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連載【第1回】はこちら ☞ 一気に2つの分院をつくることになった(第一回)

<取材先>医療法人翔誠会ふくだ内科 福田篤史事務長

目次
01:ランチチェスター戦略とドミナント戦略
02:BtoBからBtoCの流れでエリアに浸透
03:院内の合意形成を図る会議と評価制度
04:在宅と外来で開設コストは10倍も違う

ランチチェスター戦略とドミナント戦略

大手在宅診療所の基本戦略は、人口の多いターミナル駅(都市)を中心に、診療圏を広く取れるように分院展開していくことだと思います。

しかし、私どものような小さな診療所が大手と同じような戦略を取っても、なかなか勝ち目はありません。ですから、ニッチな市場からランチェスター戦略(企業間の営業・販売競争に勝ち残るための理論と実務の体系)に基づいて確実にシェアを伸ばし、そこからドミナント(集中出店)戦略を展開することを考えました。


すなわち、まず、人口の少なめの都市でシェアを上げ、在宅患者さんが100人を超えたら、医師会単位の診療圏を少しずつずらしながら、少し人口の多めの都市へ分院出店する戦略です。


私たちの本院は埼玉県戸田市という人口約14万人の都市に立地し、隣接する埼玉県側の主な都市は蕨市(約7万人)、さいたま市(132万人)、川口市(約60万人)となっています(下記地図参照)。


地図.png

戸田市の南側を流れる荒川を渡ると東京都板橋区になりますが、競合となる医療機関も多く存在するうえに、診療圏が異なるため地の利もありません。実際に営業活動をしてみても、知名度もなくまったく響きません。結局、南下しての都内進出はあきらめることにしました。


そのうえで、厚生局のデータや診療圏調査から競合診療所を特定、戸田市周辺の地元を担当している医薬品卸や製薬会社などから得た情報を、複数の角度から精査しました。


実際に彼らと一緒にエリアを回り、ネット上に出てこない情報(医師会、診療所間の人間関係や力量、患者さんの動線)も意識しながら、コンサルタントには相談せず立地の選定を絞っていきました。

BtoBからBtoCの流れでエリアに浸透

分院展開の立地選定において、最終的に決め手となったのは以下の3点でした。

①戸田市と隣接するさいたま市(南区)からの紹介患者が増えてきたこと

②さいたま市(南区)は競合診療所がまだ多くないこと(逆に川口市はレッドオーシャン状態にある)

③本院との距離感が人の移動がしやすい範囲(電車、自動車で約30分、直線で約5㎞)であること

以上の観点から、埼京線沿線の武蔵浦和駅から徒歩7分ほどのさいたま市南区内の立地でテナントを借り、開院を決めました。在宅メーンの診療所は患者さんの入居施設などに対するBtoB(業者間取り引き)がビジネスモデルとなるため、ここでの「B」に対しては営業活動をかけようと考えています。

対して、「C」(一般消費者)へのアクションは開業当初しかできないことなので、地域に入り込んでいる新聞配送業者や郵便局などと連携し、BtotoCという流れで案内していきたいと考えています。

院内の合意形成を図る会議と評価制度

分院展開における、院内の合意形成を図るうえで大切なことは、まず法人の方向性(戦略)を示すことだと思います。次に必要なことは、自院の「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を決めスタッフに浸透させることです。

当院は、「これが」と言えるものをまだ確立できていませんが、「志高く」「常にチャレンジングで」「ダイバーシティを尊重し」「楽しく一生懸命に」「社会貢献する」ことを目指していこうと思っています。


現時点では、皆が同じ方向を向いてはいませんので、今後、理念の確立と浸透を図っていこうと考えています。また、これまでは医師と経営幹部で組織としての意思決定をしてきましたが、一般のスタッフまではその思いや意図がどうしても伝わりきらず、反発を招くことも多々ありました。


「無駄なことはしたくない」という意識で、会議などは開いてきませんでしたが、急がば回れの意識で、最近では定期的に会議を開いています。会議を通して、「課題共有(問題意識)➡解決策(優先順位)➡意思決定(納得感)」の一連の流れをつくろうと思っています。


私は、分院展開においては、人間関係のトラブルの想定が一番難しいと認識しています。組織が大きくなれば、バックグラウンドが異なり、優秀ですがいろいろな考え方を持ったスタッフが入職してきますから、以前から診療所を支えてきてくれた方々との衝突と、その調整に苦慮します。


職位は年功序列ではなく可変であることを伝え、透明性の高い評価制度やOKR(Objectives and KeyResults=目標管理)制度の導入を検討。誰が何をしているかを明確にすることで、不満がたまりづらく、かつ仕事効率が向上し、法人に貢献してくるスタッフを評価する仕組みづくりを構築したいと考えています。


在宅と外来で開設コストは10倍も違う

分院展開において、在宅診療所と外来診療所の一番大きな違いは、開設コストです。

在宅診療所はテナント費用40万円ほどで、医療機器は特になくても開設可能なので、人件費を除けば総額500万円もかかりません。

一方、外来診療所の場合、開業費用(内科)は人件費を除いて5000万円以上はかかります。もちろん、地域や診療科によっても異なりますが、約10倍の開きですから、患者さん1人当たりの収入を考えても、在宅診療所に分があることは明白で、分院開業するなら在宅診療所のほうが費用対効果は高いでしょう。

もう一つ大きな違いは、「夜間オンコール体制をどう構築するか」になります。外来診療所と違って、在宅診療所では、夜間オンコールをいかに効率的かつ負担なく患者さんをカバーできるかが重要になります。すなわち、24時間・365日対応できる体制づくりが必要だということです。これには医療連携が重要です。

当院では、夜間オンコール体制をこれまで1人の医師で担当してきましたが、大学病院の力を借りて、大学の複数の医師にオンコール体制を受け持ってもらうことになりました。

コストは年間1000万円ほど多くなりますが、その代わり、夜間体制を充実させることができます。1人の医師に頼らないため、リスクヘッジにもなっています。

また、昼と夜を分業制にすることで、昼の診察を担当する医師の負担も軽減でき、医師の人件費コストも抑えられることから、中長期的にみるとプラスになると考えています。

私は分院をつくる過程で、組織化を意識するようになりました。マニュアルの作成に始まり、診療所としての統一見解、ルールづくりなどを進め、標準化を図っていくなかで、不必要な部分が浮き彫りになり、業務の見直しができます。その結果、少しずつですが、効率化が進んでいると認識しています。

今後は、個人の成長と企業の成長をシンクロさせて、病院全体が成長できる仕組みづくりを考えていきたいと思っています。


取材年月:2021年5月


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PROFILEプロフィール

PROFILE

医療法人翔誠会ふくだ内科 

福田篤史事務長

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