<取材先>福田篤史 医療法人翔誠会ふくだ内科 事務長
- 目次
- 01:─はじめに─予想外の2院同時展開
- 02:患者100人増で在宅分院開設を決断
- 03:コロナ対応の無利子融資が準備資金に
- 04:「規模の経済」でメリットも
- 05:本院との間で「シフト制」導入も
─はじめに─予想外の2院同時展開
ふくだ内科は、埼玉県戸田市のJR埼京線戸田公園駅から徒歩約7分のところに立地する、町の診療所です。常勤医師3人、非常勤医師7人の体制で、一般外来のほか、在宅医療にも取り組んでいます。
筆者は、製薬会社で10年ほどMRをした後、ベンチャー企業を経て、4年前に医療法人翔誠会に入職しました。現在は、事務長として経営に携わっています。
そもそも、在宅の分院を開設するつもりで準備を進めていました。ところが、ちょうど同じ時期に近隣の診療所の院長先生が急逝。その土地と建物や医療機器を引き継ぐことになったのです。結果的に分院を2つ同時に出すことになりました。
患者100人増で在宅分院開設を決断
30年間にわたり診療に従事してきた理事長兼院長から、4年前に70歳になるころ、辞めたいと打診がありました。まず考えたのは、「売却は簡単で、承継するほうが難しい」ということ。そこであえて「承継をしよう」と考え、入職しました。そして、10カ月後には法人化しました。
「承継をしつつ、拡大する」という戦略に沿って、外来患者さんをキープしつつ在宅の患者さんを増やすという方向に舵を切ったのです。まず、診療については、創業者である前院長が担ってきたことを雇われ院長となる次の院長にすべて担わせることは難しいと判断。前院長の業務量は常勤医師換算で1・5人分だと判断し、医師の確保を図りました。
そして、夜間オンコールも含めて在宅にも対応してくれる院長が見つかりました。さらに、非常勤医師が常勤となってくれることになったのです。結果として、医師のマンパワーは十分に確保できました。しかしそうなると、コストが上昇することになります。収益改善をしなければ、コストが収益を上回りかねません。当然、増患を図っていくことになります。
そんななか、患者さんを紹介してくれることが多くなってきたさいたま市を調査してみると、競合の状況などから、在宅に関してまだ伸びしろがあると判断。在宅患者さんが100人を超えたら、さいたま市に分院を出すと決断したのです。ちょうどそのころ、本院から約600メートルのところにあったクリニックで、院長先生が急逝され、奥様から当院に対し購入の打診がありました。診療圏調査を行ったところ、本院よりも良い結果となったことを受け、購入を決断したのです。
たまたま時期が重なったこともあり、分院開設にともなう定款変更や県への手続きなどを一度に済ませてしまいたいと考え、結果的に一気に2つの分院を出すこととなったのです。
コロナ対応の無利子融資が準備資金に
この決断の背景には、図のような事情がありました。さらに、昨春に新型コロナウイルス感染症の影響で、15%ほど売り上げが下がり、政府の支援策で3年間無利子の融資を受けていました。この4000万円の借り入れ資金を、分院の準備資金と運転資金に充てることができます。4年前から行ってきた本院の財務体質の改善活動の結果、売り上げが約2倍になったことも、後押ししています。
図 分院展開を決断した基準
【財務面】 ▽過去最高売上で堅調な気配 ▽金利が低く、コロナ下で融資が受けやすい環境 ▽コロナワクチンのディープフリーザーも置ける施設になったことで、今期増収が見込めた
【将来性】 ▽市場性(診療圏調査で本院よりもいい結果であったこと) ▽発展可能性(外来のクリニックは2階部分もあり、もう1つのクリニックとしてもオープン可能)
【その他】 ▽常勤医師の理解が得られたこと ▽法人でいい人材が集まってきたこと ▽急逝された先生の奥様から購入を依頼されたこと |
「規模の経済」でメリットも
2つの分院を同時に開設することには、メリットがいくつかあると考えます。1つは、「規模の経済」です。検査会社や医薬品卸の納入価格の本院統一などスケールメリットをいかすことが可能になるのです。実際、検査会社を変更することもあり、年間約300万円~500万円(?)のコストカットができると予想しています。
また、複数の事業所を持つことは、リスク分散につながります。コロナ下でも傾かない安定した経営体制を築く一助になるとも考えました。さらに、診療所が増えることで、人事の柔軟性が高まるだけでなく、より優秀なスタッフが集まってきてくれるようになったと思います。間接的な効果も、かなりあるのではないかと考えています。簡単な事業計画として考えているのは、分院がそれぞれ半年で黒字化を果たすことを目標にしています。売上規模は現在の約3億円から、開院2年後には5億円を目指していきます。
本院との間で「シフト制」導入も
2分院開院後の運営ではまず、電子カルテの共通化が挙げられるでしょう。患者情報の共有が簡単にできるのはもちろん、オープニングスタッフが事前に操作方法に習熟することも容易です。診療所の主戦力を分院開院時期に投入することができるため、あらゆるケースの患者さん対応が可能になります。
分院の運営は、分院長や医療スタッフが診療に集中できる環境を整えるため、マネジメント部分は法人の管理部門が担うこととしました。
今後、法人本部で管理すべきことを洗い出し、分院長が「やりたい医療」をヒアリングしたうえで、体制を固めていきたいと思います。「遊び」の部分も含めて、できるだけ分院長の「やりたい医療」にもかかわることができる状態を目指します。
要は、ガチガチに管理するのではなく、自主性を尊重し、楽しくかつやるべきことをやる組織にする。それが目標です。関連セミナーや先輩経営者の先生方のお話をうかがってみると、「何かしら問題が起きる」ものだと考えています。腹をくくり、問題が小さいうちに対処できるよう、今から対応策を考えています。
具体的には、定期的ミーティングを開き、本院とのシフト制なども取り入れた人事交流を可能とするような仕組みがつくれればいいと考えています。
連載【第2回】はこちら ☞ 立地の選定と在宅診療所の新設(第二回)
制作:㈱日本医療企画
(取材年月:2021年4月)
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