<著者> 米本合同税理士法人 大阪事務所 第二事業部部長 税理士 大川 智弘
相続税・贈与税が増税に!?
不動産の相続税評価額は、市場価格よりも低い場合が多く、土地は市場価格の約80%、建物は市場価格の約60%と言われています。 マンションについては、相続税評価額と市場価格が大幅に乖離しているケースが多く、国税庁の調査によると、マンションの約65%が、相続税評価額が市場価格の50%以下となっているようです。
そのため、マンションを購入することにより、その購入価額(市場価格)と相続税評価額の差額分が財産の圧縮となり、相続税を節税できるため、相続対策として利用されていました。
しかし、市場価格と相続税評価額の乖離が高い不動産については、租税負担の公平に反するという点で問題になっており、令和4年4月19日の裁判では、納税者側が敗訴しています。
(※令和4年4月19日付判決(最高裁判所第三小法廷)相続税更正処分等取消請求事件)
そこで、マンションの相続税評価について、市場価格との乖離の実態を踏まえた上で、マンションの評価の見直しが行われることになりました。
評価額の見直しについて
相続税評価の見直し案は次のようになっています。
今回の見直し案の評価については、区分登記がされており、居住の用に供する専用部分があるものが対象となります。(2階以下のもの(地下を除く)、二世帯住宅等は除きます。)
よって、区分所有されていないマンション(マンション一棟を所有している場合等)やテナントオフィスは対象外となります。
この評価は令和6年1月1日の相続又は贈与から適用されます。
なお、次からの計算式は複雑ですので、飛ばしていただいても大丈夫です。
ざっくり見直しの評価額を説明すると、乖離率の大きいものについて、現行の相続税評価額を市場価額に補正して、その補正後の価格の60%の評価となるイメージです。
(1)現行の相続税評価額
建 物:建物の固定資産税評価額×1.0
敷地権:路線価×補正率×地積×敷地権割合(路線価方式)
(2)見直し案の評価額
①評価水準が1を超える場合
現行の相続税評価額×評価乖離率
②評価水準が0.6~1の場合
現行の相続税評価額
③評価水準が0.6未満の場合
現行の相続税評価額×評価乖離率×0.6
※この0.6については、一戸建ての評価乖離率の平均が60%というのを根拠としています。
④評価水準が0またはマイナスの場合
評価額0
(評価水準)
1÷評価乖離率
(評価乖離率の計算)
A+B+C+D+3.220
「A」当該一棟の区分所有建物の(※1)築年数×△0.033
「B」当該一棟の区分所有建物の(※2)総階数指数×0.239(小数点以下第4位を切り捨て)
「C」当該一室の区分所有権等に係る(※3)専有部分の所在階×0.018
「D」当該一室の区分所有権等に係る(※4)敷地持分狭小度×△1.195(少数点以下第4位を切り上げ)
(※1)「築年数」は、当該建物の建築の時から課税期間までの期間とし、1年未満の端数は1年とする。
(※2)「総階数指数」は、当該建物の総階数÷33とする。
1を超える場合は1とし、総階数には地階は除く
(※3)「専用部分の所在階」が複数階にまたがる場合には、階数が低い階とする。
また、「専用部分の所在階」が地下の場合には0階としCの値は0とする。
(※4)「敷地持分狭小度」は、当該一室の区分所有権等に係る敷地利用権の面積÷当該一室の区分所有権等に係る専用部分の面積とする。(少数点以下第4位を切り上げ)
評価の見直しによる相続税評価額の増加額
-前提-
(1) |
築年数 |
40年 |
(2) |
総階数 |
8階 |
(3) |
所在階 |
4階 |
(4) |
一室の区分所有権に係る敷地利用権の面積 |
82.5㎡ |
(5) |
専有部分の面積 |
88.5㎡ |
(6) |
敷地持分狭小度「(4)/(5)」 |
0.933 |
(7) |
現行の相続税評価額 |
15,370,000 |
「A」 |
40年×△0.033 |
△1.32 |
「B」 |
8階×0.239 |
1.912 |
「C」 |
4階×0.018 |
0.072 |
「D」 |
0.933×△1.195 |
△1.115 |
評価乖離率 「A」+「B」+「C」+「D」+ 3.220 = 2.769
