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<著者> ㈱スターコンサルティンググループ 代表コンサルタント 糠谷和弘


24年改定を乗り越える〝集団介護〟サービスと大規模化

2024年度介護報酬改定まで1年を切りました。高齢者人口がピークを迎えるとともに生産年齢人口の急減に直面する2040年に向けて、介護事業者にはどのような対応が求められるのでしょうか。中でも在宅高齢者の生活を支えるデイサービス事業者が講じるべき対策について、スターコンサルティンググループ(東京都千代田区)の糠谷和弘社長に話を聞きました。

目次
1.デイサービス事業者が取るべき短期戦略
2.中期で目指す「大規模化・多店舗化」

1.デイサービス事業者が取るべき短期戦略

挿入図①.JPG(出所=スターコンサルティンググループ)


稼働率アップ、加算算定強化による利益確保

まずは「①稼働率アップ・加算算定強化による利益確保」が挙げられます。

2月に公表された「令和4年度介護事業経営概況調査結果」によると、2021年度決算における通所介護の収支差率(利益率)は、前年度比2.8%減の1.0%でした。しかし、ここで算出した「利益」は、コロナ融資などの返済や法人税も含んだものであり、実際の利益は、もっと小さいものと思われます。しかも、この数値は物価高、燃料高となる前の令和3年度の数値です。いま調査すれば、さらに厳しい結果となるでしょう。

デイサービスは、介護保険制度によって定員(客数上限)も報酬(単価)も固定されています。となると、高稼働率の維持と加算算定の強化は不可欠。その上で、コストをコントロールして最終利益をプラスにする目標を設定することが、経営の本来の姿です。

現場プログラムの見直し、生産性向上

また、コストの大半は人件費ですから、適正人員で運営するための工夫も必要でしょう。そのために「②現場プログラムの見直し」や「③生産性向上(業務効率化・ICT化・サービス仕分け)」にもより力を入れてかなくてはなりません。

②は、できるだけ「0対多(職員がかかわらずに多数の利用者に対応)」「1対多(職員1人で多数の利用者に対応)」のプログラムを増やすことです。それらと組み合わせて「1対1」となる個別ケアを充実化させれば、職員数を増やさずに質の高いサービスを提供できます。

「0対多」の例として、私が経営指導する際には、足湯やマッサージ機などのリラクゼーションコーナーや、安全性の高い油圧式のリハビリ機器などを設置したセルフトレーニングコーナーを充実させるように助言しています。また「1対多」では、集団体操や「授業スタイル」で行われる「おとなの学校」などがポピュラーです。

③「生産性向上」については、これまで当たり前のようにしていた業務をやめることも検討しましょう。

例えば、デイ到着時の靴の履き替えをなくし、「下足のまま利用」はできないでしょうか。自宅玄関で靴を履き、送迎車でデイまで移動しているので、雨の日であってもさほど汚れはしません。玄関の混雑や職員の負担を考えると、この工程をなくすことで効率化を図ることができます。ほかにも、「配茶をなくし、給湯器などで代用する」「連絡帳をなくす」といった効率化を行うだけで、大きな変化があると思います。

また、ICT化は効率化だけでなく利益向上にも寄与します。安価なシステムを入れることで口腔機能向上加算を比較的容易に算定できるものや、AIによって送迎ルートを自動作成するシステムもおすすめです。当社クライアントでは、ルート作成にかける1日当たりの時間が100分から15分に短縮したといった例もあります。

採用戦略の見直し、教育システムのアップグレード

「④採用戦略の見直し」「⑤教育システムのアップグレード」も必要不可欠です。介護職の有効求人倍率はここ数年高止まりしており、「経験者が採れない」という声はよく聞きます。その対策として、中途よりは(費用はかかりますが)採用しやすい新卒採用に力を入れる、または業務を細分化して未経験者、シニア、外国人などの多様な人材に活躍してもらうなどの策が考えられます。

