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<著者>株式会社ヘルスケア・ビジネスナレッジ 代表取締役社長 西根英一

そもそも、既存の枠組みにとらわれないビジネスモデルのアイデアはどうすれば生まれてくるのでしょうか。ヘルスケアマーケティング戦略やビジネスモデルの最適化に精通する、株式会社ヘルスケア・ビジネスナレッジの西根英一代表取締役社長に話を聞きました。

目次
01:ビジネスモデルの3つの軸とは?
02:Z軸の入れ替えでアイデアは多種多様に
03:Z軸に入るキーワードは世間の流行やニーズからランダムインプットする
04:「競争」するのではなく「共創」することがヘルスケアビジネスの要諦

既存のビジネスモデルも「Z軸」の組み合わせで新たな事業のアイデアに

ビジネスモデルの3つの軸とは?

従来の保険診療の枠にとらわれない、独自の新事業を展開したい。ただ、具体的な事業のアイデアがなかなか思いつかない――。そんな院長はまず、医療機関も含む世の中のビジネスを3つの軸(X・Y・Z)で考えることをおすすめします。これは、既存のビジネスモデルを構成する要素をX軸・Y軸としたとき、そこへ新たな要素としてZ軸を組み合わせることで、新しいビジネスアイデアの発想につなげる思考法です。

具体例として、「健康経営」に関する事業のアイデアを創造するというイメージをもとに考えていきましょう。まず、「健康経営」自体を構成するX軸とY軸は、次のように考えられます。

X軸:従業員向け健康教育

(例:「栄養・食生活」「身体活動・運動」「休養・睡眠」)

×

Y軸:法人(企業)経営

ただ、この2軸だけでは、あくまで一般的な「健康経営」の概念を出ないビジネスモデルで終わってしまいます。そこで、ここに新たにZ軸として、「インセンティブ」という要素を入れましょう。すると、次のようになります。


X軸:従業員向け健康教育

×

Y軸:法人(企業)経営

×

Z軸:インセンティブ

(例:「認定・認証」「表彰・顕彰」「褒美・優遇」)


これにより、「インセンティブの充実した健康経営はできないか」という発想が生まれ、たとえば、社内表彰制度、褒賞制度、外部認定制度――などの具体的な事業のアイデアにつながっていきます(図1)。昨今、健康経営への参入が盛んになっているのも、経済産業省の「健康経営優良法認定制度」をはじめ、各企業でもこうしたZ軸を組み合わせた取り組みが出てきたからと言えます。

図1.pngまた、地域ヘルスケア事業の例を挙げると、近年さまざまな自治体で「ヘルスツーリズム」の取り組みが始まっています。これも、従来のX軸・Y軸のみだけでは、「特定健診で引っかかった対象者に対し生活習慣等の保健指導を行う」といった、どの自治体でも代わり映えのしない取り組みになってしまいます。


ただ、Z軸として「アクティブレジャー」を組み合わせることで、「地元の自然体験やアクティビティーで運動の楽しさを知ってもらう」「ドラマロケ地を巡り歩く聖地巡礼を企画する」など、自治体ごとに独自のヘルスツーリズムのアイデアが生まれるきっかけになるでしょう(図2)。

図2.png

Z軸の入れ替えでアイデアは多種多様に

このように、ビジネスモデルのZ軸に入れる内容を変えていくことで、さまざまな新しいアイデアを創造できます。このZ軸の組み合わせで近年、非常に多様な業態変化が起きている代表例が、フィットネスクラブです。


従来は、「運動施設」(X軸)×「プログラム」(Y軸)からなる総合型フィットネスクラブが一般的でしたが、各社がこれに加えてZ軸になる要素を入れた結果、たとえば、
24時間年中無休型(例:エニタイムフィットネスグループ)、▽目的特化型(例:ライザップグループ)、▽コミュニティー重視型(例:カーブスグループ)――など、同じX軸・Y軸でもさまざまなフィットネス事業が展開されています(図3)。

図3.pngこれを、診療所に置き換えてみましょう。「医療施設」をX軸、「医療の提供」をY軸とした場合、「24時間年中無休型診療所」「目的特化型診療所」「コミュニティー重視型診療所」――これだけでも、異なるアイデアが3つ出てきました。ここからさらに、「『目的特化型診療所』って何だろう、何ができるだろう」と、具体的な事業内容をディスカッションしていけば良いのです。

もちろん、アイデアによっては、現行制度上の問題など、実現のハードルが高いものも出てきます。ただ、そのときはMS法人や株式会社など別組織を用意するなどによって解決できるケースもあるでしょう。まずは新事業のとっかかりになりそうなアイデアを出

