジメント側がそれらを察知し、「どうしたの?」「何かあった?」と踏み込む、または逆にスタッフから相談を受けるようなコミュニケーションを、日頃からできているかだ。 ③「おカネ」でやって来た人は 「おカネ」で去っていく 離職防止のため、給与を上げる、インセンティブを設ける、福利厚生を充実させるといった対策を立てることは珍しくない。しかし、ここで注意しなければならないのは、条件だけで選んで応募してきた人材は、もっと良い条件があれば簡単に辞めてしまう可能性が高いことだ。 同じ条件でも、「職場や仕事に思い入れはないが、他に条件が良いところがないからここで働いている」という人よりも、「やりたい仕事や成長につながるし、頑張った分だけ自分にも返ってくるから」と感じている人のほうが、組織への帰属意識が高いのは当然だろう。 もちろん、スタッフにも生活があるので、雇用条件は悪いよりも良いほうがよいだろうし、昨今の働き方改革などの時勢からも、「24時間働けます」というわけにもいかない。ただ、人材不足に悩むあまり目先の条件先行の採用に陥っていないか、改めて見直してみてはどうだろうか。 ④「困った」スタッフまで抱え込む必要は本当にある? 勤務しているスタッフのなかに、問題のある態度や行動が目につく人がいる。しかし、指摘して逆上されるのは面倒だし、急に辞められて人手が減るのも困るし、他のスタッフからの印象が悪くなったらどうしよう……など、そんな「困った」スタッフに頭を悩ませたことのある院長は少なくないのではないか。 採用時点では気づかなくても、入職後徐々に価値観や働き方の相違などの問題は少なからず見えてくる。面談などでその問題点を指摘し、改善・成長を促すことができるならいいが、診療所からの再三の働きかけにも応じず、自院の方針から外れた行動を繰り返し、職場のチームワークを乱したり、患者からの評判を下げてしまうような〝問題児〟もいる。 ただ、そこまで悪化した場合、むしろそのスタッフが自院に居続けることが院内の空気や体制に悪影響を与え、その環境が嫌になった他のスタッフが去って行ってしまう可能性は十分にある。そうなってしまえば、マンパワー不足を懸念し「困った」スタッフを抱えていたことが本末転倒になってしまう。 院長や事務長クラスの管理職は問題のあるスタッフに対し、自院の方針に則ってきちんと指摘すること、改善が困難な場合は、そのスタッフへ自らの進退を考えてもらうよう伝える決断も、診療所を守るために必要だと自覚し臨むべきだろう。 ⑤穴埋め採用はその場しのぎになるだけ 急なスタッフの離職があった際、誰でもいいから、とにかく人手を補てんしたい、すぐにシフトに入れる人がほしいと、穴埋め的な人材採用をしてしまったことはないか。当然ながら、急場しのぎで採用した人材はなかなか定着しない。悪いときには、そうした穴埋め人材の抜けた穴を補てんするためにまた新たな穴埋め採用を繰り返すという悪循環に陥りかねない。また、そんなときほど自院の方針とかみ合わない人を採用してしまい、入職後苦労するものだ。 ⑥やりがいや評価のない職場に人は定着しない 具体的な理念を掲げ、それに共感したスタッフが集まってくれた。しかし、そこで終わりではない。当初はやりがいを感じて働いていたスタッフも、理念で掲げる医療につながり、患者や地域、社会に貢献している実感がないまま働き続ければ、徐々にモチベーションの低下につながっていく。それを防止するためにも、自院の理念や行動指針に基づいて、スタッフの働きがいや成長への意欲を促し、結果をフィードバックする仕組みを取り入れたいところだ。 以上、診療所で人が〝辞める〟要因を整理してみた。今回挙げた要因もあくまで一部であるが、改善するとしないとでは大違いだ。表のチェックリストと自院の状況を照らし合わせたうえで、次頁からの有識者や先達たちの知見を学んでいただきたい。 (取材年月:2022年3月)

【解説】リフォームは第2の開業!患者の信頼を得る環境を用意しよう

【解説】リフォームは第2の開業!患者の信頼を得る環境を用意しよう

<著者>日本クレアス税理士法人 大阪本部会長 上田久之 開業から一定期間が経過し、患者やスタッフの動線といった実務的な事情をはじめ、雰囲気、果ては土足の可否まで、当初の想定通りに進まないことは十分想定できます。さらなる集患のためにも、「リフォーム」が経営課題に浮上します。注意点を解説していただきます。 目次 01:なぜリフォームが必要なのかを十分に考え、実績がある業者を選定する 02:あらかじめ土足可とするか不可とするか決めておく 03:集患率を上げる 04:カウンセリングスペースの設置 05:見出し05 06:見出し06 07:見出し07 08:見出し08 09:見出し09 10:見出し10 歯科医院を開業し一定期間が過ぎたころ、医院のリフォームを検討されることがあります。その場合のポイントを説明します。 なぜリフォームが必要なのかを十分に考え、実績がある業者を選定する なぜリフォームが必要なのかをあやふやにしたまま、「なんとなく現状を変えたい」ということでリフォームしてしまうと、無駄な費用だけがかかってしまうことになりかねません。リフォームすべき医院の問題点を十分に洗い出し、実績のある業者と打ち合わせを行いましょう。 特に入口や玄関周りは集患において大事な場所であり、患者さんから見た医院の第一印象が決まると言っても過言ではありません。利用される患者さんのことを思い浮かべながら入りやすい造りを考えてみてください。 あらかじめ土足可とするか不可とするか決めておく 土足可ですと靴を脱いだり履いたりする手間がかからないため、入口からすぐに受付へ行けます。一方、履き替えはどうしても入口に人が集中してしまいます。 衛生面から考えると、土足は泥などの汚れを院内に持ち込んでしまうため、待合室だけでなく治療室も汚れてしまうため、院内を清潔に保つ工夫が必要です。最近ではコロナの影響によりスリッパに履き替えるのが嫌な患者や、女性の場合のブーツなど履き替えにくいため土足可とされる医院が増えています。紫外線で殺菌するスリッパラックが販売されていますので、衛生面を重視するのであればそのようなものを利用することもひとつです。 土足と履き替えでそれぞれメリットとデメリットがありますので、ターゲットにしている患者さんのことを考え、どちらが利用しやすいかで選んでください。 集患率を上げる 患者数の維持・向上はクリニック経営上非常に大きな課題となってきます。この集患率を下げる要因として建物の観点から考えられるものは1.古い 2.暗い 3.狭いということが挙げられます。 長く診療されている間に、建物の経年劣化が進み、このような状況になりがちです。新規の患者さんだけでなく既存の患者さんの来院も含めて集患率を上げるには、リフォームを行う際に上記の要因を改善することを明確な目的とする必要があります。 カウンセリングスペースの設置 特に自費の治療など高額なサービスを提供する場合、他の患者さんの視線等を気にせずに相談できる環境であれば、患者さんにも納得のうえで自費治療を選択していただくことができます。 大きなスペースは必要なく、狭い空間であっても医師と患者さんが並んで座りディスプレイを見ながら説明することで、比較的短時間で信頼関係を築けます。できれば個室的な空間をつくり間仕切りは天井までとして声が外に漏れないように配慮したいものです。 医院のリフォームは「第2の開業」とも言えます。十分な検討を行い集患率アップにつなげましょう。 監修:㈱日本医療企画 制作年月:2022年3月

【解説】経営を支えるのは「ヒト」!職員が定着する組織を目指そう

【解説】経営を支えるのは「ヒト」!職員が定着する組織を目指そう

<著者>日本クレアス税理士法人 大阪本部会長 上田久之 医院の安定・拡大には職員の力が不可欠であることは言うまでもありません。ただ、歯科医院界はさまざまな業種のなかでも特に人の動きが激しいことで知られます。そこで力のある職員に長く働いてもらうには、組織の風通しをよくするなど、日頃からの経営サイドの配慮が求められるようです。 歯科医院の職員の採用は日に日に難しくなっており、さまざまな業種のなかでも人の動きが特に激しくなっている市場の一つです。ですから、採用後に即戦力として期待できる人材を確保することは、非常に困難なことになっています。せっかく採用ができても、職員が医院の一員として働くということに誇りや喜びを持っていなければ、場合によっては院長の意志に反する行動をとりかねません。長く、そしてより良く働いてもらうには、医院の職員としての基本姿勢や規範、モラルなどをあらかじめ示し、十分な理解をはかった上で就労してもらうことが大切です。 目次 01:経営体質の強化のために 02:労働環境の整備とスタッフ満足度 03:スタッフのモチベーションを高めるには 04:見出し04 05:見出し05 06:見出し06 07:見出し07 08:見出し08 09:見出し09 10:見出し10 経営体質の強化のために 経営体質の強化には、スタッフの協力が欠かせません。歯科医院を動かすのはスタッフであり、歯科医院が評価されるのもスタッフ次第なのです。また、立案した診療方針や歯科医院のコンセプトを実現するには、スタッフの確保・育成に注力すべきです。そのためには、次のような意識を持って職員育成にあたることが重要となります。 労働環境の整備とスタッフ満足度 スタッフ満足度を上げるためには医院の労働環境の整備が欠かせません。 ただ、いくら労働環境を整備しても、医院のコンセプトをスタッフが理解していなかったり、また理解していても納得して業務に取り組んでいなかったりすれば、想定される成果は得らません。スタッフの満足度を高めることは、これからの歯科医院経営にとっては必須です。より良い歯科医院経営を行うには、生き生きと働くスタッフが不可欠なのです。スタッフ満足は患者満足につながり、ひいては歯科医院に大きなメリットをもたらします。 スタッフのモチベーションを高めるには モチベーションを高める最も大きな要因は、スタッフの“仕事についての満足”“自分の仕事について認められている”という気持ちです。スタッフに気持ちよく働いてもらうためには、院長のリーダーシップのもと、法律を遵守した基本的な労務管理を実施するとともに、モチベーションを高めるための取り組みが求められます。 スタッフを動機づけるには効果的なインセンティブの設定が必要です。例として ・毎月患者数の目標値を提示し達成したときは大入り袋を出す ・半年ごとに患者数目標を設定し1割オーバーすると賞与を1割、増額する などです。 患者数を増やすための対策を実行するとスタッフに負荷がかかるため、院長とスタッフ間のコミュニケーションを良好に維持し、組織の風通しをよくしておく必要があります。朝礼やスタッフミーティングなどを通じて目標の達成度などを発信する、また目標を達成した時には食事会などのイベントを行うなどの非公式なコミュニケーションも有効となります。 監修:㈱日本医療企画 制作年月:2022年3月

【解説】「所得は高いのにお金がない…」を防ぐ キャッシュに着目して計画的な経営を!

【解説】「所得は高いのにお金がない…」を防ぐ キャッシュに着目して計画的な経営を!

<著者>日本クレアス税理士法人 大阪本部会長 上田久之 患者も増え、所得も安定しているにもかかわらず、思ったほどお金がない……そんな「勘定合って銭足らず」な事態はしばしば起こります。こうした事態を防ぐためにも、支払いや生活資金も踏まえた収支シミュレーションを描き、対策を講じる必要がありそうです。その進め方を解説していただきました。 医院経営を続けていくと、所得は高くなり多額の税金を納めているものの、思ったほどお金が残らないということがしばしば起こります。そこで重要になるのが「キャッシュ(現金)」の管理です。今回は利益だけではなくキャッシュに着目した経営について説明します。 目次 01:収入は多いが支出も多い 02:経営シミュレーションの作成 03:経営シミュレーション作成のSTEP 04:見出し04 05:見出し05 06:見出し06 07:見出し07 08:見出し08 09:見出し09 10:見出し10 収入は多いが支出も多い 歯科医師の先生は、平均と比べて収入は比較的多いですが、支出についても平均と比べて大きくなることが少なくありません。もちろん、所得が増えたことに伴って税金が増えるという要素もありますが、気持ちに余裕ができ、金遣いが荒くなることが大きな要因です。子どもの学費・医院の設備投資・引退後の生活資金……。考えなければいけない事項は多岐にわたります。 経営シミュレーションの作成 ・毎日頑張っているが、思ったほどお金が残らない ・思い通りの人生をおくるためには、どのくらいお金が必要なのか? ・どのくらいの売上高まで頑張れば、必要なお金が残せるのか? というようなことでお困りの先生は結構多くおられます。これを解決するために経営シミュレーションの作成が有効になります。 経営シミュレーション作成のSTEP 経営シミュレーションの作成については以下のようなSTEPになります。 STEP1 現状把握 「今の状態で残っているお金はいくら?」を算出します。 STEP2 ライフプランから必要資金を出す ライフプランから、老後資金・教育資金・設備資金・住宅資金などの様々な必要資金を検討し、「そのためには、今年1年でお金をどれだけ残さなければならないのか……?」を算出します。 STEP3 ギャップを見つけて対策を練る 「今年1年でお金を残すために、どれだけ売上高が必要なのか?」 「医院経費や生活費をどれくらい使えるのか?」 などをライフプランから逆算してシミュレーションし、経営計画を作成します。 STEP4 図解で直感的に理解する シミュレーション結果を図解表示し、会計の知識がなくても簡単に理解できるようにします。経営シミュレーションを作成することにより、院長自身のありたい未来を思い描くとともに、それに向けてどう進んでいくかをご検討いただきたいと思います。 監修:㈱日本医療企画 制作年月:2022年3月

【インタビュー】これからの首都圏での事業展開はビル診か、戸建てか!?

【インタビュー】これからの首都圏での事業展開はビル診か、戸建てか!?

<取材先> 髙橋邦光 株式会社ラカリテ 代表取締役 ×  宮本潤一 医療法人社団邦潤会 わかば宮本医院 理事長 目次 01:トレンドは都心回帰 独自性のある診療所が生き残る 02:如何様にもできる 戸建てのほうがメリット高 03:立地条件が揃う医療モールでの開業もひとつの手 トレンドは都心回帰 独自性のある診療所が生き残る ――今回は、「これからの首都圏での事業展開はビル診か戸建てか⁉」といったテーマです。まずは自己紹介をお願いします。   髙橋 年間約50件、医療に特化した建築設計監理・内装設計施工を行う株式会社ラカリテで代表取締役を務めています。これまで800~1000件、主に診療所の場所選定から建築・内装設計に携わっています。   宮本 医療法人社団邦潤会の理事長を務めています。診療所開業は2013年1月で、千葉市若葉区にわかば宮本医院として開設しました。建物自体は、父が45年前に建てたRC3階建ての住居併設有床診療所です。父が亡くなり7年ほど閉院していましたが、地域ニーズに沿った医療を提供したいと、リフォームして開業し、現在に至ります。 私は当初から分院展開を考えており16年には法人化。17年には1日の患者数100人が見えてきたのをきっかけに本格的に分院計画を推進。翌18年に場所を選定、20年5月に幕張のテナントで分院を開設しました。プライマリ・ケア医として総合内科を主体としながら、今日的な医療ニーズに応えるため、CTスキャナを導入し認知症診療に積極的に対応。心療内科、精神科も標榜しています。   ――なぜ分院場所を幕張にしたのですか?   宮本 本院と分院の相互に交通の便がよく、かつ診療圏がギリギリかぶらない場所、ということで選定しました。当法人では、事業の継続性を担保するため、医師を含めた職員を増やし、誰かが休んでもカバーできるなど、個人の負担を減らす取り組みをしています。本院と分院は、電車で約30分、車では15分程度となっており、必要時には職員の行き来も可能です。 また、幕張北口は区画整理事業が行われており、タイミング良く駅前のテナント計画があったのも決め手です。駅から徒歩2分という立地で患者さんの通院の便もよく、遠方からの来院もあります。 ――株式会社ラカリテでは開業場所の選定にも携わっていますが、選定の流れやトレンドがありましたらお教えください。   髙橋 当社は私を含めて営業5人が場所探しから院長のお手伝いをしています。相談に来る院長は場所を絞りきれていないケースが少なくありません。選定の流れは、まず担当者が診療圏を見直し、近隣の競合となる診療所を調べます。たとえば、競合相手の開業日や診察日、どういった機器を揃えているか、院長の年齢――などです。また、薬の卸を行う業者からも情報を得て、地域全体の物件情報・診療圏調査結果を院長に伝え、場所選定についてアドバイスします。 トレンドに関しては、一昔前までは都心部は競合が激しいため、郊外のほうが人気が高かったのですが、最近の傾向としては、郊外でも競合が多くなってきたため、都心回帰の動きが出てきました。都心は人も多く、ニーズが高いので、そこで勝負する院長が増えています。ただ、何か特徴を持つ診療所のほうが生き残っている印象があります。たとえば、整形外科でもスポーツを専門にしていたり、宮本先生のように内科に心療内科や精神科を組み合わせたりするなど、独自性を打ち出して勝負する先生が多いです。   ――家賃相場についてはいかがでしょうか。   髙橋 これまでは都心でも坪単価1万5000円が限界で、それ以下が相場だと言われてきましたが、現在では坪単価2万円でも坪数を減らしてミニマムに開業する院長が増えています。たとえば、50坪で坪単価2万円だと月100万円の家賃ですが、35坪に抑えて月70万円にして家賃を抑えるケースです。ただ、都心でビル診での懸念事項は、患者が増加した場合、拡張性がゼロだということです。 また、流行る診療所の要素として、駅近物件のほうが患者の認知度も高まるため、良いとされていますが、実際、駅から離れた住宅街でも流行っている診療所もありますので、一概には言えないといったこともあります。最近では、ショッピングセンターやスーパーマーケットの上階に構えた診療所が流行るケースが増えています。 如何様にもできる 戸建てのほうがメリット高 ――宮本理事長は本院が戸建てで、分院はビル診をされていますが、どちらがよりメリットが高いとお考えでしょうか。   宮本 まず、ビル診か戸建てかと考える前に、「賃貸か、持ち家か」という視点が必要かと思います。資金的な余裕がある場合、持ち家のほうがあらゆる面でメリットが多いです。理由はカスタマイズが可能だからです。診療所を運営していくなかで、ニーズの変化に施設を対応させたいということは多々あります。たとえば、患者増のため待合室を広くしたい、新しい検査室を設けたいなどといったことです。そういったなか、持ち家だとスペース的にも余裕があることが多いと思いますし、改築や増築が比較的自由にできます。 一方、賃貸だと、そもそも外側は変えられませんし、開業時に無駄なく必要最小限のレイアウトをすることが多いでしょうから、後から変更を加えることは大変だと思います。持ち家であるがゆえの自由度の高さは、そのまま医療ニーズの変化への対応柔軟性につながると考えます。 実際、戸建て持ち家である本院では、新型コロナの感染症対策として、敷地内の駐車スペースの転用を行いました。具体的には、窓つき倉庫2個を設置し、そこを感染症対策待合室としたのです。そういったことは、賃貸のビル診だと難しいでしょう。ただこれはある一面であり、持ち家戸建てがすべての面で絶対に良いかというと、状況によっては違ってきます。たとえば、メンタルクリニックの場合は、駅近のビル診がいいと思いますし、整形外科だと駐車場や院内スペースに余裕があるロードサイドの戸建てが適していると思います。「戸建てか、ビル診か」ということを先に考えるより、患者や診療のニーズによって、おのずと選択肢が決まってくると思います。   髙橋 ビル診と戸建てを単純に比較すると、圧倒的に戸建てのほうがメリットは高いです。それは先ほど宮本先生がおっしゃったように、自由に設計ができるからです。トイレを2つ設置したい、診察室を多くしたいなど、ある程度の要望には応えることができます。一方、一般のテナントでのビル診だと、排水位置が決まっていますので、トイレはその位置からおよそ半径数m以内や、流し台も勾配が取れる場所に設置しないといけないなど制約が多い。ですので圧倒的に戸建てのほうが好きなように設計ができます。 ただ、土地を購入するのは財政的にものすごく負担となりますので、戸建てが良いとなると必然的に郊外になります。その際、土地勘がある先生だと問題はないですが、土地勘がなくて落下傘開業となると院長にとって結構勇気がいることだと思います。 ――新型コロナ対策として駐車場に待合室をつくったほかに、リフォームした点はありますか。   宮本 本院はひとまず外来診療スペースのリフォームをして開業し、それから必要に応じて逐次追加リフォームしてきました。父の代のもともとの構造は、1階が外来、2階が病室、3階が住居でした。開業時のリフォームは資金的な問題もあり、1階部分のみを行ったのですが、その後、独立した事務室が必要になったり、スタッフの休憩室・更衣室の整備が必要となったりなどしたので、2階の元病室をリフォームしてその場所にあてました。 さらに、内視鏡検査に対応するため、追加リフォームをし、2階の廊下やトイレを綺麗にし、内視鏡の前処置室と検査室を設けました。内視鏡の前処置室はその後、メンタル専門外来の診察室としても流用しています。このようなことができたのも、戸建ての持ち家だったからだと思います。ニーズに合わせた診療体制を敷くことができるのも、戸建てのメリットと言えるでしょう。 立地条件が揃う医療モールでの開業もひとつの手 ――近年では医療モールや医療ビルが都心で増えてきました。そういったテナントについてのご見解をお聞かせください。   髙橋 10年程前は医療モールや医療ビルは診療所のメッカとして人気は高かったです。主導しているのが薬局ということで一時期、敬遠する傾向はありましたが、最近になってまた開発が進んでます。立地も駅近など競合はありますが、それでも有利な好条件の場所にあることが多いので、医療モールでの事業展開も良いと思います。 また、先ほどのテナントでの設計の部分でデメリットの話がありましたが、医療モールや医療ビルは診療を行うために造られているため、床が下がっており、どこでも流し台やトイレを設置できます。電気の容量もしっかり整備されているので、CTやMRIは別ですが、レントゲンなど一般的な医療機器であっても設置できるところがメリットです。ですので、開業に必要な内装コスト的には、雑居ビルよりは良いと思います。 宮本 医療モールでの開業は考え方次第だと思います。メンタルクリニックや在宅専門でしたら、物件の探しやすい雑居ビルの2階以上などでも可能でしょう。しかし、水回りの配慮が必要な診療科や、重装備の検査機器が必要な診療科でしたら、はじめから診療所向けに設計されている医療用テナントでないと難しい面もあると思います。 一方、地域特性があるとは思いますが注意点は駐車場です。医療モールはある程度の駐車場は確保されているとは思いますが、受診者の多い時間帯が重なって駐車場の取り合いになる可能性もあり、近隣のコインパーキングなども含めた確保状況の確認が必要です。駐車場を飲食店やスーパーなどと共有する場合は、混む時間が分散するのでそういう面では有利と思います。   ――ビル診よりも戸建てのほうがメリットがありそうですが、そのときに注意すべき点がありましたらお教えください。   宮本 開業をご検討の先生ご自身がどういった診療を今後していきたいかという考え方次第です。いわゆる町のお医者さんとしプライマリ・ケアをやっていきたいと思うのであれば、持家の住宅併設診療所をつくるのが良いと思います。ただしメンタルクリニックの場合は住居併設はやめたほうが無難でしょう。内科の一般診療を行う先生でしたら、その場所に住むことは“強み”になると思います。 最近ではそれを敬遠する先生も多いようですが、やはり“町のお医者さん”というのは、地域住民に知られているその土地の人、ということが重要だと肌で感じています。今の私は幕張の分院長をやっていますが、診療所の入っている建物のマンション部分に事務所兼用なのですが1室を借りています。そしてそこから週2回程度は近所の居酒屋などに飲みに行きます。本院を開業したときも同じことをしました。そうやって顔と名前を少しずつ知ってもらい、町のお医者さんになっていき、口コミで来て下さる患者さんが増えてきました。 どんな職業でも同じだと思いますが、最初はそういった地道な営業活動は重要なのです。また、ハードウェアの面で気をつけなければいけないのが、戸建てで一から診療所を創る場合、夢を詰め込みすぎてしまう危険性です。機能や仕様を欲張ってお城みたいなものを創らないよう、自制心を高めることが重要です。医師だと信用があるため、銀行からの融資はいくらでも借りられると思います。建物や設備などに借入で何億もかけてしまうと、事業が目論見どおりに展開できればいいですが、うまくいかなかったときに大変なことになります。本当に必要なものをまずは揃え、将来の発展については少し余裕を持たせて拡張性で対応するのが無難です。 それはスタッフも同様で、患者が増えてきたら、追加雇用していけばいいのです。何でも自由にできる持ち家戸建ての場合は、やり過ぎてしまうことが大きな落とし穴だと思います。   髙橋 私も宮本先生と同様、戸建てにするなら、住居併設のスタイルをおすすめします。ただ、私がよく耳にするのは、医師の奥様からNGが出るケースです。そこはよく家族で話し合う必要があると思います。自由度の高い戸建てだと、建てた後のある程度の拡張性が見込めますし、スタート時から少し拡張したぐらいのものがつくれるといった点からも戸建てのほうがいいと思います。 都心では、テナントビルで小規模での診療所が多いですが、少し流行ってしまうと、患者さんが入りきらないことで頭打ちになってしまい、患者の待ち時間が長くなる→結局口コミサイトに悪評が出てしまうといったケースも見受けます。都心だと競合も多いですから、口コミを見た患者が他の診療所に流れてしまう場合もありますので、あまり無理して都市部で出す必要はないと思います。 制作・監修:㈱日本医療企画 (取材年月:2020年2月)

