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<著者> 米本合同税理士法人 大阪事務所 第二事業部部長 税理士 大川 智弘

昨今はコロナ関連の補助金等の影響もあり、利益が大幅に増加している病院・診療所については節税対策を検討しているところも多くあると思います。ただし、節税対策を安易に行うとキャッシュを損なうこともあるため注意が必要です。そこで今回は節税対策について節税の種類と落とし穴について解説いたします。

目次
1. 節税対策とは?

2. 節税の種類
3. 巷で言われている節税はどの種類に該当するのか?
4. 節税対策の分類
5. (1) 支出があり、税額を減らす節税や (3) 支出があり、納税を遅らせる節税でも有効なケース
6. 病院・診療所にとっては 節税 < キャッシュ

1. 節税対策とは?


節税対策とは、利益が大幅に出ており、納税額が多額になると見込まれる場合、納税額を抑えるために行われる対策のことを言います。決算の直前に行う「決算対策」もこれに含まれます。


2. 節税の種類

節税には次の4つの種類があります。
 

(1) 支出があり、税額を減らす節税

(2) 支出がなく、税額を減らす節税

(3) 支出があり、納税を遅らせる節税

(4) 支出がなく、納税を遅らせる節税

 
節税対策としてはどれも有効ではありますが、特に(1) 支出があり、税額を減らす節税や(3) 支出があり、納税を遅らせる節税はキャッシュアウトを伴いますので実行する場合は慎重に検討する必要があります。

3. 巷で言われている節税はどの種類に該当するのか?

昨今はインターネットやSNSなど様々な媒体から節税の情報を得ることが出来ます。その中でも決算直前であっても実行可能な対策については人気があり、そのニーズを満たす節税商品も存在しています。

ただし、決算直前でも実行可能な対策の多くは上記の「(1) 支出があり、税額を減らす節税」や「(3) 支出があり、納税を遅らせる節税」に該当するものが多く、納税額を減らす(遅らせる)ことは出来てもそれ以上にキャッシュアウトしていることが多いです。
例えば有名な節税方法の一つとして短期前払費用というものがあります。
短期前払費用とは、家賃や保険料など毎月同等のサービスを受けている場合に、支払いを月払いから年払いに変更することで支払額を経費計上する方法です。
仮に毎月の家賃が100万円で決算直前に年払いに変更して1200万円を支払うことでその期については経費を多く計上することが可能です。しかし、節税額が支出額を超えることはないため、結果としてキャッシュが減少してしまいます。本来はキャッシュを多く残すことが節税の目的にも関わらず、「お金が減ったのでその分節税になりましたね・・・」という本末転倒な結果になるケースも多いです。
なので節税対策を検討する場合はその対策が上記(1) (4) のどの種類に該当するのかを見極める必要があります。


4. 節税対策の分類

では、各節税対策について上記(1) (4) に分類した上で簡単に解説いたします。

 
(1) 支出があり、税額を減らす節税



・決算賞与
夏・冬とは別に決算期に賞与を支給する方法です。決算日後に支給する場合は一定の要件もあります。
決算賞与の特徴としては節税対策の手軽さで、支給さえ行えば節税が可能です。その他メリットとしては業績を従業員に還元する訳ですからモチベーションUPに繋がる点です。
決算賞与は基本的には(1) 支出があり、税額を減らす節税 に該当します。
 

・非常勤役員への役員報酬の支給
親族などを非常勤役員として登用し役員報酬を支給する方法です。役員報酬額については限度額があるため要注意ですが、普段出勤していない役員であっても、役員は医療法人の運営についての責任がある関係上月額515万円程度であれば支給することが可能です。これも(1) 支出があり、税額を減らす節税 に該当しますが、支出先が親族なので(2) 支出がなく、税額を減らす節税 と考えることもできます。

 