評価水準 1 ÷ 2.769 = 0.36…
(見直し案の評価)
評価水準が0.6未満
15,370,000×2.769×0.6 = 25,535,718
(評価額の増加額)
25,535,718 - 15,370,000 = 10,165,718
このように、マンションの評価については、大幅に増加することが見込まれます。
最後に
【相続税更正処分等取消請求事件について】
最後に、上記に記載した裁判事例を説明させていただきます。
-裁判事例-
(1)被相続人は、平成21年1月に信託銀行から6億3,000万円を借り入れ、甲マンションを8億3,700万円で購入
(2)被相続人は、平成21年12月に相続人から4,700万円、信託銀行から3億7,800万円を借り入れ、乙マンションを5億5,000万円で購入
(3)3年後に被相続人が死亡し、相続人はこのタワーマンションを甲乙合わせて約3億円で評価、借入金もあり相続税が0で申告を行った。
(4)税務署は平成28年4月に相続人の計算した相続税評価額は、実際の時価と著しい乖離があり、課税の公平という観点から問題であるとして、不動産の評価を「時価」の合計額8億8,874万9,000円、相続税額を2億4,049万8,600円として、増額更正処分を行った。
この事例は、マンションの購入が相続税の負担を減少させ又は免れさせるものであることを知った上で、その効果を期待し、あえて実行したという点で、マンションの購入や借入をしなかった、またはすることのできない他の納税者と不均衡を生じさせるという理由から、このような処分が下されました。
令和6年1月1日からはこのマンションの評価の見直しのほか、贈与の持ち戻し期間の延長や相続時精算課税制度の110万円の基礎控除の新設も開始し、直前の相続対策がより難しくなっていきますので、早い段階での相続対策がより必要となります。
相続に関してお困りのことがありましたら、ご連絡いただけると幸いです。
(弊社のコラムについてもっと知りたい方はこちら)
https://www.yonemoto.or.jp/column/index.html
<毎朝配信>
Twitterでも税務会計や経営に関する情報を発信しています。
フォロー頂けると嬉しいです。
(Twitter)
https://mobile.twitter.com/okawa0620
制作年月:2023年12月26日
当サイトではクリニックの「開業に役立つ情報」「経営(人事・集患 等)に役立つ情報」を随時配信!
以下のバナーよりメルマガの登録をお願いします!(メアド登録のみ)
PROFILEプロフィール
米本合同税理士法人 大阪事務所 第二事業部部長
税理士 大川 智弘
【経歴】
1988年 大阪府松原市出身
2007年 大原簿記専門学校入学
2009年 税理士試験合格(同年最年少合格)
同年 米本合同税理士法人入社
2011年 税理士登録
2012年 医療法人移行の全実務(清文社様)執筆メンバー
2014年 株式の相続税評価額についての記事を執筆(納税通信様)
2015年 認定医療法人制度についての連載記事を執筆(納税通信様)
2021年~ 三井住友カード法人カード向けDM「三井住友カード Biz」にてコラム連載中
2022年 沖縄県南部地区医師会報にて認定医療法人制度についての記事を執筆
自社ホームページでもコラムを毎月連載中
各所にて認定医療法人・医療法改正・医療法人成りセミナーを実施
大原簿記法律専門学校にて税理士試験合格セミナーの講師担当経験あり
現在は認定医療法人移行コンサルを中心に医療法人の税務・法務面からのトータルサポートに従事。
担当経験のある顧問先の所在地は東京都・愛知県・大阪府・兵庫県・和歌山県・岡山県・島根県・福岡県・大分県・沖縄県
関連サービス
【FUJITA】クリニック閉院時の残置物処分、医療機器買取サービス
新築移転や閉院に伴う旧病院、医院、クリニック内の医療機器、什器、備品類の処分をトータルサポートします。
豊富な経験と実績に基づき、作業の窓口一本化や、さまざまなご提案をさせていただくことで、お客様のご負担や、費用削減、工期短縮を実現します。
また、残置物の処分全般に亘りアドバイスさせて頂きますので、お気軽にお問い合わせください。