<著者>赤羽根信廣氏 株式会社川原経営総合センター 開発部部長
人事・労務は、診療所院長が悩みがちな根深い問題です。承継開業においても例外ではなく、私がご相談を受ける内容の半数以上が、この問題なのです。そのため、人事・労務については、「これをすれば絶対にうまくいく」という正解は“ない”ことを、まずは肝に銘じていただければと思います。
①“雇われる側”から“雇う側”になったギャップ
まず、これは新規・承継どちらにも当てはまりますが、初めて開業した院長が最初にぶつかる壁が、この人事・労務といっても過言ではありません。なぜなら、院長の多くは今まで勤務医として“雇われる側”であり、人事・労務の経験がほぼないからです。「開業して3カ月でスタッフが全員辞めてしまった」といった話を耳にすることが少なくないのは、こうしたギャップがあるからです。
承継開業でスタッフも引き継ぐ場合は、売り手の院長から自院の人事・労務の現状やスタッフとの関係性などについて、しっかりヒアリングしておきましょう。
②必要な人材に続けてもらうには?
スタッフの引継ぎは、法人譲渡か事業譲渡かによってその後の対応が変わります。
前者の場合、医療法人名義で雇用されているため、スタッフごと引き継ぐのが大前提です。ただ、その際には有能なスタッフが理事長の交代を理由に辞めてしまうケースもあれば、逆に問題のあるスタッフに承継を理由に辞めてもらうこともできません。
さらに、秘密保持の観点から、承継の契約が締結するまではスタッフにその旨を説明するのは難しく、契約が締結した段階で初めて、各スタッフに働き続けるかの意思確認を行っていくことが多いです。
一方、後者の事業譲渡の場合、基本的には承継の段階でスタッフは一旦解雇し、引き継ぐ際は再雇用する仕組みになります。そのため法人譲渡とは異なり、働いてほしい人だけを再雇用するといった選択が可能です。しかし、これも結局は各スタッフとの意思確認が必要です。ドライに選別しすぎると、残す側にも残さない側にも遺恨が残り、その後のトラブルの原因になるので、前院長としっかり協議しながら戦略を考えていきましょう。
③人事・労務のトラブルを予防するには
冒頭で申し上げたとおり、人事・労務の問題に絶対の正解はありません。そのため、承継時にそうしたリスクを軽減するには、やはり従前の雇用契約書などを事前にきちんと確認し、目に見える問題がないかを確認しておくことです。
診療所によっては、そもそも雇用契約書が残っていなかったり、給与計算等の規定が間違っていたりというケースも散見します。明らかに法律に抵触する問題は承継時に正さなければなりませんが、それによってスタッフ個人が不利益な変更を被ることがないように配慮する必要があります。
また、こうした雇用契約や社会保険等の確認などに際しては、売り手・買い手の院長のみで確認せず、社会保険労務士などの専門家にきちんと間に入ってもらい、一からきちんと見直してつくり直すことが、のちのトラブル回避のうえでもおすすめします。
監修:㈱日本医療企画
(取材年月:2022年3月)
PROFILEプロフィール
株式会社川原経営総合センター 開発部部長
赤羽根信廣氏
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