【解説】「診療方針」「雰囲気」はもちろん「経営・管理の仕組み」も承継する

【解説】「診療方針」「雰囲気」はもちろん「経営・管理の仕組み」も承継する

<著者>岩田義明 株式会社富士経営総合センター コンサルティング事業部チーフコンサルタント 事業承継で引き継ぐのは患者やスタッフ、設備など目に見えるものだけではありません。医院が育んできた雰囲気、そして経営を支えてきた経営・管理のシステムも承継の対象となります。患者、スタッフの安心感を得るためにも、こうした「目に見えないもの」にも配慮することが大切なようです。 目次 01:「診療方針・診療スタイル」の承継 02:「医院の雰囲気」の承継 03:「経営の仕組み」の承継 04:管理の仕組みの承継 05:見出し05 06:見出し06 07:見出し07 08:見出し08 09:見出し09 10:見出し10 01:「診療方針・診療スタイル」の承継 事業承継が行われた場合、今まで通っていた患者が全て来院するとは限りません。スムーズの承継するために、これまでの医院のやり方を一定程度、踏襲する必要があります。 そのため、診療方針や診療スタイル、治療技術レベルが合うかなどをお互いにすり合わせておくことが重要です。親族への承継の場合や、勤務医に承継する場合は「経営者が変わった」と認識されることが少なく、患者は比較的継続して来院します。 M&Aで、新たな歯科医院として「診療方針」を掲げる場合は、患者は新しい院長の診療を観察します。その上で、受け入れられるようであれば来院を継続し、そうでなければ離れていきます。 02:「医院の雰囲気」の承継 医院の雰囲気をつくっているのはスタッフです。患者から通い続ける医院は、治療への評価だけでなく、スタッフの言葉づかい、気づかいが素晴らしいことを高く評価されているのです。 経営者が変わったとしても、同じスタッフがこれまで通りの接遇を続けていれば、患者は継続して来院します。一方でスタッフが入れ替わってしまえば、それまで患者が気に入っていた雰囲気は失われ、患者が離れていく原因となります。 03:「経営の仕組み」の承継 院長が一人で頑張っている歯科医院か、スタッフも一緒に経営にかかわっている歯科医院かにより、その後のその医院の成長が変わってきます。 朝礼・夕礼やミーティングなどのコミュニケーションの仕組みがあれば、それを活かし、後継者の方針を浸透させることができます。業務マニュアルや教育マニュアルなどがあれば、その仕組みを活かすことで人材の育成ができます。 あらかじめ経営の仕組みができていれば、後継者はスムーズに経営面を引き継ぐことができます。 04:管理の仕組みの承継 後継者が承継する際に考えておきたいのが、経理や給与計算などの管理業務です。 M&Aで医療法人が買い取るのであれば関係ありませんが、後継者が初めて経営者になる場合は、必ず押さえておいて欲しいポイントです。 経営するためには、医療を提供する以外に、経費を把握し、支払いを行い、スタッフの労働時間を把握し、給与を支払わなければなりません。後継者自身が管理をするのか、配偶者に担ってもらうのか、誰か担当スタッフを雇うのかを決めておいたほうがよいでしょう。 監修:㈱日本医療企画 取材年月:2022年3月

【解説】引き継いだあとのトラブルを防止するチェックリスト

【解説】引き継いだあとのトラブルを防止するチェックリスト

<著者>岩田義明 株式会社富士経営総合センター コンサルティング事業部チーフコンサルタント 一般的に、事業承継で設備を引き継げるメリットとして「引き継いだその日から診療ができる」点が挙げられます。親子承継ならば、当該設備についての細かなチェックもかなり省略できそうです。ただ、「診療内容」については親子の間で確認しておく必要があるようです。 歯科医院の価値は、「事業価値(事業としての生み出される利益)」と設備などの「資産価値」の2つから決まってきます。後者には、土地建物の他にも、医療機器や事務機器、家具など、さまざまなものがあります。ここでは、「設備」について取り上げます。 事業承継で設備を引き継ぐメリットは、引き継いだその日から診療ができるということです。 設備投資を継続的に行っている医院を承継する場合には、新規開業してすべて揃えるよりもはるかに安価で必要な設備を手に入れることができます。内装も定期的に更新されているのであれば変える必要もありません。 一方で、設備投資を行っていない医院を承継する場合は、必要な設備を追加で購入したり、内装を更新したりする必要があります。同時に、更新するために診療を休まなければなりません。 設備を引き継ぐ際の注意事項としては、引き継ぐ設備や医療機器・備品については、すべてリスト化し、それぞれの現在価値(もしくは資産台帳の簿価)を確認します。その上で、引き継ぐ予定の機械・器具・内装を確認し、不具合がないかをチェックします。 <資産となる項目> ●土地・建物もしくは内装工事(設備工事、外構工事などを含む) ●医療機器や事務機器 ●医療法人の場合:出資金 ●車両   ●借入・リース等の債務 ●材料・備品等の在庫 ●賃貸の場合:敷金、保証金 ●印刷物・広告・HP そのため、継承にあたっての医院見学の際に、そのチェックを承継する側と後継者が一緒に進めておくべきです。そうすることで、引き継いだ後のトラブルを防止することができます。 その他、医療材料の在庫も必ず確認しましょう。特に高価なインプラントなどは、後継者が利用する予定があれば問題ありませんが、利用しないのであれば対象から外すと取り決めておきましょう。 リース設備などの負債の引継ぎをどうするかに関しては、レセコンなどについて、当事者だけで話を済ませるのではなく、リース会社に契約状況と残債(未払い金)を確認しておきます。その上で残債を引き継ぐ場合は、残債部分は売買価格から差し引くことになります。 親子承継の場合は、設備についての細かなチェックは必要ありません。むしろ、今後の設備投資についての方針が問題となります。 「先進的な治療方法をやりたい後継者」と「無駄な設備投資はさせたくない前院長」という構図になってしまうと、トラブルのもととなりがちであることも付け加えておきます。 監修:㈱日本医療企画 取材年月:2022年3月

【解説】患者を引き継ぐ際に確認したい「大先生」と「若先生」の“やり方”

【解説】患者を引き継ぐ際に確認したい「大先生」と「若先生」の“やり方”

<著者>岩田義明 株式会社富士経営総合センター コンサルティング事業部チーフコンサルタント 歯科医院にかぎらず、医療機関で親子承継がある場合、これまでの先生を「大先生」、後継者を「若先生」と呼ぶ場合があります。この時に注意したいのが大先生と若先生の診療スタイルです。患者の多くは大先生のスタイルに馴染んでいると考えられます。スタイルや方針を変えるにしても、十分な移行期間を設ける必要がありそうです。 競争が激しい歯科医院の環境では、新規開業よりも、患者を引き継げる事業承継のメリットは大きいと言えます。経営が順調な医院を、承継者が適切に承継をできれば、一定の収益と認知度、ブランドを獲得することができます。 注意すべきは、開業から長年経過し、集患に力を入れていなかった医院では、患者が高齢化しており、新患が少ないことです。 それでも、患者を引き継げることは大きなメリットなのは、本来なら、開業から広告宣伝を行い、徐々に認知度を高め、ブランドイメージを確立していくところを、ショートカットすることができるからです。 しかし、「患者が高齢化している」「自分の診療方針に合わない患者が多い」といった場合は、患者の引き継ぎがかえってデメリットになることもあります。 そうならないためにも、承継する側と後継者の診療方針が合っているかを事前に確認しておきましょう。患者を引き継ぐ際には、前院長が後継となる医師を紹介したり、連名のあいさつ状を発送したり、来院者のカルテ内容を引き継いだりすれば、患者は安心します。 引き継ぎがうまくいかないと、新しい院長へのクレームにつながりかねません。たとえば、自由診療の保証期間など、継承に当たってはっきりさせておく必要のある問題は、新しい院長になってもそのまま引き継ぐかどうか、事前に取り決めて告知しておくことも大切です。 開業から長年経過している歯科医院は、患者数は多いものの、新患が少ない場合があり、将来的に患者が減っていくことが容易に想像できます。実際の新患数だけでなく、ホームページの内容が適切か、SEO・MEOの対策を打っているかどうかを必ず確認しましょう。打たれていない場合には、ホームページを作り直し、SEO・MEO対策に取り組みましょう。 親子承継の場合、患者は、これまでの先生を「大先生」、後継者を「若先生」と呼ぶ場合もあると思います。大先生についている患者は、大先生と若先生のやり方を比較します。診療方針が一致している場合は問題ありませんが、異なる場合は患者から「大先生とは違う」と言われ、患者が離れるということが起こります。そのため、一定期間は引き継ぎ期間を設け、徐々に方針を変更するのが良いでしょう。 監修:㈱日本医療企画 取材年月:2022年3月

【解説】スタッフも承継するなら「処遇は変わらない」を明示しよう

【解説】スタッフも承継するなら「処遇は変わらない」を明示しよう

<著者>岩田義明 株式会社富士経営総合センター コンサルティング事業部チーフコンサルタント 事業承継において「スタッフもそのまま引き継ぐ」ケースはしばしば見ることができますが、特に親子承継の場合、「先代の頃のやり方」が強く残ることが想定できそうです。患者の安心感を得やすい一方、後継者としてはやりづらい面もあるようです。注意点を解説していただきます。 歯科医院を承継する後継者にとって、あらかじめ患者の個性や性格が分かり、診療の流れを熟知しているスタッフを譲り受けられることは大きな魅力です。院長が変わっても同じスタッフが継続して勤めてくれれば、患者も安心して来院できます。 事業承継にあたり、スタッフを承継できるメリットは、①スタッフを採用する費用がかからない、②スタッフを教育訓練する費用がかからない、③採用教育の時間を削減できる、④患者との関係性ができているため、経営者交代による患者離れを防げる――という点が挙げられます。  デメリットは、①前院長のやり方を変えにくい、②スタッフの在職年数が長い場合、退職金の支払いが高額になる(隠れ債務の存在)――という点が挙げられます。 その中で、スタッフの処遇条件、退職金、有給の付与をどうするのかなど労務の問題をあらかじめ取り決めておくことはとても重要です。 明確な取り決めをせずに承継すると、新しい処遇にスタッフが不満を持ち、退職することが容易に考えられます。そうなると、スタッフ補充のために新たに採用・教育コストが発生するため、後継者は不満を持ちます。 したがって、事業を承継する側は、スタッフの退職リスクが少なくなるように手を打たなければなりません。 たとえば、「『処遇は少なくとも半年から1年は変わらない』という取り決めをする」「前院長が半年から1年程度残り、患者の引き継ぎやこれまでのやり方を伝える」という方法があります。 一定の引き継ぎ期間を設け、これまでのやり方やスタッフ、業績について後継者が理解をしたうえで、変更すべきものは変更するのであれば、理解も得られやすくなります。 合わせて、雇用契約書などの取り交わしができていないのであれば、この機会に取り交わし、安心して働ける環境を提供する経営者であることを示すのがよいでしょう。 親子承継の場合、処遇を変更しなければ、スタッフはそのまま勤めてくれることが多いものです。ただ、長年勤めているスタッフが後継者である新院長を子どものころから知っている場合、お互いにやりづらかったり、新しいやり方の導入にスタッフが消極的だったりすることが考えられます。 監修:㈱日本医療企画 取材年月:2022年3月

【解説】定款変更の場合は数カ月の余裕を見よう

【解説】定款変更の場合は数カ月の余裕を見よう

<著者>渡辺貴之 ネットワーク渡辺税理士法人代表社員 公認会計士・税理士・行政書士・コンサルタント 親子承継の際には「法務局」「都道府県」「保健所」「厚生局」でそれぞれ、変更手続き・届け出が必要になります。法務局への理事長の登記変更は真っ先に実施する必要があるようです。それぞれの機関にも、遅れることなく対応を進めたいものです。 目次 01:「法務局」に対する登記の変更 02:都道府県」に対する理事・理事長変更の届出 03:「保健所」に対する管理者の変更 04:「厚生局」への届け出 05:見出し05 06:見出し06 07:見出し07 08:見出し08 09:見出し09 10:見出し10 医療法人を管轄する機関は基本的に「法務局」「都道府県」「保健所」「厚生局」の4つであり、「親子承継」の際にはそれぞれの機関への対応が必要となります。 1.「法務局」に対する登記の変更 親子承継にあたって理事長を変更していく際には、法務局に対して理事長名の登記変更が必要となります。これは理事長変更後、すみやかに実施してください。 2.「都道府県」に対する理事・理事長変更の届出 医療法人を規制する医療法は都道府県の管轄となります。理事長変更については、「医療法人役員変更届」の都道府県庁担当窓口への提出が必要となります。手続きは簡易的なもので、この変更届は「遅滞なく」提出となっており、変更ために事前に準備しておくものはあまりありません。 ただ、「事業承継の際に法人名を変更する」「決算月を変更する」など医療法人の定款に記載されている項目を変更したい場合は注意してください。医療法人の定款記載事項を変更する場合には、事前に都道府県の認可を得なければならず、変更には数カ月を要することが一般的です。 3.「保健所」に対する管理者の変更 医療法人で運営をされている場合、開設者は医療法人、管理者は先代となっている場合が多いでしょう。事業承継の時には管理者を先代から後継者に変更する手続きをします。 なお、保健所ごとに見解が若干分かれるところですが、私がこの記事の執筆にあたって保健所に確認したところ、「当該変更に伴う新規指導はない」との回答を得ております。 4.「厚生局」への届け出 保健所への管理者変更にともない厚生局への届け出も実施します。医療法人の親子承継において出資金の承継が大きな議論となりますが、出資金の移動に伴って外部機関へ届け出を行う必要はありません。 ただし、誰がいくら所有しているのかが不明になりやすいため、この際に改めて書面を作成し保存することが必須です。

【解説】承継と同時の引き渡しは不要だが早めのシミュレーションが大事

【解説】承継と同時の引き渡しは不要だが早めのシミュレーションが大事

<著者>渡辺貴之 ネットワーク渡辺税理士法人代表社員 公認会計士・税理士・行政書士・コンサルタント 親子の承継時に慎重に進めるべき案件の一つが土地・建物の引き渡しです。そもそも不動産は金額が大きくなるだけに、相続対策をはじめさまざまな観点から対策を練る必要があるようです。早めにシミュレーションし、スムーズな承継を目指しましょう。 「親子承継において、診療所の土地・建物を同時に後継者へ渡す必要があるか」との質問を受けることがあります。それに対してお答えするには、まず、「誰が診療所の土地建物を所持しているか」が、ポイントになります。先代や先代の配偶者が個人で所有しているか、医療法人が所有しているかを、近くの法務局で登記簿謄本を参照・確認してみる必要があります。 土地・建物の所有変更等はすべて法務局へ登記をしなければなりません。登記簿謄本での情報が、第三者に対して所有権を主張できる情報となります。 しかし、先代の認識と、登記簿謄本での所有者が違うことがあります。 医療法人設立時に土地・建物を医療法人に拠出したにもかかわらず、その際に所有者変更の届け出を法務局に出していないことが原因である場合が多いのです。このようなことがあれば、即座に取引のある司法書士等に確認をしてもらい、登記を変更してください。 次に、医療法人が診療所の土地・建物を所有している場合は、先代から後継者に当該土地・建物を承継する必要はありません。医療法人の出資金を先代から後継者に承継すれば、実質的に土地・建物も承継されるため、それで手続き完了となります。 一方、個人で所有している場合はどうでしょうか。 事業承継時において「診療所の土地・建物を後継者に渡さなければいけない」ということはありません。先代が個人として保有し続け、後継者は医療法人を通して先代に賃料を払い続けるケースも多くあります。 先代としても、退職し承継した後に収入がなくなるのが心もとないため、このように対応することで収まりがよくなります。 さらに、先代の相続時に当該土地・建物は、相続税法において小規模宅地の特例制度を利用することで相続税評価額を低くすることができます。 ただし、さまざまな条件もありますので、先代の相続対策のシミュレーションを描き、土地・建物を個人でどうするのかを決めるのが一般的です。 不動産は大きな金額になりやすく、また上記以外にもさまざまな論点が関係します。そのため判断を誤ると金額的な影響が大きくなります。早め早めに決めていくのがよいでしょう。 監修:㈱日本医療企画 取材年月:2022年3月

【解説】理事長交代までは先代が責任をもって確認すべし

【解説】理事長交代までは先代が責任をもって確認すべし

<著者>渡辺貴之 ネットワーク渡辺税理士法人代表社員 公認会計士・税理士・行政書士・コンサルタント 歯科医院の事業承継は大きく、「親子承継」「院内承継(勤務医への承継)「M&A(医院売却)」が考えられますが、このうち最も多いのが、「親子承継」です。承継がスムーズであったり、方針・理念を継続しやすかったりとメリットが多い一方、資金面での手当てなど、課題もあります。   親子承継における問題の一つに、「医院のお金の管理をいつから、どの範囲まで後継者に任せてよいか」があります。経営の承継をしていく以上、後継者は自身の医院の状況を判断し、適切な投資をして、収益を上げ、さらにその収益から生まれるお金で再投資をしていく必要があります。 しかし、先代には「息子・娘は経営の苦労を知らない。だからお金を使いすぎてしまう」という不安を抱えている方が多いのも事実です。 本記事がこうした不安を持たれている方の助けになれば幸いですが、私の答えは、「理事長を交代するまでは、お金の主たる管理は先代が責任をもって最終確認し、後継者は交代をするまで先代の許可をもらい投資を行っていく」というものです。 医療法人の財産は、先代が今までの苦労のもとに築き上げた財産です。しかし、医療法人に後継者が理事として戻り経営に携わるようになると、医療法人の財産についても、自分に自由な意思決定権があると勘違いされる方が多いです。 これは私の経験則ですが、そのように勘違いされる後継者ほど、前述の「経営の苦労を知らない(想像しない)」方が多いようです。親子であっても、経営面ではしっかりとシビアに考えていかなければなりません。理事長交代ができるようになるまで後継者が育ってきてから、お金の決定権を与えるようにしましょう。 では、どのように後継者を育てればよいでしょうか? 先代が会計事務所と打ち合わせをする際には必ず同席をさせ、まず医院の経営数値の感覚を覚えさせることから始めてください。後継者が、打合せの中で、各主要数値の基準値を知り、結果として「いくらキャッシュが残るのか」を把握できるようになることが重要なのです。 その後、先代の許可をもらい、数百万円単位の投資判断をし、投資の結果がどうなったかをしっかりと把握・分析することが次のステップとなります。 親子承継においては、退職金といった大きな支出があったり、承継時点で内装等を大規模修繕するケースが多く見られます。特に持ち分あり医療法人の事業承継では、先代から後継者に出資金の贈与を行う必要がありますが、退職金で大きな金額を支給しないと、後継者への出資金の贈与額が多額になり、それが医療法人のキャッシュフローをきつくしてしまいます。 ぜひ、しっかりと法人の損益やキャッシュの予測を立て、後継者に説明し、後継者のお金に対する教育を行ってください。

【ケーススタディ】ペインクリニックのなかでも神経ブロック注射に特化

【ケーススタディ】ペインクリニックのなかでも神経ブロック注射に特化

<取材先>大宮ペインクリニック(さいたま市大宮区) 吉田史彦院長 目次 01:整形外科では解消できない痛みのニーズに着目 02:「ブロック注射」限定は治療の質と経営の担保のため 03:専門性と収益を両立する事業モデルの検討が不可欠 04:見出し04 05:見出し05 06:見出し06 07:見出し07 08:見出し08 09:見出し09 10:見出し10 整形外科では解消できない痛みのニーズに着目  JR在来線や新幹線など計14路線が乗り入れる巨大ターミナル駅である大宮駅から徒歩3分の好立地に、2019年、大宮ペインクリニックは開業しました。 同院は、麻酔科医として大学病院やペインクリニック、さらには整形外科診療所でも研さんを積んだ吉田史彦院長による、主に脊椎疾患などの痛みを対象とした「神経ブロック注射」専門のペインクリニックです。 「整形外科にも脊椎疾患等の痛みに悩む患者さんが大勢来ますが、一般的な整形外科の場合、物理療法や内服薬程度の治療しかできず、効果を実感していない人も少なくありません。私が以前勤務していた整形外科診療所は、ペインクリニックにも力を入れており、そうした痛みに悩む患者さんに対しブロック注射などで痛みを取ってあげると、非常に喜ばれたのです。巷の整形外科領域では解消できない痛みの治療へのニーズを感じました」 そんな同院では完全予約制を採用し、問診や患者に自身の疾患や「神経ブロック注射」に関する説明などにも30分以上時間を割き、患者自身が受ける治療を十分に理解したうえで実施することを重視しています。いくら専門性の高い治療でも、患者がその意義を理解していなければ、十分な効果が発揮されないからです。HPでもどういった疾患や痛みが同院の治療の対象となるのか詳細に記載し、主に整形外科領域の脊椎疾患の痛みが対象である旨を発信しています。 「ブロック注射は、麻酔科医の高い専門性のうえで成り立っている治療です。慢性的な痛みに悩む人がより身近にブロック注射を受けられるようにすることが当院の掲げるコンセプトですが、痛み止めの薬を出してもらうのと変わらない気軽な治療だと思われるのは望ましくありません。ブロック注射が必要ない症状の患者さんも来てしまうからです。本当に当院が診るべき患者さんのみに来てもらい、十分な時間をかけて治療方針への理解を深めるために、あえて受診に対するハードルを設けているとも言えます」と吉田院長。 また、本当に診るべき患者層に絞って診療し、結果を出すことは、院長自身のモチベーションの持続にも大きくかかわってくるといいます。 「ブロック注射」限定は治療の質と経営の担保のため このように、脊椎疾患を中心とした「ブロック注射」を専門としている同院ですが、当初は「ブロック注射」に限らない一般的なペインクリニックからスタートしました。 あえて「ブロック注射」専門に舵を切った狙いについて吉田院長は、「自分が特化したかったというよりも、実現したい診療方針と経営の持続性の両立を模索した結果、『ブロック注射』専門にならざるを得なかった」と振り返ります。 完全予約制で十分に時間を取り、患者への説明や治療への理解を深めていく診療方針にこだわると、必然的に時間内に診られる患者数は限られます。一方で、大宮の一等地に構え、ペインクリニックとして専門設備にも投資しており、診療所事業を継続させるには、保険診療内で一定の収益を確保できる経営戦略が必要でした。そこで、「痛みの悩みを何でも診る」薄利多売路線ではなく、「本当にブロック注射が必要な痛みだけを診る」現在の専門特化路線に転換しました。 「当院の診療方針で単価の安いものから高いものまですべて行っていては、およそ経営は成り立ちません。四十肩などの整形外科で対応できる疾患は整形外科に任せ、当院はペインクリニックでしかできない治療に特化したほうが、医療機関としての社会的な役割も果たせるし、経営的にも安定すると判断し、現在のスタイルに落ち着いたのです」 現在は、医師は吉田院長1人、スタッフは非常勤を含め看護師2人、受付2人体制で、1日約30人程度の痛みに悩む患者を診ています。 専門性と収益を両立する事業モデルの検討が不可欠 今後の専門診療所の可能性について吉田院長は、「WEB社会になり広域から集患できるようになったからこそ可能性が出てきた開業スタイル」と分析するも、専門性を担保するかつ収益を確保できる事業モデルを事前に考えておかなければ、継続は厳しいと話します。 その背景として、現行の保険診療制度では、時間をかけて質の高い専門医療を提供するよりも、より多くの患者を全般的に診ていくほうが収益を上げやすい仕組みになっていると指摘します。 「言ってしまえば、軽症の患者さんを数多く診ていくほうが楽に収益が上げられるということです。こうした薄利多売の診療所では、当院で診ているような専門性の高いニーズは抜け落ちてしまいます。ただ、社会保障費が削減される一方のなか、医療機関にかかる必要のない軽症に財源を消費するのではなく、より専門的な医療に限られた財源を投入するほうが、本来は望ましいはずです。そのためには、診療報酬体系の見直しも重要ですが患者側への医療のかかり方に対する教育も必要だと感じます」 そうした体制にシフトしていくなかで、専門診療所が社会的な役割をより担えるようになっていくのではないかと語りました。 制作:株式会社日本医療企画 (取材年月:2021年3月)

【ケーススタディ】院外からの連絡をすべて精査し院長に代わって迅速に対応

【ケーススタディ】院外からの連絡をすべて精査し院長に代わって迅速に対応

<著者>医療法人一尚会事務長 谷口竜介 新型コロナウイルス感染症の影響で、事務長の方々は院内感染対策やスタッフの危機管理、患者数減によるシフト調整、各種補助金・助成金の申請など、さまざまな対応に追われていることと思います。そうしたなかでも、「事務長がいてよかった」とほめてもらえると、事務長もうれしいです。 そう言っていただける主な理由の一つに、「対応が早い」があります。たとえば、事務長仲間や他院からの新規紹介患者の紹介連絡やMRからの面談依頼、支払基金・国保連合からの算定要件に関する連絡、医師会や保健所、労働基準監督署、人材派遣会社、医療機器メーカーなどからの営業電話、顧問の税理士や社労士からの連絡など、診療所にかかってくる電話は数多くあります。 これらに院長がそのつど対応していては時間がいくらあっても足りません。診療時間内でも院長に代わり対応できるのは、事務長の強みではないでしょうか。また、支払基金や国保連合からの問い合わせは、詳細を把握する人材が対応するほうがよい場合もあります。 「時は金なり」、スピード感ある対応で、早い成果を生み出します。このように、院外からの問い合わせには、まず院長との間に入り要件を精査する人材が必要ではないでしょうか。相談員や看護師、事務でもいいですが、組織方針や院長の意向に沿う働きを求めるならば、事務長が適任でしょう。 とはいえ、どんな仕事も初めから経験なくできるようにはなりません。事務長を育成するのなら、いろいろな仕事をさせ、裁量権、決定権を譲渡し、そのうえで責任を担わせていく──。そして、経営面における院内外の立ち位置も相応にしていただきたい。経営側に立たせることで、診療所経営がどう成り立っているのかがわかるようになっていきます。 また、管理職に就かせることで、経営に対し第三者目線(労働者)から当事者目線(経営者)へと変わっていきます。事務長が経営者としての目線を身につければ、院長も医療に専念できる時間が増やせるのではないでしょうか。 私自身も、さまざまな経験をさせていただきました。在宅医療の開始当初は、地図にマーキングし高齢者施設の営業に行ったり、大阪24区、府下の保健センターをめぐったり、時間外の往診調整も行っていました。 それ以外にも、法人化の際の各種手続き、分院展開やクレーム処理に加え、職員が40人を超えるまで社労士と契約していなかったため、給与計算、明細書発行、振込、所得税の支払い、入退職時の雇用保険・医療保険・年金保険などの加入手続きや資格喪失届、離職届の作成……。6月の年度更新、12月の年末調整、市区町村への源泉徴収票の送付なども担当していました。ほかにも書ききれない仕事が山ほどあります。 他院の院長から、「事務長に何をさせればいいかわからない」と聞かれますが、何でもさせて良いのです。役割が人を育てます! 全国の事務長に役立つ情報を模索し、当会でも有益な交流ができるように私も日々、事務長の職務を味わい尽くしたいと思っています。 制作:㈱日本医療企画 (取材年月:2020年2月)

【ケーススタディ】収支計画作成を経て銀行が決定&SNSが夢を実現していく!

【ケーススタディ】収支計画作成を経て銀行が決定&SNSが夢を実現していく!

