<著者> 辻・本郷税理士法人 ヘルスケア事業部 シニアコンサルタント 大武信治
医院を開業するためには、事前の準備が最も重要であり、その後いくつかのステップと、それぞれにおいてポイントを押さえておかなければならないことを前回のコラムでお伝えしました。今回はクリニック開業に向けて、さらに具体的に準備しなければならない以下の重要な要素をお伝えいたします。
1. 資金調達の方法
開業までのハードルのひとつが資金調達です。開業資金の調達方法としては、[金融機関等からの融資、親からの資金援助、自己の預貯金]などがあります。
どの方法が良いかは、自己資金の状況などにより異なりますが、いくつか留意点を押さえておきたいと思います。
金融機関からの融資
02:金融機関等からの融資 メリット
低金利でかつ、多額の資金を借入することが可能です。
借入金の返済を毎月しっかり行うことにより、銀行に対する信用力の強化につながります。
03:金融機関等からの融資 デメリット
1.返済義務
融資はいわゆる借金のことです。当然返済する義務が生じ、元本の他に利息が発生します。
2.審査が必要
融資にはさまざまな種類がありますが、いずれも受けるにあたって審査が設けられています。審査には時間がかかりますので、急ぎで必要な人にはデメリットといえるでしょう。参考までに、銀行>信用金庫>日本政策金融公庫の順に審査が厳しいといわれています。一番借入しやすいのが日本政策金融公庫です。
3.返済滞納によるリスク
返済には期限があり、延滞した場合にはペナルティが設けられています。その一つに格付けという評価のランクがあり、返済が滞ればこのランクが下がります。これは信用に関わるものであり、低ければ次回の融資が受けづらくなります。
主な融資制度としては以下のものがあります。
いずれも融資条件を満たせば、一定期間の元金据置制度を利用できる可能性がございます。
①福祉医療機構
融資の利用できる地域か否かが診療所の過不足統計によって決められます。申込先は民間金融機関が代理店です。
②日本政策金融公庫
開業を支援する開業融資制度があります。一般的には民間金融機関より金利が低く固定金利がメリットです。
③自治体制度融資自治体により制度の有無があるので事前確認が必要です。利子補助や設備費用補助などがあります。
④医師会提携融資医師会の提携金融機関から比較的協力的な支援が得られ、都道府県医師会事務局が窓口となっています。
⑤民間金融機関融資担保物件が揃っていることが融資の条件でしたが、最近では無担保での融資金額枠を持つ金融機関も多くなってきました。金利は一般的に公的融資制度に比べて高い場合が多いです。
04:親からの資金援助
親や親類等から借り入れをする場合には、第三者から借り入れる場合と違い税務上注意しなければならないことがあります。それは身内であるために、借りたのではなく貰ったのではないかということで贈与として税金を課される恐れがあるためです。贈与と認定されないためには次のような注意が必要です。
1.契約書の取り交わし
まず第三者から借り入れる場合と同じようにすることが重要です。例えば自分が誰か他人にお金を貸すことを考えてみてください。後日「貸したよ」「いや貰ったのだ」等もめないように、いくら貸したのかわかるようにしておく必要があります。
契約書には借りた金額・返済期限・支払方法等を記載し、それぞれが署名と押印をします。個人間の借り入れであるため利息は支払わなくても構いません。また返済期間等も決まりはありません。
2.返済計画を立てる
大事なのは契約書通りに返済しているという事実です。そのため借り入れたお金や返済したお金は、入出金の事実が確認できるよう銀行を通じて行うようにして、現金でのやり取りはしないようにしてください。そして契約書は、ご自身の資金繰りを考慮して余裕を持った返済計画に基づいて作成されるのがよいと思います。
また、開業資金に用意した資金が自己資金でも、親のものでも、資金の出所については税務調査の対象になる可能性もありますので、ご注意ください。
契約書に記載する内容 ・借入日 ・借入金額 ・返済開始日及び返済回数 |
いずれの方法で資金調達するにしても、返済期間は極力長めに設定し月々の支出を抑えた方が安心です。
