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<取材先>
髙橋邦光 株式会社ラカリテ 代表取締役
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宮本潤一 医療法人社団邦潤会 わかば宮本医院 理事長

目次
01:トレンドは都心回帰 独自性のある診療所が生き残る
02:如何様にもできる 戸建てのほうがメリット高
03:立地条件が揃う医療モールでの開業もひとつの手

トレンドは都心回帰 独自性のある診療所が生き残る

――今回は、「これからの首都圏での事業展開はビル診か戸建てか」といったテーマです。まずは自己紹介をお願いします。


髙橋●年間約50件、医療に特化した建築設計監理・内装設計施工を行う株式会社ラカリテで代表取締役を務めています。これまで800~1000件、主に診療所の場所選定から建築・内装設計に携わっています。


宮本●医療法人社団邦潤会の理事長を務めています。診療所開業は2013年1月で、千葉市若葉区にわかば宮本医院として開設しました。建物自体は、父が45年前に建てたRC3階建ての住居併設有床診療所です。父が亡くなり7年ほど閉院していましたが、地域ニーズに沿った医療を提供したいと、リフォームして開業し、現在に至ります。


私は当初から分院展開を考えており16年には法人化。17年には1日の患者数100人が見えてきたのをきっかけに本格的に分院計画を推進。翌18年に場所を選定、205月に幕張のテナントで分院を開設しました。プライマリ・ケア医として総合内科を主体としながら、今日的な医療ニーズに応えるため、CTスキャナを導入し認知症診療に積極的に対応。心療内科、精神科も標榜しています。


髙橋邦光 株式会社ラカリテ 代表取締役
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宮本潤一 医療法人社団邦潤会 わかば宮本医院 理事長
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――なぜ分院場所を幕張にしたのですか?

宮本●本院と分院の相互に交通の便がよく、かつ診療圏がギリギリかぶらない場所、ということで選定しました。当法人では、事業の継続性を担保するため、医師を含めた職員を増やし、誰かが休んでもカバーできるなど、個人の負担を減らす取り組みをしています。本院と分院は、電車で約30分、車では15分程度となっており、必要時には職員の行き来も可能です。


また、幕張北口は区画整理事業が行われており、タイミング良く駅前のテナント計画があったのも決め手です。駅から徒歩2分という立地で患者さんの通院の便もよく、遠方からの来院もあります。

――株式会社ラカリテでは開業場所の選定にも携わっていますが、選定の流れやトレンドがありましたらお教えください。


髙橋●当社は私を含めて営業5人が場所探しから院長のお手伝いをしています。相談に来る院長は場所を絞りきれていないケースが少なくありません。選定の流れは、まず担当者が診療圏を見直し、近隣の競合となる診療所を調べます。たとえば、競合相手の開業日や診察日、どういった機器を揃えているか、院長の年齢――などです。また、薬の卸を行う業者からも情報を得て、地域全体の物件情報・診療圏調査結果を院長に伝え、場所選定についてアドバイスします。


トレンドに関しては、一昔前までは都心部は競合が激しいため、郊外のほうが人気が高かったのですが、最近の傾向としては、郊外でも競合が多くなってきたため、都心回帰の動きが出てきました。都心は人も多く、ニーズが高いので、そこで勝負する院長が増えています。ただ、何か特徴を持つ診療所のほうが生き残っている印象があります。たとえば、整形外科でもスポーツを専門にしていたり、宮本先生のように内科に心療内科や精神科を組み合わせたりするなど、独自性を打ち出して勝負する先生が多いです。


――家賃相場についてはいかがでしょうか。


髙橋●これまでは都心でも坪単価1万5000円が限界で、それ以下が相場だと言われてきましたが、現在では坪単価2万円でも坪数を減らしてミニマムに開業する院長が増えています。たとえば、50坪で坪単価2万円だと月100万円の家賃ですが、35坪に抑えて月70万円にして家賃を抑えるケースです。ただ、都心でビル診での懸念事項は、患者が増加した場合、拡張性がゼロだということです。


また、流行る診療所の要素として、駅近物件のほうが患者の認知度も高まるため、良いとされていますが、実際、駅から離れた住宅街でも流行っている診療所もありますので、一概には言えないといったこともあります。最近では、ショッピングセンターやスーパーマーケットの上階に構えた診療所が流行るケースが増えています。


