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目次
01:設備を引き継ぐ場合のメリット、注意点
02:スタッフを引き継ぐ場合の注意点
03:目に見えないものの引継ぎにも配慮しよう
04:親子承継時の注意点

設備を引き継ぐ場合のメリット、注意点

一般的に、事業承継で設備を引き継げるメリットとして「引き継いだその日から診療ができる」点が挙げられます。親子承継ならば、当該設備についての細かなチェックもかなり省略できそうです。ただ、「診療内容」については親子の間で確認しておく必要があるようです。

歯科医院の価値は、「事業価値(事業としての生み出される利益)」と設備などの「資産価値」の2つから決まってきます。後者には、土地建物の他にも、医療機器や事務機器、家具など、さまざまなものがあります。ここでは、「設備」について取り上げます。

事業承継で設備を引き継ぐメリットは、引き継いだその日から診療ができるということです。

設備投資を継続的に行っている医院を承継する場合には、新規開業してすべて揃えるよりもはるかに安価で必要な設備を手に入れることができます。内装も定期的に更新されているのであれば変える必要もありません。

一方で、設備投資を行っていない医院を承継する場合は、必要な設備を追加で購入したり、内装を更新したりする必要があります。同時に、更新するために診療を休まなければなりません。

設備を引き継ぐ際の注意事項としては、引き継ぐ設備や医療機器・備品については、すべてリスト化し、それぞれの現在価値(もしくは資産台帳の簿価)を確認します。その上で、引き継ぐ予定の機械・器具・内装を確認し、不具合がないかをチェックします。

<資産となる項目>

●土地・建物もしくは内装工事(設備工事、外構工事などを含む)
●医療機器や事務機器
●医療法人の場合:出資金
●車両

●借入・リース等の債務

●材料・備品等の在庫
●賃貸の場合:敷金、保証金
●印刷物・広告・HP


そのため、継承にあたっての医院見学の際に、そのチェックを承継する側と後継者が一緒に進めておくべきです。そうすることで、引き継いだ後のトラブルを防止することができます。

その他、医療材料の在庫も必ず確認しましょう。特に高価なインプラントなどは、後継者が利用する予定があれば問題ありませんが、利用しないのであれば対象から外すと取り決めておきましょう。

リース設備などの負債の引継ぎをどうするかに関しては、レセコンなどについて、当事者だけで話を済ませるのではなく、リース会社に契約状況と残債(未払い金)を確認しておきます。その上で残債を引き継ぐ場合は、残債部分は売買価格から差し引くことになります。

親子承継の場合は、設備についての細かなチェックは必要ありません。むしろ、今後の設備投資についての方針が問題となります。

「先進的な治療方法をやりたい後継者」と「無駄な設備投資はさせたくない前院長」という構図になってしまうと、トラブルのもとと、なりがちであることも付け加えておきます。

スタッフを引き継ぐ場合の注意点

事業承継において「スタッフもそのまま引き継ぐ」ケースはしばしば見ることができますが、特に親子承継の場合、「先代の頃のやり方」が強く残ることが想定できそうです。患者の安心感を得やすい一方、後継者としてはやりづらい面もあるようです。注意点を解説していただきます。

歯科医院を承継する後継者にとって、あらかじめ患者の個性や性格が分かり、診療の流れを熟知しているスタッフを譲り受けられることは大きな魅力です。院長が変わっても同じスタッフが継続して勤めてくれれば、患者も安心して来院できます。


● スタッフ承継のメリット

事業承継にあたり、スタッフを承継できるメリットは、
①スタッフを採用する費用がかからない
②スタッフを教育訓練する費用がかからない
③採用教育の時間を削減できる
④患者との関係性ができているため、経営者交代による患者離れを防げる――

