<取材先> 一般社団法人医療福祉介護研究協会 澁谷辰吉
経営課題抽出・解決には理念・ビジョン・計画が必要
医療安全や患者サービスの充実、スタッフの労務管理や請求漏れの確認、地域連携の取り組み――など、診療所にはさまざまな経営課題があります。診療所の成長や発展を目指していくためには、日頃から経営課題と向き合い、解消するための改善努力が欠かせません。これらは将来リスクと言えるものであり、課題解決に向けた努力を怠れば衰退の道を辿ってしまうことになります。
しかしながら、「そもそも改善に取り組むべき具体的な自院の経営課題をつかめていない」「問題となりうるものをどのように見つけだせばいいかわからない」という院長も少なくないと思います。そこで、本稿では自院の問題点を抽出するための方法、さらにはチェックリストを使った経営課題を抽出するための基本的な考え方を解説します。
経営課題抽出とその解決を進めるにあたっては、まず「何を課題とするか」という経営上の価値判断の基準が必要になります。その基準とは、自院の存在意義とあらゆる場面での基本的な価値観を明文化した経営理念です。経営理念を具現化するために、自院の将来のあるべき姿を明文化したものが「ビジョン」であり、その達成に向けて1年単位で具体化したものが「経営計画書」です。
自院の現在の姿は、ビジョン達成に向けた経営努力に対して外部環境と内部環境の変化が影響を与えた結果ですが、ビジョンと現在の姿が一致しないことがほとんどです。理由は外部環境の変化をコントロールできないからです。
自院の経営課題を抽出し解決するには、今後の5年間の内部環境と外部環境の変化を見極めたうえでビジョンを見直す必要があります。たとえば、新興住宅街にある小児科診療所が当面の経営課題を「増患」としていたとしましょう。
しかし、その地域で今は子どもが増えていたとしても、近い将来そうならなくなる可能性も考えられます。将来の人口構成を考えると「提供する医療サービスの変更および追加」が経営課題になります。この課題解決には設備投資や専門職の採用も必要になるため、年度単位の経営計画が必要になります。
経営課題の抽出は患者視点で行う
どれだけ自院の機能を強化しても患者さんが来院しなければ診療所の経営は成り立ちません。そのため経営課題を抽出する際には「患者さんが自院を受診する意思決定をどのようにしているのか」という患者視点で行う必要があります(図1)。次回以降、具体的なチェックリストを示しますが、少し例を挙げると次のようになります。□医療人にしか理解できない用語を使って説明していないか
□診察終了後の流れを患者にきちんと説明しているか
□長時間待たせた患者に「お持たせしました」と言っているか
□予約制の場合、患者を30分以上待たせていないか
□患者の前で職員同士が業務上の疑義を話していないか
□夏季の待合室椅子に直射日光が当たらないよう工夫しているか
□駐車場内の事故に対する責任所在
こうした経営課題の抽出から解決までの一連の手順は図2のとおりになります。なお経営課題の抽出は次の7つに大別されます。①診療圏内の将来の年齢階層別人口の推計値を把握する方法
②診療圏内の将来の自院の推計患者数を把握する方法
③同規模同診療科の平均値と比較して課題を抽出する方法
④過去からの推移をもとにその変化に着目して課題を抽出する方法
⑤自院のビジョンや経営計画とのギャップに着目して課題を抽出する方法
⑥診療所の法的規制の順守状況から課題を抽出する方法
⑦一般的な診療所のあるべき姿との比較から課題を抽出する方法
取材年月:2020年1月
PROFILEプロフィール
一般社団法人医療福祉介護研究協会 澁谷辰吉
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