<著者> 野崎浩司 救急科専門医・麻酔科認定医 はじめに、勤務医時代には考えもしなかったお金の話。開業にあたり銀行から融資を受けるには、事業収支計画表の作成が必要でした。住宅ローンなら、「総額◯◯万円で△年ローン」で借りられますが、開業ではそんなアバウトは許されません。「何がメインか?」「開業予定地周囲の医療機関の診療科は?」「人口統計は?」「立地は?」などの条件から、1日の外来患者数を想定し収支計画を作成します。 私は、「プライマリ・ケア(外科処置含む)+ペインクリニック+リハビリテーション+自費診療(多汗症とAGAを予定)」と、あまり見かけないスタンスで、正直自分では何の予想もつきませんでした。そこで、前述の条件などから表のようなものをコンサルタントにつくってもらいました。 1年目(2020年10月〜21年9月)の1日の外来患者数は、内科20人、ペイン5人、リハビリ5人が目標。そこから毎年徐々に増患してくれることを祈りつつ、日々努力することになります。ただ、税理士や銀行の医療担当者からは、外来患者数の上方修正や1人当たり診療単価など最終版まで何度かアドバイスを頂戴しました。これも、住宅ローンとは違うところ。 しかし、これはあくまで予想で、実際はゼロに近い日もあるはず。対して支出は人件費や家賃、医療機器の支払いなど、確実に減るのです。まさに、「取らぬ狸の皮算用」を50歳にして知ることに……開業って恐ろしい……。 そんな計画書を基に、2つの銀行と面談。昨年末A銀行に好条件をいただきこれで決まりかと思いきや、B銀行からさらに予想外の低金利を提示していただくことに。同条件なら前者で融資を受けたいと思っていましたが、かなり差があったためコンサルともよく話し合い、B銀行に決めました(私が住宅ローンを借りたメインバンクだったなどの効果もあったのだろうか?)。 Twitterで出会った2人の先輩 次に、SNSの話。炎上など悪い印象もありますが、活用すれば情報収集はもちろん、相談や宣伝などもでき、メリットはとても大きいと思っています(しかも無料!)。 たとえば、Twitterで知り合い、DMを送り施設見学させてもらったのが、帝都メディカルクリニック西新井駅前院の藤田将英先生です。34歳とお若いが、麻酔科出身で超音波診断を用いた整形やペイン、物療に頼らないリハビリで集患に成功しています。約束した日の診察終了後お邪魔し院内の説明を受け、その後食事をしながら多くのことを教えてもらいました。わざわざ東京まで押しかけた意味があったし、以降もDMで相談させていただく関係が続いています。 このようにSNSでは、自身が開業時に苦労した・していること、診療で行うとメリットがあることなどを後進に包み隠さず教えてくれる心の広い先達も多くいらっしゃいます。その代表格が、「MM」先生と「よいこはこいよ」先生。Twitter以外にも、開業前後の医師向けオンラインサロンをSlackアプリで提供しています。機器や経費、融資、人事など、気軽に相談できる場となっているため、とてもありがたい。開業前後の人はフォローしておくのをおすすめします。 とっておきのイラストでインスタ映えを狙う(!?) また、ペットの黒柴の日記に始めたInstagram(インスタ)では、癒し系イラストで盲導犬サポートショップの商品デザインも手がける「セツサチアキ」さんにDMを送り、リハビリ室の壁に使うイラストを依頼。年齢や性別、障害の有無にかかわらず楽しく暮らしていける社会のイメージで書いてもらうことに。 「小児科の待合や廊下では見かけるが、リハビリ室の壁にイラストが描かれているところはあまりないのでは?」と思ったのがきっかけでしたが、図1のラフスケッチを拝見し、リハビリする人に癒しと元気、明るさを与えてくれると確信しました。また、リハビリ室は別名「ひばりコミュニティスペース」として地域の皆さんのためにいろいろ利用したいので、「イラストのあるクリニック」として他院との差別化にもなれば良いのですが(「映えスポット」にもなれば良いなぁ)。 さらに、ドラマ「砂の器」の題字をはじめ、すばらしい文字を書かれる筆耕アーティスト道口久美子さんにも、名刺などに使う名前を2パターン書いてもらいました(図2)。いずれもそれまでのお二人の作品を見ていたので、イメージどおりのすばらしい作品をいただき、とても満足です。 全員に快くご助力いただけるわけではないですが、自分の夢=開業のためには多少、図々しいと思われても勇気を出し連絡してみるのをおすすめします。「あのとき聞けばよかったー!」と一度きりの人生で絶対に後悔したくないし。 監修:株式会社日本医療企画 (取材年月:2020年4月)

【解説】保証人、担保となる不動産の有無に加え、運転資金は半年分の経費・生活費を想定すべき

【解説】保証人、担保となる不動産の有無に加え、運転資金は半年分の経費・生活費を想定すべき

<著者>日本クレアス税理士法人 大阪本部会長 上田久之 独立開業時は、一定程度の資金繰りのめどを立てておきたいものです。保険診療報酬は2カ月分遅れで入金され、不動産関連のコストをはじめ、さまざまな費用が発生します。また贈与資金とみなされると税務関係の懸念も出てきます。見落としがちな6ポイントを解説していただきます。 目次 01:自己資金はどのくらいありますか 02:連帯保証人の予定者はおりますか 03:親族等でお金を融通してくれる人はいますか 04:担保提供ができる不動産をお持ちですか。または、不動産を担保提供してくれる人はいますか 05:現在住宅ローン等の残高はありますか 06:事業計画作成時に盛り込みたいこと 当事務所で使用している、独立開業を予定されている先生向けの資金関係チェックのヒアリングシートに基づき、資金関係で注意すべき6ポイントをご説明します。 自己資金はどのくらいありますか 少額すぎて金融機関に開業の意欲が低いと思われてはいけませんし、逆に先生ご本人の勤務医時代の収入からみて、多額すぎると、実は親族からの贈与資金が含まれているのではないかと税務関係が気になることがあります。 連帯保証人の予定者はおりますか 最近の民法改正で、従来よりも連帯保証人をお願いすることが難しくなりました。改正された民法のもとでも、保証人となっていただける人物がいるかを確認します。 親族等でお金を融通してくれる人はいますか 親族から借入をして、開業資金に充てることはよくあります。金融機関よりは返済条件も緩やかですので、ありがたいのですが、借入をした時の契約書や返済の実績がないと、税務署から贈与ではないかとの認定をうけることがありますので注意が必要です。 担保提供ができる不動産をお持ちですか。または、不動産を担保提供してくれる人はいますか 不動産を所有していても、その不動産に抵当権がついている場合は、融資においては抵当権の分だけ評価が下がります。また、お持ちの不動産の名義も登記簿謄本で確認しておきましょう。ご兄弟と共有になっているような場合は、その方の同意が必要となります。 また、例えば、お父様の所有される不動産を担保提供していただく場合、他のご兄弟等にも一言、挨拶をしておいたほうが無難です。 現在住宅ローン等の残高はありますか 住宅ローンの返済がある場合、事業用と合わせて2つのローンをかかえることになります。慎重に返済計画を作ることが重要です。 事業計画作成時に盛り込みたいこと 運転資金として、だいたい半年分の経費支払いを見込みます。保険診療の未収金は、2カ月分遅れで入金されるからです。また、半年分位の生活費もみておいたほうがよいでしょう。 洩らしやすいのが、不動産関連の付随コストです。不動産仲介手数料や建物の消費税、借入費用、不動産取得税、不動産の登記税など合算すると、相当大きな金額となるので、注意が必要です。 著者:上田久之 監修:㈱日本医療企画 取材年月:2022年3月

【ケーススタディ】迅速さを武器に病理診断を専門に業績拡大

【ケーススタディ】迅速さを武器に病理診断を専門に業績拡大

<取材先>医療法人アストロイノベーション 淀屋橋クアトロアールクリニック(大阪市中央区) 目次 01:遠隔診断も活用して スピーディーな診断を実施 02:病理診断の要件が見直しに 診療報酬改定が追い風に 遠隔診断も活用して スピーディーな診断を実施 大阪府の府庁所在地であり、大手企業本社や大阪証券取引所などが立ち並ぶ活気あるオフィス街エリアでもある大阪市中央区。そんな中心地に位置するビルの8階にあるのが、淀屋橋クアトロアールクリニックだ。同院には、いわゆる風邪といった一般患者が来院することはめったにない。なぜなら、同院が専門とするのは、病院や診療所、検査機関からの依頼を受けて行う、「病理診断」「臨床検査診断」「放射線診断」だからだ。 管理者の菅野渉平理事長は、病理専門医、細胞診専門医、臨床検査専門医、放射線診断専門医など12の専門資格を保有する、同院の最終責任診断医だ。現在掲げる3つの診断事業のうち、最も伸びているのは、病理診断だという。 「ほとんどの医療機関は、検査機関に病理検査をするための標本づくりを依頼し、その標本を元に病院の医師が診断を行っています。当院は、病理診断を行う医師が不在の医療機関から依頼を受けて診断を行っています」(菅野理事長) 具体的には、がんや腎生検の病理診断は、光学顕微鏡像をデジタル化し、ディスプレイ上で顕微鏡観察できるバーチャルスライドを使用。パソコンで遠隔診断ができるため、病理診断医がどこにいても迅速に診断ができる。大阪、東京、アメリカにいる病理診断医が連携し、常にダブルチェックを経てスピーディーに診断結果を返送する。 手術中に採取した組織やその周辺の組織が、がんであるかどうかを診断する術中迅速診断にも対応。限られた時間で、手術で摘出した範囲が適性かどうか、手術を完了させてよいかを判断するため、最新のバーチャルスライド機器を導入した。好立地も、バイク便などで標本を受け取りやすくする狙いだ。 病理診断の要件が見直しに 診療報酬改定が追い風に ちょうど開業した2016年の診療報酬改定で、病理診断の要件見直しが図られたことも、成長の追い風となっているという。従前は、病院・診療所は病理診断科を標榜する保険医療機関に病理診断を依頼する際、病理判断料として150点を算定する仕組みで、依頼側に利益が残らなかった。 しかし、16年度診療報酬改定によって、同院のような施設基準を満たす医療機関と提携している旨を届け出ることで、病理診断料450点と病理診断管理加算120点を算定可能になった。この報酬から、依頼元の医療機関が同院に診断料を支払っても利益が残る仕組みになったのだ(図)。 同院はこの提携先としての要件をすべてクリアしているのに加え、検査機関ではできない術中迅速診断への対応や、検査機関に依頼するよりも迅速な対応が評判を呼び、口コミで依頼件数は右肩上がりに増加。現在、1日当たりの依頼検査数は150~200件に上り、術中迅速診断以外は、通常、他の検査機関では2週間前後かかる診断書の発行も、その約半分の1週間程度行なっている。 「常勤医3人と非常勤医師数人、事務スタッフ2人で連携しスピーディーに対応するようにしています。バーチャルスライドの機器導入にはコストがかかりましたが、それ以外は、基本的に人件費や家賃以外のコストはかかりません。検査1件当たりの報酬はそれほど高くないものの利益率は高く、売上は毎年最高益を更新しています。今年は検査機関を新規開設したほか、さらに1機関を買収し、診断だけではなく、標本作成から一括受注できる体制を整える予定です」と、菅野理事長は語る。 さらに、病理診断事業に続く同院の柱として伸びている事業として、産業医活動がある。菅野理事長は、第1種作業環境測定士や労働衛生コンサルタントの資格も有し、院内にも労働衛生コンサルタント事務所を併設している。 「病理診断や放射線診断の医師は絶対数が不足しているため、大学や検査機関に努める医師は過酷な労働を強いられています。私自身もそんな体験をしたことから、産業医の勉強を始めたのですが、開業後、産業医へのニーズが多いことに驚いています。当初は数事業所に対応していましたが、今では65事業所の産業医を務めています」(菅野理事長) 「病理診断科」「放射線診断科」「臨床検査科」「労働衛生コンサルタント」――と、同院が掲げる事業は、どれも単価での開業で採算を取るのは難しい分野だ。病理専門医や放射線専門医は診断単価が安いため、検査機関や大学病院で勤務する道がほとんどである。 しかし、菅野理事長は、「単科ではなく、専門性の高い複数化を標榜すれば、各分野の利益を合算できるほか、どれか1事業が不振でも他事業で補えるというメリットがあります」と、強調する。 今後は、各専門分野の医師を追加雇用し、ワークシェアと事業規模拡大につなげるとともに、中長期的には、診療所や病院とのネットワーク強化やM&Aを進め、健診から診療、検査、手術など治療までをグループ内で実施できる体制をつくりたいと語る。 制作:㈱日本医療企画 (取材年月:2021年3月)

【解説】実地検査をスムーズに進めるために設計事務所や行政書士などの力も活用

【解説】実地検査をスムーズに進めるために設計事務所や行政書士などの力も活用

<著者>日本クレアス税理士法人 大阪本部会長 上田久之 医療機関に限らず、開業時はさまざまな法的手続きが必要になりますが、特に医療機関は医療法や健康保険法も絡んでくるだけに、一層煩雑になりそうです。保健所への相談はもちろん、設計事務所や行政書士等の専門家の力も上手に活用する必要がありそうです。 目次 01:診療所の開設届など 02:保健所の実地調査 03:その他、各法に基づく手続き 04:見出し04 05:見出し05 06:見出し06 07:見出し07 08:見出し08 09:見出し09 10:見出し10 開業時の手続き・法律関係は、医療法、健康保険法、労働法、不動産関連法、税法等各方面の手続きが多数あります。 ①診療所の開設届など 医療機関特有の重要な手続きとして、医療法、健康保険に関する手続きが挙げられます。流れとしては、まず保健所へ事前相談に行き、指導を受けて、診療所開設届を診療所開設後10日以内に、保健所へ提出します。その後、保健所の実地調査終了後、各地方の厚生局へ保険医療機関指定申請書を、指定を受ける希望月の前月の定められた日までに提出します。 ②保健所の実地調査  診療所の開設は病院のような許可制ではなく、届出で済みますが、保険医療機関の指定を受けて、開業するためには、保健所の検査が必要です。いかにスムーズに検査をパスするかが、手続きのポイントになります。実地調査を無事にパスするために、ぶっつけ本番ではなく、事前に保健所に相談に行き指導を受けることになります。建築や内装工事をする前に、図面を持参してレイアウトに問題がないかについて指導を受けます。また、開設スケジュールや広告の仕方、診療所の名称などにいても相談をすることがあります。  その後、開設届を提出すると、実地調査の日程を、厚生局への指定申請の締切日を考慮しながら決定します。  実地調査時には、開設者等の立ち会いのもと、当初持参したレイアウトどおりに建築や内装ができあがっているか、水道関係、消化設備の確認等が行われます。  立入り検査の結果、何らかの指摘や指導があった場合は、改善を要求されることがあります。実際には、放射線の関係や、医薬品の管理、個人情報の取扱いなどに関する事項で、多くの指摘が行われています。検査を滞りなくパスするためには、診療所の設計に慣れている設計事務所や工務店の採用、行政手続きに詳しい行政書士等の専門家の活用をお薦めしています。 ③その他、各法に基づく手続き その他、生活保護法の医療を取り扱うためには、福祉事務所等へ生活保護法指定医療機関指定申請書を、労災医療機関の指定を受けるためには、労働基準監督署へ労働保険指定医療機関指定申請書を提出します。労働関係では、ハローワーク、労働基準監督署への届出が必要です。税務署関係では、青色申告書を選択しなければ、損失が出た場合の翌年繰越や青色専従者給与の支給ができないので、あわせて届出が必要です。 監修:㈱日本医療企画 制作年月:2022年3月

【解説】「開業、即、大量離脱」を防ぐためにも押さえておきたい5つのポイント

【解説】「開業、即、大量離脱」を防ぐためにも押さえておきたい5つのポイント

<著者>日本クレアス税理士法人 大阪本部会長 上田久之 もともと医療・歯科診療は労働集約型産業の典型例と言われ、スタッフの採用・定着はきわめて重要な経営課題と言えます。ただ、やみくもにスタッフをかき集めても定着は見込めません。採用計画から労働条件の設定などをあらかじめ準備しておくことが求められます。 目次 01:採用計画の策定 02:地域性や時期を踏まえて募集業者を選定 03:スタッフからよく出る不満と労働条件の整備 04:前の職場の人を連れてくる場合 05:院長夫人の関与  開業時の人事・労務としては、募集と採用が大きな課題となります。 ①採用計画の策定 開院にあわせて、まずはどの媒体に求人広告を出し、いつ頃面接をして、研修は開院の何日前に行うといったスケジュールを設定します。また、歯科衛生士、助手、受付など、職種ごとに何名採用するかを決めます。採用面接時には医院の労働条件について、求職者に説明をしなければなりませんから、事前に労働条件を決めておきます。 ②地域性や時期を踏まえて募集業者を選定 募集方法としては、ハローワーク、衛生士学校、知人の紹介、折り込みチラシ、グッピー、メドレーといった業界特化型の業者等の中から、地域の特性、時期などを勘案して、どの方法をとるか決定します。 ③スタッフからよく出る不満と労働条件の整備  スタッフから出る不満として、次のようなことをよくお聞きします。 ・前の職場と扱いが違う ・税金や社会保険の関係で給与を103万円または130万円以内に抑えたい ・入社前に聞いていた条件と違う ・一番忙しい時期に合わせて人を増やしてほしいと言われる ・パートタイマーでも有給休暇を付与してほしい ・労働法規が守られていない  上記のようなことがもとでトラブルになり、開院後すぐにスタッフがバタバタと辞めていくといったことがないようにしたいものです。  労働条件をあらかじめ定めておき、面接時には提示する必要があります。給与・保険関係・労働時間・残業手当・有休休暇・初回の賞与・賞与の月数・退職金・服務規律・交通費などは明確に示すべきでしょう。  ただし、これらの項目は労働法規の知識が必要ですから、可能であれば社会保険労務士にアドバイスをしてもらうことを、お薦めしております。 ④前の職場の人を連れてくる場合  この場合、前の職場の院長とのトラブルが発生しないように注意が必要です。また、前の職場では、お互いに従業員同士であったわけですが、今度は雇い主と従業員の立場になり以前のよい関係が崩れてしまうことがあるので注意が必要です。 ⑤院長夫人の関与  受付や歯科衛生士として全面的に関与するか、経理事務等でバックヤードで関与するかが望ましいでしょう。中途半端な関与は従業員とトラブルにつながることがあります。

【解説】ホームページ立ち上げは当然 国民に定着したLINE活用も検討しよう

【解説】ホームページ立ち上げは当然 国民に定着したLINE活用も検討しよう

<著者>日本クレアス税理士法人 大阪本部会長 上田久之 LINEは今や国民の60%が使用するツール。10~20代ではメール以上に馴染みのあるコミュニケーションツールとなっています。こうしたSNSの活用はもちろんですが、内覧会や地域の有力者へのあいさつ回りなど、地域に根差した集患も怠らないようにしましょう。 <著者>日本クレアス税理士法人 大阪本部会長 上田久之 目次 01:LINEの活用 02:内覧会の実施 03:その他の地道な集患活動 LINEの活用 いまやLINEは、国民のおよそ60%が利用する巨大なSNSツールとなっています(出典:総務省「平成30年版情報通信白書」)。 10代や20代ではLINEは、メールの利用者数を上回っております。飲食業やサービス業における集客活動において、LINE活用は一般的となっていますが、クリニックにおいても活用事例が増えております。 若い世代の患者数が多い場合、メールよりもLINEに慣れている人が多いのでLINEを活用し集患に繋げることが効果的です。LINEから友達登録をすれば「名前」、「診察券のID番号」を入力することで、予約・キャンセル、問合せが時間帯を問わずできるようになります。また、「休診日」、「診察時間の変更」、「新任のドクターの紹介」等、医院からの通知も簡単に一斉配信をすることができます。 また、インプラント、マウスピース矯正、ホワイトニングといった医院が注力している分野についてのプッシュ型通知も簡単に行うことができます。予約日直前の患者さんへの通知もキャンセル率低下に有効な手段となります。開業時のホームページの立ち上げは当然ですが、LINEの活用も検討してみてはいかがでしょうか。 内覧会の実施 専門業者に依頼して開業時に内覧会を実施されるところが増えています。開業日前後の日曜日を含めて、2~●(修正ポイント)日、専門スタッフがのぼりや風船を持って診療所の近隣の街頭に立ち、通行している人を医院へ案内します。院内を見学していただき、スタッフや院長が施設や診療方針を説明して、その場で検診や治療の予約も取ります。集客の効果を上げるため、診療所の前で子供が喜ぶようなイベントを行います。 内覧会を実施した場合、そうでない場合よりも、概ね開業初月の診療報酬や来院数について、一定の効果が出ています。ただ、専門業者への支払いの費用が開業コストの数パーセントに及ぶこともあり、費用対効果の検討が必要です。 その他の地道な集患活動 開業地が商店街であれば、商店会長などにご挨拶に行ったり、美容室等に医院のパンフレットを置かせてもらいます。住宅地であれば、自治会長、民生委員、婦人会長等の有力者に挨拶をします。オフィス街であれば、企業の健康保健室の担当者にアプローチするといったことが考えられます。 在宅医療に注力される場合は、有料老人ホームに利用者を紹介する会社や、ケアマネジャー、訪問診療を手掛けている内科クリニックなどとの連携を模索します。開業地の特性に応じて地道な集患努力も必要となります。 監修:㈱日本医療企画 取材年月:2022年3月

【解説】チェア3台とレントゲン等で2000万円…設備を揃えるにも収支の視点は不可欠

【解説】チェア3台とレントゲン等で2000万円…設備を揃えるにも収支の視点は不可欠

<著者>日本クレアス税理士法人 大阪本部会長 上田久之 開業時には設備も揃えますが、採算見込みを度外視した「過剰投資」は避けたいものです。チェアの台数に応じた収入目標、返済目標等の事業計画を作成することがポイントになるようです。収支とのバランスという視点で設備を考えてみます。 目次 01:テナント開業の場合の開業コスト 02:テナント開業の場合の目標収入 03:テナント開業の場合の家賃と収入の比率 04:戸建開業の場合の開業コスト 05:チェア台数で決まる総コストと目標収入 06:見出し06 07:見出し07 08:見出し08 09:見出し09 10:見出し10 <著者>日本クレアス税理士法人 大阪本部会長 上田久之   歯科医院の開業でどのような医療機器の設備を整備すべきかについて、設備と収支の観点から考察してみます。 ①テナント開業の場合の開業コスト  テナント開業の場合、設備関連で内装工事費2000万円、チェア3台とレントゲン等の機器で2000万円ほど必要になります。他にテナント入店保証金と歯科医師会入会金および開業費で1000万円、運転資金として1000万円を準備すると、総コストはおよそ6000万円となります。 ②テナント開業の場合の目標収入  開業した初月から、いきなりレセプトが300枚になることは期待できません。徐々に収入は増えていきます。開業2~3年で安定した状態になった場合に、1年間の目標となる診療収入は、総コストの8がけ程度を目標とするケースが一般的です。6000万円の総コストの場合、診療収入は4800万円となります。患者数は、1日の患者診療単価を仮に6000円と想定すると、月20日診療で割り出すと1日の目標来院患者数は33人となります。 ③テナント開業の場合の家賃と収入の比率  テナント開業の場合、収入に占める家賃の比率が大きいと、利益の圧迫要因となります。 通常、家賃の収入に対する比率は8%程度で、それでも診療報酬の1ケ月分に相当します。家賃の収入比率は10%までに抑えたいので、逆に、月50万円の家賃がかかるのであれば診療報酬は月500万円が目標となります。 ④戸建開業の場合の開業コスト  戸建開業の場合は、テナント開業で必要な内装費、テナント保証金は不要ですが、その代わりに土地代、建築費がかかります。建物の面積、住居併用かどうか、土地の面積により、一概にいえませんが大都市圏においては、1億円から1.5億円の開業コストとなることもあります。仮に開業コストが1.5億円かかる場合、テナント開業のように総コストの8がけで、年1.2億円の診療報酬が必要かというと必ずしもそうではありません。  戸建開業の場合は、テナント開業では月間収入の10%近くを占める家賃が不要で、かつ、不動産を取得するための借入金の返済期間は、20~25年と長期に設定されるため、返済負担が軽くなるからです。 ⑤チェア台数で決まる総コストと目標収入  歯科医院のメイン設備であるチェアの台数により、診療所の内装費、建築費、家賃、人件費と各種のコストは連動しますので、チェアの台数に応じた収入目標、返済目標等の事業計画を作成することがポイントです。 監修:㈱日本医療企画 制作年月:2022年3月

【ケーススタディ】利用控えを減らす 身近な人との関係性づくり

【ケーススタディ】利用控えを減らす 身近な人との関係性づくり

<取材先> 株式会社ありがたい 取締役社長 井手 雄大 都内で1カ所、埼玉県内で2カ所のデイサービスを展開する株式会社ありがたい。新型コロナ禍においても、稼働率は90%を超えるデイサービスもあるなど、新型コロナに影響されない秘訣はどこにあるのでしょうか。 デイのほうが"安心"という環境を整える  地域密着型デイサービスありがたい池袋がある場所は、JR池袋駅から徒歩10分程度の住宅地です。「定員10名という限られた人数ではありますが、2020年3月から6月の稼働率を見てみると、一番低い4月でも92%を維持しています。5月以降は95%に伸びるなど、新型コロナによる影響をほとんど受けていません」と話すのは、同社取締役社長の井手雄大さんです。さいたま市内で展開している他の2カ所(大宮:2020年5月60%、2020年3月90%、浦和:2020年4月47%、2020年6月70%)と比べても、池袋が安定しているのがわかります。  実際、緊急事態宣言が出ている中であっても、同デイの利用を控えたのは1人です。それも、家族の要請で1カ月程度利用を控えた方であり、5月半ばからは利用を再開したといいます。  なぜ、高い稼働率を維持し続けられたのか――。その理由を、迅速な衛生管理体制の構築とその周知徹底を前提としたうえで、「職員が家族やケアマネときちんと信頼関係を築けているから、安心して送り出してもらえたからではないか」と、井手さんは分析します。  池袋の利用者は、独居ないしは夫婦で生活をしている人が多く、二世帯同居などは少ない傾向にあります。 「自宅に一人でいるよりは、ありがたいにいるほうがよっぽど安全であると、判断されたのではないかと思います。利用を控えていた方も、当デイ以外のデイにも通っていましたが、利用を再開したのは当デイだけということを考えると、安心感とともに通う意義があると感じてもらえているからではないでしょうか」と井手さん。  反対に、浦和や大宮は同居家族がいる利用者も多く、「心配だからこそ家にいてもらおう」という、利用者の家庭環境が利用に影響したと考えられるといいます。  通う意義という点で言うと、元々同社ではそれぞれのデイごとにコンセプトを明確にもち、デイに合ったターゲットを集客しています。池袋の場合は都心部にあるため、いろいろなデイサービスを見比べて決めた人も多く、集合レクを嫌がったり、食べ物にこだわりがあったり、早朝や延長などの柔軟な対応を求めるなど、一律なサービスではないものを求める利用者が少なくないです。つまり、「デイに通いたい」ではなく、「ありがたいに通いたい」という意識が高い利用者が多く、それが新型コロナ禍にあっても、「通うのが当り前」の場となり、稼働率の維持につながったのでしょう。 人を大切にできる職員だから信頼感が生まれる  また、ケアマネジャーとの関係性も稼働率には関係してきます。井手さんは、利用者の受け入れを打診されたら、ケアマネの話だけで受けるかどうかを決めるのではなく、利用者と会ったうえで判断するといいます。そのため、「コンセプトは掲げていますが、『ありがたいならどうにかしてくれるのでは?』という形で、ケアマネから相談を受けることもあります」と井手さん。  日頃の営業活動も功を奏し、リハデイありがたい浦和では、2020年4〜5月にかけて稼働率は落ちたものの、ケアマネからの新規の問い合わせは途切れないなど、ケアマネからも「必要」とされている様子が垣間見られます。  さらに、利用控えが少なかったことの根底にある要因として井手さんが考えるのは、「家族との信頼関係」です。信頼関係があるからこそ、「ありがたいは感染の不安がなく通えるデイである」という認識が利用者・家族にも生まれます。  そのような関係性を築くうえで同社が大切にしているのが、「自分の親を預けたくなるような安心安全で心寄り添う介護」という理念です。心寄り添う介護とはどのようなものかを、井手さんは次のように説明しました。 「ここに来ているご利用者は、誰かの大切な方です。その大切な方を大切にしてもらっていることがわかると、うれしく感じていただけます。そこから、私たちを頼りに感じていただけるようになり、信頼感を得てもらえる。そう思ってもらえるケアの必要性を、職員には常々伝えています」  この「誰かの大切な人へのケア」を徹底するうえでは、職員教育が必要だと指摘します。「もしも僕が職員の大切な人をないがしろにしたらどう感じる? と問いかけたうえで、別のお年寄りがないがしろに扱われたら客観的にどう見えるのか、どのように関わるとうれしいのか、自分なりの答えを出せるようにしていきます。自分で考え、答えを出すというインプットとアウトプットを繰り返すことで、人の気持ちを考えて行動できる人材に育てています」  こうした人材を育てることで、「ありがたいなら大丈夫」と周囲から信頼されるようになるわけです。  井手さんをはじめとして、ありがたいの職員たちが行っている新型コロナ禍でのサービスは、決して大がかりなことでも、目新しいことでもないです。しかし、日頃行っている身近な人との関係性づくりが、新型コロナ禍においても「ありがたいなら大丈夫」という安心感・信頼感につながり、利用率が維持されたのでしょう。

