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<取材先> 株式会社Moff 代表取締役社長 土田泰広


ICT投資による経営改善から、介護業界に投資ファンドが群がる理由まで


PEファンドで大手介護事業者の買収にも携わった経験を持つ土田泰広氏。公認会計士でありグロービス経営大学院経営研究科の准教授としても活躍する土田氏に、「財務・会計」の基礎知識について伺いました。

目次
【初級編】 PLとBS フローとストックの関係
【中級編】 ROE(自己資本利益率)活用のメリット
【発展編】 経営力が高まるICT導入の考え方
【雑談編】 ファンドから見た介護業界の魅力

【初級編】 PL(損益計算書)とBS(賃借対照表) フローとストックの関係


まずは、PLとBSの活用について説明します。

介護事業経営においては、介護報酬や家賃収入、各種利用料などによる「売上」があります。売上から人件費や賃料、給食委託費などほぼ固定費となる「売上原価」、そして「販管費」「経常損益」などを足し引きしたものが「純利益」です。こうした現場のオペレーションのサイクルを表したものがPLとなります。

制度ビジネスである介護事業においては、売上が報酬改定等によって変動する中、いかに売上・コストを管理して利益を確保するかが重要と言えるでしょう。

厚生労働省「2020年度介護事業経営実態調査」によると、業界平均の収支差率は2.4%。人件費等の固定費が大きなウエイトを占める上、人員配置等の規制もあるためこの削減余地は乏しいと言えます。加えて、3年に1度の報酬改定による収益・利益への影響も大きい。

人件費への投資効果を最大化するためには、生産性向上・コスト管理や、ノウハウ・情報共有でのチーム力向上、多様なフィールドで活躍できる「職員のマルチタレント化」といった取り組みが必要でしょう。

PLが現場のオペレーションのサイクルであることに対し、BSは経営マネジメントのサイクルです。

企業が持つ「資産」における、銀行などからの借入金にあたる「負債」と起業の際の種銭や返済の必要のない出資金、利益など「純資産」の割合を表すのがBS。通常、企業は種銭を入れ、借入金を活用して資金を拡大し、事業資産へ投資する。そして生み出した利益が蓄積される、といったサイクルを回して運営しています。

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介護事業と一言で言っても、施設系サービス企業と在宅系サービス企業とではBSはまったく異なります。

仮に同じ売上規模の2社を比較してみても、施設系企業では、不動産などによる負債が大きくなり、その分資産も大きくなります。BSを軽く(小さく)するために、一部不動産をREIT等に売却し運営を受託するという方法もあります。

一方で在宅系企業は、施設系の約5割と少ない資産で事業化ができるというメリットがあります。


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安定成長のためには、地域内の需要・競合を踏まえた上で、こうしたアセットモデルとフローモデルをいかにミックスさせるかが重要です。

【中級編】 ROE(自己資本利益率)活用のメリット


次に、ROE活用のメリットを紹介します。

純資産における利益の割合を示すROEは、企業の価値を示す重要な指標となります。利益を純資産で割ることで算出します。

また、ROEは以下の3つの要素に分解することができます。

①売上における利益の割合を示す「利益率」

②総資産における売上を示す「総資産回転率」

③総資産が自己資本の何倍となるかを示す「財務レバレッジ」


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利益率や総資産回転率の数字を高めることは重要ですが、財務レバレッジに関しては、数値が高すぎる状態は負債過多と言えます。逆に低い場合は、事業拡大の余地ありと見ることができます。

サービスの質とコスト管理がどのような状態かを示す「利益率」、商売の作り方とビジネスモデルがどのような状態かを示す「総資産回転率」、そして成長の志と決断力を示す「財務レバレッジ」の3指標を可視化するROEについて、決算を公開する介護上場企業を例に比較してみると、それぞれの企業の経営課題や改善ポテンシャルが見えてきます。


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それぞれの数値を最適化するための打ち手については、以下のような具体的な対策も考えられるでしょう。

利益率」改善のためには▽ICT導入による効率化・生産性向上▽現体制で算定できる加算強化▽各種調達コストの見直し
総資産回転率」改善のためには▽資産不要の保険外サービスの強化▽運転資本の改善(回収・支払いサイクル)▽余剰資金・遊休資産の処分
財務レバレッジ」改善のためには▽融資を活用したM&Aや事業所開設▽配当・自社株買いの拡大▽各種補助金の活用