という点が挙げられます。


● スタッフ承継のデメリット

デメリットは、
①前院長のやり方を変えにくい
②スタッフの在職年数が長い場合、退職金の支払いが高額になる(隠れ債務の存在)――

という点が挙げられます。

その中で、スタッフの処遇条件、退職金、有休の付与をどうするのかなど労務の問題をあらかじめ取り決めておくことはとても重要です。

明確な取り決めをせずに承継すると、新しい処遇にスタッフが不満を持ち、退職することが容易に考えられます。そうなると、スタッフ補充のために新たに採用・教育コストが発生するため、後継者は不満を持ちます。

したがって、事業を承継する側は、スタッフの退職リスクが少なくなるように手を打たなければなりません。

たとえば、「『処遇は少なくとも半年から1年は変わらない』という取り決めをする」「前院長が半年から1年程度残り、患者の引き継ぎやこれまでのやり方を伝える」という方法があります。

一定の引き継ぎ期間を設け、これまでのやり方やスタッフ、業績について後継者が理解をしたうえで、変更すべきものは変更するのであれば、理解も得られやすくなります。
合わせて、雇用契約書などの取り交わしができていないのであれば、この機会に取り交わし、安心して働ける環境を提供する経営者であることを示すのがよいでしょう。

親子承継の場合、処遇を変更しなければ、スタッフはそのまま勤めてくれることが多いものです。ただ、長年勤めているスタッフが後継者である新院長を子どものころから知っている場合、お互いにやりづらかったり、新しいやり方の導入にスタッフが消極的だったりすることが考えられます。

目に見えないものの引継ぎにも配慮しよう

事業承継で引き継ぐのは患者やスタッフ、設備など目に見えるものだけではありません。医院が育んできた雰囲気、そして経営を支えてきた経営・管理のシステムも承継の対象となります。患者、スタッフの安心感を得るためにも、こうした「目に見えないもの」にも配慮することが大切なようです。

● 「診療方針・診療スタイル」の承継

事業承継が行われた場合、今まで通っていた患者が全て来院するとは限りません。スムーズに承継するために、これまでの医院のやり方を一定程度、踏襲する必要があります。

そのため、診療方針や診療スタイル、治療技術レベルが合うかなどをお互いにすり合わせておくことが重要です。親族への承継の場合や、勤務医に承継する場合は「経営者が変わった」と認識されることが少なく、患者は比較的継続して来院します。

M&Aで、新たな歯科医院として「診療方針」を掲げる場合は、患者は新しい院長の診療を観察します。その上で、受け入れられるようであれば来院を継続し、そうでなければ離れていきます。

● 「医院の雰囲気」の承継

医院の雰囲気をつくっているのはスタッフです。患者から通い続ける医院は、治療への評価だけでなく、スタッフの言葉づかい、気づかいが素晴らしいことを高く評価されているのです。

経営者が変わったとしても、同じスタッフがこれまで通りの接遇を続けていれば、患者は継続して来院します。一方でスタッフが入れ替わってしまえば、それまで患者が気に入っていた雰囲気は失われ、患者が離れていく原因となります。

● 「経営の仕組み」の承継

院長が一人で頑張っている歯科医院か、スタッフも一緒に経営にかかわっている歯科医院かにより、その後のその医院の成長が変わってきます。

朝礼・夕礼やミーティングなどのコミュニケーションの仕組みがあれば、それを活かし、後継者の方針を浸透させることができます。業務マニュアルや教育マニュアルなどがあれば、その仕組みを活かすことで人材の育成ができます。

あらかじめ経営の仕組みができていれば、後継者はスムーズに経営面を引き継ぐことができます。

● 管理の仕組みの承継

後継者が承継する際に考えておきたいのが、経理や給与計算などの管理業務です。

M&Aで医療法人が買い取るのであれば関係ありませんが、後継者が初めて経営者になる場合は、必ず押さえておいて欲しいポイントです。

経営するためには、医療を提供する以外に、経費を把握し、支払いを行い、スタッフの労働時間を把握し、給与を支払わなければなりません。後継者自身が管理をするのか、配偶者に担ってもらうのか、誰か担当スタッフを雇うのかを決めておいたほうがよいでしょう。