【解説】「働き方改革」を採用・定着につなげるために大切な2つの視点

【解説】「働き方改革」を採用・定着につなげるために大切な2つの視点

<著者> 株式会社Blanket(旧:株式会社Join for Kaigo) 取締役 野沢 悠介 2018年6月に成立した働き方改革関連法。2019年4月からは大企業から段階的に適用がスタートしています。時間外労働の上限規制の設置、有給休暇の取得義務づけ、同一労働における待遇差の是正など、企業・法人側に新たに対応が求められるものが多くあり、すでに働き方改革の取り組みに着手されている事業所も多いことと思います(図表1)。 制度変更や新たな取り組みの導入など、事業所にとっては負担や苦労も多い法改正対応。ですが、このような動きが生まれ、加速する背景には、働き方、ワークライフバランスへの関心の高まりが社会全体で広がっているということがあります。サービス形態によっては24時間365日、利用者の方々の生活のサポートをする必要があったり、制度上で必要な人員数が定められることもある介護事業所においては、他業種よりも働き方改革の推進に難しさを感じることもあるかもしれません。しかし、未曾有の人材不足の時代を迎えつつある介護業界において、「働きやすい職場づくり」はすでに「やった方がよいこと」から、「やらなければ生き残れないこと」へと変わりつつあります。 すでに働き方改革の実践のための手法やツールは多くありますが、法改正への対応に留まらずに、職員が「長く働き続けたい」、求職者が「ここで働きたい」と思ってもらえるような、本質的な〝働き方改革〟について考えてみたいと思います。 <小見出し> 手法検討の前に、課題分析を <本文> 結論から申し上げますが、本質的な働き方改革を進めるにあたって何より重要なことは、組織の現状と課題の正確な把握です。自組織の現状・課題に即さない形での「改革」をいくら進めたとしても、効果を上げることは困難です。働き方改革を前に進めるためには、まず組織内の「働きにくさ」が何から生じているかを明確にしていく必要があります。 進め方はいくつかありますが、特に重要となってくるのは、①従業員調査、②退職者分析の2点です。現在働いている職員や退職した(する)職員の生の声を拾い上げることで、課題を整理します。何らかのサーベイ(調査)ツールを用いたり、外部のヒアリング調査などを通じて、客観的に評価・分析を進めることも、組織内だけでは見えてこない課題を抽出できるきっかけになるかもしれません。 離職率が高いことに課題認識をもっていたある介護事業所では、当初は残業の削減や休暇取得率の改善等に着手しようとしていましたが、上記の形で課題分析を進めたところ、施設内のコミュニケーション不足や、組織の方針への納得感の低さが意欲低下につながっていたことが見えてきました。そこで、労働時間や休日への対応とともに、コミュニケーションツールの新設やマネジャー・リーダー層の積極的な発信を増やしたところ、職員の満足度が大きく向上し、それと連動する形で離職率が低下していきました。 「働きにくさ」を産む要因は複数あり、事業所によって何が大きな要因になっているのかは異なります。この部分を数値やデータから定量的に、職員の声から定性的に把握・分析していくことが、働き方改革の第一歩と言えるのではないかと思います(図表2)。 <小見出し> 〝足し算〟ではなく〝引き算〟の視点 <本文> もう一点、業務改善で重要なのは、新たなことを始めることを意識するよりも、「何を取り除くことが、従業員の負担を減らすか?」という視点の下での施策設定をすることではないかと思います。いたずらなツール導入や業務変更は、かえって現場の混乱や負担の増加を産む場合もあります。たとえば、入居施設で多様な働き方の導入を進めて日中に働く非常勤職員の人数・稼働が増えた結果、正規職員の夜勤数が大幅に増え、結果として正規職員が疲弊、離職率が上昇したというケースもあります。 一方で、働き方改革を上手く進める事業所に共通している点として、前述の課題分析を通して「働きにくさ」を産む要因の分析を進めるとともに、改革の実行のためにそれまで事業所の中で「慣例」「常識」となっていることを思い切って廃止したり、削減したりしていることが挙げられます。たとえばある施設では記録システムのIT化の際、プロジェクトを立ち上げ一つひとつの記録を精査、本当に必要なものを除き、削減や統合をしていく作業を根気強く行っていました。「今までやってきたことを、簡単に削減してよいのか」という声も多く、導入までの過程は大変な部分はあったものの、記録システムの運用を通してこれまで記録に割いていた時間を大きく短縮することに成功しています。 ツールや制度の導入では、闇雲にそれらを上積みするのではなく、自組織にマッチした形で導入・推進すべきであり、さらに、それらの導入・推進に力を割くために、「聖域」をつくらず思い切って取り除く、削減する意識が重要ではないかと思います。組織全体でその意識を持つためにも、従業員との丁寧なコミュニケーションも必要不可欠でしょう。 従業員にとって「働きやすい」と感じる、求職者が「ここで働きたい」と感じる職場をつくる働き方改革は、単に法令遵守をすれば、労働時間の適正化や有給取得の奨励をすれば、実現できるというものではありません。自組織の現状・課題を見つめ、本当に必要なアクションを実行する意思と、困難にぶつかってもやり抜く努力があって初めて、働き方改革は成し遂げられるのではないかと思います。

【ケーススタディ】事業譲受はドミナント展開の一方法 事業拡大のスピードアップに積極活用

【ケーススタディ】事業譲受はドミナント展開の一方法 事業拡大のスピードアップに積極活用

<取材先> 株式会社ライフケア・ビジョン 事業の開始がそもそも事業譲渡から始まったという、株式会社ライフケア・ビジョン。22施設ある住宅型施設のうち約1/3が事業譲渡によるものです。その狙いはどこにあるのかをうかがいました。 事業譲受も積極活用して住宅型施設をドミナント展開  株式会社ライフケア・ビジョン(大阪府大阪市)は2011年に設立されました。訪問介護・居宅介護支援事業からスタートし、現在では豊中市、高槻市など北摂地区を中心に住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅、デイサービス、訪問看護ステーションなどを運営しています。現在22施設ある住宅型有料老人ホーム“はっぴーらいふ”のうち8施設が事業を譲り受けての運営となっています。介護事業を展開しようと設立した会社ですが、ハード面などを一からつくるのは当初は大変と判断し、一施設目の有料老人ホームは事業譲渡を受けて開設しました。その後、グループ企業で不動産を手掛けて施設を開設する一方、事業譲受による展開を積極的に行っている点が、大きな特徴です。施設運営を始めた当初は500室を目標にしており、現在は2000室を目標に拡大戦略をとっています。加えて、2018年には通所系のデイサービスを譲り受け、サービスの幅も広げています。  同社の展開を象徴するエピソードが、2016年に北摂地区で2つの住宅型有料老人ホームを一度に譲り受けているケースです。これは、共通の取引先を通じて事業を引き継いでもらえないかとの相談があり、最初に話を聞いてからひと月で決断しています。すぐに決断したのは、相手方が介護事業所の効力停止処分を受け、現場はかなり逼迫した状況だったからです。「地域的な融和性もあり、運営・経営のオペレーションを見直せば立て直せそうだというめどをつけながら判断しました。同じ地域で介護を展開している事業者として、入居者、職員の生活を守らなければならないという、使命感もありました」と同社取締役副社長の大前直樹さんは振り返ります。  事業譲受を決めてから2週間で利用者・家族への説明のほか、関連する取引先への連絡、行政とのやり取り、各種の届け出を行いました。結局2施設は1年程度で黒字転換できたといいます。 ドミナント展開することで職員の定着、育成にメリット 「『このエリアのこういう物件を探している』と、こちらからリクエストをして探すこともありますが、譲渡希望の事業者から直接的、間接的にお話をいただいて検討するケースがほとんどです」と大前さん。  とはいえ、譲渡希望の施設があったからといって、なんでも飛びつくわけではありません。同社がこれまで手掛けてきた経験から、「売りたいと言ってくるところは、人員不足、入居者が少ないなど何らかの問題点を抱えているケースが多い」からです。  そこで同社では、同社のドミナント戦略に合ったエリアの施設であるか、施設のサイズ・スペックは適当か、同社が入ってオペレーションすることで、経営の改善が見込めるかを検討して判断しています。「訪問介護サービスが入る住宅型の施設で、50室前後のサイズが、当社としては手掛けやすいですね」と大前さん。  M&Aで住宅型施設1カ所、デイサービス2カ所を引き受けた例もあります。「その会社は事業所が限られているため、管理職ポストも少なく、職員からはキャリアパスが見えにくいこともあり、人材流出が起こりやすいなどの問題を抱え、行き詰まりを感じていたようでした。当社としては、同一エリアに多数の事業所をもつことで、職員の異動を図り人材交流ができるほか、管理職のポストも増えるので、職員の定着にもつながるなど、さまざまな面でメリットが生じると考え、M&Aを行いました」  案件を検討する際には、従業員リストや給与台帳なども全部調べ、さまざまな雇用条件が維持できるか、調整可能かを確認します。利用者の料金体系も含めて運営の中身を見せてもらい、提供するサービスの質を維持でき、一定期間変わらない条件でできるかどうかも含めて検討します。譲渡先の職員も利用者・家族も不安な気持ちでいるだろうから、「不利益な変更はないことを丁寧に説明します」と大前さんは、譲受にあたっての注意点を語ります。  また、外部のケアマネジャーが関係している場合は、事業を譲り受けるときにケアマネへの説明も欠かせないといいます。「住宅型施設と訪問介護サービスをセットで譲り受けますから、ケアマネの理解を得る必要があります。ここは意外と盲点かもしれません」と大前さんは指摘します。 自分の目で見て調査し隠れたコストまで試算し検討  事業譲受には時間を買うという意味合いもあります。土地を買い、建物を建ててと考えると、事業開始までに1年半から2年かかります。一方、事業譲受は、短期間で黒字化できるめどが立つのであれば、新規に施設を建てるよりも事業拡大のスピードアップがはかれます。「案件ごとのメリット・デメリットを見極めながら、新築、譲受物件を検討しています」と大前さん。  売買をするときには、売買価格だけでなく、一定水準で施設を回していくためにかかるすべてのコストを計算する必要があります。自社のサービス水準を達成するために必要な設備投資、満室にするためにご利用者を集める経費、職員の採用コスト、教育コストなども含めて計算し、借り入れをするならその返済計画まで考えて検討しなければなりません。  譲り受けた事業所の職員は、自社の研修センターで集合研修を行い、自社なりの介護の考え方をはじめ、介護知識、技術についても習得してもらいます。「みなさん基礎はお持ちですから、適宜研修を行い、半年くらいの期間を目安に考えています」と大前さん。  待遇を含めた条件、サービス、費用は大きく変わることはないので、職員もご利用者・ご家族からも大きな不満が出ることはありません。ただ、「ユニフォームが変わるので、ほんの一時期ですがご利用者は戸惑うかもしれません」と大前さん。  今後、М&A、事業譲受を考えている会社に対する大前さんのアドバイスは、「М&A仲介会社の話をそのまま鵜呑みにするのは危険です。自分の目で見て、実地調査をして、自社の運営に当てはめてシミュレーションをする必要があります。自分で調べれば、さまざまな疑問点が出てきます。それらを解消して、うまく回せるという判断ができるかどうか検討すれば、大きな失敗をせずにすみます」ということです。 株式会社ライフケア・ビジョン 2011年設立。「癒・食・住」で高齢者の暮らしを笑顔にする、をモットーに北摂地区を中心に、有料老人ホームやデイサービスなどを展開。アクティブシニア向け賃貸マンションなど、革新的な取り組みを続けている 大阪府大阪市東淀川区東中島1-18-22 新大阪丸ビル別館7F 06-6160-7088 lifecare-happylife.com/

【ケーススタディ】質の高い人材を育成するため新卒・正社員の採用に注力

【ケーススタディ】質の高い人材を育成するため新卒・正社員の採用に注力

<取材先>株式会社国立メディカルケア(現:株式会社オリヴィエ) ヘルパーステーションひろ 東京都国立市にある株式会社国立メディカルケア(現:株式会社オリヴィエ)は、医療法人社団浩央会国立さくら病院の初代院長が「在宅が一番重要」と考え、2002年に設立しました。訪問看護ステーションと居宅介護支援事業所を立ち上げました。その後、2007年にヘルパーステーションがスタートしました。中途採用・非正規雇用が主流のなか、7年前からは新卒採用・正社員採用に乗り出しています。 主な取り組み ◎学部を問わず新卒を募集 福祉系に限定せず、学部を問わずに福祉に興味がある学生を採用しました。水野さんは文学部卒、吉良さんは経済学部卒です。「まったく知識がなく、きちんと基礎から介護を学びたい、学び続けていきたいと考えていたので、入社後の教育体制は糧になりました」(水野さん) ◎マニュアルづくりを通して学びを確かなものに 一期生の2人が介護業界に詳しいコンサルタント会社に協力してもらいながら、介護の技術や手順についてはもちろん、心構えや会社のルール、利用者にはどういう態度で接するかなどを事細かにまとめています。これが後に続く二期生、三期生を指導する土台となっています。 ◎成長の道筋を明らかにする仕掛け 症例発表会など自己研鑽と発表の場を設けていることや、社員に「サービス提供責任者」のポジションを担わせることで、学びを深め、ステップアップする仕組みを見える化しています。 問題多い介護職経験者の採用 基礎からの人材育成に着手 ヘルパーステーションを立ち上げた同社の看護・介護統括部長の清水智惠さんは、看護師として病院で勤務したのち、福祉の専門学校で教鞭をとっていました。「介護の知識と技術を学んだ学生のほとんどは、卒業後施設に入職するため、在宅で働く人は多くありませんでした。今も、その流れは大きく変わっていないと思います」と経験上、在宅現場での人材確保の難しさを感じていたと話します。 在宅現場を支えるうえで介護職の役割は重要です。この認識から、正社員として介護職を雇用し、在宅現場を十分に理解する介護職を育成し、その人材を活用したヘルパーステーションを開設するのが、清水さんをはじめ同社の経営幹部が当初描いていたビジョンでした。しかし、集まってきた介護職経験者は、基礎知識が足りないなど質に問題があったことに加え、必ずしも正社員としての雇用を望んでいなかったり、チームの一員としての動きができないなど、足並みが揃わなかったといいます。 「私の力不足なのでは、と悩みました。そこで、マネジメントの経験者を招いて運営を委ねてみましたが、あまりうまくいきませんでした」と、清水さんは振り返ります。 試行錯誤を経て、〝正社員でヘルパーステーションをつくる〟という、もともとのビジョンに立ち返った同社は、清水さんの教職経験を活かし、人材を基礎から育成するべく、新卒の採用へと舵を切りました。 基礎を習得した新卒一期生を後輩を指導できる人材に 福祉を学んだ学生に限らず、一般大卒でも介護に興味のある学生を採用するため、同社はリクナビを利用しての採用活動を2016年から実施しました。翌年4月の入社から約半年間は先輩のヘルパーに同行し基本的な仕事の流れを学ばせるとともに、ステーション内で技術や知識を基本から清水さんが教えました。 同時に行ったのがマニュアルづくりです。これは、新卒採用一期生の水野香さんと吉良泰幸さんが、日々の業務や教育に基づいてまとめていきました。 加えて、同社が新たに始めたのが、年に一度の症例発表会です。看護師をはじめ社員全員が、1年間に手がけた症例をまとめ、年度初めのミーティングで書類として配布するとともに、発表会で発表を行います。 「一期生の2人はよく頑張ってくれました。新卒でも3〜4年きちんと学べば、管理者になれるほどの実力がつく。これは育成のいい経験値となりました」と、清水さんは眼を細めます。 新卒社員の育成には手応えを感じている同社だが、「少ないパイのなかで採用し、育てる難しさはあります」と明かす。厳しくなる一方の新卒採用に危機感を覚え、中途採用の検討に入っています。 「一期生の2人は基礎ができているので、年上に対してもものが言えるはず。介護の経験者をきちんと指導し、マネジメントできるようになることが、次の成長へのステップになると思います」と、清水さんは期待を寄せます。 新卒を育成するメリットとは? 看護・介護統括部長 清水智惠さん 新卒社員を育成して一番感じたのは、社歴による先輩後輩はありますが、職種に対する上下の意識がまったくなかったことです。先入観がなく、白紙の状態から介護職としてのアイデンティティが育ったため、看護師やケアマネジャーとも臆することなく対等に話ができます。これこそ私たちが望んでいたことなので、すごく達成感がありました。 (取材・掲載年:2019年5月 現在は新卒採用は行っていません)

【解説】コロナ禍における融資制度と借入のポイント

【解説】コロナ禍における融資制度と借入のポイント

代表的な融資制度の概要を確認する  新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、売上の減少に伴い資金繰りが悪化し、政府の資金繰り支援策の活用によって急場をしのいだ事業者様は数多くいらっしゃるのではないでしょうか? 今回は、融資制度のうち、新型コロナウイルス感染症特別貸付(日本政策金融公庫)と独立行政法人福祉医療機構の優遇融資の概要を確認していきたいと思います。 [ 新型コロナウイルス感染症特別貸付とは ]  返済期間は、運転資金が15年以内、設備資金が20年以内で、いずれも最長5年以内の据置期間があり、融資限度額は8,000万円です。また、融資限度額のうち4,000万円までは中小企業基盤整備機構から利子補給制度を受けることにより、当初3年間は実質無利子とすることができます。  融資の対象は、  ①売上高が前年同期比または前々年同期比と比較して5%以上減少している  ②業歴3カ月以上1年1カ月未満の場合は、最近1カ月の売上高が   A.直近1カ月を含む過去3カ月の平均売上高   B.令和元年12月の売上高   C.令和元年10月から12月の平均売上高のいずれかと比較して5%以上減少している  のいずれかに該当する事業者となります。 [ 福祉医療機構の優遇融資とは ]  新型コロナウイルス感染症により、減収・事業停止等の影響を受けた福祉関係施設に対し、優遇融資を実施しています。  返済期間は、15年以内で最長5年以内の据置期間があり、融資限度額はなしとされています。  金利については、当初5年間のみ  ①前年同期などと比較して減収若しくは利用者が減少または自治体からの休止要請に対応など、新型コロナウイルス感染症により経営に影響を受けた場合  ②施設利用者または従業員およびその家族に、新型コロナウイルスの感染者が出たことによる休業等により、減収となった入所施設(地域密着型を除く)  のいずれかで下記のようになります。  まず、①の場合ですが、6,000万円までが無利子、②の場合は1億円までが無利子となり、それぞれの限度額を超えた分については、金利が0.2%となります。  6年目以降については、金利は①、②の場合ともに0.2%となります。  なお、担保については、①の場合は6,000万円まで、②の場合は1億円までが無担保とされています。  また、上記とは別に既に福祉医療機構から融資を受けている場合の取り扱いについては、当面6カ月の元利金、事業者の状況に応じてさらに3年間(最長3年6カ月)の元利金の支払いについて、返済猶予の相談に対応しています。 借入をする際は将来の支出なども整理しよう 新型コロナ関連融資の特徴として据置期間が最長5年となる場合があり、すぐに返済が始まるわけではありませんが、その分、据置期間を含め、借入完済までの期間が長期化することになります。まずは、借入情報に基づき、将来の返済シミュレーションを行いましょう。元本返済のために売上や利益、固定費の削減がどの程度必要なのか、今のうちから明確にし、返済が可能かどうか確認することが重要です。 また、借入期間が長期化するということは、介護報酬の改定も数回行われることが想定されます。そのため、報酬改定の情報収集も行い、定期的に返済シミュレーションを見直すことも大切です。 借りた資金は必ず返済しなければなりません。借入時に利息が減免または優遇されるといって、過重に借入をすることにより、将来の返済負担が経営の重荷にならないように注意する必要があります。 (取材・掲載年:2020年12月)

【ケーススタディ】これからの経営基盤をつくるのはデイサービス

【ケーススタディ】これからの経営基盤をつくるのはデイサービス

<著者>日本社会福祉事業大学専門職大学院 特任教授 宮島 渡 近年、デイサービスの稼働率が下がってきたという声を、よくよく耳にします。デイサービスは、夜勤がなく日曜が休みでパート人材が集まりやすく、潰れたコンビニを改装してできるなど、簡単にオープンできることから乱立が相次ぎ、競争が激化したことが背景にあるのでしょう。 この対策として、入浴や食事提供をせずに午前と午後2単位のリハビリ特化型デイサービスにしたり、食事に特化したり、アミューズメント化などメニューの差別化を図り、他社との違いを強調してどうにか競争の中で生き延びようとしています。もはや、デイサービスは血で血を洗う「レッドオーシャン」のなかにいます。 しかし、その打開策のヒントは厚生労働省老人保健事業推進費等補助金によって2014年3月に出された「通所介護のあり方に関する調査研究事業」の報告書にありました。その中で目に止まったのが、地域包括ケア体制におけるデイサービスの位置付け、つまり、デイサービスの再定義です。「これからのデイサービスは単体で機能するのではなく、地域包括ケア体制の中で他の事業やサービスと組織間連携やサービス連携を相互に好影響をし合う、シナジー効果を上げること」と報告書では述べています。 社会福祉法人さつき会は北海道旭川市に隣接する鷹栖町にあり、レッドオーシャンから抜け出し、今はデイサービスが経営再興の切り札になっています。原稿執筆時点で人口およそ33万人の旭川市には、約4000床と日本でトップクラスの高齢者の住まいがあります。人口約6800人の鷹栖町の高齢者は、旭川市の病院への入院を契機に、そのまま市内の高齢者の住まいに移住します。その結果、さつき会のデイサービスと小規模多機能型居宅介護事業所の稼働率が減少するとともに、利用者の軽度化による経営上の問題を抱えていました。 法人の常務理事の波潟幸敏さんはこの状況を憂いて対策に乗り出しました。それが、デイサービス改革です。まず、旭川で入院してもまた鷹栖町に戻れるよう、高齢者の住まいを整備。続いて、総合事業の実施、リハビリに特化したデイサービスと小規模多機能の通いの機能分化と連携を図りました。「預かるデイサービス」から「元気を作るデイサービス」へとコンセプトを変え、総合事業からデイサービス、小規模多機能へとシームレスな支援体制を築いていったのです。その結果、総合事業はフィットネスクラブ「コレカラ」を開設し、フレイル対策を中心に行うことで、町内高齢者の30%が登録するという驚異的な数字となりました。さらに、総合事業を卒業した高齢者は研修を経て運営者側になることで、虚弱高齢者をアクティブシニアに変えています。 デイサービスの平均要介護度は1.7と軽度であり、利用者は「頭の元気」「体の元気」「心の元気」など予防的な取り組みを中心に行います。そして、中重度者は小規模多機能の通いを使う形です。 鷹栖町としては旭川市に移り住む人口を食い止め、フレイル予防や介護予防、自立支援により、要介護度の軽減と保険料の減額を見込んでいます。「地域住民によし・法人によし・鷹栖町によし」の三方よしをデイサービスの改善により実現させています

