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<著者> 株式会社ヘルプズ・アンド・カンパニー 代表取締役 西村栄一


開業時に必要な資金


開業への準備として、資金はどのくらいあればよいのでしょうか。


もちろん、多ければ多いに越したことはありません。ただし、それが借入金であるならば、どの程度が目安なのか見当をつけておかなければ、返済の利子だけで苦しむことになります。

目安を考える上では、事業としての目標がどこにあるのかを定めた「逆算の思考」が必要です。しかも、ただ漫然とするのではなく、細かく細分化された思考法としてのバックキャスティング手法が大事です。

具体的には、以下のように考えます。


(1)事業規模に合わせて「稼働率」100%のために利用者獲得は何名必要かを確認します。

例:通所介護事業所30人定員の場合、月間延べ利用者平均数は45名(平均介護度3.0)にすると1日平均利用者21人(目標稼働率70%)でも、月間売上約500万円が見込まれます。この70%の地点を「損益分岐点」とします。大切なのは売上に対する費用の多くを占める「人件費」の対売上比率を50%以内にすることです。


訪問介護事業所の場合には「定員」という上限はないので、「目標稼働率」という考え方はありません。
ただし、「損益分岐点」はどこにあるのかを考えることは、通所介護事業と同様です。

たとえば、30名の利用者に対し、訪問介護サービスを1カ月に12回(12時間)、15名の職員で提供する程度を、当面の目標売上100万円(稼働率100%)と設定します。

訪問介護事業の人件費割合については厚生労働省が示す報酬基準によって70%以下で設定されている点にご注意ください。


(2)その稼働率で「売上」は目標どおりなのかどうかを確認します。

利用者の要介護度、利用時間、加算は算定するのか等を確認し、稼働率と売上のそれぞれの達成可能性を事前評価します。


(3)稼働率も売上もそれぞれの地域特性や報酬改定等に伴う制度変更、世情等によって、利用者獲得のスピードが変わります。

できるだけ多くの関係者にヒアリングしてください。これにより、(1)「稼働率」と(2)「売上」の整合性と達成可能性の精度を調整することができます。


その後、目標稼働率と売上目標を、どう推移させていくのかを考えます。たとえば、稼働率を先に考え、推移状況を仮定する場合は、下のような具合です。

・3カ月〜半年:目標稼働率の50%で、売上目標30
・半年〜9カ月:目標稼働率の60%で、売上目標50%

・9カ月〜1年:目標稼働率の70%で、売上目標70%


上記の例では目標稼働率を70%達成した場合でも、売上目標が70%ではなく、100%に達成することもあります。仮定していた「売上単価」が予想よりも高い場合はそれができます。ただし、逆も然りです。

目標稼働率を70%達成しても、単価が低いと売上目標は30〜50%となると悲劇となります。さらに、仮定していた人件費もオーバーしてしまうようなことがあれば、利益目標はさらにそれを下回ることもあり、1年を待たずに事業撤退もありえるのです。

だからこそ、資金準備のために重要なのが「逆算の思考」なのです。

また、上記(2)「売上」に目標があるということは、利用者別の平均予想単価も出せることになります。

「利用者は毎月いくらならお金を払えるのだろうか?」

「その利用者はなぜうちのためにお金を払ってくれるのだろうか?」

「利用者はそのお金を払い続けることに満足なのだろうか?」

「利用者の満足は家族の満足であり、お取り引きする医療機関や居宅介護支援事業所の満足にもつながる」


という点を考えましょう。上記に挙げた定員30人で、月延べ利用者数45人、要介護平均3のデイサービスの場合、平均単価は1日9,000円、月12回の利用で安定します。

利用者の出費に対する予算や満足度は、サービスの良し悪しによって変わりますので、「福祉だから、多少は甘く見てくれるだろう」という考えは排除しましょう。飲食店やメーカー、ホテル等と同じように、利用者はサービスを選ぶ立場だということを重視していきたいものです。

上記稼働率の推移は決して楽観視したスローな推移ではありません。「訪問系の事業は設備にお金がかからないから数百万〜1千万円あれば足りる」というのは間違いです。500万円程度なら開業準備をしている間に、残金が半分になっていることも少なくないのです。

また、各都道府県や市区町村の商工会議所が主催する補助金や、中小企業庁の支援する新規ビジネスへの補助金、金融機関が提供する新規参入者への優遇利子による貸付金等で当初はどうにかなると考えていても、稼働率がスローな状況で足踏みをしているうちに2カ月経った時点で追加資金が倍に、さらに3カ月後にも倍に……という形で、予定していた資金の4倍もの費用がかかることもざらなのです。


監修:㈱日本医療企画
制作年月:2022年3月


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PROFILEプロフィール

株式会社ヘルプズ・アンド・カンパニー 代表取締役 西村 栄一

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