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<取材先>社会福祉法人合掌苑 理事長 森 一成


経営というと利益を追求することと捉えがちですが、働きやすい組織づくりこそ経営であると考え、職員全員で取り組んでいるのが社会福祉法人合掌苑です。

組織づくりの秘訣を、森一成理事長にインタビューしました。


経営責任の所在が不明なところに問題あり


――社会福祉法人においては、経営という言葉を敬遠される傾向があるように感じることがありますが、それはなぜでしょうか。

●経営というと数字の世界と勘違いし、社会福祉法人は非営利団体だから利益を上げちゃいけないと考えている人が多いです。でも、利益がなければ事業を継続することはできませんよね。

利益は何のためにあるのか、ということを経営陣からしてよく理解していないからこういう考えになるのでしょう。

その根底には、介護の仕事は利用者のためにやるんだという思いが先に立ち、利益のためではないと考えていることがあるでしょう。しかし、利益を出すために働くのではなく、事業を継続させるために利益を出す必要があるのです。

また、社会福祉法人の場合は、誰が経営者なのかが明確でない点に問題があります。

理事長をはじめとして理事会のメンバーがほぼボランティアでやっているようなところでは、経営責任を追及されてもそれに見合うだけの対価が支払われておらず、結果経営に無関心になってしまいやすい状態があります。

さらに、私が合掌苑に入った1990年頃、行政側のスタンスとしては「行政がすべきことを社会福祉法人に委託をしている」というものでした。

ですから、過不足ない委託料を社福に渡しているのだから、委託された事業以外のことはやるな、とすら言われていました。

効率よく事業を行うことよりも、間違ったお金の使い方をしないことを社会福祉法人は求められていたのです。そのため、積極的に業務改善をしようとする土壌が生まれにくくなり、それが今も続いているのだと思います。

介護保険制度が2000年から始まりましたが、委託料と同様に介護給付費も公金であり、その扱い方は結局変わっていないと思います。


――措置の時代の感覚が抜けておらず、経営への意識が弱いのでしょうか。

森●何もせずに利益が出ていれば、まじめに経営を考えることはありませんからね。
介護事業は、サービス内容は行政によって決められているため提供できるサービス内容に制限があります。

さらに公定価格のため、価格競争もできません。施設を建てればすぐに満室になる、という状態であれば、利益を得るために事業に取り組もう、という意識が希薄になるのは当然でしょう。

しかし、状況は激変しています。社福はもちろん、民間企業も参入しており、介護事業でも競争が激しくなっています。

介護サービスを提供していれば、施設をもっていれば、自然と利用者も職員も来る、という時代ではありません。特に人手の確保が難しくなっており、人件費も上がり、赤字になる法人が増えています。

給与はそこそこでも働きやすい職場に人は集まる


――合掌苑はアメーバ経営を取り入れているそうですね。

●経営に興味をもつようになったのは、恥ずかしい話、当法人でも利益が出なくなったからです。最初は経営に関する本を読んだり、セミナーを受けていました。その過程で日本経営品質賞(※1)を知り、2015年頃からはアメーバ経営(※2)を学び、当法人でも実施しています。

一般に経営の方程式は、「売上−経費−人件費=利益」で計算されており、売上を上げて経費や人件費を圧縮することでたくさんの利益を出すのが良い会社とされています。

一方、アメーバ経営では、「売上−経費=人件費+利益」と計算します。売上を大きくするとともに、経費を小さくして、そこで出た金額を人件費と利益に分けるのです。

左辺の数字が大きくなるほど、人件費に回すお金も増える。人件費をコストと見ない点はユニークですし、「売上を上げると、給料も上がる」というのがわかりやすいですよね。

さらに言えば、アメーバ経営では左辺は総労働時間で割った時間当たりの数値で評価します。そのため、同じ数字であったとしても、労働時間が少ないほど良い評価になります。

つまり、同じ仕事をしても、質や結果が一緒であるのならば、短い時間で終わらせたほうが、コストパフォーマンスが高くなるわけです。

ですから、当法人では「給与は高く出せないしボーナスもない分、休みはきちんととり、残業もできる限りなくそう」と常々伝えています。

介護の場合、必ずしも高い給与を求めている人ばかりではありません。「給与はそこそこだけど、定時に帰れて、長期休みもとりやすい」というほうが良いと感じる人も多いのです。

ですから、業務効率を上げて、一人当たりの総労働時間を減らすこと、負担軽減を図ることをめざすことにつながります。


――業務効率を上げるという取り組みは、なかなか職員が実践に移せなさそうです。


●当法人では子育て中の女性を多く雇用していますが、それは一番時間にシビアな世代だからです。
「早く帰りたい」「急な休みに対応してもらいたい」という思いから、業務効率を上げて早く終わらせる方法を、職員自らが日々考え、生産性を高め、働きやすい環境づくりに繋げています。

アメーバ経営導入以降、管理職以外でも職員が生産性を意識し、経営を考えるようになりました。数字を使って利益を出すのが経営だと思っていたのが、勉強するにつれて、みんなが幸せになれるような組織づくりをすることが経営だということを知り、自分たち一人ひとりが動かないと組織としてうまく回らないと理解しました。

現在、有給消化率は38%から84%に上がりました。年2回、10日間以上の連続休暇の制度も導入しました。経営に全員が参画することで、自分たちの暮らしがよくなることを職員が実感しつつあります。


介護96_合掌苑イベント写真.jpgイベントなども頻繁に行われている(写真はコロナ前のもの)

 

※1 日本経営品質賞

日本生産性本部が創設。顧客の視点から経営全体を見直し、自己革新を通じて新しい価値を創出し続ける「卓越した経営の仕組み」を有する企業を表彰する制度(経営品質協議会HPより)

 

※2 アメーバ経営

京セラ名誉会長の稲森和夫氏が考案した経営管理手法。組織をアメーバと呼ばれる独立採算で運営する小集団に分け、各小集団にリーダーを配置し、共同経営のような形で会社を経営する「全員参加経営」をめざすもの(京セラコミュニケーションシステムHPより)


制作:日本医療企画

取材年月:2021年5月


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PROFILEプロフィール

PROFILE

森 一成

社会福祉法人合掌苑 理事長

(もり・かずしげ)●1961年神奈川県生まれ。IT企業のプログラマーを経て、社会福祉法人合掌苑理事長に就任。1993年、特別養護老人ホーム合掌苑桂寮を開設、東京都町田市と神奈川県横浜市で高齢者施設と在宅サービス事業を展開するとともに、地域の社会貢献活動にも力を入れている。また、全国の団体や大学より依頼を受け介護業界の人材や組織をテーマとした講演活動を続けている。

〇社会福祉法人合掌苑
東京都町田市金森東3-18-16
Tel:042-799-2144

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