【解説】営業の仕組みを理解して効果的に自分たちの“良さ”を見える化しよう

【解説】営業の仕組みを理解して効果的に自分たちの“良さ”を見える化しよう

<著者>社会福祉法人にんじんの会 常務理事・事務局長 石川正紀 営業活動や情報発信は楽しんで取り組もう! 今回は、新規利用者様を獲得する営業活動と情報発信の手法についてお話ししていきます。今は、要介護認定者は増えていますが、その分事業者数も増えており、地域によっては、認定者増加率より事業所増加率の方が高い地域があるのではないでしょうか。地域福祉・社会福祉に関わる私たちも、利用者本位のサービスを継続的に行い、自己実現の場である「働く場所」を守るためにも、営業活動が欠かせないステージに入ってきていると思われます。 「デイサービス稼働率前年比110%」「登録人員前年比15名アップ」「売上前年比105%」……皆様のところでも、このような事業計画の目標を立てられていると思います。これらを達成するためには営業活動が不可欠であり、そのための「見える化」した情報発信が必要です。介護・福祉事業では、「営利活動や営業活動はなじまない」という考え方もあり、多くの介護事業者の方がネガティブな発想をもったり、苦手意識が働いたりしてしまうかもしれません。しかし、本来の営業活動や情報発信は楽しいものであり、ワクワクするものです。最初は慣れるまで大変かもしれませんが、自分たちの良いサービスをPRする舞台だと考えて、普段の活動の“良いところ”や“楽しさ”を伝える努力をしてみましょう。 戦略的に分析して ターゲットをリスト化しよう 営業活動を行う際に、気をつけなければならないのは、漫然と「地域の大きな居宅介護支援事業所に営業すれば、何か紹介してくれるかもしれない」と考え、訪問を繰り返すものの、良い返事をもらえない日々が続いて営業をあきらめてしまうことです。 過去の事例でいうと「大きな社会福祉法人へ営業に行ってきました」等の報告を受けることが多くありました。しかし、自分たちが提供しているサービスメニューをすでに持っているような法人に、何度行ってもあまり効果が出ないことは明白です。 まずは、戦略的に商圏内の居宅介護支援事業所をリストアップし、各居宅介護支援事業所のケアマネジャーの名前と紹介件数を整理して、各居宅介護支援事業所のABC分析※を行います(図表)。各ケアマネへの接触頻度(訪問日)を、一覧表にまとめ、ターゲットを整理します(ちなみに、「戦略」は、“たたかい”を“はぶく”と書きます)。 ケアマネに営業する場合は、その居宅介護支援事業所に併設しているサービスが自分のサービスとバッティングしていないかどうかを見極める必要があります。また、自施設にご紹介いただいたお客様がいたかどうかなど紹介実績の有無も大きなポイントの一つです。 また、居宅介護支援事業所に営業しにいくのではなく、個々のケアマネに営業することが重要になります。ケアマネは、紹介業ですので、自分で仕入れた情報以外、基本的に紹介しづらいものです。直接、各ケアマネに挨拶できる営業活動を心がけましょう。 ABC分析に基づいて効果的な営業活動を繰り返すと、次第に紹介件数は増えてきますが、これで満足してはいけません。やっていくと分かりますが、一人のケアマネからの紹介件数が2〜4件でストップしてしまうことが起きます。こうした際は、①各ケアマネの受け持ちプラン件数、②受け持ちプラン件数における該当サービス割合・件数等もリストに落とし、さらに分析を行うと、商圏内のシェアが分かります。シェアが判断できると、次の一手が見つかりやすいので、是非取り組んでいただきたいと思います。 自分たちの“良さ”を説明できる ツールをつくろう 営業リストが完成したら、アプローチブックやイベントチラシなどのツールを製作してみましょう。 なぜ、ツールが必要なのでしょうか? 営業を行う場合に見落としがちなのは、「エンドユーザーは、ケアマネではない」ということです。ケアマネはあくまで代理店であり、ケアマネにいくら良い説明を行っても、最終的に利用者にその良さが伝わらなければ、意味がありません。ツールを製作することで、ケアマネを通じて、介護事業者の“良さ”を利用者さんに伝えることが重要なのです。 アプローチブックとは、そのサービスや事業所の売りをまとめた小冊子のことです。介護事業者の皆さんが提供している商品(サービス)は、「楽しい時間と空間」や「リハビリ」、「認知症ケア」、「入浴」等です。俗人的な営業活動ではなく、第三者でも同じ説明を行えるよう、コンセプトや取り組んでいることを明確に示し、写真などを数多く取り込んで、“良さ”や“ウリ”がイメージしやすい小冊子を製作しましょう。 また、イベントに積極的に取り組み、チラシを作成することも大事なポイントの一つです。 イベントチラシを作成する際は、①できる限り面白い内容・タイトル・サブタイトルをつける、②特典やノベルティをつける、③日時、場所、費用を明確にする、④申込用紙(申込欄)をつける――などに留意しましょう。 イベントの内容・タイトル・特典などを、ミーティングなどでしっかりと打ち合わせすることも重要ですが、その際は、楽しくてワクワクするような雰囲気を作ると良いと思います。営業活動上の必要性はありますが、利用者・訪問者に、楽しい時間・空間を過ごして頂くことが、結果として良いPRになります。当法人でも、試行錯誤しながらも、利用者さんに情報が届くように、楽しく営業活動を行っております。 営業を含むマーケティング活動は、科学的な活動ですので、再現性が無ければなりません。再現性とは、誰が行っても、一定の成果を出せる仕組みにしなければならないということです。仕組みを構築できれば、意外と楽しく目標を達成することができますので、是非取り組んでみてください。 ※ABC分析=さまざまな要素から重要度を仕分けして、効率的な方法を考案する手法。本稿の図表では、法人の該当サービスの有無と、外部の事業所への紹介事業の有無から、居宅介護支援事業所の重要度をA~Cに仕分けし、営業先の優先順位を決める。 図表 ABC分析 石川正紀 社会福祉法人にんじんの会 常務理事・事務局長 株式会社JTBで法人向け営業などに従事した後、社会福祉法人にんじんの会で介護業務に従事し、事務局長として経営全般を支える。その後、船井総合研究所に入社し、介護事業者を中心に戦略立案から現場の支援まで幅広くコンサルティング業務に携わる。2012年より現職。 社会福祉法人にんじんの会 東京都国分寺市西恋ヶ窪 1-50-1 ninjin.or.jp/ 042-300-6035 (取材・掲載年:2020年1月)

【ケーススタディ】専門特化・移転を経て 感染症対策も万全な体制へ

【ケーススタディ】専門特化・移転を経て 感染症対策も万全な体制へ

<取材先>東京リウマチクリニック(東京都大田区) 目次 01:より多くのリウマチ患者を受け入れるべく専門特化 02:昨年に新築移転を決行より安心できる体制へ より多くのリウマチ患者を受け入れるべく専門特化 東京都大田区にある、東京リウマチクリニック。2006年に「自由が丘整形外科」という院名で開業した当初は、天本藤緒院長の専門であるリウマチ治療と膝関節治療の2本柱を掲げる整形外科診療所でした。そして、17年にリウマチ専門診療所へと転換し、現在の院名に改称。その狙いを天本院長は次のように振り返ります。 「リウマチ患者さんが増えるにつれて、リハビリや注射が中心だった膝関節疾患と薬物治療が中心のリウマチでは、どうしても治療のスタイルが異なり、待ち時間の短縮などが難しい状況でした。より多くの患者さんを受け入れ、無駄なく必要な医療を提供したいという思いがあり、専門特化したほうが良いと考えたのです」 開業から約15年、天本院長のほか非常勤のリウマチ・膠原病の専門医3人が在籍し、現在通院するリウマチ患者は2500人以上と、10年以上通院している人も多いといいます。また、最初は別の診療所に通院していたものの症状が改善せずに悩み、WEB検索などでリウマチ専門診療所を探して訪ねてくる患者も少なくなく、首都圏全域から来院しているそうです。 昨年に新築移転を決行より安心できる体制へ 同院では、常にリウマチ患者が安心・安全に治療を受けられる体制整備や工夫を続けています。たとえば、昨今の新型コロナウイルス感染症の流行下では、特にリウマチ患者は感染症のリスクが高いことから、電話再診やビデオ受診、長期処方なども率先して取り入れ、通院継続環境を整備しました。 また、昨春は2度目になる新築移転を行い、ハード面の改良にも着手。たとえば、診療所入口には専用の手洗い場を設置し、全員が必ず石鹸で手を洗って院内に入るように徹底。患者が使う蛇口はすべて温水式で、これは冷水が患者の痛めている手指の関節に響かないようにという配慮になっています。 「新型コロナ前から計画していた移転ですが、結果的に現在、新型コロナ対策として有効に機能しています。また、人が密集する電車を避けて車で通院したい人のために駐車場も以前より拡張したのも好評です。これらと、患者さん自身の危機意識も上がっていることもあり、昨冬は例年に比べ肺炎などにかかった患者さんは少なかったです」と、天本院長は説明します。 最後に、リウマチ専門診療所の可能性と同院の展望について、天本院長はこのように語りました。 「私も含め、当初はリウマチ+αで開業する人は少なくないですが、リウマチ患者さんが増えるにつれて最終的にリウマチ専門へと一本化していく診療所は多いと思います。今後もリウマチ・膠原病の専門医で開業する人が増えていくなら、一般整形外科診療所との住み分けは進んでいくのではないでしょうか。そのなかで、当院も引き続き患者さんにとって理想的な診療所を目指し、専門性の担保はもちろん、たとえば、最新のデジタル技術やAIなど、患者さんがより楽に、便利に治療を受けてもらえる体制につながる仕組みの導入にも取り組んでいきたいです」 制作:日本医療企画 (取材年月:2020年2月)

【解説】義歯調整と口腔ケアから始める 「在宅歯科」成功の方程式

【解説】義歯調整と口腔ケアから始める 「在宅歯科」成功の方程式

<著者> 株式会社M&D医業経営研究所 代表取締役 木村 泰久 認定登録医業経営コンサルタント 歯科経営の成長分野として注目されるのが「在宅歯科診療」です。厚生労働省も後押ししており、診療報酬でも手厚い評価が見られます。休診日に訪ねるだけで済むほど簡単ではありませんが、費用をかけずにスタートすることは可能です。 目次 01:在宅歯科診療のメリット・デメリット 02:介護保険と医療保険の両方が適用される 03:訪問日が週1日では訪問先拡大は無理 04:過去3年間で中断している患者から抽出する 05:最初は電気エンジンと吸引機だけで開始する 在宅歯科診療のメリット・デメリット 今後の歯科経営の成長分野として在宅歯科診療を考えてみましょう。診療報酬も手厚く、かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)の施設基準にも「過去1年間に歯科訪問診療の回数が5回以上であること(または在歯診への依頼)」があります。開始にあたっての歯科医院経営におけるメリット・デメリットを整理すると、次の表-1のようになります。   表-1「在宅歯科診療のメリット・デメリット」 メリット デメリット 1.増収を図ることができる 新しい収益分野を獲得できるので、訪問先が増えると経営の安定化が見込める。 2.生涯を通じたケアが可能になる 生涯診てもらえる歯科医院として、インプラントなど外科処置においても患者の信頼を得やすい。 3.医科との診療連携が図れる 在宅歯科診療によって地域の医科診療所との連携関係が強化される。 1.ドクターとスタッフの負担が増大する 在宅歯科の準備や片づけ、往復や書類作成など、医師とスタッフの負担が増大する。 2.設備や用具の調達資金が必要になる 訪問診療車やポータブルユニットなど用具の調達に資本投下が必要になる。 3.人事労務管理が煩雑になる 在宅診療を担当する歯科医師や歯科衛生士の確保、外来診療部門との在宅部門との確執など問題が生じやすい。 在宅歯科診療を開始する前に知っておきたいポイントは次のとおりです。 1.介護保険と医療保険の両方が適用される 在宅歯科診療の場合、要介護認定を受けている「在宅患者」に対しては「介護優先の原則」があり介護保険が優先適用されます。 2.訪問日が週1日では訪問先拡大は無理 休診日に1日だけ訪問診療を開始しようと考えるケースが多いのですが、高齢者は多忙です。医科の診療、デイサービス、入浴日などがあり、特定の曜日に予約がとりにくいのです。たとえば、午後1時から4時までの3時間だけでも、週3日以上は在宅歯科診療にあてる覚悟が必要です。 3.過去3年間で中断している患者から抽出する 過去3年以内にデンチャー(義歯)を入れ、その後、治療が中断しているような患者さんには、歯科衛生士から電話をかけてみるのも一案です。何らかの事情で来院できないのであれば、訪問診療が可能であることも伝えてみましょう。歯科訪問診療移行加算100点(か強診は150点)を算定できます。2~3人を訪問診療に移行できれば、1年間5回以上は簡単に達成できます。 4.最初は電気エンジンと吸引機だけで開始する 在宅歯科で行う処置の70%は義歯調整と口腔ケアです。電気エンジンと吸引機があれは対応可能です。ポータブルユニットなどの高額の医療機器は必要な際に歯科医師会から借りるなどして対応することを考えましょう。 やがて介護施設での在宅歯科が決まり、訪問診療者やポータブルユニットやレントゲンが必要になったときは、借入とリースを上手に組み合わせて検討しましょう。 監修:㈱日本医療企画 制作年月:2022年3月

【解説】スマホ対応サイトがなければ「始まらない」!

【解説】スマホ対応サイトがなければ「始まらない」!

<著者> 株式会社M&D医業経営研究所 代表取締役 木村 泰久 認定登録医業経営コンサルタント ただでさえ競争の激しい歯科医院。マーケティングツールとしてホームページは今や必須ですが、 作ればいいというものではなさそうです。インターネット閲覧者の7割近くがスマートフォンを使う現在、 スマホ対応のホームページでなければ、スタートラインにすら立てないようです。 数ある広告媒体のなかでも、歯科医院のマーケティングツールとしてホームページの重要性は増すばかりです。 もはや「ホームページを見てもらえなければ始まらない」とさえ、言えるでしょう。しかし、「何を使ってホームページを閲覧しているのか」という点も考え合わせなければ、せっかくホームページを立ち上げても閲覧してもらえず、認知度は高まりません。認知度を高める対策を立てるうえでも、このことに留意することが不可欠です。 図1は、総務省が発行した「令和3年度情報通信白書」のうち「インターネットの利用状況調査」の資料です。 これによると、インターネット利用端末の種類で最も多いのはスマートフォン(スマホ)で、68.3%、前年比5ポイント増となっています。これに対してパソコンの普及率は50.4%と横ばいです。 つまり、インターネットで最も多く使われているのはスマホであり、かつその割合は拡大中なのです。 さらに言うなら、スマホに対応したホームページを持っていないことが、他の歯科医院と差別化されてしまう リスクになりうるのです。スマートフォンで医院を検索する患者さんが半数以上いるということを前提に、 ホームページを作る必要があるわけです。 図1:当該端末を用いて過去一年間にインターネットを利用したことがある人の比率 (出典:総務省「通信利用動向調査」 また、2020年9月から、Googleはモバイルサイトを優先的に表示する「モバイルファースト・インデックス」 という機能を導入しています。このため、スマホページがない医院は、検索順位が下がっていく可能性があり、 スマホ用ホームページを作るか、レスポンシブウェブデザインに作り直すか、どちらかを考える必要があります。 このレスポンシブデザインとは、パソコンで閲覧する場合でも、スマホで閲覧する場合でも、画面に合わせて自動的 に構成要素を組み替えて表示させるWebサイトの作り方のことです。この作り方ですと、スマホで見た場合でも文字や 写真が見づらくなりません。図2のように表示されるブロックが置き換わって大きく表示されるため高齢者でも見やすい画面にできるのです。 スマホ用のサイトを追加するより、サイト全体をレスポンシブウェブサイトに作り変えるほうが有利になります。 それは、スマホでの検索回数とパソコンからの検索回数が合算されるためです。パソコン用ページやモバイル用ペー ジがあることをGoogleが知る必要がなく、ページ読み込みのスピードが上ることも有利になります。 この結果、レスポンシブデザインのホームページが検索順位で上位表示される可能性が高いのです。その結果、 「〇〇市〇〇町 歯医者」や、最寄り駅の「駅名 歯医者」など、狭いエリア内の検索で1ページ目に表示される 可能性が高くなります。さらに、スマートフォンで閲覧しても見やすいので、高齢者にも閲覧していただける可能性が高くなるのです。 選ばれるためには、他の医院のホームページと比較されることを前提に、選ばれるための情報を伝える必要があります。 ぜひ、レスポンシブウェブサイトへのホームページのリニューアルをお勧めします。 著者:木村 泰久 監修:㈱日本医療企画 制作年月:2022年3月

【解説】患者増にもつながりやすい予防歯科 カギを握る歯科衛生士が求める条件とは

【解説】患者増にもつながりやすい予防歯科 カギを握る歯科衛生士が求める条件とは

<著者> 株式会社M&D医業経営研究所 代表取締役 木村 泰久 認定登録医業経営コンサルタント 患者数を増やす有効な手立てとして注目したいのが「予防歯科」です。ただ、この担い手である歯科衛生士は現在、採用が難しくなっています。パートでの雇用や勤務時間の指定など、さまざまな要望が出てきます。柔軟な対応が必要になりそうです。 患者数を増やすには、初診患者を増やすだけでなく、患者を維持する必要があります。そのために予防歯科が有効です。予防歯科が入り口となり、継続診療につながり、医院の増収にも結び付くことも期待できます。初診患者の一定割合が定期的に来院してくれれば経営は安定していきますが、まさにこの図式が予防歯科には当てはまります。 回数を重ねるごとに歯科治療の知識も増え、自費治療を選ぶケースも増加します。医療保険でもSPT(歯周病安定期治療)やP重防(歯周病重症化予防治療)などは、60分で1万円程度の診療報酬が得られます。一人の歯科衛生士が1日5人に対応すると想定した場合、1カ月22日診療すると、売上は100万円(@1万円×5人/1日×22日=110万円)を超えます。技工料も材料代もかからず、採算性の高い診療です。 そこで問題になるのが歯科衛生士の確保です。予防歯科を進めるには歯科衛生士が欠かせませんが、採用が困難な状況が続いています。給料も高騰しており、首都圏では初任給が26万円前後になっています。さらに、表のような条件を満たす医院が選ばれています。ただ、このような条件を満たせる歯科医院はわずかでしょう。 ① 経営が安定し、永続性がある医療法人。 ② 社会保険が完備している。出産手当金や入院給付に手厚い協会けんぽで、厚生年金、雇用保険がある。 ③ 複数の歯科衛生士が勤務していて有給休暇が完全取得できる。 ④ 院外研修がなく、院内でスキルアップが図れる。 ⑤ 午後6時終業で土日休診。 ⑥ 駅から徒歩5分以内、または車通勤可。 ⑦ 基本給17万円以上(賞与や退職金の計算の基礎が基本給であるため)。 ⑧ 退職金制度あり。 ⑨ 住宅補助あり(東京、横浜では、地方出身者に3万円から6万円の家賃補助を支給する医院がある。この結果、首都圏での学卒歯科衛生士の実質賃金は29万円から30万円に達する)。 ⑩ 残業、休日出勤がないか、少ない。 パートタイマーの採用もあわせて検討する必要があります。中に配偶者控除の壁があり、多くが午後5時までの勤務を希望しますから、シフトも工夫する必要があります。 常勤やパートなどいろいろな歯科衛生士が集まると、人によって手順や所要時間が違うことが多く、患者から不満が出てきがちです。全員が同じ処置ができるように手順や使用材料などはマニュアル化し、教育研修をしておく必要があります。 さらに、できるだけ担当制にします。担当患者の治療経過を継続的に把握でき経験と自信につながるからです。担当制にしてチェアサイドで予約をとると、リコール率が高くなり無断キャンセルも減少します。 ただし、3カ月先から6カ月先までの予約をとり、ショートメールでリコール案内を送るためにはアポイントコンピューターの導入が不可欠です。手ごろな金額で導入できる機種も増えているので検討していただきたいと思います。 やがて予防患者が増えてくるとユニットの増設が必要になります。そのときは、借入とリースを上手に組み合わせて検討しましょう。 監修:㈱日本医療企画 制作年月:2022年3月

【解説】分院の立地としてチェックすべき 「徒歩20分以内」「差別化が可能」

【解説】分院の立地としてチェックすべき 「徒歩20分以内」「差別化が可能」

<著者> 株式会社M&D医業経営研究所 代表取締役 木村 泰久 認定登録医業経営コンサルタント 事業拡大期において最も挙がりやすい選択肢が「分院展開」です。ドミナント効果とシナジー効果が見込めるなどメリットはありますが、「良い物件」を見つけなければ始まりません。そのポイントを解説していただきます。 目次 01:分院を作る目的を明確にしておく 02:「開設できる場所」と「成功できる立地」は異なる 03:地域の競合に勝てる規模で作る 04:理事長が20分で駆けつけられる場所で開業する 05:理事長が分院で週2日診療する 06:分院経営に適した組織とマネジメント体制を構築する 07:分院開設の資金調達は、借入とリースを上手に組み合わせて検討しましょう 分院展開のメリットは、開業地域のリスクを分散でき、共通の看板設置で認知度を高められ、材料などの購買量が増えて廉価購買ができるなど、ドミナント効果とシナジー効果が得られることです。逆にデメリットは、医師やスタッフの人事労務管理が煩雑になること、借入返済や維持コストがかかること、さらに、分院長や中核スタッフの確保に苦労することです。 また、分院の開設に向くケースとそうでない場合があります。分院開設に向くケースは、本院の拡張が困難で、信頼できる「分院長にできる歯科医師がいる」、そして「徒歩でも車でも20分以内」の場所によい物件がでてきた場合、そして、「近隣の歯科医院を差別化できる規模」の分院を開設できる資金が調達できる場合です。 逆に向かないケースは、本院の増床や在宅歯科など他の成長戦略を優先すべき場合です。さらに、信頼できる分院長の人材を確保できない場合や既存医院を差別化できる医院を作るだけの資金を確保できない場合もやらないほうが無難です。 分院経営を成功させるには、次のポイントに留意する必要があります。 1)分院を作る目的を明確にしておく 「何のために分院を開設するのか」を明確にしておく必要があります。本院を年中無休する、在宅歯科を拡大するなど、リスクが低い選択肢もあるからです。 2)「開設できる場所」と「成功できる立地」は異なる よくある失敗が、親の持つ余った土地に分院を作るケースです。患者が集まりません。成功するには「だれがやっても成功できる立地」を選ぶ必要があります。 3)地域の競合に勝てる規模で作る 分院を成功させるには、地域の競合に勝てる医院を作ることが必要です。6台以上のユニット台数、複数の歯科医師、歯科衛生士とスタッフを確保し、1億円程度の投資が必要です。 4)理事長が20分で駆けつけられる場所で開業する 理事長が20分以内に駆けつけられることで、勤務医やスタッフに緊張感と万一の際の安心感が生まれるからです。 5)理事長が分院で週2日診療する 理事長が週2日分院で診察を行うと、立ち上がりを肌で感じることができ、スタッフからの信頼を獲得できるからです。 6)分院経営に適した組織とマネジメント体制を構築する 指示伝達の手順を定め、分院との会議体をつくり、信頼できるスタッフを据えて連絡体制を作り、合同の忘年会やイベントなど、医院が一体となる場を構築する必要があります。 7)分院開設の資金調達は、借入とリースを上手に組み合わせて検討しましょう 監修:㈱日本医療企画 制作年月:2022年3月

【解説】患者はしっかり見ている 万全の感染対策で信頼度をアップしよう

【解説】患者はしっかり見ている 万全の感染対策で信頼度をアップしよう

<著者> 株式会社M&D医業経営研究所 代表取締役 木村 泰久 認定登録医業経営コンサルタント 商業施設や公共施設など、不特定多数が集まる場所は、「感染対策」は必須項目と言えますが、とりわけ医療機関は高い水準での方策が要求されます。来院する人たちはこちらが想像している以上に厳しく見ているもの。裏を返せば、その厳しい要求に応えられれば、さらなる信頼につながります。 目次 01:自動消毒液噴霧器兼体温計を設置する 02:待合室を密にしない 03:ユニットごとに空気清浄機を設置する 04:ゴーグルとフェイスシールドを着用させる 05:グローブのままあちこち触らせない 06:クレンリネスを励行する 07:滅菌消毒機器を強化する 新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大が起きて2年以上が経過しました。感染力がひときわ強いとされるオミクロン株の感染拡大によって院内感染対策についての視線は厳しくなっており、患者さんが見て分かるような院内感染対策を工夫する必要があります。魅せる院内感染対策には次のようなポイントがあります。 1)自動消毒液噴霧器兼体温計を設置する  最近はコロナ慣れして、設置している自動体温計をすり抜けて入る患者さんがいて、「感染対策が甘い」というクレームにつながることがあります。アルコール消毒に関しては、医院側から特にお願いしなくても行う患者さんが多いので、手首で検温する自動噴霧器兼自動体温計を設置しておきましょう。 2)待合室を密にしない 待合室ではソーシャルディスタンスを保つよう、協力を求めるメッセージを表示しておきます。土曜日など家族連れが来院する場合は「密」になることがありますので、車で来院された方には呼び出しベルを渡して駐車場でお待ちいただくなどの対策が有効です。 3)ユニットごとに空気清浄機を設置する エアロクリーンなど本格的な空気清浄機には高額の費用がかかります。数万円の小型の空気清浄機をユニットごとに設置することで、患者さんは安心してくれます。 4)ゴーグルとフェイスシールドを着用させる スタッフは必ずゴーグルとフェイスシールドを着用しましょう。感染対策を実施していることが伝わり、術者自身を守ることになります。施術中に飛び散る水滴には患者の血液や膿、コロナウイルスも含まれています。口と鼻腔はマスクでガードされていますが、目を感染リスクから防護する必要があるのです。 5)グローブのままあちこち触らせない グローブをつけたままあちこち触り、そのまま口腔内を触ってクレームになるケースがあります。患者さんの目の前で新しいグローブを装着してみせることを心がけましょう。 6)クレンリネスを励行する クレンリネスは「清潔な状態を保つこと」を意味します。汚れる前にキレイにするのです。また、術者の視点と患者さんの視点では角度や高さが異なるため、患者さんが座る椅子やユニットに座ってチェックする必要があります。トイレも便座に腰かけると見えない汚れに気づきます。患者さんの視点に立って、毎日、毎週、毎月の清掃箇所と方法をルール化しましょう。 7)滅菌消毒機器を強化する クラスBオートクレーブやウォッシャーディスインフェクターなどの機器を装備することで、滅菌レベルを向上させ、スタッフの負担を軽減することが可能になります。機器はリースや借入を工夫して上手に調達しましょう。そして、ホームページや院内掲示で高度な機器で清潔管理を実施していることを伝えましょう。 監修:㈱日本医療企画 制作年月:2022年3月

