- 目次
- 01:はじめに
- 02:医療経営で活用できる優遇制度
- 2-1:社会保険診療報酬の所得計算の特例
- 2-2:医療機関の設備投資にかかる特別償却制度 [適用期限:令和7年3月31日]
- 2-3:中小企業投資促進税制(中小企業経営強化税制)[適用期限:令和7年3月31日]
- 2-4:経営セーフティ共済
- 2-5:その他
- 03:プライベートで活用できる制度
- 3-1:小規模企業共済
- 3-2:iDeCo
- 3-3:ふるさと納税
- 04:おわりに
01:はじめに
開業医と勤務医では「税金」との関わり方が大きく変わります。勤務医は給与について年末調整か確定申告をしますが、開業医は事業について確定申告を行います。個人事業主であれば暦年(1月1日~12月31日)、法人であればその法人が決めた事業年度(1年間)の所得を国に申告し、納税しなければなりません。医院運営に大きく関わる税金の問題は避けては通れない道ですが、下記の制度を活用をすることでその税金を大幅に抑えることも可能です。今回は開業医が押さえるべき税金の優遇制度を、おおきく医療の経営面とプライベート面で確認をしていきます。
02:医療経営で活用できる優遇制度
2-1:社会保険診療報酬の所得計算の特例
収入が一定金額以下である診療所については、実際に支出した「実額経費」と一定の方法により計算した「概算経費」のうち、いずれか多い方の金額を経費とすることが認められています。この特例は、もともと社会に欠かすことのできない医療サービスを安定的に世の中に提供するため、小規模な診療所の事務処理の軽減や経営の安定化を図ることを目的に創設された制度になります。
【適用対象者】
医業又は歯科医業を営む個人事業主や医療法人で、その事業年度の収入が一定金額以下である者が対象となります。
【収入金額の判定】
適用対象者がこの特例の適用を受けることができるのは、その事業年度において、
・社会保険診療につき支払いを受けるべき金額が5,000万円以下
かつ、
・総収入金額の合計額が7,000万円以下
である場合に限られます。
【社会保険診療報酬に係る所得金額の計算方法】
収入金額の要件を満たす適用対象者は、次の①と②のいずれか少ない金額を、その年分の社会保険診療報酬に係る所得金額とすることができます。
①実額計算による計算(原則)
社会保険診療収入 ― 実額の経費
②概算経費による計算(特例)
社会保険診療収入 ― 社会保険診療収入×概算経費率
※概算経費の速算表
社会保険診療報酬 |
概査経費の計算式 |
2,500万円以下 |
×72% |
2,500万円超3,000万円以下 |
×70%+ 50万円 |
3,000万円超4,000万円以下 |
×62%+290万円 |
4,000万円超5,000万円以下 |
×57%+490万円 |
2-2:医療機関の設備投資にかかる特別償却制度 [適用期限:令和7年3月31日]
医療機器などの設備(固定資産)は、その取得時における支出額の全額をその事業年度の費用とすることはできません。取得時に資産計上をしてその法定耐用年数にわたり減価償却費として徐々に費用配分をすることになります。従って、利益が大きく出た年に費用を多く計上したい場合において、高額な医療機器を購入したとしても、基本的にはその全額が費用になる訳ではないことを覚えておきましょう。
以下の内容は、上記の減価償却費に加え追加で特別償却費を計上できる制度となります。要件を満たせば通常よりも大きく減価償却費を計上できるため、その年において税負担が軽減され資金繰りの改善が見込めます。ただし、あくまでも減価償却費の前倒しに過ぎないことから、中長期的にみたときに損得はないとも言えます。
※以下いずれも青色申告書の提出が要件となります。
(1)高額な医療機器に係る特別償却
500万円以上の未使用の医療機器を取得した場合には、その取得価額の12%を特別償却として計上することができます。対象となる設備は下記の通りです。メーカーより対象となるか事前の確認をおすすめいたします。
【対象設備】
・医療機器等のうち、高度な医療の提供に資するもの(厚生労働省の告示に定める品目)
・医薬品医療機器等法の指定を受けてから2年を経過していないもの
(2)勤務時間短縮用設備等に係る特別償却
医師等の勤務時間短縮につながる30万円以上の一定の機器等を導入した場合には、その取得価額の15%を特別償却として計上することができます。なお、適用するにあたり、医療勤務環境改善支援センターより所定の手続き(計画書の作成・提出)が求められますので、事前の確認が必要となります。こちらでは対象となる設備の一例を記載いたします。
【対象設備】
・医師の働き方改革を進め、医師の健康を確保し地域における安全で質の高い医療を提供するため、医師・医療従事者の勤務時間短縮に資する一定の機器等
代表例:勤怠管理ソフトウェア、勤務シフト作成支援ソフトなど
2-3:中小企業投資促進税制(中小企業経営強化税制)[適用期限:令和7年3月31日]
中小企業投資促進税制は、機械装置などの一定の設備投資を行った場合、取得価額の30%に相当する特別償却、あるいは7%の税額控除のいずれかの適用を受けられる制度となります。要件は下記の通りです。
※青色申告書の提出が要件となります。
【対象事業者】
・従業員が1,000人以下の個人事業主(開業医の先生)及び出資持分を有しない医療法人など
・資本金の額が1億円以下の出資持分を有する医療法人
※資本金の額が3千万円を超える場合は、30%の特別償却のみ適用となります。
【対象設備】
・取得価額が70万円以上の一定のソフトウェア(会計上のリース資産も対象になる可能性あり)
代表例:レセコン、電子カルテ、人事労務管理ソフトなど
上記の対象事業者と対象設備は、医療機関を対象とした場合の要約ですので、詳細はNo.5433 中小企業投資促進税制(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除)をご覧ください。