(2) 支出がなく、税額を減らす節税


・賃上げ促進税制
前年と比較して給与総額が1.5%増加した場合に給与増加額の15%を税額控除出来る制度です。2.5%増加でさらに15%控除、教育訓練費が前年比10%増であればさらに10%税額控除となり、最大で40%の税額控除を受けることが可能な制度ですので、人件費が自然増している場合は税額控除額がかなり大きくなることもあります。
また基本的には「(2) 支出がなく、税額を減らす節税」に該当しますが、例えば自然増が1.4%で適用を受けるために賞与などを0.1%分増額させる場合は「(1) 支出があり、税額を減らす節税」の要素もあるかも知れません。

・貸倒損失(形式基準)
貸倒損失は通常取引先の倒産、会社更生法の適用などにより売掛金等の残高を経費化するものですが、売掛債権に限りその取引先と1年以上取引・入金が無い場合等一定の場合に形式的に貸倒損失が計上出来るもので、病院・診療所の場合は患者さんに対する長期窓口未収金がこれに該当します。資金の流出を伴う節税ではないため(2) 支出がなく、税額を減らす節税に該当します。

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(3) 支出があり、納税を遅らせる節税



・短期前払費用

上記で解説した通り、家賃などの費用を年払いにして経費計上する方法です。基本的には(3) 支出があり、納税を遅らせる節税 に該当しますが、半永久的に賃借・契約するものであれば「(1) 支出があり、税額を減らす節税」に該当する、という考え方も出来るかもしれません。
 

・経営力向上計画による特別償却

一定の要件を満たした設備投資について即時償却(投資額が全額経費に入る)が行える制度です。基本的に設備投資前に経営力向上計画の認定を受ける必要があります。即時償却は設備投資年度に多額の経費算入が可能ですがあくまで来期以降の減価償却費の先取りですので基本的には「(3) 支出があり、納税を遅らせる節税」 に該当します。
ただ元々設備投資を計画していた場合は「(4) 支出がなく、納税を遅らせる節税」 と考えることもできます。また特別控除(設備投資額の10%を税金から控除)の場合は「(1) 支出があり、税額を減らす節税」 又は「(2) 支出がなく、税額を減らす節税」 になります。
なお、病院・診療所の場合投資として認められる範囲がかなり狭くなっており、医療機器以外の備品やソフトウェア等が対象となっております。

 

・養老保険(福利厚生プラン)
 死亡保険を従業員(原則全従業員)に掛け、保険料の半分を経費に計上する方法です。
満期保険金の受取人を法人とすることで満期時(通常は定年などを満期に設定)に満期保険金の受取が可能です。保険料支払い時に経費計上出来ますが、満期時には収益計上が必要となるため(3) 支出があり、納税を遅らせる節税に該当します。

 


(4) 支出がなく、納税を遅らせる節税



・固定資産税の未払計上

固定資産税は年4回(例:6月・9月・12月・2月(自治体により異なる))支払いますが、納付義務自体は納税通知書が送られてくる45月頃に確定するため未払計上が可能です。支出を伴わず経理処理のみで実行可能なため(4) 支出がなく、納税を遅らせる節税に該当します。
 
・経費の帳端計上

経費については通常各月初から月末の1ヶ月分をまとめた請求書が届き買掛未払計上を行いますが例えば20日締めの仕入先がある場合2130日についても買掛未払計上が可能です。これも経理処理のみですので「(4) 支出がなく、納税を遅らせる節税」に該当します。


如何でしょうか?将来のキャッシュも考えると一番良いのは「(2) 支出がなく、税額を減らす節税」です。多少キャッシュアウトをするケースもありますが最終的に返ってくればキャッシュは増えます。反対に注意が必要なのが「(1) 支出があり、税額を減らす節税」と 「(3) 支出があり、納税を遅らせる節税」、特に(3)です。(3) については納税を将来に繰り延べているだけですのでそのツケが将来回ってきます。そしてそのツケを払うためにまた新たな(3) の節税を行う・・・と無限ループのようになってしまっている病院・診療所もあります。
また節税策1つ取っても状況や目的によって(1) (4) の数字が変動することがあります。特に元々設備投資や給与の増額を予定していた場合は(新たな)支出を伴わない節税として(2) 支出がなく、税額を減らす節税 (4) 支出がなく、納税を遅らせる節税 に該当すると考えます。なので病院・診療所の状況に応じて(1) (4) のいずれに該当するのかを判断する必要があります。