【解説】歯科医院所得は減少トレンドだが、やり方次第で数千万~1億円も

【解説】歯科医院所得は減少トレンドだが、やり方次第で数千万~1億円も

<著者>日本クレアス税理士法人 大阪本部会長 上田久之 子ども人口の減少を背景に、歯科医院の経営環境は決して楽観はできないようです。しかし、成功している歯科医院が存在していることも確かです。勤務医の時から経営者目線を持つこと、自分の「ブレーン」となるような専門家とのつながりを持つこと、何よりスタッフが定着・成長する職場環境づくりに留意したいものです。 目次 01:歯科医院の年収 02:勤務医時代のスタンス 03:相談相手を待つ 04:経営は人に尽つきる ①歯科医院の年収 歯科医院の新規開業は全国で年間2000軒前後ありますが、人口が減少し子どもの虫歯は減る一方なので、歯科医院の所得は年々減少しています。 ところが、ある税務の業界団体の統計によると、歯科医院の年間診療収入の平均値は4800万円であり、医療法人に限ると1億1300万円となっており、決して悪い数字ではありません。 また当事務所で顧問をさせていただいている約300軒の歯科医院のうち、3割の医院が年間診療報酬7000万円を超えています。また2割の医院が、年間の所得が3000万円を超えています。 環境は厳しいですが、やり方次第と言えます。成功されている医院の見学や勉強会へ参加し、成功のヒントをつかみましょう。 ②勤務医時代のスタンス 勤務医時代に歯学における診療技術を磨くことは当然ですが、将来、開業を目指すのなら、経営ノウハウも習得するように心がけることが大事です。医院やスタッフのちょっとした言葉遣いがきっかけで、患者さんとの間で起きるトラブル、古い内装、外観で患者さんが離れていくといったところを経営者の目線で観察していきましょう。 院長の感情の起伏が激しくてスタッフが定着しないといった問題を抱える医院も多く見受けます。 ③相談相手を待つ 開業すれば、歯科医師としての業務以外にさまざまな経営者業務が付加されます。 例えば保険請求の仕方に問題があれば、診療報酬の返還や、監査への波及もあります。治療のトラブルで患者さんに訴えられることもあります。従業員の解雇の仕方を間違うと不当解雇で労働基準監督署のお叱りを受けることもあります。必要性の乏しい医療機器を購入して、返済負担がきつくなり一挙に月額必要収入が跳ね上がることもあります。 このような経営に纏わる諸問題に遭遇した時に頼りになるのが、経営に明るい先輩や同僚、各分野の専門家であり、ブレーンを外部に持つことが、安定経営のポイントとなります。 ④経営は人に尽つきる 開業後、間もない時期にスタッフが、次々と退職するといった事能は避けたいものです。多少費用と時間がかかっても歯科業界に詳しい社会保険労務士に相談して、労働法規が遵守されていないといったクレームを起こさないようにしなければなりません。 労務コストは上がりますが、厚生年金加入も採用のポイントです。「歯科医師会未入会なので、従業員には国民健康保険に加入してもらう」といったことは論外です。スタッフ採用の面では、医療法人のほうが有利かもしれません。 その他定期的なミーティングの実施で、院長が一方的に喋るのではなくスタッフが活発に発言をして、また外部研修への参加を推進しているような体制があることが、繫盛医院に共通しています。 監修:㈱日本医療企画 取材年月:2022年3月

【インタビュー】皮膚科過疎地域のニーズに対し 組織拡大しながら受け皿を増やす

【インタビュー】皮膚科過疎地域のニーズに対し 組織拡大しながら受け皿を増やす

<取材先>菅原祐樹 菜の花皮膚科クリニック 院長 目次 01:地域ニーズに応えるもヒトのマネジメントが課題に 02:一定数のニーズに着目しオリジナル化粧品を開発 地域ニーズに応えるもヒトのマネジメントが課題に ――2007年に「すがわら皮膚科クリニック」として岩手県一関市に開業。17年に現診療所名に改称、18年には分院を開設されました。現在までの道のりについてお聞かせください。 菅原●本院は皮膚科、美容皮膚科を標榜し、前者は私が、後者は妻が主体で担っています。分院は、私の弟が循環器内科を担当し、皮膚科は本院の医師が週4日交代で外来を担当しています。 一関市は岩手県南部に位置し、全体的な医療資源も少なく、特に皮膚科は少ないです。そのため、当院の診療圏も県南地域を中心に隣接する宮城県気仙沼市方面など、半径20〜30㎞で、車で往復2時間かけて来院される患者さんもいました。 幸いにも、本院で診られる患者さんのキャパシティーに近づいたこと、遠方の患者さんの利便性を高めるため、本院から東へ約40㎞の気仙沼市との中間地点に分院を出しました。法人全体の患者数は6月単月で約1万2700人、本院と分院の内訳は7:3くらいです。また、7年前から地域の在宅患者さんの皮膚疾患の訪問診療を受けており、今は150人ほど診ています。 スタッフも、常勤医師5人、非常勤医師5人、看護師13人、看護助手6人、事務職17人――など、法人全体で46人になり、17年に改称したのも、このように大所帯になったので、私の個人名よりも、幅広くわかりやすい名称のほうが良いと思ったからです。「菜の花」は一関市の花で、地域の人にもなじみがあります。 ――人員が増えた分、スタッフマネジメントは大変かと存じます。 菅原●そこは非常に苦労しました。開業当初の少人数のときは、医療経営セミナーや勉強会で勉強したことを実践したりと、自分なりに努力してやっていけていたと思いますが、人数が増えるにつれて私一人ではまったく手が回らなくなりました。スタッフ間でトラブルが起きてもうまく対処できず、一時期はそれが原因で離職者も出してしまいました。 そこで今年から、開業当初からの付き合いの信頼できるコンサルタントに、正式に事務長として入ってもらいました。マネジメント業務全般、特にスタッフの採用、教育、管理を任せています。人員配置やシフトの適正化など、手が回っていなかった部分も任せられたことで、組織もスムーズに回るようになったと実感しています。 私の精神的負担もとても軽くなり、診療に集中できています。また、診療面でも、今でこそ勤務医の皆さんを信頼し、基本的にそれぞれにお任せしていますが、最初は他の医師へ任せることに不安があり、勤務医の増加にともない、診療の統一を図るつもりでお願いや指示をしていましたが、言い方がよくなかったのか離職されてしまったこともありました。 逆に、お任せするようになってからのほうが、患者満足度は高くなったのか、患者さんは増えました。自分はそんなに大層な人間ではないと気づかされ、今は診療スピードが多少遅くても、やさしく人柄の良い先生であればよいくらいの姿勢を心がけています。 一定数のニーズに着目しオリジナル化粧品を開発 ――そのほか、経営面で苦労した点、改善した点はありますか。 菅原●経営面については、開業してから勉強し始めたので、それこそ、お金に関しては本当に苦手で、何も知らないところからのスタートでした。銀行融資などにも無知で、正直いろいろな出入り業者さんも何も知らないまま割高な支払いをしていたりと、振り返れば開業当初は高い「勉強代」を払っていたと、反省しきりです。そのため、今は事務長の力を借りながら、さまざまな経費削減や経営改善の取り組みを進めています。たとえば、効果の検証なしに複数出してしまっていた看板広告などの整理や、カード決済手数料の引き下げ交渉、医療材料の仕入れ価格の見直しなどです。 ――一方、別会社でオリジナルの化粧品開発・販売にも取り組まれています。 菅原●皮膚科を受診される患者さんのなかには、一定の割合で化粧品かぶれが原因の人がいます。おそらく、一般的な化粧品に含まれる防腐剤や界面活性剤などの化学物質が原因と考えられます。そこで、10年に株式会社ナキュアを設立して妻が代表に就任。化学物質フリーのオリジナルブランド「本当の無添加化粧品ワイエスラボ」の開発・販売を開始しました。日・米・シンガポールの3カ国で特許を取得しています。 ニッチな市場ですが、「この化粧品なら肌に合う」というリピーターが徐々に増えて、WEB主体で何万人もの方に利用いただいており、市販の化粧品が合わなかった方たちのニーズに応えられていると思っています。 ――最後に、今後の展望・抱負をお聞かせください。 菅原●引き続き地域の皮膚科診療の受け皿を担いながら、今は盛岡市や仙台市などの中心部にしか実施医療機関がないような、最新の注射治療など、より専門性の高い皮膚科治療にも対応できるように、診療所としての医療の質の向上、領域の拡充を組織一丸で測っていきたいと考えています。 制作・監修:㈱日本医療企画 (取材年月:2020年9月)

【解説】コロナによる財務危機を乗り越えるためには

【解説】コロナによる財務危機を乗り越えるためには

<著者>鈴木克己 鈴木克己税理士事務所 目次 01:資金繰り表を作成して今後の資金状況を検討する 02:税金や社会保険料を含めてあらゆる支払いを見直せ 資金繰り表を作成して今後の資金状況を検討する 新型コロナウイルス感染拡大以降、受診控えで収入が減っている診療所は多いと思います。加えて今後、職員の発症等、一定期間閉院せざるを得なくなるケースも考えられます。収入は減る一方で、家賃、人件費、リース料などの支払いが続くと、いずれ「収入<支出」となり、財務危機に晒されることになります。 想定される危機を乗り切るには、まず現在が「有事」であると認識し、有事にはどの程度の資金不足に備えるべきか、つまり“財務危機”の状況を明確にします。これには直近の実績を参考に収入減を考慮したシナリオを描き、資金繰り表を作成することがおすすめです。 資金繰り表の作成とは、今後の入金と出金を想定する作業です。入金は診療報酬の振込・自己負担金の日々の入金など、出金は医薬品等の支払い、人件費や家賃といった経費、税金、借入金返済に拠る支払いなど、これらを把握し資金繰り表に落とし込みます。 留意点は、必要以上に気合を入れ過ぎないこと。将来予測は正確なことに越したことはありませんが、有事であり速報性を重視して進めるべきです。過度に悲観的なシナリオを想定する必要はないものの、一定の減収を見込んで作成し、資金の流れを追いかけます。 資金繰り表の作成の結果、現預金の残高が必要以上に減る、支出を賄えず資金不足に陥る恐れがある場合、資金の調達や支出の先送りなどの対応策を急ぎ検討する必要があります。 税金や社会保険料を含めてあらゆる支払いを見直せ 財務危機を乗り切る方法は2つ。収入増か、支出減です。 ①収入を増やす 新型コロナの収束時期が見通せない今、収入増は非常に困難です。ただし、資金的に言えば、金融機関からの借入も立派な収入です。幸いなことに国は積極的な資金支援を行う姿勢を示しており、診療所向けの資金支援策も出されています。要件も杓子定規な運用ではないようで、積極的に相談すべきです。 支援策については、最新情報を随時入手し、活用を検討しましょう。なお「経済産業省 新型コロナウイルス感染症関連」で検索すると主な支援策に関する総合的なパンフレットが入手できます。 ②支出を減らす 無駄な経費を抑えることも大切ですが、有事だからこそ、普段とは違う対応も検討すべきです。 ■税金・社会保険料の納付猶予 税金の納付を猶予してもらうことも検討します。税務署に個別に相談することで原則1年間の納付の猶予が受けられる場合があります。本来一括で納付すべき税金の分割払いが認められれば、足元の資金繰りの安定につながります。 申告期限の延長など柔軟な対応が用意されているので、顧問税理士や税務署に相談しましょう。そのほか、厚生年金保険料などの社会保険料も同様に猶予される場合があります。 繰り返しになりますが、有事を乗り切るには、“今が有事であること”をしっかりと認識することが大切です。有事であるがゆえに、さまざまな資金支援策が講じられます。顧問税理士や金融機関などに相談して、必要な資金支援策を積極的に活用し、資金の残高を維持することに努め、嵐が過ぎ去るのをじっと待ちましょう。 制作:日本医療企画 (取材年月:2020年5月)

【ケーススタディ】地域の眼科医療を支えて 60余年懐の深い町医者目指し承継

【ケーススタディ】地域の眼科医療を支えて 60余年懐の深い町医者目指し承継

<取材先>医療法人社団吉田眼科 目次 01:外来診療から日帰り手術まで地域の眼科ニーズに対応 02:長く患者を支えるべく承継を地域にPR 外来診療から日帰り手術まで地域の眼科ニーズに対応 札幌市電・山鼻9条停留所から徒歩1分、札幌市営地下鉄中島公園駅からも徒歩7分とアクセス良好な場所に4階建ての自社ビルを構える吉田眼科医院。網野泰文院長は、叔母にあたる先代院長から2006年に同院を承継。先代から数えて60余年の長きにわたり、地域の眼科医療を支えています。同院がある中央区の西創成地区を、「ターゲットを絞りにくい場所」と網野院長は評します。 「商業地でも住宅地でもなく、あえて言えば賃貸マンションが多いですが、定住する人は少ない印象です。患者さんは子どもからお年寄りまで幅広く、新規も多い。特定層にこだわらず、幅広い眼疾患に対応できるようにしています」 実際に、小児では視力低下や弱視、中高年は生活習慣に起因するドライアイ、高齢者は緑内障や白内障など対応疾患は多岐にわたり、ビル内に手術設備も完備し、白内障の日帰り手術も行われています。また、眼科診療における大切なパートナーである視能訓練士による、視力検査や眼鏡・コンタクトレンズに関する指導にも余念がありません。地域で治療が完結できるように、万全の体制を整えているのです。 長く患者を支えるべく承継を地域にPR 36歳で同院の経営を引き継いだ網野院長。「意識したのは、私が当院を承継したことを地域に知ってもらうことと、先代のころから通い続けている患者さんが不満を感じないようにすることでした」と、振り返ります。 そこで、地域の雑誌や駅の看板に広告を出したのはもちろん、自院のHPも制作し、積極的なPR活動に勤しんだそうです。そのうえで、患者にもより丁寧な診療を心がけた結果、代替わり後も、先代から通う患者が離れることなく、2世代、3世代にわたって家族で通う患者も多いといいます。 なお、院名の「吉田」は先代の姓ですが、長く地域に親しまれてきた名称であることからも、先代との相談のうえ、院名は変更しないままでいるそうです。また、周辺で同じように承継開業した院長仲間が何人かいたことも、大きな助けになったといいます。 自身を「町医者」と称する網野院長。その役割について、「いつでも誰にでも、同じ態度で迎え入れる存在であること」だと話します。 「さまざまな患者さんが来院しますが、誰にでもフラットな姿勢であることをモットーとしています。困ったときにいつでも駆け込めるように平日は休診日も設けていません。地域で長く診療することが一番の貢献なので、私もスタッフも健康第一でありたいですね」 制作:㈱日本医療企画 (取材年月:2020年2月)

【解説】承継開業で押さえておきたい! 「手続き・法律」の基本ポイント

【解説】承継開業で押さえておきたい! 「手続き・法律」の基本ポイント

<著者>赤羽根信廣氏 株式会社川原経営総合センター 開発部部長 承継開業の場合、事業譲渡であるか、医療法人の承継であるかの違いで、行政上の手続きが大きく異なります。 目次 01:事業譲渡 02:医療法人の譲渡 03:債務の扱い ①事業譲渡 まず、事業譲渡の場合、売り手は診療所を閉院し、買い手が新規の診療所として開院するというスキームになります。これは、第三者承継でも、親子などの親族間の承継でも同様です。そのため、保健所等への届出や手続きとしては基本的に新規開業とほぼ変わりませんので、保健所へ事前に承継する旨を報告し、院内の監査を受けることがとなります(新規開業時と同じ)。 監査では、たとえばレントゲン装置の放射線漏れのチェックや、届け出されている平面図どおりの配置であるかなどを確認するほか、新規開業と同様に各種届出書類のチェックも行います。 時々あるのが、承継元の診療所が長年の運営のなかで、保健所への届出なしで院内を改装してしまっていたケースです。この場合、保健所に届け出られている診療所の平面図と現行の診療所のレイアウトや面積が違うため、平面図を引き直す必要があり、その分手間や費用がかかります。 ②医療法人の譲渡 医療法人を承継する場合、現行の社員(※)は基本的に全員退社という流れになります。そのため、現行社員の退社届と、交代で加わる新たな社員の入社届、社員総会の議事録、また、理事・監事も交代するため、その方々の辞任届と新任の理事・監事の就任承諾書――などの書類の準備や手続きを経て、晴れて医療法人の経営権は譲渡可能になります。 ※社員:医療法人の構成員であり、「職員」や「従業員」とは異なります。 ③債務の扱い また、承継元が抱えていた債務等の取り扱いも、事業承継と法人譲渡で変わります。 前者の場合、大体のケースでは債務の引継ぎはありませんが、あるとすれば、リース債務が挙げられます。その際はリース会社へ連絡し、前院長とのリース契約を打ち切り、同じ条件で新院長が新規契約を結び直し、リースを継続するという流れになるかと思います。 ただ、診療所によっては複数のリース会社を契約している場合、事前に前院長と一緒に契約内容の整理を行いましょう。 一方、法人譲渡に関しては、先述のリース契約などに関しても法人名義での契約のため、契約の結び直しなどは発生しません。ただ、少し複雑なのが、借入金を引き継ぐケースです。当然借入金も法人名義で借りているので、問題なく引継ぎできるだろうと考えがちですが、ネックになるのが、個人保証の部分です。代表者変更に伴う保証人の変更を申請しても銀行が応じてくれない場合が多く、結果として借り換えで対応せざるを得ないということになります。 最後に、承継では条件の決定から最終的な譲渡契約書の締結までに、売り手側のあらゆる資料開示は必須条項になります。総勘定元帳から外部との契約書全般、スタッフの雇用契約書――など、あらゆる資料を細部まで見て検討したうえで、譲渡価格が決定します。 こうした膨大な情報の精査を、当人同士のみで行うのは危険です。何をどう決めるべきか分からないままに譲渡の価額だけを約束してしまい、その後トラブルになり、結果的に譲渡の最終合意に至らなくなるというケースは非常に多いです。 必ず第三者として、事業承継に詳しい弁護士や、支援実績のあるコンサルティング企業、M&A企業などに間に入ってもらうことをおすすめします。ただし、新興でノウハウも実績もないような事業者も昨今多数でてきていますので、その選定は慎重に行う必要があります。 監修:㈱日本医療企画 (取材年月:2022年3月)

【解説】承継開業で押さえておきたい! 「集患・PR」の基本ポイント

【解説】承継開業で押さえておきたい! 「集患・PR」の基本ポイント

<著者>赤羽根信廣氏 株式会社川原経営総合センター 開発部部長 承継開業のメリットの一つに、承継元の患者の大半を引き継いだ状態でスタートを切れる点があります。ただ、特に診療所の場合、「あの先生に診てもらいたい」など、院長に患者さんがついていることも少なくありません。こうした承継元の患者さんをうまく引き継いでいくうえでは、どのような点がポイントになるでしょうか。 目次 01:診療所名の変更 02:院長の交代時期 ①診療所名の変更 すでに周辺地域で認知されている診療所名を承継後もそのまま踏襲したいといったご相談をいただくことがあります。ただ、これに関しては保健所の認可が下りるかが問題となります。 たとえば、医療法人の承継は経営者の交代なので法人名はそのまま使用できますが、個人診療所の承継で、元の診療所名が「田中クリニック」など前院長の名前が入ったものだと、保健所から変更要請を受ける可能性が高いです。 そのため、診療所名の変更が必要なときは、承継の目途がある程度ついた段階で患者さんに対し、承継することや院長、診療所名の変更等のご案内をしましょう。もちろん、従来と同様に引き続き診療していくことをしっかり説明する必要があります。 ②院長の交代時期 また、院長の交代についても、ある日突然交代するのではなく、承継前後に移行期間を設けたほうがスムーズに進みやすいです。具体的には、新院長は承継前の一定期間、承継予定の診療所に実際に勤務して前院長から業務や患者の引継ぎを行います。そして、承継後は、今度は前院長が一定期間引き続き診療所に勤務し、徐々に勤務日数を減らしてフェードアウトするという流れになります。 これにより、前院長についていた患者の引継ぎもしやすくなるほか、承継前に新院長が承継する診療所での勤務実績を積むことで、カルテの引継ぎに関しても保健所の許可が下りやすいというメリットもあります。特殊な事情がない限りは、移行期間を設けることをおすすめしています。 しかし、移行期間が長すぎても、お互いの欠点や好きになれない点なども見えてきます。そうなると、契約前なら条件の見直しや承継自体が白紙に戻ることもあり得ますし、契約後はより面倒なトラブルになりかねません。承継前後の移行期間が長くなることは、必ずしもメリットばかりではないようです。 監修:㈱日本医療企画 (取材年月:2022年3月)

【解説】承継開業で押さえておきたい! 「人事・労務」の基本ポイント

【解説】承継開業で押さえておきたい! 「人事・労務」の基本ポイント

<著者>赤羽根信廣氏 株式会社川原経営総合センター 開発部部長 人事・労務は、診療所院長が悩みがちな根深い問題です。承継開業においても例外ではなく、私がご相談を受ける内容の半数以上が、この問題なのです。そのため、人事・労務については、「これをすれば絶対にうまくいく」という正解は“ない”ことを、まずは肝に銘じていただければと思います。 目次 01:“雇われる側”から“雇う側”になったギャップ 02:必要な人材に続けてもらうには? 03:人事・労務のトラブルを予防するには ①“雇われる側”から“雇う側”になったギャップ まず、これは新規・承継どちらにも当てはまりますが、初めて開業した院長が最初にぶつかる壁が、この人事・労務といっても過言ではありません。なぜなら、院長の多くは今まで勤務医として“雇われる側”であり、人事・労務の経験がほぼないからです。「開業して3カ月でスタッフが全員辞めてしまった」といった話を耳にすることが少なくないのは、こうしたギャップがあるからです。 承継開業でスタッフも引き継ぐ場合は、売り手の院長から自院の人事・労務の現状やスタッフとの関係性などについて、しっかりヒアリングしておきましょう。 ②必要な人材に続けてもらうには? スタッフの引継ぎは、法人譲渡か事業譲渡かによってその後の対応が変わります。 前者の場合、医療法人名義で雇用されているため、スタッフごと引き継ぐのが大前提です。ただ、その際には有能なスタッフが理事長の交代を理由に辞めてしまうケースもあれば、逆に問題のあるスタッフに承継を理由に辞めてもらうこともできません。 さらに、秘密保持の観点から、承継の契約が締結するまではスタッフにその旨を説明するのは難しく、契約が締結した段階で初めて、各スタッフに働き続けるかの意思確認を行っていくことが多いです。 一方、後者の事業譲渡の場合、基本的には承継の段階でスタッフは一旦解雇し、引き継ぐ際は再雇用する仕組みになります。そのため法人譲渡とは異なり、働いてほしい人だけを再雇用するといった選択が可能です。しかし、これも結局は各スタッフとの意思確認が必要です。ドライに選別しすぎると、残す側にも残さない側にも遺恨が残り、その後のトラブルの原因になるので、前院長としっかり協議しながら戦略を考えていきましょう。 ③人事・労務のトラブルを予防するには 冒頭で申し上げたとおり、人事・労務の問題に絶対の正解はありません。そのため、承継時にそうしたリスクを軽減するには、やはり従前の雇用契約書などを事前にきちんと確認し、目に見える問題がないかを確認しておくことです。 診療所によっては、そもそも雇用契約書が残っていなかったり、給与計算等の規定が間違っていたりというケースも散見します。明らかに法律に抵触する問題は承継時に正さなければなりませんが、それによってスタッフ個人が不利益な変更を被ることがないように配慮する必要があります。 また、こうした雇用契約や社会保険等の確認などに際しては、売り手・買い手の院長のみで確認せず、社会保険労務士などの専門家にきちんと間に入ってもらい、一からきちんと見直してつくり直すことが、のちのトラブル回避のうえでもおすすめします。 監修:㈱日本医療企画 (取材年月:2022年3月)

【解説】承継開業で押さえておきたい!「不動産」の基本ポイント

【解説】承継開業で押さえておきたい!「不動産」の基本ポイント

<取材先>赤羽根信廣氏 株式会社川原経営総合センター 開発部部長 <著者>赤羽根信廣氏 株式会社川原経営総合センター 開発部部長 目次 01:立地はデータと現地視察の両方から選定 02:物件の契約は大家との関係性にも注意 ①立地はデータと現地視察の両方から選定 立地に関しては新規・承継にかかわらず、診療圏調査で候補地を検討することは、多くの院長が実践されていると思います。そのなかで、特に承継開業の場合は、診療圏調査上の見込み患者数と承継元の実際の患者数を比較してみてください。後者が多いなら、データ上では見えない部分に増患の要因があるはずなので、承継元の院長にヒアリングするなどして確認しておきたいところです。 可能であれば、時間帯ごとに現地へ実際に足を運ぶこともおすすめします。「どの時間帯が最も人の行き来があるか」「駅周辺はどの方面が一番にぎわっているか」「若者と高齢者ではどちらが多いか」など、診療圏調査では見えてこない生きた情報が現地視察からは得られます。肌で感じることが重要です。 どの立地情報がより重要になるのかは、承継後の診療科によっても変わってくると思われますが、いずれにしても、データから得られる情報と、買い手の医師が自分の目で得た情報の両方から、承継案件を選定することが重要です。 ②物件の契約は大家との関係性にも注意 次に、建物面からの比較ですが、承継元が不動産も所有しているのか、あるいは賃貸物件なのかによっても確認したいポイントは変わります。今回は、一般的に承継案件としても取り扱いが多い賃貸物件を中心にお話しします。 一つ目のポイントが、内装です。承継とはいえ、承継前の内装や設備をそのまま使うよりも、ある程度承継後の使い勝手を踏まえて手を入れることになります。その際、どの程度の内装工事が必要になるか、事前に確認しておきましょう。 二つ目が、物件の契約更新です。これは承継手法が事業譲渡か法人譲渡かで対応が異なります。まず事業譲渡は、売り手が賃貸借契約を解約し、買い手が新たに契約を結ぶ形になります。ただ、注意したいのが、物件の大家さんとの契約状況や現状の関係性を、売り手側にきちんと確認しておくことです。場合によっては売り手の解約時点で、「もう次の診療所には貸さない」といった旨を大家さんに言われるケースもあり、承継の前提が崩れてしまいます。 一方、法人譲渡の場合、賃貸借契約の更新は基本的に必要ありません。ただ、契約によっては、「チェンジオブコントロール条項」という、経営者の交代などが生じた場合に契約内容の更新・破棄等が可能なものが盛り込まれている可能性もあります。よって、法人譲渡の場合も、一度契約内容は確認しておくことをおすすめします。 監修:㈱日本医療企画 (取材年月:2022年3月) 目次 01:立地はデータと現地視察の両方から選定 02:物件の契約は大家との関係性にも注意 ①立地はデータと現地視察の両方から選定 立地に関しては新規・承継にかかわらず、診療圏調査で候補地を検討することは、多くの院長が実践されていると思います。そのなかで、特に承継開業の場合は、診療圏調査上の見込み患者数と承継元の実際の患者数を比較してみてください。後者が多いなら、データ上では見えない部分に増患の要因があるはずなので、承継元の院長にヒアリングするなどして確認しておきたいところです。 可能であれば、時間帯ごとに現地へ実際に足を運ぶこともおすすめします。「どの時間帯が最も人の行き来があるか」「駅周辺はどの方面が一番にぎわっているか」「若者と高齢者ではどちらが多いか」など、診療圏調査では見えてこない生きた情報が現地視察からは得られます。肌で感じることが重要です。 どの立地情報がより重要になるのかは、承継後の診療科によっても変わってくると思われますが、いずれにしても、データから得られる情報と、買い手の医師が自分の目で得た情報の両方から、承継案件を選定することが重要です。 ②物件の契約は大家との関係性にも注意 次に、建物面からの比較ですが、承継元が不動産も所有しているのか、あるいは賃貸物件なのかによっても確認したいポイントは変わります。今回は、一般的に承継案件としても取り扱いが多い賃貸物件を中心にお話しします。 一つ目のポイントが、内装です。承継とはいえ、承継前の内装や設備をそのまま使うよりも、ある程度承継後の使い勝手を踏まえて手を入れることになります。その際、どの程度の内装工事が必要になるか、事前に確認しておきましょう。 二つ目が、物件の契約更新です。これは承継手法が事業譲渡か法人譲渡かで対応が異なります。まず事業譲渡は、売り手が賃貸借契約を解約し、買い手が新たに契約を結ぶ形になります。ただ、注意したいのが、物件の大家さんとの契約状況や現状の関係性を、売り手側にきちんと確認しておくことです。場合によっては売り手の解約時点で、「もう次の診療所には貸さない」といった旨を大家さんに言われるケースもあり、承継の前提が崩れてしまいます。 一方、法人譲渡の場合、賃貸借契約の更新は基本的に必要ありません。ただ、契約によっては、「チェンジオブコントロール条項」という、経営者の交代などが生じた場合に契約内容の更新・破棄等が可能なものが盛り込まれている可能性もあります。よって、法人譲渡の場合も、一度契約内容は確認しておくことをおすすめします。 制作:㈱日本医療企画 (取材年月:2022年3月)

