<著者>内藤孝司 医療法人る・ぷてぃ・らぱん 理事長兼CEO
☞ 第一回はこちら「【院長のためのドラッカー講座】理念・使命とは何か」
活動対象としての顧客を明確化する
「『われわれの顧客は誰か』との問いこそ、個々の企業の使命を定義するうえで、もっとも重要な問いである。やさしい問いではない。まして答えのわかりきった問いではない」
——P・F・ドラッカー『エッセンシャル版マネジメント』(ダイヤモンド社)
前回からの続きです。使命が決まったら、顧客を明確にすべきです。これを間違えると成果をあげられません。
しかし、医療関係者に「顧客は誰か」と問うた場合、多くの方は「患者」と答えるでしょう。これでは、フードサービス業の方が「お腹が空いた人」と答えることと同様で、対象が漠然としすぎていて顧客とは言えません。組織活動において成果をあげるには、活動対象としての顧客を絞らなければなりません。
では、小児科医にとっての「子ども」、皮膚科医師にとって「皮膚疾患を抱える方」が絞った顧客となるのでしょうか。間違いではありませんが、正しいとも言えません。
たとえば、小児科でも開業医ならば、一緒に来院した小児の家族も診察することがあるでしょうし、皮膚科でもシミ、シワ除去目的で来院された方は病気というよりは美容でしょう。こう考えていくと、「自院の本当の顧客は誰か」と考える必要性が出てくると思います。
「使命=顧客の創造」です。使命と顧客が一致していなければ、本当に役立ちたいと思える相手が顧客でなければ、使命を果たしたいという思いが薄れてしまいます。「お年寄りからお子様までどんな方でもお気軽にご相談ください」——。以前から診療所のホームページやチラシ広告でよく見るフレーズです。集患対策としては正しいキャッチコピーなのかもしれませんが、対象が広すぎて、本当の顧客が誰なのか不鮮明です。
事業を決定するのは顧客です。しかし、顧客は一括りではありません。「お金を落としてくれるのなら誰でもいい」では、自院の顧客とは言えませんし、そんな理由で顧客を設定してしまうと、長期的に成果を上げることは難しいでしょう。
実際に、1970年代から80年代にかけて数多くの薬品会社が利益目的で化粧品会社を買収しましたが、結果的に失敗しています。なぜなら、企業の使命と顧客が一致していなかったからです。
誰を満足させたときに成果をあげたと言えるか
「そうは言っても、具体的な顧客が誰かがわからない……」という方もいるかもしれませんが、この相談に対しては、「あなたの組織は誰を満足させたときに成果をあげたと言えるか」。この質問に答えることができれば、実はそのまま顧客が誰かを教えてくれます。
当院ではドラッカー理論を学ぶまで、顧客が不鮮明でした。来院される方すべてを顧客だと思っていました。しかし、よくよく調べてみると、ほかの耳鼻咽喉科に比して明らかに小児の数が多いことに気づきました。
そこから、私たちの顧客は「小児とその家族」と定義し、高齢者向けの補聴器相談を廃止したり、予約システムを見直すなどして人材と財力に余裕ができ、小児科の併設へとつながっていきました。なぜなら我々の組織は、顧客から小児を診る専門家を必要とされていたからです。
このように、顧客の興味があること、顧客に喜ばれるものを決めることが事業の定義となります。どれだけ利益をあげたかよりも、どれだけ大事な顧客をつかんだかのほうが重要です。
最後に、顧客には2種類あることを伝えましょう。一方は先に挙げた来院する患者さんたちであり、もう一方は従業員や卸問屋、外部委託先など組織の活動によって満足を得る人々(パートナー)です。パートナーは気に入らないことがあれば、さっさと組織を離れてしまいます。
先日、宅配大手のヤマト運輸が主要取引先であるアマゾン・ジャパンの「当日配達サービス」から撤退すると報じられました。インターネット通販拡大に伴う配達量増加に対し、ドライバーへの負担を減らすためです。これはヤマト運輸が、自分たちの顧客はアマゾンではなく、配送先にいる個人客やパートナーである従業員と判断したからでしょう。顧客を明確にしているからこそできる意思決定です。
あなたの診療所でも一度、表1、2を参考にしながら真の顧客を調べてみてはいかがでしょうか。
表1 使命と顧客を理解するためのステップ
①現実の顧客は誰なのか
②その人たちはどこにいるのか、何を買う(来院する)のか
③継続的な顧客とはどんな人たちか
④なぜ顧客になってくれているのか
⑤顧客でなくなった人はどのような人たちか
⑥誰が顧客になり得るのか
⑦本来、誰が顧客であるべきなのか
⑧どのような人たちに顧客になってほしいのか
⑨顧客になってほしい人たちから選ばれているのか
表2「主要顧客は誰か」を考えるためのワークシート
①あなたがサービスを提供するそれぞれ異なったグループの人々について、また満足させなければならないあらゆる主要顧客について考えてください。
・私たちの主要顧客は誰ですか(名前をあげてください)
・それぞれの顧客にどのような価値を提供していますか
②私たちの長所、資質および資源は、これらの顧客のニーズと一致していますか。
・もし一致しているとすれば、 それはどういう点においてですか。
・もし一致していないのなら、 なぜ一致していないのですか。
監修:日本医療企画
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