親子承継時の注意点

歯科医院にかぎらず、医療機関で親子承継がある場合、これまでの先生を「大先生」、後継者を「若先生」と呼ぶ場合があります。この時に注意したいのが大先生と若先生の診療スタイルです。患者の多くは大先生のスタイルに馴染んでいると考えられます。スタイルや方針を変えるにしても、十分な移行期間を設ける必要がありそうです。

競争が激しい歯科医院の環境では、新規開業よりも、患者を引き継げる事業承継のメリットは大きいと言えます。経営が順調な医院を、承継者が適切に承継できれば、一定の収益と認知度、ブランドを獲得することができます。

注意すべきは、開業から長年経過し、集患に力を入れていなかった医院では、患者が高齢化しており、新患が少ないことです。

それでも、患者を引き継げることは大きなメリットなのは、本来なら、開業から広告宣伝を行い、徐々に認知度を高め、ブランドイメージを確立していくところを、ショートカットすることができるからです。

しかし、「患者が高齢化している」「自分の診療方針に合わない患者が多い」といった場合は、患者の引き継ぎがかえってデメリットになることもあります。

そうならないためにも、承継する側と後継者の診療方針が合っているかを事前に確認しておきましょう。患者を引き継ぐ際には、前院長が後継となる医師を紹介したり、連名のあいさつ状を発送したり、来院者のカルテ内容を引き継いだりすれば、患者は安心します。

引き継ぎがうまくいかないと、新しい院長へのクレームにつながりかねません。たとえば、自由診療の保証期間など、承継に当たってはっきりさせておく必要のある問題は、新しい院長になってもそのまま引き継ぐかどうか、事前に取り決めて告知しておくことも大切です。

開業から長年経過している歯科医院は、患者数は多いものの、新患が少ない場合があり、将来的に患者が減っていくことが容易に想像できます。実際の新患数だけでなく、ホームページの内容が適切か、SEO・MEOの対策を打っているかどうかを必ず確認しましょう。打たれていない場合には、ホームページを作り直し、SEO・MEO対策に取り組みましょう。

親子承継の場合、患者は、これまでの先生を「大先生」、後継者を「若先生」と呼ぶ場合もあると思います。大先生についている患者は、大先生と若先生のやり方を比較します。診療方針が一致している場合は問題ありませんが、異なる場合は患者から「大先生とは違う」と言われ、患者が離れるということが起こります。そのため、一定期間は引き継ぎ期間を設け、徐々に方針を変更するのが良いでしょう。



<著者>岩田義明 株式会社富士経営総合センター コンサルティング事業部チーフコンサルタント
監修:㈱日本医療企画、芙蓉総合リース㈱
制作年月:2022年10月

<引用記事>
【解説】引き継いだあとのトラブルを防止するチェックリスト
【解説】患者を引き継ぐ際に確認したい「大先生」と「若先生」の“やり方”
【解説】スタッフも承継するなら「処遇は変わらない」を明示しよう
【解説】「診療方針」「雰囲気」はもちろん「経営・管理の仕組み」も承継する


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PROFILEプロフィール

PROFILE

株式会社富士経営総合センター コンサルティング事業部チーフコンサルタント

岩田義明(いわた・よしあき)
●早稲田大学教育学部教育心理学科を卒業後、リクルートの関連会社で採用時の人の評価から、人事制度の設計など、人事全般を経験。その後経営全般に係る仕事を志向し、経営コンサルティング会社に転職。2011年より現職。現在は医療機関の経営計画作りから、目標を設定、達成のための具体的な行動計画への落し込みまで実施。PDCAサイクルを回すことで改善活動を継続させ、医院の体質から収益性の改善まで幅広く行っている。

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