【ケーススタディ】一気に2つの分院をつくることになった

【ケーススタディ】一気に2つの分院をつくることになった

<取材先>福田篤史 医療法人翔誠会ふくだ内科 事務長 目次 01:─はじめに─予想外の2院同時展開 02:患者100人増で在宅分院開設を決断 03:コロナ対応の無利子融資が準備資金に 04:「規模の経済」でメリットも 05:本院との間で「シフト制」導入も ─はじめに─予想外の2院同時展開 ふくだ内科は、埼玉県戸田市のJR埼京線戸田公園駅から徒歩約7分のところに立地する、町の診療所です。常勤医師3人、非常勤医師7人の体制で、一般外来のほか、在宅医療にも取り組んでいます。 筆者は、製薬会社で10年ほどMRをした後、ベンチャー企業を経て、4年前に医療法人翔誠会に入職しました。現在は、事務長として経営に携わっています。 そもそも、在宅の分院を開設するつもりで準備を進めていました。ところが、ちょうど同じ時期に近隣の診療所の院長先生が急逝。その土地と建物や医療機器を引き継ぐことになったのです。結果的に分院を2つ同時に出すことになりました。 患者100人増で在宅分院開設を決断 30年間にわたり診療に従事してきた理事長兼院長から、4年前に70歳になるころ、辞めたいと打診がありました。まず考えたのは、「売却は簡単で、承継するほうが難しい」ということ。そこであえて「承継をしよう」と考え、入職しました。そして、10カ月後には法人化しました。 「承継をしつつ、拡大する」という戦略に沿って、外来患者さんキープしつつ在宅の患者さんを増やすという方向に舵を切ったのです。まず、診療については、創業者である前院長が担ってきたことを雇われ院長となる次の院長にすべて担わせることは難しいと判断。前院長の業務量は常勤医師換算で1・5人分だと判断し、医師の確保を図りました。 そして、夜間オンコールも含めて在宅にも対応してくれる院長が見つかりました。さらに、非常勤医師が常勤となってくれることになったのです。結果として、医師のマンパワーは十分に確保できました。しかしそうなると、コストが上昇することになります。収益改善をしなければ、コストが収益を上回りかねません。当然、増患を図っていくことになります。 そんななか、患者さんを紹介してくれることが多くなってきたさいたま市を調査してみると、競合の状況などから、在宅に関してまだ伸びしろがあると判断。在宅患者さんが100人を超えたら、さいたま市に分院を出すと決断したのです。ちょうどそのころ、本院から約600メートルのところにあったクリニックで、院長先生が急逝され、奥様から当院に対し購入の打診がありました。診療圏調査を行ったところ、本院よりも良い結果となったことを受け、購入を決断したのです。 たまたま時期が重なったこともあり、分院開設にともなう定款変更や県への手続きなどを一度に済ませてしまいたいと考え、結果的に一気に2つの分院を出すこととなったのです。 コロナ対応の無利子融資が準備資金に この決断の背景には、図のような事情がありました。さらに、昨春に新型コロナウイルス感染症の影響で、15%ほど売り上げが下がり、政府の支援策で3年間無利子の融資を受けていました。この4000万円の借り入れ資金を、分院の準備資金と運転資金に充てることができます。4年前から行ってきた本院の財務体質の改善活動の結果、売り上げが約2倍になったことも、後押ししています。 図 分院展開を決断した基準 【財務面】 ▽過去最高売上で堅調な気配 ▽金利が低く、コロナ下で融資が受けやすい環境 ▽コロナワクチンのディープフリーザーも置ける施設になったことで、今期増収が見込めた 【将来性】 ▽市場性(診療圏調査で本院よりもいい結果であったこと) ▽発展可能性(外来のクリニックは2階部分もあり、もう1つのクリニックとしてもオープン可能) 【その他】 ▽常勤医師の理解が得られたこと ▽法人でいい人材が集まってきたこと ▽急逝された先生の奥様から購入を依頼されたこと 「規模の経済」でメリットも 2つの分院を同時に開設することには、メリットがいくつかあると考えます。1つは、「規模の経済」です。検査会社や医薬品卸の納入価格の本院統一などスケールメリットをかすことが可能になるのです。実際、検査会社を変更することもあり、年間約300万円~500万円(?)のコストカットができると予想しています。 また、複数の事業所を持つことは、リスク分散につながります。コロナ下でも傾かない安定した経営体制を築く一助になるとも考えました。さらに、診療所が増えることで、人事の柔軟性が高まるだけでなく、より優秀なスタッフが集まってきてくれるようになったと思います。間接的な効果も、かなりあるのではないかと考えています。簡単な事業計画として考えているのは、分院がそれぞれ半年で黒字化を果たすことを目標にしています。売上規模は現在の約3億円から、開院2年後には5億円を目指していきます。 本院との間で「シフト制」導入も 2分院開院後の運営ではまず、電子カルテの共通化が挙げられるでしょう。患者情報の共有が簡単にできるのはもちろん、オープニングスタッフが事前に操作方法に習熟することも容易です。診療所の主戦力を分院開院時期に投入することができるため、あらゆるケースの患者さん対応が可能になります。 分院の運営は、分院長や医療スタッフが診療に集中できる環境を整えるため、マネジメント部分は法人の管理部門が担うこととしました。 今後、法人本部で管理すべきことを洗い出し、分院長が「やりたい医療」をヒアリングしたうえで、体制を固めていきたいと思います。「遊び」の部分も含めて、できるだけ分院長の「やりたい医療」にもかかわることができる状態を目指します。 要は、ガチガチに管理するのではなく、自主性を尊重し、楽しくかつやるべきことをやる組織にする。それが目標です。関連セミナーや先輩経営者の先生方のお話をうかがってみると、「何かしら問題が起きる」ものだと考えています。腹をくくり、問題が小さいうちに対処できるよう、今から対応策を考えています。 具体的には、定期的ミーティングを開き、本院とのシフト制なども取り入れた人事交流を可能とするような仕組みがつくれればいいと考えています。 制作:㈱日本医療企画 (取材年月:2021年4月)

【解説】新しい事業展開のアイデアは X×Y×Zの3軸で考えろ!

【解説】新しい事業展開のアイデアは X×Y×Zの3軸で考えろ!

<著者>株式会社ヘルスケア・ビジネスナレッジ 代表取締役社長 西根英一 そもそも、既存の枠組みにとらわれないビジネスモデルのアイデアはどうすれば生まれてくるのでしょうか。ヘルスケアマーケティング戦略やビジネスモデルの最適化に精通する、株式会社ヘルスケア・ビジネスナレッジの西根英一代表取締役社長に話を聞きました。 目次 01:ビジネスモデルの3つの軸とは? 02:Z軸の入れ替えでアイデアは多種多様に 03:Z軸に入るキーワードは世間の流行やニーズからランダムインプットする 04:「競争」するのではなく「共創」することがヘルスケアビジネスの要諦 既存のビジネスモデルも「Z軸」の組み合わせで新たな事業のアイデアに ビジネスモデルの3つの軸とは? 従来の保険診療の枠にとらわれない、独自の新事業を展開したい。ただ、具体的な事業のアイデアがなかなか思いつかない――。そんな院長はまず、医療機関も含む世の中のビジネスを3つの軸(X・Y・Z)で考えることをおすすめします。これは、既存のビジネスモデルを構成する要素をX軸・Y軸としたとき、そこへ新たな要素としてZ軸を組み合わせることで、新しいビジネスアイデアの発想につなげる思考法です。 具体例として、「健康経営」に関する事業のアイデアを創造するというイメージをもとに考えていきましょう。まず、「健康経営」自体を構成するX軸とY軸は、次のように考えられます。 X軸:従業員向け健康教育 (例:「栄養・食生活」「身体活動・運動」「休養・睡眠」) × Y軸:法人(企業)経営 ただ、この2軸だけでは、あくまで一般的な「健康経営」の概念を出ないビジネスモデルで終わってしまいます。そこで、ここに新たにZ軸として、「インセンティブ」という要素を入れましょう。すると、次のようになります。 X軸:従業員向け健康教育 × Y軸:法人(企業)経営 × Z軸:インセンティブ (例:「認定・認証」「表彰・顕彰」「褒美・優遇」) これにより、「インセンティブの充実した健康経営はできないか」という発想が生まれ、たとえば、社内表彰制度、褒賞制度、外部認定制度――などの具体的な事業のアイデアにつながっていきます(図1)。昨今、健康経営への参入が盛んになっているのも、経済産業省の「健康経営優良法認定制度」をはじめ、各企業でもこうしたZ軸を組み合わせた取り組みが出てきたからと言えます。 また、地域ヘルスケア事業の例を挙げると、近年さまざまな自治体で「ヘルスツーリズム」の取り組みが始まっています。これも、従来のX軸・Y軸のみだけでは、「特定健診で引っかかった対象者に対し生活習慣等の保健指導を行う」といった、どの自治体でも代わり映えのしない取り組みになってしまいます。 ただ、Z軸として「アクティブレジャー」を組み合わせることで、「地元の自然体験やアクティビティーで運動の楽しさを知ってもらう」「ドラマロケ地を巡り歩く聖地巡礼を企画する」など、自治体ごとに独自のヘルスツーリズムのアイデアが生まれるきっかけになるでしょう(図2)。 Z軸の入れ替えでアイデアは多種多様に このように、ビジネスモデルのZ軸に入れる内容を変えていくことで、さまざまな新しいアイデアを創造できます。このZ軸の組み合わせで近年、非常に多様な業態変化が起きている代表例が、フィットネスクラブです。 従来は、「運動施設」(X軸)×「プログラム」(Y軸)からなる総合型フィットネスクラブが一般的でしたが、各社がこれに加えてZ軸になる要素を入れた結果、たとえば、 ▽24時間年中無休型(例:エニタイムフィットネスグループ)、▽目的特化型(例:ライザップグループ)、▽コミュニティー重視型(例:カーブスグループ)――など、同じX軸・Y軸でもさまざまなフィットネス事業が展開されています(図3)。 これを、診療所に置き換えてみましょう。「医療施設」をX軸、「医療の提供」をY軸とした場合、「24時間年中無休型診療所」「目的特化型診療所」「コミュニティー重視型診療所」――これだけでも、異なるアイデアが3つ出てきました。ここからさらに、「『目的特化型診療所』って何だろう、何ができるだろう」と、具体的な事業内容をディスカッションしていけば良いのです。 もちろん、アイデアによっては、現行制度上の問題など、実現のハードルが高いものも出てきます。ただ、そのときはMS法人や株式会社など別組織を用意するなどによって解決できるケースもあるでしょう。まずは新事業のとっかかりになりそうなアイデアを出 していくことが重要です。 また、参考までに、私が日本代表理事を務めている、「一般社団法人日中健康寿命促進協会」で訪中視察した際に見た、西安の医療機関が展開するこの3軸モデルに当てはまる経営スタイルもご紹介しておきます。 中国では現在、日本における「健康日本21」のような施策が進められており、特に予防医療、未病の段階での介入支援に注目が集まっています。そのなかで西安のとある病院では、同じ敷地内に従来どおりの患者に治療を施す「病院」と、予防医療の提供を主とする「未病院」が併設されていました。 この「病院」「未病院」、実はビジネスモデル的にはどちらも「医療施設」(X軸)、「診察・検査・診断」(Y軸)までは同じで、最後のZ軸に〝治療〟と入れると「病院」事業に、〝予防〟と入れると「未病院」事業になると、考えることができます(図4)。 図4 「病院」と「未病院」のビジネスモデルのイメージ それを踏まえると、もし、このZ軸に〝美容〟と入れたら、医学的診断のもと美容サービスを提供する、「美容院」をつくれるかもしれません。つまり、Z軸に入る要素の入れ替えによって、既存の医療機関の事業も新しい能性が見えてきます。 Z軸に入るキーワードは世間の流行やニーズからランダムインプットする 一方で、Z軸になり得るキーワードは、どこから見つけてくれば良いのでしょうか。先述したフィットネスクラブ業界の例に関しても、本来フィットネスとは関係ない言葉をランダムインプットしていった結果、ニーズがありおもしろそうな組み合わせが見つかったと言えます。 そのため、診療所でZ軸を探す際も、医療界ではなく、一般社会で現在注目されているワードや概念、流行しているスタイル、ニーズなどにアンテナを張っておき、気になるキーワードを抽出することをおすすめします。普段院内だけで聞く言葉を入れてみても、新しい発想は生まれません。たとえば今なら、「GO TO」などでも良いのです。 医師もひとたび診療を終えて院外に出れば、1人の生活者です。普段の生活のなかで見つけた言葉や概念をどんどんZ軸に入れ込んで、おもしろそうな組み合わせを探してみましょう。 また、他の人とディスカッションしてZ軸になりそうなアイデアを出し合っても良いでしょう。たとえば、私も携わっている自治体活動の一つで、福井県の「福井しあわせ健康産業協議会」が2019年に設立したのが、「福井県ヘルスケアビジネス研究会」という勉強会があります。ここでは医療、介護など複数のワーキンググループでディスカッションし、さまざまなビジネスプランを企画しています。 たとえば、同会の医療ワーキンググループでは、地元の商店街の空き店舗に着目し、地域住民、医療・介護従事者、利用者などが日常的に集まり、健康増進や未病の段階での介入支援、参画企業によるサービス・製品提供などの予防機能を担う拠点を商店街内に設けるというビジネスプランを提案しました。現在プロジェクトの実行に向けて動き出しています。 「競争」するのではなく「共創」することがヘルスケアビジネスの要諦 ヘルスケアビジネス、特に診療所が担うべき地域ヘルスケア事業に関しては、昨今の地域包括ケアの流れと同様、どこか一つの法人の力のみですべてのニーズに特化し独り勝ちすることは難しいと思います。重要なのは、地域の他の医療機関や他業種の企業などと、「競争」ではなく、「共創」による事業展開です(図5)。 図5 「共創」ビジネスのイメージ たとえば、「エンタメ」「観光」など、一見診療所だけでは実現が難しそうなZ軸も、それらの産業を担う地域の企業と「共創」ビジネスプランを考えれば、まったく新しい事業のアイデアが生まれる可能性が出てくるでしょう。ぜひ、競い合うのではなく、一緒にビジネスを構築する姿勢で新たなZ軸を探してみてください。 監修:㈱日本医療企画 (取材年月:2021年12月)

【ケーススタディ】新型コロナ対応を機に救急診療所から小規模救急病院へ転換

【ケーススタディ】新型コロナ対応を機に救急診療所から小規模救急病院へ転換

<取材先>鹿野 晃 医療法人社団晃悠会 ふじみの救急病院 院長 目次 01:新型コロナ流行当初から発熱外来等に対応 02:新型コロナ対応の実績で診療所から病院へ転換 03:収束後も見据えた展開で地域のニーズに応え続ける 当院は2018年、「ふじみの救急クリニック」としてスタートしました。救急救命センターで長年勤務するなかで、病院勤務医としてできることに限界を感じ試行錯誤していたときに偶然知ったのが、「救急クリニック」という新しい選択肢でした。 当院が担ったのは、軽症~中等症、時には一刻を争う重症の救急患者に24時間365日対応する地域医療の受け皿です。地域の二次救急、三次救急の病院への軽症患者の殺到を防ぎ、本来の重症患者の受け入れに専念してもらうことで、地域内で救急患者の受け入れを完結する円滑な連携と機能分担に資すると考えてのことでした。 実際に、当院の開業以前、当院がある埼玉県ふじみ野市、富士見市、三芳町の2市1町からなる入間東部地区では年間約1万件の救急要請のうち、3000件が地域外へ送られていました。ただ、開業後は約1500件を当院が受け入れるようになりました。 さらに、19年5月からはEMT科を設置し、自前の救急隊を発足。地元の救急隊の負担軽減し、要請があった個人宅や介護施設へのお迎えから転院搬送まで一括対応できるように整備しました。このように、救急患者を地域で診て地域に帰す、〝地産地消〟の医療に貢献してきたと考えています。 そんな当院は20年12月、19床の救急クリニックから、38床の小規模な救急病院へと転換しました。この背景には、当時の新型コロナウイルス感染症への対応や、そこで感じた課題、新型コロナ収束後にも求められる首都圏近郊の救急医療のスタンスがあります。 新型コロナ流行当初から発熱外来等に対応 新型コロナの流行当初から、当院では4月には敷地内でプレハブ2個を利用した「発熱外来」を設置したほか、院内の10床の大部屋で新型コロナの入院患者の加療も開始しました。発熱外来のプレハブは、コロナ禍以前から進めていた新病棟の建設のため、建築業者が仮設事務所や倉庫用に設置したものを、工事現場の移動にともない無償でいただきました。 発熱患者が増加するにつれて、発熱外来以外の一般患者の動線も踏まえ発熱外来のプレハブを、道路を挟んで向かいの別駐車場へ移し、さらにプレハブを増やして個室と外来部門も設置。最終的に、19個のプレハブ病棟と9個の発熱外来プレハブの計28個からなる、「発熱外来・PCRセンター」になりました。 この当時はまだ国や県の要請ではない完全に自発的な取り組みで、採算も度外視の持ち出しで行いました。ただ、収束の兆しがまったく見えないなか、仮に10床の大部屋に1人感染者が入院すれば、残り9床を持て余すことになります。県内でも入院病床が足りていなかった時期ですから、いっそ全病床を外に出してプレハブで個室をつくり、19床の新型コロナ用の病床を整備したほうが良いと考えたのです。 一方、一般の救急医療については、コロナ禍以降激減しました。これは、外出控えで交通事故や転倒といった外傷系の患者などは減少したからです。また、外来についても、脳神経外科のかかりつけ患者の受診控えや検査の延期などもあり、経営的には厳しい時期もありました。 新型コロナ対応の実績で診療所から病院へ転換 その後も、埼玉県の要請もあり新型コロナ患者疑いの方の受入れや、時に重症者対応も行っていました。ただ、そのなかで課題となっていったのが、現場と経営のかい離でした。重点医療機関として重症者対応が求められる一方、有床診療所ではICU・HCUが持てず、関連の算定や補助金申請ができなかったのです。 そこで、それまでの新型コロナ対応の実績から昨年12月、19床から38床への臨時増床が認められた結果、正式にICU1床、HCU6床でECMOなど超重症患者対応も可能な病院への転換が叶ったのです。 そもそも当院ではコロナ禍以前から、新病棟のほかにもER機能の強化、人員や脳神経外科部門の拡充、リハビリ部門の開設、CT、MRI等の各種検査の増設、そして、血管造影や心臓カテーテル手術への対応など、機能拡充に向けた体制整備を進めていました。そのため転換後は、心疾患や脳梗塞といった救急患者の受け入れからカテーテル手術、術後管理まで担えるスペックを備えることができました。 たとえば、脳梗塞の救急患者の場合、以前は受け入れ後に血栓溶解療法などの救急処置は行えず、その後のカテーテルによる血栓回収術などは地域外の病院に搬送するほかなかったのが、自前で対応できるようになりました。 これにより、新型コロナの収束後も、遠方の病院への搬送を減らし、救命率はもちろん後遺症の軽減や復帰率が向上するなど、より一層地域完結型の救急医療体制への貢献が期待できます。 収束後も見据えた展開で地域のニーズに応え続ける 新型コロナに限らず、今後も大規模な新興感染症の流行は起こりえること。さらに、首都直下型地震といった災害対応についても、これからは救急専門診療所や小規模な救急病院が大病院にはない機動力を活かして対応していくポテンシャルを持っていると、私は考 えています。 今回、当院は臨時増床による病院転換が認められましたが、新型コロナ収束までに引き続き実績を積み上げ、22年以降の地域医療構想調整会議でも検討のうえ、収束後も小規模病院として運用していく構想も練っています。 また、それに向けて、増員した人員体制を維持していくためには、新しい事業展開も必要となります。三次救急の受け入れももちろんですが、昨年4月からはふじみの救急訪問看護ステーションを開設し、訪問看護・リハビリテーションを開始したほか、病院でも在宅医療部門も立ち上げ、訪問診療も始まりました。さらに、民間救急隊についても、1隊から2隊体制へとさらに充実させています。   新型コロナ後も救急専門診療所や小規模救急病院の役割や存在意義が失われることはなく、引き続き地域や患者さんのニーズに応えていきたいと思います。   制作・監修:㈱日本医療企画 (取材年月:2020年2月)

【ケーススタディ】人工関節手術からリハビリまで整形外科領域の機能拡充を推進

【ケーススタディ】人工関節手術からリハビリまで整形外科領域の機能拡充を推進

<取材先>医療法人社団高遼会 整形外科たかひろクリニック(兵庫県西宮市) 目次 01:患者のADL向上のためリハビリの拡充から着手 02:手術まで一貫した流れをつくるため病院を承継 03:日々のPDCAサイクルと経営改善が肝要 患者のADL向上のためリハビリの拡充から着手 2012年に兵庫県西宮市で開業した医療法人社団高遼会 整形外科たかひろクリニックは、開業以降、患者ニーズに即して整形外科領域での機能拡充を続けてきた。 「最初は、機能拡充などは考えず、まずは診療所経営を軌道に乗せるために試行錯誤していました。ただ、日々診察するなかで、同じ整形外科でも勤務医時代はかかわっていなかった領域も含め、それが必要な患者さんに提供できる体制が求められると、強く感じるようになったのです」と、飯田高広理事長は話す。 そこで、14年に最初に着手したのが、通所リハビリテーションだ。勤務医時代は手術に特化していた飯田理事長だが、診療所には術後のリハビリ不足で歩行機能が再び悪化したり、要介護になったという患者も多く訪れたことから、退院後の切れ目ないリハビリ体制の重要性を認識したためである。 同院隣の土地を買い取ってリハビリスペースを併設。さらに、通所も困難な患者もいたことから、15年には在宅医療や訪問リハビリも開始した。今では症状に応じて訪問から通所までシームレスに切り替えられる柔軟なリハビリが強みとなっている。 こうして、「自身の足で歩けなくなる患者さんを減らす」というミッションを掲げた同院。次に着目したのが、整形外科疾患に詳しいケアマネジャーの教育による質の高いケアプランの立案である。そのため、17年に居宅支援事業所「ケアプランセンターはるか」を開設し、同時に幅広いニーズに応えるべく訪問看護もスタートした。 この狙いを飯田理事長は、「術後早期にリハビリを開始し患者さんのADLが回復すれば、ご家族の介護負担を減らすことができます。自院でリハビリに精通したケアマネジャーを抱えて事業展開することで、迅速に患者さんとそのご家族とつながり、リハビリにつなげられます」と話す。 写真差し込み(院内) 手術まで一貫した流れをつくるため病院を承継 診療所では、手術へ至らないための保存的治療と、術後のADL向上に向けた柔軟なリハビリ提供に注力する一方、手術が必要な場合は連携先の病院や、飯田理事長が非常勤で人工関節手術をしている近隣病院などに紹介していた。 しかし、もっと自院でフレキシブルに手術対応ができる体制を模索した結果、18年に決断したのが、大阪市内の病院の承継だ。 手術をはじめとする診療所ではできない診療のカバーのほか、病院経営を通じて地域医療全体を俯瞰できるようにするといった狙いがあったという。これにより、整形外科の保存的治療とリハビリを担う診療所と、腰・膝などの手術を担う病院という流れができたほか、病院で整形外科疾患に関連する内科、外科、リウマチ治療などにも自法人内で対応できる体制が整った。 「承継には莫大な費用がかかりましたが、地域の患者さんにはあらゆる整形外科疾患に対応できる医療機関として認知してもらえるようになったと自負しています」と、飯田理事長。法人規模の拡大に伴い、スタッフのスキルアップや育成にも積極的に取り組み、増員するごとに研修や福利厚生、人事考課の体制整備に余念がない。 写真差し込み(クリニックの写真) 日々のPDCAサイクルと経営改善が肝要 しかし、こうした積極的な機能拡充を実現するうえでは、法人全体としての事業の安定化が不可欠。その背景には、日々のPDCAを欠かさない経営努力がある。 たとえば、新事業で想定どおりに増患しなかった場合、その問題点を洗い出し、飯田理事長を含むスタッフ全員で検討し修正する機会を定期的につくっているという。 「どこに問題があるのか、患者さんからご意見や要望をヒアリングして分析したり、近隣施設への営業を強化することはもちろんのこと、患者さんへの説明方法はどうか、ホームページはわかりづらくないか、新たな専門職を雇用すべきか、などを検討して、細かい調整を常に続けています。その甲斐もあり、おかげさまで診療所の介護事業は現在、いずれも軌道に乗っています」 さらに、飯田理事長自身の研さんも欠かさない。近年では新たに専門医の資格を取得し、リウマチ外来やアンチエイジング外来、サプリメント外来といった専門外来も開設したほか、それに伴い、最新の骨密度測定装置の導入など、設備投資も行った。現状としては介護事業ほどのニーズにはまだなっていないものの、「困ったときに、ここに来れば相談できる」というオプションメニューとして認知されているようだ。 地域の整形外科領域を幅広くカバーできるようになった今、同法人が次の課題に捉えているのが、築55年以上の病院の移転だ。承継時に全フロアをリノベーション済みだが、災害時などに地域の急性期病院としての役割を果たすためには、いずれ移転は必要だと、飯田理事長は話す。 「地域の急性期病院として、災害にも強い病院建築を近いうちに叶えたいと思っています。また、その際には優秀な医師を採用してさらにパワーアップできるよう、少しずつ準備を進めていきたいと思っています」 写真差し込み(高遼会が保有している病院の写真) 制作・監修:㈱日本医療企画 (取材年月:2022年1月)