このとき重要なのは「⑤教育システムのアップグレード」の視点です。”未経験”の人材を、早期育成できるシステムを構築すべきです。外国人技能実習制度が廃止に向かうことに伴い、特定技能への移行や海外人材確保のための新制度創設も進められます。こうした海外人材も視野に入れた“未経験”の人材を着実に「人財」へと変えるため、教育の仕組みの改善は急務です。

介護保険制度改正対策

そして、「⑥介護保険制度改正対策プロジェクトチームの立ち上げ」も重要です。遅くとも改正前年には、次期改定のおおよその方向性、内容が示されており、社会保障審議会、介護給付費分科会の回を追うごとに、具体的な報酬の配分も見えてきます。リアルタイムで情報をキャッチしていくことで、報酬改定を乗り越えて運営できる組織づくりができます。

未着手の事業者は24年改定に向けて直ちにチームを立ち上げ、▽事業所幹部などが少人数で審議会の資料を読み合わせる▽セミナーやメールマガジンなどで情報を集める▽自施設での対策に落とし込む――といった取り組みを行いましょう。


2.中期で目指す「大規模化・多店舗化」

中期戦略として目指すべきなのは「経営の大規模化・多店舗化」。昨年4月に行われた財政制度等審議会・財政制度分科会では「管理部門の共通化、効率的な人員配置といった費用構造の改善、更にはその実現に資する経営の大規模化・協働化を慫慂していくべき」と言及されています。

小規模事業者であっても、職員の給与を上げるため、事業の持続可能性のためには、大規模化・多店舗化に取り組むべきといえます。



挿入図②.JPG(出所=スターコンサルティンググループ)



大規模化・多店舗化において重要となるのは施設長の養成です。しかし、店舗数の増加に合わせて施設長としてのスキルを備えた人材を増やすのは難しく、これが大規模化・多店舗化のブレーキになっている法人も少なくありません。

ある法人では、特養に併設した大型施設(65名定員)を本部として、車で30分圏内に一般型デイ3ヵ所(40名定員)、地域密着型デイ9ヵ所(18名定員)の計13拠点まで拡大しました。このケースでのポイントは、施設長を3つの層に分けたことです。

まず本部となる事業所には、全体を統括する課長クラスの施設長を配置しました。本部では、営業ツールの作成や広報誌の作成、採用・教育、給与計算、ICT化といった業務を、一括して行っています。

次に、一般型デイには係長クラスの人材を施設長として配置しています。係長は、自施設とは別に3つの施設を管理し、合同会議やエリア営業、欠員時のヘルプなどを主導しています。

小規模拠点である地域密着型デイでは、主任クラスの施設長を配置。管理スキルは低いですが、本部、課長、係長のサポートがあれば、しっかりと運営ができます。また、 多店舗化を契機に、施設ごとに重度者向け、軽度者向けなどのレイヤーを設ければ、幅広く利用者を受け入れつつ満足度向上も実現できます。

deta_man_color.png経営が大規模になればなるほど高収益となる、というデータ(2023年1月WAM調査)も示されています。本部を構築し機能を強化することで、質を保ちつつ効率的な多店舗展開ができることに加え、できるだけ多様なサービスを展開し「総合化」することにより、報酬改定に左右されない収益確保も可能になります。利用者のライフタイムバリューを高めることにもつながるこれらの取り組みは、今後の介護事業経営においてますます重要となるでしょう。

デイサービスは、在宅高齢者にとって「入浴」「食事」「リハビリ」「楽しみ」「社会性」を得られる唯一無二の場であると考えます。地域包括ケアシステムにおける〝在宅サービスの中心的機能〟を担うデイサービス事業者の更なる進化に注目しています。


制作:株式会社高齢者住宅新聞社
制作年月:2023年7月


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PROFILEプロフィール

PROFILE

糠谷 和弘(ぬかや・かずひろ)

㈱スターコンサルティンググループ 代表コンサルタント

介護事業経営専門のコンサルティング会社を立ち上げ、「地域一番」の介護事業者を創り上げることを目指した活動に注力。20年間で450法人以上の介護事業者へのサポート実績を持つ。書籍に「介護施設長&リーダーの教科書(PHP)」などがある。

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