05:リース
医院の設備は診療科によっても違いが大きいですが、設備等を購入すべきか、リースにすべきかは、リースのメリット・デメリットを十分に理解の上、その時の状況により検討する必要があります。
リースのメリット | リースのデメリット | |
1 | リース期間で毎月の支払い額が必要経費になる | 中途解約することができない。 |
2 |
フレキシブルな費用化が可能 (状況に応じたリース期間の設定が可能) |
金利がのるので購入するよりは総支払額は高くなる |
3 | 購入時の多額の資金が不要 | 物件の所有権がリース会社にあるため、リース契約終了後も物件を使用する場合には、再リースか買取りをしなければならない |
設備を購入する場合には、一度に多額の資金を用意する必要がありますが、リースにすることでリース期間内で分割して支払うことができます。
常に新しい機器が欲しい場合はリース期間を短期に設定したり、あるいは長期的な使用を見込む場合はリース期間を長期化して月々の支払額を低くしたりなど、期間設定を柔軟に行うことも可能です。
また、上記でも触れておりますが、リース料には金利がのるので、購入に比べ総支払額は高くなります。
自己資金に全く問題がないのであれば購入が良く、自己資金に余裕がない場合や借り入れの枠を残しておきたいという場合にはリースを選択するのが良いでしょう。
2. 効果的な開院広告
いざ開業が決まれば、地域の住民に広く自院を知っていただかなければなりません。その手段として開業初期から行うのが開院広告です。
広告の時期は、開院日までに日がありすぎても記憶がうすれてしまうこともあるので、開院日1,2週間と開院日直前のチラシ等による広告、また開院前の週末1,2日間の内覧会実施による広告等が効果的です。
広告手段は様々ですが各広告媒体の特徴をつかみ、新規患者数を観測し効果検証を行いながら、複数の広告媒体を効果的に使うのがよいと思います。
<主な広告媒体の特徴>
駅広告 |
・駅利用者が対象 ・年間契約で費用が高い(契約期間によって増減します。) ・設置場所により効果の差が大きい |
電柱広告 |
・公道上に提出できる唯一の媒体 ・道案内への効果が大きい ・他の媒体に比べて比較的料金が安い |
折込広告 |
・広告する地域を絞り込むことが可能 ・即効性がある ・直接手元に残る情報伝達が大切 |
ポスティング |
・地域を選んでの配布が可能 ・即効性がある ・折込広告と比べ手にとって見てもらえる確率が高い |
ホームページ SNS/予約アプリ |
・詳しいクリニックの情報が出せる ・予約制を考える場合は効果的 ・検索したら常にトップに表示されるような工夫が必要 ・スマホ対応のホームページにする方がよい ・ SNSは広告では出せないクリニックや院長のイメージを無料で打ち出せる |
広告内容については医療法で広告してよいと認められている項目に制限があるので注意が必要です。(※厚生労働省 医療法における病院等の広告規制について)
内覧会も、自由に院内の設備や院長、職員の人柄に触れていただける場を持つことができます。いずれにしても広告にかかる費用は安いものではありません。初診患者への問診票等に欄を設けて、どの広告媒体により医院を知ったのかをアンケートするなどして、しばらくしたら広告媒体ごとの費用対効果を検証の上、それぞれの診療所にあった効果的な広告をすることが必要となります。
制作年月:2023年3月1日
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PROFILEプロフィール

辻・本郷 税理士法人
ヘルスケア事業部 シニアコンサルタント 大武信治
1991年辻・本郷税理士法人仙台事務所に入所。2005年盛岡事務所所長。2009年新宿事務所ヘルスケア事業部異動。現在に至る。
開業支援コンサルティングを主軸に長年にわたり従事。毎年約20人のドクターの開院をサポートしております。開院前の相談はもちろん開業後のフォローも行っております。
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