なお、取得した資産が特定経営力向上設備に該当する場合には、即時償却、あるいは10%の税額控除(中小企業経営強化税制)の適用となります。
(注)資本金の額が3千万円を超える場合は経営強化税制の適用は不可となります。
(1)と同様にメーカーや顧問の税理士等の専門家に適用可能か事前にご相談することをおすすめいたします。
2-4:経営セーフティ共済
「経営セーフティ共済」は、取引先の倒産で中小企業が連鎖倒産とならないよう、万が一に備える制度です。月々の掛金は5千円から20万円までの範囲で自由に決められ、支払った掛金は損金または必要経費(医療経営における経費)になります。
医業経営においては滅多にないでしょうが、取引先が倒産した場合には、無担保・無保証人で掛金の10倍(上限8,000万円)まで借入ができます。
また、掛金は総額800万円まで積み立てることができますし、任意のタイミングで解約し、解約手当金を受け取ることもできますが、加入期間が短いと掛金の満額では返ってきません。
なお、医院を開業して1年を経過した事業者が対象であること、個人医院は加入できるが医療法人は加入できないこと、医療法人化により医療法人の役員等になった場合には解約になることから、こちらも加入と医療法人化の時期に注意が必要です。
2-5:その他
一部の自治体では固定資産税の減免を受けられる可能性があります。所有している医療機関の土地や建物(稀に医療機器)が減免の対象となる場合があるので、医療機関が所在している自治体に確認をとりましょう。
03:プライベートで活用できる制度
3-1:小規模企業共済
[小規模企業共済]とは、個人事業主や会社経営者が活用できる共済保険です。退職や事業の廃止などによって解約した場合、それまで積み立てた金額に応じた共済金を受け取ることができる退職金制度となります。掛金は月額1,000円から7万円の範囲で自由に設定でき、全額が所得控除の対象となります。たとえば、所得税率が45%に達している個人の場合、最大掛金(年額)84万円を掛けた場合には、84万円×45%=約38万円の所得税の節税効果があります。
医療法人化により医療法人の役員等となった場合には「A共済事由」(個人事業の廃止など)に該当しますが、加入後6ヶ月未満では共済金は支給されず「掛け捨て」となってしまいます。半年以内に医療法人化を予定されている先生は、確実に掛け捨てとなってしまいますのでご注意下さい。
共済金等の種類 |
請求事由 |
共済金A |
個人事業を廃業した場合 共済契約者の方が亡くなられた場合 |
共済金B |
老齢給付(65歳以上で180か月以上掛金を払い込んだ方) |
準共済金 |
個人事業を法人成りした結果、加入資格がなくなったため、解約をした場合 |
解約手当金 |
任意解約 機構解約(掛金を12か月以上滞納した場合) 個人事業を法人成りした結果、加入資格はなくならなかったが、解約をした場合 |
独立行政法人 中小企業基盤整備機構ホームページより
3-2:iDeCo
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、老後の資産形成を目的としてお金を積み立てる私的年金制度です。積立金が所得控除の対象になり、所得税や住民税が軽減されます。自分で金額を決めて掛金を払い、預金や投資信託など自分が選んだ商品で運用した後、原則60歳以降に年金または一時金で受け取ります。受取額は積立金と運用損益の合計ですので、運用成果に応じて変動します。通常、金融商品を運用すると、運用益に課税されますが、「iDeCo」なら非課税で再投資されます。
「iDeCo」は年金か一時金で、受取方法を選択することができます(金融機関によっては、年金と一時金を併用することもできます)。 年金として受け取る場合は「公的年金等控除」、一時金の場合は「退職所得控除」の対象となります。受け取り方によって控除の金額は異なりますが、いずれの方法を選択しても一定額までは非課税です。さらに、利息や運用益にかかる税金も非課税となっているため、資産形成をしながら節税を目指す方に適しています。
3-3:ふるさと納税
ふるさと納税は、自身が応援したいと思った自治体に寄附をする制度です。ふるさと納税をすると、2,000円の自己負担額を差し引いた金額のうち上限額までが、所得税の所得控除や住民税の税額控除に適用されます。
ふるさと納税は、任意で地方自治体に寄附する制度であるため、実際に納める金額を減らす「節税」や「免税」を目的とするものではありません。しかし、寄附金の金額に応じて自治体から返礼品をもらえるという利点があります。
ただし、ふるさと納税の謝礼として受け取った返礼品は、「一時所得」として所得税の課税対象になる場合があります。
一時所得には年間50万円の特別控除がありますので、その年に受け取った返礼品の価格の合計額が、他の一時所得とあわせ50万円を超えない場合には課税関係は生じませんが、超える場合には確定申告が必要です。
04:おわりに
以上が開業医の先生がよく活用されている税金の優遇制度です。
開業医と勤務医では税金の計算方法や税制優遇が大きく異なりますので、知らなかったことで税金計算が不利になっていたということがないよう注意して下さい。
なかなか先生ご自身がこれらすべてを把握することは難しいですから、税理士などの専門家に相談して、税金の優遇制度を積極的に活用しましょう。
<著者> 辻・本郷税理士法人 ヘルスケア事業部 シニアコンサルタント 大武信治
制作年月:2023年12月19日
事業承継情報
PROFILEプロフィール
辻・本郷 税理士法人
<著者>ヘルスケア事業部 シニアコンサルタント 大武信治
1991年辻・本郷税理士法人仙台事務所に入所。2005年盛岡事務所所長。2009年新宿事務所ヘルスケア事業部異動。現在に至る。
開業支援コンサルティングを主軸に長年にわたり従事。毎年約20人のドクターの開院をサポートしております。開院前の相談はもちろん開業後のフォローも行っております。
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