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5.「 (1) 支出があり、税額を減らす節税や (3) 支出があり、納税を遅らせる節税」でも有効なケース

上記では(1) (3) の節税策を実行する場合には注意が必要と述べましたが(1) (3) の節税策でも有効なケースもありますので代表的なものを紹介いたします。

 

・赤字の関係会社への短期前払費用の支払い

短期前払費用について関係会社への家賃を年払いとして1,200万円支払う場合、支払った会社は支払額が経費になりますが受け取った側は当然に課税されます。ただし受け取った会社にそれ以上の欠損がある場合にはとりあえずは税金が発生しませんのでグループ全体のキャッシュは増えることとなります。欠損金が期限切れ直前の場合は得に有効な方法となります。

 

・出資持分対策
法人税だけ見ればキャッシュアウトしている節税策でも出資持分の相続税評価を下げて出資持分を次世代に贈与する場合などは有効な節税手法になり得ます。なお実行する場合には相続税・贈与税も踏まえた詳細なシミュレーションを行う必要がありますので難易度は上がります。

 

・そもそも投資として成り立つ

「(3) 支出があり、納税を遅らせる節税」で紹介した養老保険、特に外貨建てのものは投資商品としての側面も持ち合わせています。こういった商品は繰り延べた税金が最終的に課税されますが、そもそも投資としてキャッシュが増えることを見越すのであれば(節税はある意味おまけ程度に考える)最終的に課税されたとしてもキャッシュはプラスですので手法としては有効と考えられます。また福利厚生を主目的として活用するのであれば同じく手法としては有効です。



6. 病院・診療所にとっては 節税 < キャッシュ

病院・診療所にとってのキャッシュは身体にとっての血液に例えられることが多く(血液の流れもお金の流れも止まったら一大事です)、病院・診療所にとっては必要不可欠なものです。節税することが目的となってしまいキャッシュを残すことを疎かにしないように注意が必要です。米本合同税理士法人では病院・診療所の状況に合った節税対策を提案・実行することにより病院・診療所のキャッシュをより多く残すことが可能です。節税対策についてお困りの方や今まで節税対策をされたことがない方は、一度弊社にご相談されては如何でしょうか。

☞ 医療法人の節税についてもっと知りたい方はこちら


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制作年月:2023年9月26日


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PROFILEプロフィール

PROFILE

米本合同税理士法人 大阪事務所 第二事業部部長 

税理士 大川 智弘

【経歴】
1988年 大阪府松原市出身
2007年 大原簿記専門学校入学
2009年 税理士試験合格(同年最年少合格)
同年   米本合同税理士法人入社
2011年 税理士登録
2012年 医療法人移行の全実務(清文社様)執筆メンバー
2014年 株式の相続税評価額についての記事を執筆(納税通信様)
2015年 認定医療法人制度についての連載記事を執筆(納税通信様)
2021年~ 三井住友カード法人カード向けDM「三井住友カード Biz」にてコラム連載中
2022年 沖縄県南部地区医師会報にて認定医療法人制度についての記事を執筆
自社ホームページでもコラムを毎月連載中
各所にて認定医療法人・医療法改正・医療法人成りセミナーを実施
大原簿記法律専門学校にて税理士試験合格セミナーの講師担当経験あり
現在は認定医療法人移行コンサルを中心に医療法人の税務・法務面からのトータルサポートに従事。
担当経験のある顧問先の所在地は東京都・愛知県・大阪府・兵庫県・和歌山県・岡山県・島根県・福岡県・大分県・沖縄県

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