如何様にもできる 戸建てのほうがメリット高

――宮本理事長は本院が戸建てで、分院はビル診をされていますが、どちらがよりメリットが高いとお考えでしょうか。


宮本●まず、ビル診か戸建てかと考える前に、「賃貸か、持ち家か」という視点が必要かと思います。資金的な余裕がある場合、持ち家のほうがあらゆる面でメリットが多いです。理由はカスタマイズが可能だからです。診療所を運営していくなかで、ニーズの変化に施設を対応させたいということは多々あります。たとえば、患者増のため待合室を広くしたい、新しい検査室を設けたいなどといったことです。そういったなか、持ち家だとスペース的にも余裕があることが多いと思いますし、改築や増築が比較的自由にできます。

一方、賃貸だと、そもそも外側は変えられませんし、開業時に無駄なく必要最小限のレイアウトをすることが多いでしょうから、後から変更を加えることは大変だと思います。持ち家であるがゆえの自由度の高さは、そのまま医療ニーズの変化への対応柔軟性につながると考えます。

実際、戸建て持ち家である本院では、新型コロナの感染症対策として、敷地内の駐車スペースの転用を行いました。具体的には、窓つき倉庫2個を設置し、そこを感染症対策待合室としたのです。そういったことは、賃貸のビル診だと難しいでしょう。ただこれはある一面であり、持ち家戸建てがすべての面で絶対に良いかというと、状況によっては違ってきます。たとえば、メンタルクリニックの場合は、駅近のビル診がいいと思いますし、整形外科だと駐車場や院内スペースに余裕があるロードサイドの戸建てが適していると思います。「戸建てか、ビル診か」ということを先に考えるより、患者や診療のニーズによって、おのずと選択肢が決まってくると思います。

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髙橋●ビル診と戸建てを単純に比較すると、圧倒的に戸建てのほうがメリットは高いです。それは先ほど宮本先生がおっしゃったように、自由に設計ができるからです。トイレを2つ設置したい、診察室を多くしたいなど、ある程度の要望には応えることができます。一方、一般のテナントでのビル診だと、排水位置が決まっていますので、トイレはその位置からおよそ半径数m以内や、流し台も勾配が取れる場所に設置しないといけないなど制約が多い。ですので圧倒的に戸建てのほうが好きなように設計ができます。


ただ、土地を購入するのは財政的にものすごく負担となりますので、戸建てが良いとなると必然的に郊外になります。その際、土地勘がある先生だと問題はないですが、土地勘がなくて落下傘開業となると院長にとって結構勇気がいることだと思います。

――新型コロナ対策として駐車場に待合室をつくったほかに、リフォームした点はありますか。


宮本●本院はひとまず外来診療スペースのリフォームをして開業し、それから必要に応じて逐次追加リフォームしてきました。父の代のもともとの構造は、1階が外来、2階が病室、3階が住居でした。開業時のリフォームは資金的な問題もあり、1階部分のみを行ったのですが、その後、独立した事務室が必要になったり、スタッフの休憩室・更衣室の整備が必要となったりなどしたので、2階の元病室をリフォームしてその場所にあてました。

さらに、内視鏡検査に対応するため、追加リフォームをし、2階の廊下やトイレを綺麗にし、内視鏡の前処置室と検査室を設けました。内視鏡の前処置室はその後、メンタル専門外来の診察室としても流用しています。このようなことができたのも、戸建ての持ち家だったからだと思います。ニーズに合わせた診療体制を敷くことができるのも、戸建てのメリットと言えるでしょう。

立地条件が揃う医療モールでの開業もひとつの手

――近年では医療モールや医療ビルが都心で増えてきました。そういったテナントについてのご見解をお聞かせください。


髙橋●10年程前は医療モールや医療ビルは診療所のメッカとして人気は高かったです。主導しているのが薬局ということで一時期、敬遠する傾向はありましたが、最近になってまた開発が進んでます。立地も駅近など競合はありますが、それでも有利な好条件の場所にあることが多いので、医療モールでの事業展開も良いと思います。