【発展編】 経営力が高まるICT導入の考え方


最後に、重要な視点として、経営力が高まるICT導入の考え方について紹介します。

現在、介護事業所で注目を集めるICT機器は主に、介護記録や請求ソフトなど「記録・申告系」、チャットボットやテレビ電話、インカムなど「コミュニケーション系」、シフト・送迎管理など「業務システム系」、ベッドセンサーやカメラなど「見守り系」、身体機能・認知機能測定など「リハビリ・アセスメント系」があります。

厚労省が行った「ICT導入の効果に関する調査」によると、導入した7割の事業所が間接業務の削減、直接ケア時間の増加、ミス減少等の効果を実感しているようです。


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しかし、「削減した間接業務時間」は1人当たり月平均30分ほど、「増加した直接ケア時間」は30分未満もしくは変化なしの事業所が最多との結果。果たして、ICT導入に取り組んだ事業所が得たかった効果はこれでよいのでしょうか。

私は、ICTツールの導入効果を「経営貢献度」として確認する必要があると考えています。まずは、「アナログ業務の効率化に貢献しているか」。残業代や職員の心理的負担を削減し、本来のケアに集中できるといった効果があれば、人件費・離職率の抑制に貢献できており、PLにおけるコスト効率化に該当すると言えます。

次に、「スタッフの戦力アップに貢献しているか」。業務標準化により、経験・スキルに依存しない柔軟な人員体制が実現できていれば、固定的な人件費のフレキシブル化につなげられるでしょう。

そして、「新たな売上獲得に活用できるか」という視点です。ICTを最大限に活用し、このレベルを目指す意識が必要になります。
このレベルが指すのは、ICT導入で得たデータを活用することで、個人に最適な自費サービスの提供を行ったり、他社との差別化ツールとして入居率・稼働率の向上を実現したりするケースにあたります。

新たな加算の算定や保険外収益を生み出すことで、利益率・ROEの向上に直接的に貢献します。効率化という視点だけでは不十分であり、固定費のフレキシブル化と、「稼ぐICT」を検討すべきなのです。


【雑談編】 ファンドから見た介護業界の魅力


ちなみにこれは雑談ですが、昨今、介護業界におけるM&Aやファンドによる買収の動きが目立っています。

2017年以降M&A件数は大きく伸びており、国内外の大手ファンドが、大手介護事業者を数百億~1000億円以上の価格で買収しています。近年では、20年のベインキャピタルによるニチイ学館の買収(約1100億円)、MBKパートナーズによるツクイホールディングス買収(約630億円)などが記憶に新しいところです。

介護業界でこうした投資ファンド案件が増えた理由について、第一に「安定的な需要と、報酬改定が行われるまでの数年間の安定的なキャッシュフロー」が挙げられます。中でも、不動産を有する施設系企業の企業価値評価がより確立されています。

また、介護保険法施行から約20年が経ち、事業承継のタイミングで「売りもの」が増えたこと、収益構造やオペレーションが類似しており規模の経済が働きやすいこと、ベストプラクティスの横展開がしやすいこと。そして、大手企業によるM&A意欲が高く、IPO以外のエグジットも見やすいことなどがあります。

これらを踏まえると、このM&A時代に経営者としてどうあるべきかが見えてきます。買い手となりたい場合は、エージェント等を通じて、定期的に売り案件の情報を確認しておくこと、そして、自ら興味ある企業をリストアップし、経営陣や株主にアプローチを仕掛けることなどが必要です。

売り手となりたい場合は、買い手の観点から客観的な自社事業の評価を常に確認しておくこと、M&Aに際しボトルネックとなりえる論点(法的、関係会社、株主等)を確認しておくこと、経営陣が買い手となるMBOも視野に入れてみること、などが効果的でしょう。

 

 

※本記事は、㈱高齢者住宅新聞社主催の、9月13日に開催した介護事業者向けセミナー「介護事業者に必要な財務・会計知識~持続可能な介護経営のために~」の内容を編集し作成したものです。

取材年月:2022年9月


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PROFILEプロフィール

PROFILE

株式会社Moff 代表取締役社長 土田泰広

(つちだ・やすひろ)●早稲田大学政治経済学部卒。監査法人トーマツ経て、シカゴ大学にて経営学修士(MBA)課程を修了。経営コンサルティング会社A.T.カーニーにて企業再生等のプロジェクトを経験。その後、米系投資ファンド及び日系金融機関にてプライベートエクイティ投資にて、投資先企業のDD/審査及び投資後のM&A・アライアンス戦略を支援。
Moff入社後は取締役CFOとして資金調達、事業開発に従事した後、2021年6月より代表取締役社長を務める。三菱総合研究所 介護サービス専門コンサルタント、グロービス経営大学院経営研究科准教授、日本公認会計士。

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