していくことが重要です。


また、参考までに、私が日本代表理事を務めている、「一般社団法人日中健康寿命促進協会」で訪中視察した際に見た、西安の医療機関が展開するこの3軸モデルに当てはまる経営スタイルもご紹介しておきます。


中国では現在、日本における「健康日本21」のような施策が進められており、特に予防医療、未病の段階での介入支援に注目が集まっています。そのなかで西安のとある病院では、同じ敷地内に従来どおりの患者に治療を施す「病院」と、予防医療の提供を主とする「未病院」が併設されていました。


この「病院」「未病院」、実はビジネスモデル的にはどちらも「医療施設」(X軸)、「診察・検査・診断」(Y軸)までは同じで、最後のZ軸に〝治療〟と入れると「病院」事業に、〝予防〟と入れると「未病院」事業になると、考えることができます(図4)。



図4 「病院」と「未病院」のビジネスモデルのイメージ
2110_P58  - コピー.jpg

それを踏まえると、もし、このZ軸に〝美容〟と入れたら、医学的診断のもと美容サービスを提供する、「美容院」をつくれるかもしれません。つまり、Z軸に入る要素の入れ替えによって、既存の医療機関の事業も新しい能性が見えてきます。

Z軸に入るキーワードは世間の流行やニーズからランダムインプットする

一方で、Z軸になり得るキーワードは、どこから見つけてくれば良いのでしょうか。先述したフィットネスクラブ業界の例に関しても、本来フィットネスとは関係ない言葉をランダムインプットしていった結果、ニーズがありおもしろそうな組み合わせが見つかったと言えます。

そのため、診療所でZ軸を探す際も、医療界ではなく、一般社会で現在注目されているワードや概念、流行しているスタイル、ニーズなどにアンテナを張っておき、気になるキーワードを抽出することをおすすめします。普段院内だけで聞く言葉を入れてみても、新しい発想は生まれません。たとえば今なら、「GO TO」などでも良いのです。


医師もひとたび診療を終えて院外に出れば、1人の生活者です。普段の生活のなかで見つけた言葉や概念をどんどんZ軸に入れ込んで、おもしろそうな組み合わせを探してみましょう。


また、他の人とディスカッションしてZ軸になりそうなアイデアを出し合っても良いでしょう。たとえば、私も携わっている自治体活動の一つで、福井県の「福井しあわせ健康産業協議会」が2019年に設立したのが、「福井県ヘルスケアビジネス研究会」という勉強会があります。ここでは医療、介護など複数のワーキンググループでディスカッションし、さまざまなビジネスプランを企画しています。


たとえば、同会の医療ワーキンググループでは、地元の商店街の空き店舗に着目し、地域住民、医療・介護従事者、利用者などが日常的に集まり、健康増進や未病の段階での介入支援、参画企業によるサービス・製品提供などの予防機能を担う拠点を商店街内に設けるというビジネスプランを提案しました。現在プロジェクトの実行に向けて動き出しています。

「競争」するのではなく「共創」することがヘルスケアビジネスの要諦

ヘルスケアビジネス、特に診療所が担うべき地域ヘルスケア事業に関しては、昨今の地域包括ケアの流れと同様、どこか一つの法人の力のみですべてのニーズに特化し独り勝ちすることは難しいと思います。重要なのは、地域の他の医療機関や他業種の企業などと、「競争」ではなく、「共創」による事業展開です(図5)。



図5 「共創」ビジネスのイメージ
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たとえば、「エンタメ」「観光」など、一見診療所だけでは実現が難しそうなZ軸も、それらの産業を担う地域の企業と「共創」ビジネスプランを考えれば、まったく新しい事業のアイデアが生まれる可能性が出てくるでしょう。ぜひ、競い合うのではなく、一緒にビジネスを構築する姿勢で新たなZ軸を探してみてください。

監修:㈱日本医療企画

(取材年月:202112月)


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PROFILEプロフィール

株式会社ヘルスケア・ビジネスナレッジ 代表取締役社長 西根英一(にしね・えいいち)

ヘルスケアのマーケティング戦略とコミュニケーション設計の専門家。ビジネスローンチのためのアイデア発想~事業構想~事業計画、ビジネスグロースのための事業分析~事業戦略~事業展開の精緻な設計図を描き、ビジネスモデルを最適化しました。大塚グループ、電通グループ、マッキャン・ワールドグループ(CKO 最高知識責任者とグループ顧問)を経て、 現在、株式会社ヘルスケア・ビジネスナレッジ 代表取締役社長、事業構想大学院大学 特任教授、千葉商科大学 特命教授、成城大学非常勤講師、宣伝会議コピーライター養成講座 講師、一般社団法人日中健康寿命促進協会 日本代表理事、等。近著に『ヘルスケアビジネスの図本~ヘルスケアビジネスの要件を満たすための50の開発目標』(https://healthcare.official.ec )

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