また、先ほどのテナントでの設計の部分でデメリットの話がありましたが、医療モールや医療ビルは診療を行うために造られているため、床が下がっており、どこでも流し台やトイレを設置できます。電気の容量もしっかり整備されているので、CTやMRIは別ですが、レントゲンなど一般的な医療機器であっても設置できるところがメリットです。ですので、開業に必要な内装コスト的には、雑居ビルよりは良いと思います。


宮本●
医療モールでの開業は考え方次第だと思います。メンタルクリニックや在宅専門でしたら、物件の探しやすい雑居ビルの2階以上などでも可能でしょう。しかし、水回りの配慮が必要な診療科や、重装備の検査機器が必要な診療科でしたら、はじめから診療所向けに設計されている医療用テナントでないと難しい面もあると思います。

一方、地域特性があるとは思いますが注意点は駐車場です。医療モールはある程度の駐車場は確保されているとは思いますが、受診者の多い時間帯が重なって駐車場の取り合いになる可能性もあり、近隣のコインパーキングなども含めた確保状況の確認が必要です。駐車場を飲食店やスーパーなどと共有する場合は、混む時間が分散するのでそういう面では有利と思います。

――ビル診よりも戸建てのほうがメリットがありそうですが、そのときに注意すべき点がありましたらお教えください。


宮本●開業をご検討の先生ご自身がどういった診療を今後していきたいかという考え方次第です。いわゆる町のお医者さんとしプライマリ・ケアをやっていきたいと思うのであれば、持家の住宅併設診療所をつくるのが良いと思います。ただしメンタルクリニックの場合は住居併設はやめたほうが無難でしょう。内科の一般診療を行う先生でしたら、その場所に住むことは“強み”になると思います。


最近ではそれを敬遠する先生も多いようですが、やはり“町のお医者さん”というのは、地域住民に知られているその土地の人、ということが重要だと肌で感じています。今の私は幕張の分院長をやっていますが、診療所の入っている建物のマンション部分に事務所兼用なのですが1室を借りています。そしてそこから週2回程度は近所の居酒屋などに飲みに行きます。本院を開業したときも同じことをしました。そうやって顔と名前を少しずつ知ってもらい、町のお医者さんになっていき、口コミで来て下さる患者さんが増えてきました。


どんな職業でも同じだと思いますが、最初はそういった地道な営業活動は重要なのです。また、ハードウェアの面で気をつけなければいけないのが、戸建てで一から診療所を創る場合、夢を詰め込みすぎてしまう危険性です。機能や仕様を欲張ってお城みたいなものを創らないよう、自制心を高めることが重要です。医師だと信用があるため、銀行からの融資はいくらでも借りられると思います。建物や設備などに借入で何億もかけてしまうと、事業が目論見どおりに展開できればいいですが、うまくいかなかったときに大変なことになります。本当に必要なものをまずは揃え、将来の発展については少し余裕を持たせて拡張性で対応するのが無難です。


それはスタッフも同様で、患者が増えてきたら、追加雇用していけばいいのです。何でも自由にできる持ち家戸建ての場合は、やり過ぎてしまうことが大きな落とし穴だと思います。

髙橋●私も宮本先生と同様、戸建てにするなら、住居併設のスタイルをおすすめします。ただ、私がよく耳にするのは、医師の奥様からNGが出るケースです。そこはよく家族で話し合う必要があると思います。自由度の高い戸建てだと、建てた後のある程度の拡張性が見込めますし、スタート時から少し拡張したぐらいのものがつくれるといった点からも戸建てのほうがいいと思います。

都心では、テナントビルで小規模での診療所が多いですが、少し流行ってしまうと、患者さんが入りきらないことで頭打ちになってしまい、患者の待ち時間が長くなる→結局口コミサイトに悪評が出てしまうといったケースも見受けます。都心だと競合も多いですから、口コミを見た患者が他の診療所に流れてしまう場合もありますので、あまり無理して都市部で出す必要はないと思います。


制作:㈱日本医療企画
(取材年月:2020年2月)


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PROFILEプロフィール

髙橋邦光 株式会社ラカリテ 代表取締役  ×  宮本潤一 医療法人社団邦潤会 わかば宮本医院 理事長

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