【ケーススタディ】臨床研究と一般診療の両輪で睡眠障害にアプローチ

【ケーススタディ】臨床研究と一般診療の両輪で睡眠障害にアプローチ

<取材先>睡眠総合ケアクリニック代々木(東京都渋谷区) 目次 01:幅広い睡眠障害に対し対応可能な数少ない診療所 02:設備・人員ともに充実多岐にわたる症例ごとに対応 03:都市部は増えつつあるが地方の受け皿はいまだ不足 幅広い睡眠障害に対し対応可能な数少ない診療所 2003年に開業した、医療法人絹和会睡眠総合ケアクリニックは、およそ90種類あると言われる多様な睡眠障害に対し、包括的に診療を行うことができる体制を揃えた、日本でも数少ない診療所の一つだ。 また、東京医科大学の睡眠学講座と提携した研究機関でもある。同院の外来診療による症例の蓄積と大学での臨床研究による睡眠治療の発展のクロスオーバーにより、日本における睡眠学の発展に資すること、また、こうした睡眠障害の専門的な治療を担う新たな人材の教育・育成を担う場所として機能しているのだ。 同大学睡眠学教授も務める井上雄一理事長は、開業から現在までの睡眠に悩む患者の変遷について、「基本的な構造は大きく変わってはいませんが、全体的な患者数は増加しており、当院の受診者も年々増えています」と話す。 なお、新型コロナウイルス感染症の流行以降では、在宅ワークなど生活が変わったことで睡眠のリズムが崩れてしまい、「夜眠れない、朝起きられない、起きても身体がだるい」といった症状を訴える若年の患者が増えたという。 現在の1日当たりの平均患者数は、完全予約制で約150人。そのうち10人~15人が新規患者であるという。 設備・人員ともに充実多岐にわたる症例ごとに対応 そんな同院が持つ強みが、幅広い睡眠の悩みに対し、ハード・ソフトともに柔軟かつ専門的に対応できる体制を整えていることだ。 まずソフトについては、診療科は多くの睡眠障害の原因に関連している精神科、呼吸器内科、神経内科を標ぼうし、それぞれ神経内科医1人、呼吸器内科医2人、精神科医3人を配置しているほか、一般内科医1人も採用している。医師の採用に関しては、大学関連からのルートのほか、各種学会での発表や共同研究といった、研究人脈からの採用が多いという。また、コメディカルも、不眠に対する認知行動療法を実施する臨床心理士が2人いるほか、研究補助者3人(非常勤)も在籍している。 一方、ハードでは睡眠ポリグラフ検査などの入院検査を行うための個室を全12床完備しており、日本の睡眠専門診療所のなかでは最大級だという。そのほかにも、▽CPAP圧設定検査、▽睡眠潜時反復検査(MSLT)、▽覚醒維持検査(MWT)、▽下肢不動化(示唆)検査(SIT)、▽末梢神経伝導速度検査・H反射検査、▽肺機能検査、▽鼻腔通気度検査、▽脳波検査――など、患者一人ひとりの睡眠評価に必要な検査体制を整備している。 「患者さんの症状ごとに、必要となる検査や治療はケースバイケースであり、ステレオタイプに一律の検査・診療では対応できません。たとえば、睡眠リズムの崩れなどは主に精神科医を中心に対応しますが、睡眠中の異常行動・異常運動などは、神経内科の領域になります。すべての方に安心して治療を受けていただくため、より科学的なエビデンスをもとに診断・治療を行っていくための体制を整えています」(井上理事長) これらの充実した体制を効率的に運用するため、初診に関しても、まず電話予約の段階で具体的な悩みをヒアリングしている。その症状ごとに適切な診療科の振り分けを行っておくことで、受診当日はスムーズに診察・検査オーダーできるように配慮している。 患者によっては診察のなかで複数の症状の合併が見られるケースも少なくない。その場合は、初診の診療科から次の診療科の医師へ院内でつないでいくのだ。 都市部は増えつつあるが地方の受け皿はいまだ不足 睡眠障害を専門的に診られる受け皿の現状について井上理事長は、「都市部は充実してきていますが、やはり地方はまだまだ少ないと思います」と指摘する。また、一口に〝睡眠専門〟といっても、幅広い睡眠の悩み全般に対して専門性を発揮できるような体制を持つ医療機関は多くはないという。 「当院では睡眠時無呼吸症候群の患者さんは全体の約3割のウエートを占めていますが、全国で『スリープクリニック』『睡眠クリニック』として開設しているところのなかには、実際には睡眠時無呼吸症候群のみ対応していて、ほかの睡眠障害に関してはあまり診ていないという診療所も少なくありません。昨今は一般の内科や循環器内科でも睡眠時無呼吸症候群に対応するところも出てきているので、その領域の受け皿は増えたと言えますが、睡眠障害全般の受け皿は、都市部でもまだ充分ではないのかもしれません」 また、井上理事長は、こうした課題を解決するうえでは、日本における睡眠学教育の充実が一番重要であると話し、実際に、井上理事長自身も大学では研究とともに後進の育成にも注力している。 また、同院の勤務医で外来での研さん後にその知見を活かして大学での臨床研究に戻る人も多いほか、独立し同院のような睡眠専門診療所を立ち上げた人も何人かいるという。そのうえで井上理事長は、「睡眠学という領域を発展させるためには、臨床研究と一般診療が両輪として一緒に動いていく必要があります」と強調する。 「学問領域としても、診療領域としても確立され、ブラッシュアップされていれば、あとは供給していくだけですが、現状はいまだ発展途上の学問と言えます。研究者であり、同時に臨床家でもある人材を育てていくスタンスが領域全体でまだまだ求められると考えています。そのためにはそれぞれの研さんに資する教育の場が必要であり、これらの充実が、ひいては質の高い睡眠専門診療所の充実にもつながっていくのではないでしょうか」(井上理事長) 制作:㈱日本医療企画 (取材年月:2020年2月)

【解説】安定期にある診療所は要注意!! 経営課題を抽出し、早めの対策を

【解説】安定期にある診療所は要注意!! 経営課題を抽出し、早めの対策を

<著者>澁谷辰吉 一般社団法人医療福祉介護研究協会 危機意識の欠如からルール無視も散見される 経営者の意思決定が全職員に周知徹底されているか。各種書類および記録の分類や整理、保管などがきちんとなされているか。ホームページは定期的に更新されているか。院内掲示は医療関連法規を遵守したものになっているか――。「当たり前のこと」と思われるかもしれませんが、院長は「きちんとできているはず」と思っていても、実際には、意外となされていないケースが珍しくありません。 その大きな理由は2つ。一つは、きちんとしたルールが整備されていないこと、もう一つは、ルールは整備されているものの、きちんと遵守されていないことです。 まず、前者についてはルールを整備することです。下記にある「経営課題抽出チェックリスト」をもとに、各項目にある内容に関してルールを整備してみてください。 次にルールは整備されているけれど守られていないというケースです。これは開業間もない創業期はもちろん、安定期に入った診療所でも散見されます。 その背景には危機意識と問題意識の欠如があります。診療科や規模によって多少事情は異なりますが、診療所の大半は開業から大体5年ほど経過すると経営は安定期に入ります。5年も経てば診療所の存在地域にある程度認知されているでしょうし、院内の日常業務の進め方も確立しているでしょう。さらに言うとリース契約も満了するからです。 ただ、こうした時期は油断が生じやすい傾向があります。実際、スタッフは決められたルールを順守せず自分のやりやすいスタイルに変更したり、面倒なことは極力避けようとしたりするようなケースもあります。一方、経営者も何事もこれまでどおりやればいいと状況の変化を考えず、経営を甘く考えてしまう傾向があります。 ルールが整備されていない診療所はその整備に向けた参考に、気の緩みが見られる診療所は「溜まった膿をだす」きっかけに、ぜひ次の「経営の課題抽出チェックリスト」を活用してください。 監修:㈱日本医療企画 (取材年月:2020年4月)

【解説】知っているか?賃金制度の問題点 ワンマン経営から脱却する今は絶好の機会

【解説】知っているか?賃金制度の問題点 ワンマン経営から脱却する今は絶好の機会

<取材先>溝口博重氏 株式会社AMI&I代表取締役 目次 01:経営者一存の体制を変える 02:組織統治の基本 03:組織規模に沿った人事制度に 経営者一存の体制を変える 今年の3~5月は、新型コロナウイルス感染症の影響で多くの医療機関が減収減益となっています。流行病による、全国的な患者大減少は戦後初の事例ですが、昨今の診療報酬改定もあいまって、大きな打撃を受けた診療所も少なくなく、金策を含めた対応についての相談を多くいただいています。 もともとの医療政策は「診療所経営」はどんぶり勘定でもある程度、問題ない設定でしたが、2000年以降の医療改革で、診療所も経営を意識した取り組みを必要とする方向に舵を切っており、今回の新型コロナ禍でさまざまな問題が一気に顕在化しました。 医療機関は、病院はもちろんですが、診療所も労働集約型の事業形態であり、人件費が大きい割合を占めます。今回、売上減少への対応として夏の賞与カットするケースも多く見ます。 「そもそもボーナスは利益を従業員に還元するものだから、カットしても問題ない」という理屈もありますが、従業員側としては生活給としてボーナスがあるものと考えており、かつ、これまでは経営側も特に深く考えずに出してきたという背景もあるため、「経営者の一存で何でも決まってしまうのか」と、不信感の温床になりかねない状況が形成されつつあります。 組織統治の基本 組織統治には、経営者を含めたルールの規定が必要になります。日本の人事規定は欧米に比べ10年遅れている、と言われており、その日本のなかでも医療業界は10年遅れている、と言われています。要するに世界水準に比べ20年遅れていることになる日本の医療業界にあっては、就業規則や給与規定、人事規定など、時代にそぐわないルールを運用、あるいはあっても活用していないケースが非常に多くあります。 院長1人で、スタッフ4~5人という規模の診療所が大半で、各規定がなくても、どうとでもなる時代が長く続いてきたからです。 しかし、現在では非常勤医やパート職員も増え、さまざまな雑事が生じています。当然、人の軋轢も増え、小さい社会ゆえにちょっとした不平不満も見聞きするようになっています。多くの院長は「診療よりも人事が大変」という認識を持っているでしょう。 しかし、これらの問題は昔ながらの人事ルールを運用しているから生じているケースも少なくありません。今回のコロナ禍は、賞与カットやスタッフの休業、さらには社会的な自粛といった大きな衝撃があり、言い方は悪いですが、この衝撃のさなかに、筋肉質の組織への転換を図ることは、なんとなくスタッフも必要なことかと、その内容を理解せずとも納得はしてくれやすいタイミングにあります。給与制度を含めた人事制度の再構築は、非常にセンシティブな問題であり、平時においては取り組み難いですが、有事に際しては必要なこととして受け入れてもらいやすい環境にあると言えます。 これを奇貨として、業界水準の20年前の人事・給与制度から脱却をして、ワンマン経営からしっかりした組織経営にシフトする絶好の機会です。むしろ、この機会を逸してしまっては、いつ変えるのか――という話です。「なんで俺ばかり大変なのか?」と思うことがある院長こそ、この機会に人事・給与制度の見直しをおすすめします。 組織規模に沿った人事制度に 人事・給与制度改革にはさまざまな手法論がありますが、診療所経営者が陥りやすい注意すべきポイントを1つだけ指摘しますと、『マッチョはマッチョを選ぶ』です。 ようするに、院長自身は経営者であり、組織と一蓮托生の関係にありますが、それを前提とした人事制度は組織経営への転換になりえません。かといって、バカみたいな金額を積んで、使えもしない最新最先端の人事制度を導入する必要もありません。組織規模に合った人事制度であり、運用可能なシステムは何か――という視点が重要になります。 現在の主流では、人事・給与制度の目的は「組織の成長」であり、そのために個々のスタッフの成長を促す事が求められています。評価のための人事制度や、給与水準を決めるための人事制度は一昔の制度と言えるでしょう。 また病医院は女性が多く、その価値観や考え方は、男性的な『マッチョはマッチョを選ぶ』といった人事・給与制度を受け入れがたい土壌があります(現状は、ほぼ何もない)。その点を注意しながら、人事制度の見直しに是非着手していただければと思います。 監修:㈱日本医療企画 (取材年月:2020年2月)

【ケーススタディ】職員の動線短縮による効率化と人員配置の見直しで患者の利便性にも担保する

【ケーススタディ】職員の動線短縮による効率化と人員配置の見直しで患者の利便性にも担保する

<取材先>医療法人先進会 岡眼科飯塚クリニック(福岡県飯塚市) 目次 01:職員の動線を院内中心に集中 業務効率を大幅に向上 02:予約管理の一元化で患者数の調整もスムーズに 03:Editor's Eye 職員の動線を院内中心に集中 業務効率を大幅に向上 医療法人先進会は、2002年に開業した岡眼科飯塚クリニック(本院)と、先進会眼科東京、大阪、福岡の3つの分院を持ち全国に展開しています。その本院の岡眼科飯塚クリニックは常勤医師6人体制のもと1日300~350人の外来患者に対応しているほか、1日20件以上の手術も実施しています。 これだけの外来と手術をこなす原動力となっているのが、17年の新築移転と、それにともなう経営体制の見直しです。移転後の同院の経営方針について、岡義隆院長は次のように話します。 「従来の院内オペレーションは、患者の利便性を最優先で考えていました。しかし、労働人口が大幅に減少していくなかでも、優秀な職員を確保し続けるためには、職員が働きやすい環境も不可欠です。新しい診療所では、少ない人員数でも医療の質を高く担保できる体制づくりを目指して、患者と職員両方の利便性を考えた院内設計にしました」 そこで、新築移転にともない、新診療所に外来機能を集約させ、手術棟を分離したのです。外来患者と手術患者が出入りする建物自体を分けることで受け入れられる患者のキャパシティーを増やし、混雑の緩和を図っています。そして、手術室の面積も拡張したことで、手術室内の動線もよりスムーズなりました。これらの効果もあり、手術件数は移転前の約1・5倍まで増加しています。 一方、外来機能を集約した新診療所の設計では、診察室、処置室、事務部門――など、職員が活動するスペースを、すべて院内中心部に集中するように配置。さらに、その周囲を囲むように患者の動線を設けています。 職員と患者の動線が交わらないようにするとともに、職員が行き来する距離を極力短くすることで、業務効率向上を図りました。これにより、少人数の人員でも対応できるようにするのが狙いです。 ただ、職員の動線を短くする分患者の移動距離は増えるが、これは院内各所に人員を配置しサポートすることで解決しています。具体的な患者の来院からの流れと、職員の配置と役割は、次のとおり。 ①来院~受付 患者が来院すると、玄関に配置されたコンシェルジュが、駐車場整理から受付までの案内を担当。受付では初診患者は受付職員が対応、再診患者は自動受付機でチェックインし、それぞれ問診に進みます。 ②問診~検査 問診から検査室、さらに検査室から診察室へ移動する2カ所の動線には、橋渡し役として検査、診察の各部門管理職を配置しており、患者の呼び出し漏れ防止と患者の移動のサポートを担っています。また、管理職がこの役割を担うことで、院内全体の患者と職員を見渡し、混雑状況などに応じて他の職員に適宜指示を出せるようにしているのです。 ③診察 診察室では、医師が診察や患者との対話に専念できるように、カルテ入力などを行う記録係を2人配置しています。2人いることで、患者の入れ替わりの際も作業を留めずにシームレスに次の診察に移行できるという狙いです。 予約管理の一元化で患者数の調整もスムーズに こうした動線や人員配置の工夫に加えて、ICTの活用にも力を入れています。たとえば、待ち時間が20分を超えると、院内の複数個所に設置した端末から近くの職員に知らせるシステムを導入しているほか、電話、WEB、LINEなどの予約管理は、すべてコールセンター部門が一括管理。 受付職員の電話対応の回数を大幅に削減しました。さらに20年からは、LINEからの前日のリマインド機能も開始しています。 昨今の新型コロナウイルス感染症流行の際も、予約体制が確立していたため、密集を防ぐための外来患者数の調整もスムーズに行うことができたといいます。新たなオペレーションの成果について、岡院長は次のとおり話します。 「働きやすい環境整備のため、14年から土日診療廃止や受付終了時間の繰り上げなど、診療時間自体は削減したにもかかわらず、外来患者数は移転前の200人から移転後は350人まで増加しています。また、患者さんも移転後は待ち時間も減ったからか、診察室に入られるときの表情もより穏やかになった印象です。今後も、効率性の追求と質の高い先進医療の提供を両立し続けていきます」と、語りました。 Editor's Eye 組織規模的には中〜大規模診療所であるため、医師や職員のみ出入りするゾーンを中心に集め、患者が順番に動く回遊型プランを採用されている。これは設計において、業務効率を上げるうえで医師やスタッフの動線を最小限にする分、患者に移動してもらう方式だ(採用するにはそこそこのテナント面積が必要である)。病院に近い人員配置やオペレーションによる効率化とも言える。 制作:㈱日本医療企画 (取材年月:2020年8月)

【インタビュー】専門のリウマチ特化に方針転換 最新検査で早期診断・治療に尽力

【インタビュー】専門のリウマチ特化に方針転換 最新検査で早期診断・治療に尽力

<取材先>さとう埼玉リウマチクリニック 理事長 佐藤理仁 2016年に開業後、19年に専門であるリウマチ専門診療所としてリニューアルした、さとう埼玉リウマチクリニック。埼玉県外からも患者が来院する背景には、新たな検査方法の活用による早期診断・治療のスタンスがありました。 目次 01:プライマリ・ケアからリウマチ専門に方針転換 02:診療所経営から発展し他業界も含めた協働へ 03:Q&A 7問7答 プライマリ・ケアからリウマチ専門に方針転換 ――2016年に開業し4年目に入られました。リウマチ専門診療所として、現状はいかがですか。 佐藤●ありがたいことに患者数は増加し、毎日1日の予約上限数の36人ほぼ埋まっています。 実は、開院時は「さとう内科ファミリークリニック」という院名で、内科・小児科も標ぼうしていました。集患への不安や、開業医としてプライマリ・ケアと専門のリウマチ治療で貢献できればと考えたからです。患者さんの割合はほぼ3割ずつでした。 ただ、次第に問題点が出てきました。一つは、リウマチの診療が話をしっかり聞き血液検査するなど、最低10分はかかる一方、内科・小児科の大半は3分程度で済む症状で、早く診てほしい患者さんには待ち時間が長くなり、不満が生まれました。 もう一つは、感染症の問題です。リウマチ治療では免疫を抑える薬も使うので、感染症に配慮する必要があり、患者さんにも説明していました。しかし、待合室を見ると、感染症の患者さんとリウマチ患者さんが同じ空間に待たなければならないことに後から気づきました。それなら専門のリウマチに特化しようと考え、昨年リウマチ一本に絞り、現在の院名に変更しました。 ――専門特化する決断には、勇気が必要だったのでは。 佐藤●そうですね。ただ、2年目にはリウマチ患者さんの割合が約半分まで増えていたので、一時的な売上の減少はあるものの、長い目で見れば早く転換したほうが良いと判断しました。今は埼玉県外から来院される方もいます。 患者層は、50歳前後の女性が全体の8割を占めます。昔は高齢者の病気と思われがちでしたが、それは診断の遅れが原因で、50 代前後の発症時に診断がつかず、60 代以降に指が曲がるなど症状が進行して初めて、リウマチと診断されることが多かったのです。 当院では、関節エコーという検査を積極的に利用し、早期診断・治療に努めています。現在来ている勤務医も、この検査ができることが採用条件の一つになっています。というのも、ここ10年ほどで出てきた新しい手法なので、まだまだ普及していないのが実状なのです。リウマチの早期診断のためにも、普及に努めたいです。 診療所経営から発展し他業界も含めた協働へ ――集患では、関節エコーなど診療面の特徴に加え、それらを発信するHPも、動画や漫画など見せ方を工夫されていますね。 佐藤●HPではリウマチに関する情報を多く載せるうえで、親しみやすさを感じてもらえるように、疾患説明なども語りかける会話調を意識しました。漫画も同様で、視覚的に頭に入りやすく、やさしい雰囲気を伝える狙いがありました。そのうえで、リスティング広告やYouTubeなど、HPに誘導する入口を強化しています。 実は、当初は経営知識がゼロで、野立て看板や駅、電柱広告、地元のフリーペーパーなども試しましたが効果がありませんでした。試行錯誤の結果、リウマチ患者さんはネット検索する方が多く、WEB広告が最も効果的だと、今の戦略に至りました。 ――経営知識はどうやって学ばれたのですか。 佐藤●開業3年目から勉強するようになりました。その時期から、スタッフ同士が意見の食い違いなどでもめて辞める人が出てきたからです。最初は理由がわからず傍観していたのですが、よく考えると私がやりたい医療や理念をきちんと伝えていなかったから、現場がバラバラになっていたのだと気づきました。そこから1年ほど、本を読んだり、気になる研修やセミナーに参加したりしました。 一番勉強になったのは、有明こどもクリニックの小暮裕之先生が運営する「医療経営大学」です。診療所経営に役立つ知識はもちろん、マーケティングや異業種とのコラボといった新しい視点も学び、私も触発されて、ネイリストさんによる待ち時間中のネイルケアなどを始めることができました。自分の力だけではなく、異業種との協働で付加価値の高いサービスを提供できるように努めています。 Q&A 7問7答 Q1:自分の性格は? 素直です。「良いな」と思ったことはとりあえずやってみます。 Q2:自分の欠点は? 逆境には強いけれど、順調な時はテングになりやすいので気をつけるようにしています。 Q3:今はまっているものは? 経営の勉強。すべてが新鮮で楽しいです。 Q4:人生で最も影響を受けた人は? 『7つの習慣』の著者スティーブン・R・コヴィー氏。そして、それを応用されている小暮先生にもたいへん勉強させていております。 Q5:日課はありますか? 毎日、自分の安心領域を出る「ビビりチャレンジ」をしています。 Q6:座右の銘は? ワクワクしていなければ、もっと大きな夢を持とう! Q7:トップに必要な素養は? 感謝の気持ちです。患者さん、スタッフ、業者さんなど周りの人すべてに感謝してこそだと思います。 制作:㈱日本医療企画 (取材年月:2020年3月)

【ケーススタディ】新米院長日記―開業への道― ネット検索で見つけた!誠実なコンサルタントとの出会い

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<著者> 野崎浩司 救急科専門医・麻酔科認定医 目次 01:きっかけは偶然 信頼するコンサルとの出会い 02:1年間見つからぬ物件に揺らいだ開業の初心 03:条件以上の物件にとんとん拍子で契約 04:スタッフエリアを最優先に建物の設計に着手 2019年末に銀行から良い条件をいただき、ホッとしたのも束の間、2020年10月開業まで8カ月に迫っていました。「同時期に開業する医師より、打ち合わせや機器選定など全体的に早く進んでいますよ」と言われても、初開業に気ばかりが焦る毎日。 日頃は神頼みなどしない性格ですが、新年のおみくじが大吉だったのが例年以上にうれしかったのは、やはり楽天家の自分でもプレッシャーを感じているからなのでしょう……。 さて、そんな開業への日々をともに歩いた、開業支援コンサルタントとの出会いと、立地・設計の経緯について書いていきましょう。 きっかけは偶然 信頼するコンサルとの出会い コンサルのなかには、開業までに医師から最大限に搾取して開業後は知らんぷりというような「開業屋」と揶揄されるタイプも少なくなく、選定のリスクは高い――という話があります。そんな被害にあった医師の話を知人から聞いたことがあるし、開業に向けて購入した本でも、主人公が「開業屋」に騙されかけた話がありました。 私はコンサル選定の前に、まずは継承物件や盛業中の医療モールの空き物件などの開業地探しから始めたのですが、その際たまたま見つけたのが、とある薬局グループの医院開業支援と書かれたホームページでした。問い合わせのメールを送り、18年1月上旬に同社で面談を行うことになりました。 その席で私は、経歴や開業への思い、「プライマリ・ケア」+「ペインクリニック」+「リハビリテーション」という診療スタイルへのこだわりをお話しさせていただき、物件についても探してもらうことになりました。 1年間見つからぬ物件に揺らいだ開業の初心 その一方で、要望に合う物件は約1年間探しても見つからなかった……。弱気になった私は、初心に反し「プライマリ・ケアはあきらめペインだけの開業でもいいか」と思うようになっていました。つまり、「まず開業ありき。開業できるなら診療スタイルを変えてもいいや」という気持ちにシフトしていったのです。開業を検討中の皆さんも、予算や立地などの条件から気持ちが変化していく時期があると思います。 そんなときは、「自分はそもそもなぜ開業しようと思ったのか?」と考え直したほうが良いでしょう。絶対に妥協はやめよう。私は白紙に、「なぜ開業するのか?将来の目標は?」など箇条書きしてみることで気持ちをリセットできました。その結果、「やはりペインだけの開業は本意ではない」と再認識しましたが、物件の件からも、一時は開業を完全に諦めかけました……。 ところが約1週間後、事態は急変!「プライマリ・ケアを行える周辺環境(同医療モール内に内科が未入居)」「リハビリ室も広く確保可能」な物件に空きが出るかもしれないという連絡が来たのです。 条件以上の物件にとんとん拍子で契約 私の物件に対する最低限の希望は、①1階にある、②駐車場が広い、③リハビリ室を広くとれる――だったのですが、知らせを受けた物件、つまり、開業予定地の物件は次のとおり。 ①1階にあり、患者層の中心となる高齢者でもバリアフリーで来院可能かつ、玄関は国道側に向いており視認性が良い ②スーパーや医療モール等4軒共用の駐車スペースが入居予定物件側に383台あり、既存店舗は平日・週末ともに繁盛している ③物件の広さは85坪、運動器リハビリテーションの施設基準である45㎡以上を楽に取れる 広告宣伝費等も考えると、新規開業で①②は非常に有利でした。③もリハビリだけではなく講演会やヨガ教室などにも使おうと考えていたので、広いに越したことはありません。 早速、不動産会社の担当者と面談。そして妻とともに現地を視察し、諦めかけていた開業話は驚くほどとんとん拍子に進んでいきました。その後、仮契約を終えた19年7月末、当時の勤務先のクリニックの院長や事務長らに、開業する計画を伝えました。 スタッフエリアを最優先に建物の設計に着手 物件が決まれば、次は内部の設計です。改めて勤務先のクリニックの設計を見直したほか、他施設も見学しました。ここで大事なのが、使いにくい部分や不要だったと思う点を当事者にしっかりと聞くこと。特に、患者さんの傍らで処置や介助をする看護師やスタッフに直に聞いたほうが、設計の問題点がよくわかりました。 あとこだわったのは、スタッフの更衣室や休憩室の広さを十分に確保すること。院長室なんて、横になるソファーと、トイレとシャワーがあれば十分です。休憩室と更衣室を兼用する施設も多いと思いますが、当院は理学療法士や放射線技師などで男性スタッフも雇用する可能性が高く、きちんと分ける設計にしてもらいました。 こうして内部設計を考えつつ、夏〜秋は医療機器の選定、銀行、会計事務所、広告代理店との面談なども並行して進めました。今回はこのあたりで。マタヤーサイ!(沖縄方言で「またね!」) 監修:㈱日本医療企画 (取材:2020年2月)

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